PCを開いて、ニュース記事を閲覧。話題を独占しているのは……アイだ。この前のインタビューで答えた、日本に戻るという情報が早速広まっている。
(凄い反響だな。これまで日本のレースを走っていなかったから余計に)
それでも世界中で話題を独占しているのだから、アイがどれだけ注目されているのかがよく分かる。中にはアイが欧州のウマ娘であるかのような扱いをしている記事もあるけど、まぁそんなこともあるだろう。なまじ欧州を拠点にしていたから余計に。
今後の予定は決まった。アイは日本に戻る時を楽しみにしている。久しぶりにみんなと会えるのもそうだし、日本で走るのも本当に久しぶりだ。楽しみで仕方ないはずだろう。
とはいえ、次のレースを蔑ろにはしない。当然勝ちに行く。
(次のキングジョージではコンストリブルが出走してくる。リベンジに燃えているだろうし、ステータスも伸びてるから要警戒だ)
凱旋門賞で下した相手。あれからかなり日が経っているので、コンストリブルも成長をしている。変わらず油断ならない相手だ。
アイに負けた後、実はブリーダーズカップで一緒になっていた。アイはBCスプリント、コンストリブルはBCターフという違いはあるけど。
こっちがレースで勝ったように、向こうもBCターフで圧勝を飾る。悔しさを、鬱憤を晴らすようにだ。
加えて先日開催されたエクリプスステークス。こっちもコンストリブルは完勝した。着差こそつけていないものの、BCターフで2着だった相手をまた倒す。
エクリプスステークスのウィナーズサークルにて、コンストリブルは語った。
「『雪辱を果たします。今度のキングジョージで、私はアーモンドアイを倒す。もう二度と負けません』」
カメラ越しでも分かった。コンストリブルの気合の入りようが。鋭く睨みつけ、勝利の余韻に浸ることなく、アイだけを意識しているかのような発言。一筋縄じゃいかないことを悟るには十分すぎる内容だ。
ステータスも、当時に比べたらかなり上がっている。
コンストリブル
適性:芝A ダートG
距離:短G マE 中S 長B
脚質:逃げB 先行A 差しA 追い込みG
スピード:UA2 1825
スタミナ:UC9 1691
パワー :UD8 1587
根性 :UD2 1526
賢さ :UD1 1510
平均的に上がっているし、成長がよく分かる内容だ。間違いなく強敵となる相手、キングジョージに出走するメンバーの中では上位だ。
けれども。
アーモンドアイ
適性:芝A ダートA
距離:短A マA 中S 長A
脚質:逃げG 先行A 差しA 追い込みD
スピード:UA5 1851
スタミナ:UD9 1593
パワー :UC2 1627
根性 :UD8 1584
賢さ :UD2 1528
アイも負けていない。ゴールドカップ以来だからそこまでの上がり幅がないとはいえ、コンストリブルに比肩している。比肩するのがおかしい、という意見には目を背けるとして。
ステータス上なら五分の勝負。スピードが勝っている分こちらが有利か、ってところか。ステータスだけで全てが決まるわけじゃないけど、安心はできる。
「……強敵相手に戦った時は基本ステータスで負けてたしね。安心感が段違いだ」
最初の戦いでは当然のように劣っていたし、その後のヴェガスクライやプライベートベーリングとの戦いでもステータスでは負けていた。分の悪い勝負だったのは間違いない。
けど、勝ってきた。ここまで勝ち続けている。アイが望むように。
「出走するメンバーの見直しをしておこう。コンストリブル陣営が複数のウマ娘を出すらしいし、囲まれることも想定して……」
やるべきことは1つ。勝利を望むアイのために、万全の状態でレースに送り届けることだ。見落としがないように、アイの負担を減らすように。僕ができることは最大限にやっておく。
キングジョージまで残り少ない。頑張らないとだ。
◇
エクリプスステークスのインタビュー。わたしは画面越しに見ていた。
「この映像を見ていますか? アーモンドアイ。私はあの日受けた敗北の味を、まだ忘れられずにいます」
ウィナーズサークルで話すコンストリブルさんの表情から感じる威圧感。わたしはその場にいないのに、わたしに向けられた言葉。あの日の、凱旋門賞の時のことを思い出す。
強く握った拳がカメラ越しに、わたしへと向けられていた。
「次のキングジョージでリベンジさせてもらいます。今度は私が勝つ……貴方の無敗記録は、私が止めます。世界統一女王」
「ッ! ふ、ふふっ」
ダメね、思わず。
「いいじゃない、凄く良いわ。負けたくないって思いを、画面越しでも感じる……ッ! コンストリブルさんは、とっても強くなってる!」
こっちも気持ちが昂るわ! 今すぐにでも走りだしたいくらいに!
臆する理由なんてない。相手がやる気満々で来るのに、どうして怖気づく必要があるのかしら? むしろ、心が高鳴るのが普通。それがわたし達ウマ娘。
強ければ強いほど、わたしは熱くなれる。全力のぶつかり合いの先で、わたしが勝つ! その先には必ず、最高の景色が待っている!
「えぇ、わたしも負けないわコンストリブルさん! キングジョージ、全力でぶつかり合いましょう!」
伝わるはずがないわたしの独り言。それでも声に出さずにはいられなかった。それだけ、気持ちが高ぶっていた。コンストリブルさんのインタビューは、わたしを高鳴らせるには十分すぎるものだった。
PCの電源を落としてすぐさま眠りにつく。明日に備えてもう寝ないと!
「ただいま~アイちゃん、ってもうベッドに入ってるの!? 早くない!?」
「あ、お帰りなさいキタサン。申し訳ないけどわたしはもう寝るわ! 一秒でも早く起きて明日身体を動かしたいの!」
「え、え~。そ、それじゃあ、おやすみ?」
「えぇ! おやすみ!」
目を瞑って羊を数える。早く明日にならないかしら!
なんて考えていたらいつの間にか眠っていた昨日。早朝からトレーナーの部屋に突撃よ!
「トレーナー! 早速朝練の時間よ!」
「……随分早いね。というか、大分気合入ってるね。なにかいいことでもあった?」
「えぇ、あったわ! わたしの気合が入るには十分すぎることが!」
トレーナーの手を引っ張って部屋から連れ出す。時間は一秒でも惜しい、すぐにでも動かないと。
「分かった、分かったから。すぐに準備するからもうちょっと待って。さすがに寝巻のまま外にはいけないよ」
「あ、それもそうね。じゃあわたしはホテルの入り口で待ってるから、トレーナーも早く来るのよ!」
「分かったよ」
それにしても、トレーナーは何時起きたのかしら? わたしも早く来過ぎたって反省している時間なのに、もう起きてたわ……まさか。
「それよりもトレーナー。ちゃんと寝たの? わたしもちょっと早く来過ぎたかしら? って思ったのに、もう起きてるだなんて」
もし寝ていないのだとしたら、バクシンオーさんを呼ぶしかないわ。トレーナーはバクシンオーさん、というよりはわたし達の言うことは素直に聞くもの。またみんなでお説教コースかしらね。
トレーナーは、首を横に振った。
「僕だって今さっき起きたよ。それに、毎晩毎晩バクシンオーが僕の部屋に突撃してくるの知ってるだろう?」
「えぇ、知っているわ。でもトレーナーの場合、その後起きる可能性も否定できないもの」
「……日頃の行いってやつだね。とにかく、僕はちゃんと寝てるよ。監視カメラで確認してもらっても構わない」
そこまで言うってことは、大丈夫ね。よし!
あ、でも。
「朝早くにごめんなさいね、トレーナー。さすがに早く来過ぎたわ」
先に謝らないと。わたしの方が迷惑をかけたのもだし、朝早くに突撃したのだって本当はよくないことだもの。気持ちが高ぶっていたからとはいえ、褒められた行動じゃない。しっかりとトレーナーに頭を下げる。親しき中にも礼儀あり、ね。
トレーナーは、怒っていなかった。呆れた目も向けてこないし、いつもの目を向けるだけ。
「別にいいよ。やる気があるのは良いことだから」
「……貴方って怒ることあるの?」
「君達がリスク度外視の無茶をしたら怒るよ。ドバイターフの時みたいに」
うっ、そういえばあったわね。あの時ほどトレーナーが怒っていたのは見たことないわ。チームメンバー全員が震えていたもの。わたしも、今思い出しても震えあがるわ。
(怒らせたらいけない人を怒らせるのが一番怖い。骨身に染みて分からされたもの)
「……ごめんなさい」
「もう二度としないならいいよ。またするようだったら怒るけど」
「しない! 絶対にしないわ!」
「そ、そんなに勢いつけて言うほど怖かった? ま、まぁいいや。それよりもすぐに準備するよ。先に行ってて」
部屋に戻ったトレーナーを見送って、わたしはロビーへと向かう。今日も一日頑張るわよ!
朝練が終わればいつものように全体トレーニング。特別指導も、教えることがほぼなくなってきたのか。
「実戦形式のトレーニングと行こうか。今のアイ君なら、実戦形式の方が鍛えられる」
「分かったわ。早速併走しましょう!」
「今回は複数人での検証といこう。そうだねぇ……そこで暇してるタルマエ君とドゥラ君に協力願おうか」
併走でのトレーニングが中心になってきた。それも、一対一じゃなくて一対多でのものが。
より実践に近い形式での特別指導。自分が日々成長していることが感じられて嬉しくなる。
けど、問題は。
「ふぎぎぎ……っ!」
「そんな親の仇を見るような目で睨みつけないでくださいよ! こっちだって本気出さないとヤバいんですから!」
いつまで経っても勝てないってところよ! 最近では惜しいところまでは行くのに、結局は負けちゃうもの! もうそろそろ勝てそうなのに!
「だが、タルマエの言うように本気を出さなければ勝てなくなってきた。この時期の我々と比較した場合、アイが最も突出しているだろう」
「疑いようがないね。まだシニア級1年目の前半、その時点で良い勝負になっているんだ。私達もうかうかしてられないんじゃないのかい? うん~?」
「なんでニヤニヤしながらこっち見てるんですか。タキオンさんにだって言えることでしょう?」
「ま~それもそうだね。とはいっても、だ」
チラリと、タキオンさんがこっちを見てくる。な、何かしら?
「アイ君は納得いかないだろうがね。何故なら勝っていないのだから」
納得いかない、ですって? そんなの!
「当たり前じゃない! わたしは勝ちたいの、誰が相手でも勝ちたいの! 負けているのに納得なんてしていられないわ!」
みんなが強いのは分かっている。わたしよりも先にデビューしているのもそうだし、同世代や上のライバル達と鎬を削っているのは当然知っているわ。その果ての強さだってことも、わたしはちゃんと理解している。
けど、納得できるかどうかは別! わたしはそんな相手だからこそ勝ちたい、負けたくないの! 負けっぱなしで、納得なんてできるはずがないわ!
タキオンさん達は、ちょっと呆れているように見えるけど。
「だ、そうだが?」
「良い向上心だ。こちらも負けていられない」
「は~ぁ……本当、本格的にヤバくなってきてますからね。私も、もっと完璧な策を立てないと」
みんなから闘争心を感じるっ。わたしと同じ、負けたくないって強い意志を。
同時に思う。負けたくないってことは、それほどわたしを脅威に見ているって。自分達と同格と、そう判断しているんだって。
(着実に近づいている。わたしも、みんなと同じ領域に!)
「もう一本いくわよ! 次こそはアイが勝つんだから!」
「いいだろう。私も、まだまだ負けるわけにはいかない」
「何本でも付き合いますよ。タキオンさん、データの方お願いしますね」
「無論取るとも。データは貴重だからね」
次は勝つわよ!
※この後しっかり負けてズビズビしました。