倉科君達と合流してから数日。ジュライカップを目前に控えたある日のこと。
「では、やろうか。グランアレグリア。当然手加減なしで行くぞ」
「お願いします、ドゥラメンテさん! 当然あたしも勝つ気でいきますので!」
「そうでなくては困る。君の実力を余すことなく発揮してくれ」
グランアレグリアとドゥラメンテの模擬レースが始まろうとしていた。距離は芝の1600mのマイル戦。お互いが最も得意とする領分でのレースになる。ギャラリーも十分、みんな楽しそうに見守っていた。
発端は僕の提案。グランアレグリアとドゥラメンテで模擬レースをしてみる? って話から始まった。倉科君はこっちの芝に慣れるがてら望んでいた相手とのレースができる、僕はグランアレグリアの実力を測ることができる。お互いにとってWin-Winの提案だ……なんでか倉科君には釣り合ってない、みたいなことを言われたけど。
(釣り合ってると思うんだけど。グランアレグリアの実力を知ることができるんだから)
まぁいいだろう。模擬レースは成立したわけだし、なんの問題もない。
問題があるとすれば。
「負けないんだから、グランちゃん!」
「委員長の模範的なバクシンをお見せしましょうッ! マイルでもバクシンしますよ~!」
「なんっで! 増えてるのよ!?」
ヴィルシーナ渾身の叫び。なんでか模擬レースの人数が増えていた。そう、アイとバクシンオーが混ざっているのである。
元々そんなつもりはなかったとはいえ、2人から提案された。
「私もグランさんと走りたいですッ! 良いですよね、トレーナーさんッッ!!」
「ここで1つ、わたしが実力を測るわ! いいでしょう? トレーナー!」
自分も走りたいと。グランアレグリアと戦いたいとお願いしてきた。それはもう凄い勢いで。元々はドゥラメンテだけの予定だったのに、どうしてこうなったのやら。
バクシンオーは問題ないから2つ返事で了承。アイはジュライカップを控えているから、あまり推奨はできない……なんて、最初は思っていた。
けど、気づく。
(いずれは戦うことになるかもしれないし、一度対戦するのはいいかもしれない)
グランアレグリアは現在クラシック級、アイはまだ走る予定だし、どこかでかち合う場合がある。グランアレグリアの次走であるジャック・ル・マロワ賞にアイは出走しないとはいえ、どこかで戦うかもしれないのだ。
最大の問題であるジュライカップへの影響だけど、そちらにも問題ないようにすればいい。決して、決してアイの走りたい欲に屈したわけではない。ダメ、って言いそうになったら納得いかなそうに頬を膨らませて、ちょっと涙目になっていたからでは断じてない。
そんなわけで決まったこの模擬レースは4人での出走。倉科君は泡を吹いていた。隣のヴィルシーナも頭痛そうにしていた。なんでだろうか?
「ドゥラ君だけかと思っていたら、さらに2人増えるとは思わないだろう。それも、委員長君とアイ君だなんて想像できないさ」
「トレーナーってそういうとこインセンシティブだよね」
タキオンとヤン子からもツッコまれた。よく分からない。嬉しいものじゃないかな? さらに豪華になったんだから。
まぁいいか。些細な問題だし、レースに集中しよう。今まさに始まろうとしている模擬レース、スタートの合図を取るのはキタサンだ。
「それじゃあ、位置について」
全員が一斉に構える。静まり返った後。
「スタートッ!」
飛び出した。模擬レースが始まる。
先手を取ったのは……まぁバクシンオーだよね。
「バクシンバクシーーンッ! 模範的なバクシンをお見せしましょうッ! バクシンバクシンバクシンシーンッッ!」
「毎度思いますけど、模範的なバクシンって何なんですか? ジェンティルさん」
「私が知るわけないでしょう」
バクシンオーが先頭を走って、アイが続く形。グランアレグリアが3番手で、ドゥラが最後方。大方の予想通りの展開となっている。少人数だから差はそんなにない。
ここで見ておきたいのはグランアレグリア。今の彼女がどこまでやれるのか、出来るのか。しっかりと見ておかないと。
(ジャック・ル・マロワ賞の対策もそうだし、いずれ戦うかもしれない相手。アイにとって、どう映っているのか)
始まった模擬レースは静かな立ち上がりだ。バクシンオーがバクシン言いながら走ってるから物理的に静かではないけど。
レースを眺めていると、タキオンが興味深そうに。
「なるほど、ね。これは確かに強い。およそクラシック級の完成度とは思えない」
グランアレグリアを絶賛していた。なんとも珍しい。僕も同意見だけど。
この時期にしては完成度が凄く高い。ステータス通りの実力を発揮しているし、技術も完璧だ。これまでの勝利は実力で勝ち取ってきた。改めてそう思わせるだけの力。
まだまだ成長途中。アイと同じで、これから先もずっと成長していくウマ娘。倉科君が天才と絶賛するのも分かるほどの逸材だ。
同じことを考えているんだろう。タキオンも、嬉しそうにノートPCのキーボードを叩いている。グランアレグリアの強さを、自分なりの言葉で残しているんだろう。
「この時期にしては、スピードが飛び抜けて高いね。あの3人に挟まれているのに、見劣りしていない」
「まだ動く段階じゃないとはいえ、しっかりついていけてる。うん、凄いね」
「そ、そうだろうそうだろう! グランは凄いんだ!」
担当が褒められて倉科君も嬉しそうだ。気持ちは分からなくもない。
ノートに模擬レースのことを書きながら、レースを観戦する。順位はある程度予想はつくけど……結末は予想できないね、これは。
◇
模擬レースの結果はというと。
「私の勝ちだ」
「ふぎぎぎ……ッ!」
「ば、ばくし~~ん……っ」
「ま、まいる~……っ」
ドゥラの勝利で終わった。2着バクシンオー、3着アイ、4着グランアレグリアと、事前に予想した通りの結果になった。
倉科君もある程度予想はついてたのか、肩を落としているけど。
「グランお疲れー! これを糧にして、もっと強くなるぞー!」
「トレーナーさん……よーし、この先も頑張マイルー!」
グランアレグリアを励ましていた。微笑ましさを感じる。
それにしても、凄い模擬レースだった。
(着差はさすがについているけど、3着のアイとグランアレグリアとの差は3バ身程。先頭からは7バ身しか離されていない)
順位は予想通り。だけどそこに至るまでの過程は完全に予想外。もっと差をつけられるかと思っていたのに、結果的に7バ身差に収まっていた。
7バ身も結構な差だ。実際かなりの差だし、実力差が明確に出たと言えるだろう。
けど、これは先頭との差だ。着順が1つ上の相手じゃない。1着だったドゥラと比較して、4着のグランアレグリアは7バ身差まで詰め寄っていた。
後方脚質。外を回って上がっていったというのに、恐ろしいスピードだね。
(スタミナや根性の値が少ないから、追い比べになったら弱いって弱点はある。けれども、後々その弱点は埋まってくるだろう)
将来が楽しみだ。アイのライバルになる、という意味で。
模擬レースに参加していたメンバーはドリンクとタオルで休憩中。その間にも、倉科君に個人的な改善案を教える。
「欧州で走るなら、さすがにもうちょっとスタミナが欲しいかな。今のステータスがこんな感じで、スピードは申し分ないから」
「な、なるほど。マイルでもスタミナは大事だもんな」
「それもあるし、今後中距離を走るなら絶対に必要になってくる。特に、日本にはブラストワンピースやラッキーライラックがいるからね。中距離を走るなら彼女達が相手になるし、今の内にスタミナを付けておいて損はないよ」
「ってなると、欧州ではスタミナ中心のトレーニングした方がいいのか、じゃなくて、いいんですか?」
「……だから敬語はいいのに。そうだね、その分野ならキタサンが得意だから」
特にこじれることなくスムーズに。欧州の芝に適応しつつ、スタミナをできる限り強化することを目標にした。
ぶっちゃけた話、これ以上スピードを育てるのは過剰になりかねない。すでにUD後半にまで到達しているのだから、こっちにいる間は別のステを重点的に鍛える。
(こういう時に便利なんだな。ステータスが見えるって)
僕のチームにはキタサンがいる。スタミナのイロハは問題ない。
あとやるべきことと言えば、中距離の経験を積むことか。こっちに関してもタキオンにジェンティル、タルマエがいるから不安要素はなし。みんなが教えてくれるはずだ。
いろいろと考え事をしていると、倉科君が。
「改めてお前のチームって本当にやべぇよな。めっちゃ強いし、こんなにも手厚くサポートしてくれるなんてよ」
突然そんなことを言い始めた。手厚くサポート?
「……他の人達も同じくらいしてくれない?」
「いや、そりゃ天城さんとか朝霞さんとかはそうだけどよ。普通はこんなにしてくれねぇって。つか、その2人と比べても高村のはちょっとスゲェというか」
「そうなの? 僕も新人の頃はいろいろと教えてもらったけどな」
「いや、まぁ……うん。なんでもねぇや」
いろいろと諦めたような表情の倉科君。よく分からないけど、とにかくグランアレグリアをより強くするための方法を考える。忙しくなりそうだ。
ちなみに、模擬レース後のアイ達はというと。
「強くなったわね、グランちゃん。今度は本番のレースで走りましょう!」
「勿論です、アイ先輩! アイ先輩相手でも、マイルなら負けませんから!」
「言うじゃない。勝つのはアイよ!」
仲良さそうだった。
【悲報】グランアレグリアさらに強くなる