その瞳に勝利を   作:カニ漁船

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盛 り 上 が っ て ま い り ま し た


欧州の情勢と長距離路線

 世界中で注目の的になっているアーモンドアイ。走るレースは満員が約束され、グッズは毎回飛ぶように売れている。補充した側から売り切れるほどの盛況っぷりだ。

 愛嬌もあり、ライブでも熱心に応援されている。ファンサービスも欠かさず、記者の対応もばっちりとまるで隙がない。まさしく、人を惹きつけるウマ娘だった。

 

 とはいえ、だ。レースの強さに関してはちょっと話が変わってくる。

 

《ガネー賞をアーモンドアイが駆け抜けたぁぁぁ! アーモンドアイ1着、アーモンドアイ1着です! ガネー賞を制したのはアーモンドアイ、2着に5バ身差をつける快勝を披露! アーモンドアイが見事にレースを勝ち切りました!》

 

 デビューから一度たりとも譲らない1番人気の輝き。あの欧州女王のコンストリブルや、世界女王とまで呼ばれたヴェガスクライを相手取っても、1番人気の座は揺らがなかった。

 その期待に応えるように勝ち続けた。凱旋門賞でコンストリブルを倒して欧州女王の座を戴き、チッピングノートンステークスでヴェガスクライを撃破して、世界最強の女王として君臨する。

 素晴らしい実力だろう……枕詞に、アーモンドアイはシニア級に上がったばかり、という文言がつかなければ。

 

 そう、アーモンドアイはまだシニア級に上がったばかりだ。これから先が長いかもしれないウマ娘、もっとずっと長い期間走り続けるウマ娘。

 だというのに、早々に世界最強の女王としての地位を確立してしまった。それがどれだけ恐ろしいことか、ファンは戦慄している。

 

「いや~、アーモンドアイ強すぎでしょ」

「次のレースも絶対に勝つ! って思わせるよな~。でも、華があるから好きだー!」

「さすがにあそこまで強いってなると、凄いとかよりもヤバいが出てくるよね~」

 

 強いとかそんな言葉じゃすまされない。ヤバい、どうなっている、やっぱりミーティアのウマ娘かとファンは口を揃えた。

 これが距離限定の強さならまだ良かっただろう。コンストリブルのように中距離路線だけとか、適性の幅は広いが長距離やダートには出走しないヴェガスクライの例もある。距離限定なら、まだ保てていたかもしれない。

 

 しかし、アーモンドアイは違う。全距離全バ場、条件を問わずに出走してくる。異次元のローテが、それを証明していた。

 

「つかさ、冷静に考えてアーモンドアイのローテおかしくねぇか? どうなってんの?」

「マ~中のウマ娘かと思ってたのに、長距離も走れるし……なんならダートも走れるし」

「それで勝ってるのがやべーよ本当に。強さがイカれ過ぎてる」

 

 ティアラ三冠を獲得しているので、当然のようにマイルから長距離は走れる。それだけでなく、香港スプリントを制しているので短距離も走ることが可能。芝は全距離隙が無い。

 ダートに関しては、BCスプリントを勝っている。ダートを走るのも問題はないときた。その上で厄介なのは、どの場所で走っても実力に陰りが見えないところ。しいて言うなら中距離が他の距離よりも強さを発揮している、という何の慰めにもならない情報だけだ。弱くなることなんてない。

 

 事実、中距離のガネー賞を走った後はマイルのロッキンジステークスへ。ここでもアーモンドアイは強さを見せた。

 

《圧倒としか言えない走り! これがアーモンドアイの強さだ! 豪州の女王を下した脚をいかんなく発揮して! ロッキンジステークスを4バ身差で下したアーモンドアイ1着!》

 

 4バ身差で勝利。盤石の強さを発揮して、何の問題もなく勝利を収めた。周りのウマ娘を絶望させるほどに。

 

「アーモンドアイに、負けはないわっ!」

 

 いつもの決まり文句。本当にそうだから困る、と誰もが思うところだろう。

 

 全距離全バ場対応の世界最強女王。その事実に、ファンは賞賛と一緒に恐怖を覚えた。

 

「次のレースが読めない、ってのはあるけど、それにしたってヤバいだろ」

「楽しみだよね~。どんなパフォーマンスを発揮してくれるのか!」

「どのレース走るのか楽しみだよな。どこでも走れるし、マジで読めねぇ~」

 

 とはいっても、レースが楽しみな気持ちは本当である。いくら強かろうと、勝利がほぼ約束されているようなウマ娘だとしても。推しであるファンとしては走っているだけでも嬉しいもの。それに、相手によって対応を柔軟に変えるので、見ている側も飽きないというのが本音だ。アイ自身が煌びやかな存在というのもあって、どう勝つのかを楽しみにしているファンは多い。まぁ、別の子が推しのファンにとっては……あまり喜ばしいことではないかもしれないが。

 

 そんなアーモンドアイだが、ロッキンジステークスの後に次走が発表された。

 その次走とは。

 

「アスコットゴールドカップに出ます。プライベートベーリングさんに挑むために!」

「はい。アイの言った通り、次走はアスコットのゴールドカップです」

 

 アスコットゴールドカップ。アスコットレース場で開催される、長距離のレースだ。欧州のステイヤーが集う長距離三冠競走の1つであり、ステイヤーズミリオンの第1戦目に指定されている。

 その距離実に19ハロン210ヤード。約4014mの長距離レース。平地競走の中では、世界一長い距離を誇っている。日本で開催される天皇賞・春からさらに800m以上伸びているわけだ。

 

 どうしてゴールドカップに出走するのか? その理由はアーモンドアイが語ったように、プライベートベーリングに挑むため。

 

「対戦を約束していましたから。長距離最強と呼ばれる実力者、腕が鳴ります!」

「……そういうことです。次もまた挑むかは、今後次第ということで」

 

 前年度から創設されたステイヤーズミリオン。そのステイヤーズミリオンを、初年度から達成したウマ娘・プライベートベーリング。今の欧州の長距離最強は彼女だという声が多く、陣営も最強だと断言している。

 そんな相手に挑む。この事実に記者達とファンは沸いた。

 

「やっぱり挑むか、プライベートベーリングに!」

「ヴェガスクライやコンストリブルに挑んだんだ。そりゃ挑むに決まってる!」

「中距離最強を下して、世界最強を下して! 今度は長距離最強の冠を取りに来た! くるぜ、世界統一女王!」

 

 記事はバカ売れ、ネット記事のアクセス数もとんでもないことになり、近年廃れつつある長距離路線に光が灯る。

 興味を向けてこなかった層も、アーモンドアイが出るならばと見ることを決め、レース場に足を運ぶつもりのファンが多い。コンストリブルとの対決となった凱旋門賞や、ヴェガスクライとのチッピングノートンステークス並の客入りが予想されていた。

 これには欧州のレース機関もニッコリである。注目されなくなってきた路線に人が集まるのだから、こんなに嬉しいことはない。

 

「この機会を逃すな! 猛プッシュしろ猛プッシュ!」

「長距離路線の権威を取り戻すぞ!」

「なりふり構うな! できる限りの宣伝をするんだ!」

 

 絶対に人を集める。その一心でいろいろなキャンペーンを行い、アーモンドアイやプライベートベーリング、並びに出走するウマ娘達のグッズを大量発注するなど、凄まじい熱意で盛り上げようとしていた。当然、今回のレースに合わせた新規グッズも作ろうとしている。

 それもあってか、人はさらに集まる予想となり。最高の盛り上がりになると確信するに至った。

 

 その間、プライベートベーリングはというと。

 

「いや~、ついに戦う時が来たねトレーナー」

「そ、そうだね」

 

 絶好調、といった様子でトレーニングをしていた。対戦する時を楽しみにしている、と言わんばかりの好調。びくびくしているトレーナーとは対称的だ。

 

 すでにステイヤーズミリオンの予選を制しているプライベートベーリング。狙うのは勿論、ステイヤーズミリオンの完全制覇である。

 

「第一戦が戦う舞台になる……つまりは、ここで負けたらぼくはもうステイヤーズミリオンの完全制覇は出来なくなる、ってことだ」

「ひ、ひぃ~。な、なんで一戦目からこんなハードなことに~……」

「ハハハ! こういう時こそ楽しいんじゃないか! 困難に打ち勝ってこそ、だろう?」

「こ、困難は困難でも自然災害に挑むレベルの困難だよ~っ」

 

 アスコットゴールドカップは一戦目。負けたらその時点で記録は終わり。プレッシャーがかかるこの状況を、プライベートベーリングは楽しんでる。トレーナーはがくがく震えている。

 

「安心しなよ、トレーナー。きみはいつもみたいにどっしり構えてくれればいいんだ。ぼくが連勝中で調子が良いの、知ってるだろう?」

「む、向こうも連勝中だけど……なんなら無敗だし」

「それはそれ、これはこれ。もしかして、君は僕の勝利を疑っているのかい?」

「ううん、それは微塵も。で、でもでも、強い相手が出てくるってそれだけで緊張するしっ」

 

 震えてはいても、担当の勝利は信じている。その言葉に満足げに頷くプライベートベーリング。

 

「さぁて、どれほどの実力になっているのか。少なくとも、これまでの出走者の中でも最強クラスってことは間違いないね」

「う、うん。セントレジャーにしか出走経験はないけど、絶対に間違いなく仕上げてくる、もんね。そ、そういうとこだから……本当に怖いなぁ、あのチーム」

「それは、うん。否定のしようがないね。合同トレーニングしたことあるけど、あそこは本当におっかないね」

 

 なお、ミーティア全体に関しては遠い目をしていた。丁度良い機会と、世界最強の長距離ウマ娘として君臨しているキタサンブラックと対戦。その時のことを思い出す。

 得難い経験だった。間違いなく言えることだが、それはそれとして強すぎる相手だった。

 

「なんなんだろうね。逃げ不利な欧州のコースで、さらに長距離って条件に、加えてアスコットが舞台だったのに逃げ切るなんてさ。怖いよもう」

「ぜ、前例がなかったもんね。道中一度も先頭を譲らないで、いつかのゴールドカップを勝ったんだから」

「あのレースはぼくも観ていたよ。うん、凄かったね」

 

 とはいえ、燃え上がっているのも事実。いつかはまた挑みに行きたいと、プライベートベーリングの闘志をさらに燃え上がらせていた。

 

「勝負だよアイ。きみとの対戦を、セントレジャーの時からずっと心待ちにしていた」

 

 手に力を込めて、勝利を誓う。

 

「勝つのはぼくだ。コンストリブルは負けちゃったけど、長距離最強の座は譲らない。ぼくこそが、欧州ステイヤーの頂点に君臨する!」

「か、かっこいい……! わ、わたしも、頑張るよ!」

「うん。頼んだよトレーナー!」

 

 勝つのは、そう容易くはなさそうだ。




ラララのねーちゃん……根性マーチャン……耐えやね。
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