その瞳に勝利を   作:カニ漁船

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研鑽は怠らない

 アイが次に戦う舞台はアスコットゴールドカップ。世界最長距離を誇るG1だ。

 最優先で警戒すべき相手はプライベートベーリング。前回のレース覇者であり、創設されたばかりのステイヤーズミリオンを完全制覇した長距離の怪物。現時点に置ける、欧州最強のステイヤーと呼んでもいいだろう。

 だから当然、アイも彼女に挑むことを考える。強い相手がそこにいるから、挑まずにはいられない。

 

「セントレジャーステークスを見ていた時に、挑戦状を渡されたんでしょう? なら、勝ちに行くわ。受けた勝負から逃げるわけにはいかないもの!」

「アイならそう言うよね」

「えぇ! それに、プライベートベーリングさんとは戦ってみたかった。だから、勝負するわ!」

 

 なら、戦いに行くだけだ。相手が長距離の最強だろうと、挑まれたなら勝ちに行く。変わらないこのメンタルこそが、アイの魅力であり強さだ。

 

 なので、僕は勝つための舞台を整える。プライベートベーリングに挑むために必要なことは何か、を。

 

「それじゃあ、いつも通りキタサンと特別指導をしようか」

「はい! いつも通り、アイちゃんをお助けしますよ~!」

「お願いね、キタサン!」

 

 特別指導の相手はキタサンを中心に組んでいる。勝利経験があるのもそうだし、長距離に関してキタサンの右に出るものはいない。世界最高レベルのステイヤーと称されるキタサンとの練習は、アイにとって必ず力になる。

 

 後は、キタサンだけじゃない。

 

「タキオンとの特別指導も順調だね。調子は良い感じ?」

「えぇ、とっても。タキオンさんの話はタメになるから、こっちとしても楽しいわ!」

「それは良かったよ」

 

 タキオンとの時間も増やしている。タキオンは中距離のエキスパートだけど、レースプランニングは最高峰だ。頭がキレる上に、相手の策を看破する能力に長けている。

 長距離において重要なのは、スタミナの消耗を限界まで抑えること。長い距離を走る関係上、出来る限り抑えておきたいものだ。

 その分野においてはタキオンが得意としている。絶対に役に立つから、こっちとの特別指導も増やしている。事実、アイも学びが多いって喜んでいるみたいだし。

 

 タキオン自体も意欲的だ。この前も。

 

「アイ君はいろんなことをどんどん吸収するからね。教える側としても、こんなに嬉しいことはないさ」

 

 って、褒めていた。簡単に言えば、タキオンも嬉々としていろんなことを教えている。レースに関することならなんでも、だ。自分が得た知識を惜しげもなく与え、成長を促している。

 

 まぁ、ミーティアのみんなが当てはまるかこれは。自分の知識や技術を誰かに与えることに躊躇がない。いずれは自分達のライバルになるかもしれないのに、みんなは教えても構わないとさえ考えている。

 

(誰かに似たのかな? それとも、たまたまみんながそうだっただけなのか)

 

 悪いことじゃないし、喜ばしいことだけどね。自分がそれ以上に成長すればいいだけだし、自分の理論を新たに再構築することができるから。常に成長し続ける精神を持っている、ってことだし。

 

 っと、いろいろと考えることはあったけど、今はアイのトレーニングだ。

 

「それじゃ、スタミナ強化いってらっしゃい。ゴールドカップは最長距離のG1だからね。もっともっと鍛えないと」

「分かってるわ。それじゃあ行くわよキタサン!」

「うん! いこっかアイちゃん! バクシンワッショーイ!」

 

 元気にトレーニング施設へと走って行く2人を眺めつつ、僕も向かう準備を進めていると。

 

「『ちょっといいかい? 高村』」

「あ、『モンジューのトレーナーさん』」

 

 モンジューのトレーナーさんに呼び止められた。準備する手を止めて、彼の方へと向き直る。

 

「『どうかしましたか? もしかして、なにか大事なことがあるとか』」

「『いや、そういうわけじゃないんだ。ただちょっと、アーモンドアイのローテについて聞きたくてね』」

 

 要件というのはアイのローテに関して。なにもおかしいところはない……って、言えたらいいんだけどね。

 

「『ミーティアのウマ娘がそうなのは知っているけど、それはそれとして脈絡がなさ過ぎてね。キタサンブラックはドゥラメンテの時は、お互いが戦う舞台を用意していた、というのは分かるけど』」

「はい」

「『アーモンドアイに関しては、アレか? とにかく強い相手と戦おうとしているのかな? と思ってね。一応、君の口から聞いておこうと思っていたんだ』」

 

 アイのローテはおかしいところだらけだから、ツッコみたくもなるよね。

 

 感覚が麻痺しそうになるけど、本来ローテというのは距離に限定することが多い。短距離だけしか走りませんとか、中距離から長距離を走りますとか、距離を絞ってレースを走るのが普通だ。

 欧州では特にその傾向が強い。コンストリブルなんかは基本的に中距離以外のレースには出ないし、プライベートベーリングに関しては長距離限定だ。

 これは2人に限った話じゃない。よくあることだし、それこそ日本とかでもそうだ。レースを走るウマ娘はみんな、ある程度の距離に絞って走ってくる。どんなに多くとも3つまで、というのが常識。一般的な思考だ。

 

 それを踏まえた上で、僕のチームを見ると……まぁ、アレだね。

 

(全員全距離全バ場走ってくる子しかいないね、うん)

 

 元はと言えば、バクシンオーが全距離バクシンしたいという願いから始まったこれ。気づけばメンバー全員が全距離バクシンし始めた。今まで特に気にしてこなかったけど、冷静に考えておかしいことしかない。アプリでも難しいというかほぼ不可能に近かったのに。

 あまりにも異端すぎる。ネットの人達がたまにドン引きしているのもよく分かるよ。そりゃどうなってんだ、とか言いたくなるよね。

 

「『おーい、高村ー? 大丈夫かーい? 別の世界に行ってないかーい?』」

 

 なんて考えていると、肩を揺さぶられて呼ばれた。ずっと無言だったから心配をかけたみたいだ。

 

「……『大丈夫です。ちょっと、自分のチームのことを省みていました』」

「『そうなの? 深くは聞かないけど、質問の答えはどうだい? アーモンドアイは、とにかく強い相手に挑もうとしているのかい?』」

「『その通りです。アイが戦いたいと思った相手、その相手に照準を定めています。コンストリブルもヴェガスクライも、今回のプライベートベーリングもそうです』」

 

 とにかく、質問に答える。モンジューのトレーナーさんの予想が当たっているので、肯定しつつこちらの目的も。やっぱりか、みたいな表情をしていた。

 

「『相変わらず想像がつかないね。まさか、その距離の最強格を相手に戦っているなんて』」

「『アイ自身、強い相手と戦うことが好きなので。その上で勝つのがもっと好きらしいです』」

「『君の担当ウマ娘はアレか? サ〇ヤ人とかかな?』」

 

 まさかの言葉が出てきた。フランスにもあるんだね。いや、あれだけ大人気だしあるか、普通に。

 

「『そういうわけなので、今度はプライベートベーリングです。その次はまだ不明ですが……おそらく、コンストリブルとの再戦になるかと』」

「『一回戦っただけで終わりじゃないんだ?』」

「『はい。次どうなるかは分からない、成長している相手と戦うのも楽しいから、らしいので』」

「『やっぱりサ〇ヤ人じゃないかな』」

 

 否定はできない、うん。

 

 聞きたかったのはこのことらしく、それ以外は特になかった。

 

「『教えてくれてありがとう。それにしても強い相手と戦うためか……向上心の塊だね、君の担当ウマ娘は』」

「『その中でも、特に強いです。アイに関しては、誰よりも勝利の欲求が強いですから』」

「『なんとなく分かるよ。あんなに一生懸命に勝ちを狙っているわけだからね』」

 

 お礼を言われて去っていく、モンジューのトレーナーさん。

 

 さて、と。

 

「僕の方も2人のところに行くか」

 

 改めて準備を整えて、2人がトレーニングしている場所へと足早に向かう。もう始まっているかもしれないし、急がないと。

 

 

 アイの成長は、留まるところを知らない。強い相手と走り続けることで、誰もが予想できないスピードで進化している。

 強い相手、というのはコンストリブルやヴェガスクライのような、現役最強に留まらない。すでに引退して、ドリームトロフィーを走っているような相手でも、アイは果敢に挑んでいく。

 その結果として生まれたのは──世界最強女王とまで呼ばれる、アーモンドアイというウマ娘。

 

(後は長距離だけ、なんて言われているね。長距離を制すれば、世界統一女王になる、なんてみんなは言ってる)

 

 正直な話興味はない。実績とか栄光とか、そういうものは気にしたことがないから。

 アイに関しては、勝つことだけに集中している。本人がそれを望んでいるし、それ以外を気にしていないから。ティアラ三冠に関しても、アイにとっては全力で走って勝ってきた称号でしかない。

 

 常に努力を怠らない。ひたすらに前だけを見続けるウマ娘。周りだけじゃなくて、ミーティアのみんなすらも驚く成長を遂げている、世界最強の女王様。

 

「いったいどこまで成長するのか。そして、頂点に立っても満足しないんだろうな、アイは」

 

 なんとなく想像できる絵面。でも勝つために努力は怠らないわ、なんていうアイの姿を想像した。ちょっと面白い。

 

 アイ達が待っているトレーニング場へ。足早に向かった。




トレーナー、自分達はおかしいことをしていると気づく。
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