その瞳に勝利を   作:カニ漁船

49 / 74
色々進みますわよ。


次を見据えて

 日は流れてジュライカップ当日。天気は晴れで絶好の良バ場日和。さらにはアイの調子も絶好調と、最高のコンディションで迎えることができた。

 

「アイ先輩のレースを観るのは初めてかもしれません!」

「メイクデビュー以外、ずっと海外で走ってたからね。日本にいたなら観る機会はないかも」

「一応、配信とかで見たりはしてたらしいけどな」

 

 倉科君達も交えて、一緒にアイを応援。和気藹々とした雰囲気でレースを見守る。

 

 肝心のレース内容はというと、アイは先行する形でレースを展開。いつも通りのアイだ。スタートが良すぎて逃げるみたいな形になることが多いけど、本来のアイは先行型のウマ娘。先頭を走るのはあまり得意ではない、というか結構絶望的。ゴールドカップは例外中の例外だ。

 ジュライカップは距離1200mの短距離戦。こうなると小細工の類は一切通じない。自分の実力を発揮するだけの舞台で、誰よりも早く駆け抜けることが大事になる。

 

 って、なると。

 

《残り200を切ってアーモンドアイが先頭に変わる、アーモンドアイが先頭に変わる! ここで最強の女王が先頭に躍り出た! じわり、じわりと前に出る! 残り200しかないぞ、ペースアップするジュライカップ、誰が駆け抜けるのか!》

 

 アイは強い。迷いなく、これと決めたら一直線。ただ勝利のためにひた走る彼女を崩すことは出来ない。ステータス的にも出走しているウマ娘の中で最も高く、力勝負で負けることはない。

 それでも最後まで油断せず、なんて思っていると。

 

「なぁ高村」

「何? 倉科君」

 

 なんかもう全てを諦めているというか、悟りを開いているかのような表情を見せる倉科君が、渇いた笑いを添えながら。

 

「アーモンドアイに隙ってあんの? 強すぎじゃね?」

「……探せばあると思うよ?」

「疑問形の時点で答え出てんじゃねぇか。いや、強すぎだろアレ。日本でも話題を独占するのがよく分かるわアレ」

 

 うん。アイの強さを分かってもらえたようで何よりだ。本当に良いのかどうかは別として、強いことが認められているからね。

 それとこれとは話が別なのか、呟きはこれっきりであり。純粋な気持ちで応援している倉科君。手に汗を握り、頑張って応援していた。

 

 そしてアイは。

 

《やはり強いアーモンドアイ! 短距離の舞台をしっかりと勝ち切って! ジュライカップを制しましたアーモンドアイ! 2着との差は3バ身差、短距離で3バ身差の快進撃! 連勝を18に伸ばす世界最強の女王! 次走に向けて弾みをつけました!》

《ここまでくるとどこまで連勝するのか気になるね。楽しみで仕方ないよ!》

《次走はキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスと発表されています。対戦相手には凱旋門賞以来となるコンストリブルが出走を表明! これで二度目の対決、どちらに軍配が上がるのか? リベンジを果たしたいコンストリブルか、最強女王の貫録を見せるか! 次のキングジョージも非常に楽しみです!》

 

 ジュライカップを制した。全く問題なく、しっかりと勝ち切った。

 

「アーモンドアイに、負けはないわ!」

 

 いつもの決め台詞も忘れずに。拍手と歓喜の声が沸き上がるニューマーケットレース場で、僕達もアイに拍手を送った。

 

 

 そしてウィナーズサークル。次走のことを話しつつ、その先のことも伝える。

 

「『キングジョージの後は、インターナショナルステークスを予定しています。その後はまだ決まっていませんが、凱旋門賞かカドラン賞の両睨み、ですかね』」

「『なるほど! なんでその2つを両睨み出来るのかはもうアーモンドアイだから、と納得しておきます!』」

 

 それはそう。冷静に考えて距離2400mの凱旋門賞と4000mのカドラン賞を選択肢にする陣営なんか存在するわけがない。やろうと思えばアベイ・ド・ロンシャン賞もできるし。やらないけど。

 10月のレースはこれで決まりとして、問題はその先だ。

 

「『ちなみに、今年も年内いっぱいは欧州で走る予定でしょうか? ブリーダーズカップや香港国際競走に出走の予定は?』」

 

 丁度記者から似たような質問が上がる。はたしてアイがどんな選択をするのか、全員が気になっているみたいで。前のめりになっていた。

 これに答えたい、ところなんだけど。

 

「『ごめんなさい。まだ決まっていないんです。さすがに先過ぎるのと、キングジョージの方に集中したいので』」

「……『そういうことですね。現状は未定です。ブリーダーズカップも香港国際競走も選択肢ではあります』」

 

 決まってない。アイの言った通りでもあるし、なによりどこを目指しているかまだ不明瞭な部分がある。未来のことはまだ決まってない、と言ったところだ。

 

(現状の最有力候補は、グランアレグリアと戦うために日本に渡る、って選択肢だ)

 

 マイルチャンピオンシップ。そこで一度グランアレグリアと戦う。倉科君達はまだ先のことを発表してないけど、間違いなくここに出走してくるはずだ。

 そこを狙い撃つ。確実に出走するであろうマイルのレースに照準を向け、戦いの舞台へと上がる。アイ自身も戦うことに乗り気だし、現状の最有力候補はマイルチャンピオンシップのために日本へ戻ることだ。

 

 とはいえ、結局のところは分からない。なので、そのまま分からないと答えることが正解だ。

 記者も納得しているのか、それ以上の追及はなく。

 

「『なるほどなるほど。確かに、まだ先のお話ですものね。では次の質問ですが』」

 

 別の質問に変わっていった。なお、その中にセーヌ川を爆走しているバクシンオーのことが話題に上がったことは知らないふりをした。何してんのさバクシンオー。

 

 何はともあれジュライカップも無事に勝利。次が正念場だ。

 

「コンストリブルさんも出走するキングジョージ。腕が鳴るわね、トレーナー!」

「向こうはリベンジに燃えてるからね。あの時よりもずっと強くなってるよ」

「いいじゃない。わたし達は向かっていくだけ、そして勝つだけよ。今までと何も変わらないわ」

 

 控室で軽い打ち合わせをする中、アイは自信満々に勝つと口にする。いつも通り、なにも変わらない言葉。

 

(普通、ここまで勝ち続けたら王者的な振舞いをするんだろうけど)

 

 言葉では言い表しにくいけど、アイほどの成績なら迎え撃つ、の方がイメージに合うだろう。挑戦者ではなく、王者として相手をする。そんな振る舞いが出てもおかしくはない。

 

 けど、アイはいつだって挑戦者だ。自分が挑戦する気持ちでレースを走り続けている。

 ライバルに勝ったら、その次も勝つためにトレーニングを重ねる。ライバルが努力するなら、自分も同じかそれ以上の努力をする。あくまでも自分は挑戦者、という立ち位置を忘れない。

 

(これもアイの魅力、か)

「どうかしたの? トレーナー。わたしの顔に何かついてる?」

「いや、アイは変わらないなって」

 

 思ったことをそのまま口にしたら、おかしそうに笑われた。うん、自分でも笑うと思うよ今の言葉は。

 

「変わらないって。当たり前じゃない。わたしはレースを走る。そして勝つ。その姿勢が変わることはないわ」

「頼もしいね。今の調子を維持……じゃないか。前の自分の調子を超えるくらいの勢いでいこう。次はキングジョージ、レース場も距離も何もかも違う舞台だ」

「ゴールドカップ以来だからそんなに日は経ってないわね。次も勝つわよ!」

 

 やることを再確認して、拳を突き合わせる。頼もしいな、この子は。

 

 

 

 

 

 

 ジュライカップから数日が経ったある日のこと。

 

「何してるの? 2人とも」

「あ、トレーナー。グランちゃんと一緒に日本のレースを観てるのよ」

「高村トレーナーも観ませんか? 面白いですよ!」

 

 アイとグランアレグリアがPCにかじりついていた。画面にはレースの映像が流れている。音声から聞こえる内容的に、どうやらこの前の宝塚記念みたいだね。

 確か、ブラストワンピースが勝ったレースだ。これで彼女はグランプリレース二連覇。さらにはクラシック三冠にホープフルステークス制覇なので、G1を6勝していることになる。

 

 それにしても、なんでまた日本のレースを?

 

(考えられる線としては、同世代を応援する気持ちを込めて、かな)

 

 ブラストワンピースにラッキーライラックはアイと同じ世代のウマ娘。学園でも普段から仲が良いって聞いてるし、そんな2人が同じレースに出るんだから気にもなるか。

 

「いや、僕はいいから、2人でゆっくりと観るといいよ。僕は自分の部屋に」

 

 邪魔しちゃ悪いから退散しよう、と思っていたのに。

 

「ねぇトレーナー」

 

 アイに呼び止められた。一体どうしたんだろうか? なんでそんなにワクワクした表情で僕を見ているのだろうか。

 いや、もう察しがついている。

 

(子供みたいに目をキラキラさせているこの表情。とても覚えがある)

「トレーナー。ララ達凄く強くなってるわ。こっちのレースに集中していたから気づかなかったけど、とっても強くなってる」

「中距離以上では、こんなに強い人達が相手になる。楽しさ120マイルです!」

 

 コンストリブルやヴェガスクライ、プライベートベーリングを相手にした時の表情。強敵を目にした時の、アイのワクワクした気持ちを感じる顔だ。隣のグランアレグリアも、楽しそうな表情をしている。

 

「わたし、海外のことに集中しすぎていたみたい。日本のことなんて、全然目を向けてなかった」

「それも仕方ないよ。主戦場をこっちにしているわけだからね」

「反省ね。大事な相手に目を向けなかったんだもの」

 

 動画はもう終わった。アイは、こっちに向き直って。胸に手をやって、いつも通りの自信満々な態度で。

 

「トレーナー、決まったわ」

「……一応聞いておこうか。何かな?」

 

 力強く、確かに宣言する。

 

「凱旋門賞ウィークエンドが終わったら、わたしは日本に戻るわ! そして、ララ達と戦うの! 構わないでしょう? だって、そこに強い相手がいるんだから!」

 

 暫定で決まっている予定は10月まで。その10月のレースが終わったら、日本に戻る。アイはそう宣言した。全てはそう、ラッキーライラック達と戦うために。

 そんなに、とか日程が、とか。細かいことは考えない。僕が言うべきなのはたった一言だけ。

 

「いいよ」

 

 アイのやりたいことを、全力でやらせる。そのサポートのために動くだけだ。

 

「ありがとうトレーナー! 早速今度ブラストと通話した時に話すわ!」

「うん、構わない。僕も、記者の人達に伝えておくから」

「アイさんが日本に……! ならあたしも、アイさんの出走するレースに参戦します! 1マイルだろうと1.25マイルだろうと1.5マイルだろうと!」

 

 日程が決まる。アイは日本へ戻ることになった。それに伴って、僕達ミーティアも遠征を一度取り止めることになる。ドリームトロフィーは出られないけど、みんなには納得してもらうか。

 

 いろんなことが決まった。日本に戻った時のことを考えようか。手続きとかいろいろとあるし。

 それと、もう1つ重要なことも進めないと。

 

(理事長やたづなさんに相談済み。後は、準備を進めるだけだ)

 

 とある企画も並行して動かす。アイが喜んでくれると……いや、確実に喜んでくれるはずだ。とても大きな企画を、アイは嬉しく思ってくれるはず。

 

 忙しくなりそうだ。




日本、標的に。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。