アーモンドアイが海外で活躍している頃、日本ではとあるウマ娘が名を上げていた。
無敗のトリプルティアラを戴冠したラッキーライラック? 三冠に輝き有馬記念と宝塚記念両グランプリを制したブラストワンピース? 大逃げで数々のG1レースを制したキセキ?
否。その3人ではない。いずれも現在のトゥインクル・シリーズを代表する名ウマ娘だが、話題の中心となっているのはこの3人ではない。
では、いったい誰か。今日本レース界の話題をかっさらっているのはどのウマ娘なのか?
その名は──グランアレグリア。
《新たなる朝日杯王者は8バ身差の衝撃と共に! グランアレグリアが朝日杯を制しました1着ゥ! 貫禄の強さ、後方から豪快な追込一気を見せましたグランアレグリア! 次のレースが非常に楽しみです!》
ジュニア級の強豪が集う朝日杯を8バ身差で勝利し。
《強い、これは強い! 後ろからは誰も来ない、後ろからは誰も来ない!2番手に浮上したクロノジェネシスを置き去りにして! 今グランアレグリアが桜花賞を大差で圧勝しましたぁぁぁ!》
ライバル候補のクロノジェネシスを大差で一蹴し。
《もはや世代に敵はいない! このマイル女王に同世代はもはや相手にならない! またも8バ身、朝日杯と同じ8バ身で! グランアレグリアがNHKマイルカップを制した!》
クラシック・ティアラが入り乱れるNHKマイルカップを難なく制し。
《なんということだ! 並み居るシニアの強豪を押しのけて! 後方から豪快な追込を見せたグランアレグリア! 2バ身差で完勝しましたティアラ路線のグランアレグリア! この強さは文句なし! 春のマイル王者に輝いたのはグランアレグリアだぁぁぁ!》
シニア級との混合戦である安田記念さえも完勝した。
圧倒的な強さを見せつけ、話題を独占。トゥインクル・シリーズの前半を終えたばかりなのに、すでにマイル女王として君臨しつつある。
「負けないよ、マイルならッッ!!」
彼女の代名詞となっているこのセリフ。事実、マイル戦で一度も負けたことがない。まだ序盤だから、と言えるかもしれないが、すでにシニア級との混合戦を制しているのだ。強さに関して疑う余地はない。
レースの勝ち方に関しても目を惹く。中団から豪快に差し切る末脚、派手かつ華のある勝ち方。マイルG1の4戦は全てこの勝ち方で共通していた。
それでいて、毎回差が圧倒的になる。唯一安田記念のみが2バ身に収まっているが、階級が1つ上の相手に2バ身もつける方が大概おかしい。2バ身はかなりやっている方だ。
すでにシニア級とも勝負になるクラシック級。アーモンドアイのことを思い出すファンが多数おり、グランアレグリアもアーモンドアイのようになってくれるのではないか? と期待を寄せる。
現在日本で大注目のグランアレグリア。次走はというと。
「え~っと、グランアレグリアの次走はぁ」
「ジャック・ル・マロワ賞です! 勝ってタイキさんとお揃いですね!」
ジャック・ル・マロワ賞。欧州最高峰のマイルG1へ挑むことを表明したのであった。
なお、現地ではどうするのか? なにかあてがあるのか? という記者からの質問に対し、グランアレグリアは笑顔で答えた。
「ミーティアです! 倉科トレーナーが取り次いでくれました!」
「あ~そのぅ……相談したら、いいよ、の二つ返事で了承してくれました、はい」
チーム・ミーティア。現在欧州で大暴れしているアーモンドアイが所属し、世界最強チームと呼ばれる常識外れの怪物集団。そんなチームに、グランアレグリアは合流することになる。
とんでもないことだ。というか、ライバルで倒すべき敵と公言していたトレーナー側がよく折れたな、と一部では話題を呼んでいる。
嘘なんじゃないか、と疑う記者も中にはいたが。
「ミーティアのドゥラメンテさんはマイルの最強格! 相手にとって不足なしです!」
「グラン、ドゥラメンテと戦うかどうかは」
「でもあたし、マイルでは最強なので!」
「戦うかどうかは分からねぇって! 高村が受けてくれるかも不明だしよぉ!」
ワクワクしているグランアレグリア。どこか疲れ切った表情の倉科トレーナー。嘘じゃないんだな、と察するには十分すぎる反応だった。余談だが、後日フランスに滞在している高村にとある記者が取材をしたところ。
「はい。7月頃から合流予定です。もしかしたら、もうちょっと前倒しになるかもしれませんけど」
と、言質を取ることに成功。グランアレグリア達のチームはミーティアに合流することが決定的となる。
果たしてジャック・ル・マロワ賞はどうなるのか? グランアレグリアは勝てるのか?
「ただでさえ強いグランアレグリアに、ミーティアの独自トレーニングが加わるんだろ? 終わりじゃね?」
「どっちかというと帰ってきた時のことを心配した方がいいんじゃないかな……ジャック・ル・マロワ賞が終わったら帰ってくるんでしょ?」
「どんだけ成長して帰ってくるんだろうな、グランアレグリア」
勝ち負けに関してはさほど心配されていないうえ、どれだけ強くなって帰ってくるかしか考えていなかった。これもミーティアに対する厚い信頼がなせることである。
◇
さて、と。ゴールドカップも終わった6月末。僕達がお借りしている練習場に、新しい来訪者がやってきた。
「ミーティアに合流した時のマイルール! 〈大きな声でバクシンと叫ぶ〉! バクシーーーンッッ!!」
「グランさん! マイルールが大事なのは分かりますけど、まずは挨拶からでしょう! 本当にもう……っ!」
「……ごめんなさい。本当にごめんなさい」
まぁ、うん。見知った顔な上にさっきからずっと申し訳なさそうに頭を下げられているけど。こんな倉科君は初めて見たかもしれない。
8月に開催されるジャック・ル・マロワ賞。欧州マイル最高峰の舞台に挑むため、倉科君達は僕のチームを頼ってきた。伝手を紹介する、なんて言ったことはあるけど。
(僕以上に頼りになるチームはいないから、か。なんだかムズ痒いな)
僕の力を頼られた。ライバルだけどいいの? とも言ったけど、一番頼りになるのは僕だから、と頭を下げられた。ビデオ通話で土下座しそうな勢いで頭を下げられてびっくりしたよ。
そんな経緯で、倉科君のチームは欧州にいる間、僕のチームと合流。ジャック・ル・マロワ賞が終わる8月までの間、合同トレーニングだ。
今日はその初日なんだけど……うん。
「ごめんなさいヴィルシーナさん! 挨拶は大事ですもんね。改めて、ミーティアのみなさんおはマイルー! グランアレグリアです! よろしくお願いしまーす!」
「おはバクシンです!」
「なんだいその挨拶。どっちも奇妙な挨拶を披露するんじゃないよ」
これまた随分と濃い子が来たな。ヴィルシーナはいつものことなのかスルーしてるし、サトノクラウンは苦笑いを浮かべているし、倉科君はずっと謝ってるし。別に気にしてないからいいのに。
グランアレグリア。いつかの話によると、アイが目をつけていた子だ。いつか必ず強くなる、戦い相手の1人だって。
(実際、日本でのレースは聞いてる。マイル戦での強さは圧倒的だって)
マイル戦だというのに着差が凄いことになってるし、すでにシニア級相手にも勝利を収めている。この時期で、だ。アイと一緒のことをしている。
(倉科君が頑張ったんだろうな。素直に凄い)
「凄いね倉科君。クラシック級でもうシニアとの混合G1を勝つなんて」
「本当にごめ……ふ、ふん。俺だってやられっぱなしじゃないからな。お前に追いつくために、俺だって毎日頑張ってんだ! ありがとう!」
1年の経験差を埋めるほどのトレーニング理論。後で聞いてみよう。気になるし。
合流の初日。合同トレーニングで何をするかというと。
「ロードワーク後のマイルール! 〈ロードワークの最後にスタンドでGIRLS' LEGEND Uの決めポーズをする〉!」
「なんですのそのマイルールとやらは。随分と種類があるようですが」
「あたしのルーティーンです! これをすれば毎日良い調子で走れるんですよ。ジェンティルさんも一緒にやりましょう! はい、決めポーズ!」
「……はぁ」
普段と変わらない。ミーティアでやっていることをグランアレグリア達にもやってもらうだけだ。別に奇をてらう必要もないし、隠すようなものもない。普段通りのことを普段通りにやればいいんだから。
その最中、グランアレグリアのことを見物しているんだけど。
(……純粋に凄いな。スピードに関して言えば、アイのクラシック級の頃と変わらないどころか)
「スピードのトレーニングを重点的にやったんだね。凄いスピードの値だ」
「え? ま、まぁな。三階級制覇を見据えるならスタミナも大事だけど、肝心なのはスピードだと思ったんだ。マイルを中心に走るってのは決めてたから」
グランアレグリアの現在のステータスがこんな感じ。同じ時期のアイのデータと比較してみる。
グランアレグリア
適性:芝A ダートG
距離:短A マS 中A 長G
脚質:逃げG 先行A 差しA 追い込みB
スピード:UD5 1559
スタミナ:C 498
パワー :UG8 1282
根性 :C 402
賢さ :A+ 956
アーモンドアイ
適性:芝A ダートC
距離:短A マA 中S 長A
脚質:逃げG 先行A 差しA 追い込みD
スピード:UD2 1527
スタミナ:UG3 1234
パワー :UF2 1325
根性 :SS 1142
賢さ :UF1 1312
とんでもないスピード偏重型のステータス。目立ったバッドステータスも見当たらないし、スキルに関してもマイルの金スキルが豊富だ。これは、同世代の子は相手にするのがキツいね。シニア級相手に勝てるのも頷けるよ。
一体何をやったのか本当に興味がある。いざ聞こうとすると。
「グランって本当に凄くてな。本当の天才なんだよ」
「と、言うと?」
「ゲームとか漫画にいるみたいな、見ただけでなんでもこなせる天才。グランはそのタイプだ」
倉科君はそう言った。グランアレグリアは天才だと。
「併走とかでもそうだ。グランは相手の技術をすぐに吸収しちまう。たった1回の併走で、大体のことは理解できちまうんだ」
「それはまた、凄いね。滅多にいないのに」
僕のチームで言えば、イクイが該当するだろうか。見ただけで技術を覚えるなんて、ほとんどのウマ娘はできない。天才肌のウマ娘にしかできない芸当、グランアレグリアはそれができると。
「おかげでメニューを考えるのも一苦労でな。アイツこっちが考えた負荷とか軽々とこなすから、ほぼ毎日メニューを更新してるよ。ハハハ」
「へぇ。僕と一緒だね」
「え゙っ。高村っていつもそんなことしてんの……?」
えらい驚かれているけど、倉科君も僕と同じことをしてたのか。これは負けていられないな。僕も頑張らないと。
それでいろいろと聞いて。倉科君は教えてくれた。僕のチームと合流することになった本当の理由について。
「グランにはいろんな強敵と戦ってほしいんだ。強敵ってなったら、まずはミーティア! ライバルだけど、盗めるものは盗ませてもらうぞ! よろしくお願いします!」
「嬉しい認識だね。それじゃあ、せっかくきたんだしドゥラと併走でもしてみる? 芝1600mの模擬レース形式で」
「いいのか!?」
もう何度目か分からない驚いた表情。別に減るものじゃないし、なによりグランアレグリアの力量を知るには十分だ。こっちにも利益があるんだし、喜んで提案する。
「勿論。グランアレグリアの実力も気になっているし、お互いに得しかないと思うんだ。そっちが構わないなら、僕はいいよ」
「よろしくお願いしますッ!!」
凄い。直角90°に曲がった綺麗なお辞儀だ。どれだけありがたいんだろうか。
こんな感じで模擬レースが決まった。日程はまた後日になる。
「それじゃあこの日にやろうか。後はジャック・ル・マロワ賞の対策とかも詰めていこう」
「ありがとうございます!」
「……毎回そんな平身低頭しなくていいよ。同い年なんだし」
グランアレグリアの強さ。ちょっと楽しみだ。もしかしたら、アイが興味を持つかもしれないし。
すまねぇマイル語はさっぱりなんだ。