その瞳に勝利を   作:カニ漁船

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追込の強いサポカください。


再認識する強さ

 レパーズタウンレース場。晴天の空、良バ場を駆け抜けるウマ娘達。縦に長くなった隊列を観客席で眺めながら、プライベートベーリングは溜息を吐く。

 

「いや~ぁ、えぇ~……? ここ走った後カドラン賞に来るの? 本当に?」

 

 ここに来た理由はシンプルであり、敵情視察のためだ。カドラン賞で相手になるウマ娘を見るために、はるばるアイルランドへと足を運んだ。

 

 視線の先にいるのはアーモンドアイ。自信に満ち溢れた表情で走っており、遠目からにも余裕といった感じで走っているのが分かる。他からのマークを受けながらも、まだまだ余力を残しているといった具合だ。

 周りにいるウマ娘は必至になって削ろうと努力しているが、意味をなしていない。その理由にも見当がついている。

 

「ま~今のアーモンドアイって本当に怪物だからねぇ。そりゃあの子達には荷が重すぎるというか。しかも得意な中距離戦だし」

 

 弱点になりそうなもの、癖と思わしきものを探しながら呟く。残念ながら該当する部分はなかったのか、再度溜息を吐いた。

 

《まもなく最後の直線、レースを牽引する2番の脚色が鈍ってきているか? 先行集団の中心、アーモンドアイはまだ動かない。緩やかな上り坂を駆け上がるウマ娘達、最後の勝負所に向けて脚を温存しています》

《いや、ここで5番のマジックが仕掛けたね。マジックがいち早く抜け出してきたよ!》

《おっと、最後の直線を待たずしてマジックが抜け出してきました! マジックが抜け出す、マジックが来た! アーモンドアイはどうか? アーモンドアイも動いた動いた! 後ろから追走するアーモンドアイ、アーモンドアイが位置を押し上げる!》

 

 盛り上がりを見せる場面。全員のペースが一気に上がり、先にあるゴール板を目指して走る。

 最初に動いたのはアーモンドアイ、ではなく。愛チャンピオンステークスで2番人気に支持されていたウマ娘だ。大本命よりも先に動き、最内は走らせないぞとばかりに陣取っている。

 さらにはペースを上げたことで外に振らすつもりなのか、自分も振らされることを承知で仕掛けた。アーモンドアイのスタミナを少しでも削るために。

 

(いくらステイヤーに勝てるスタミナがあるとはいえ、キツいもんはキツいからね。やれることはやっておこう、ってことか)

「それを2番人気……アーモンドアイに次ぐ実力者って評価されている子がやらなきゃいけない、ってのがま~キツい。並の子じゃどうしようもならないよ」

 

 冷静に戦局を分析した結果……アーモンドアイの勝ちは揺るがない。そう判断する。

 

 スタミナを削る。だからどうした? と言わんばかりに走るアーモンドアイ。外を振らされようがお構いなしに走り、前を走るマジックへと襲い掛かる。

 あっという間に追いついた。最後の直線を待たずして、その差は0になった。2バ身のリードがなくなり、後は純粋な力勝負になる。

 

「仕掛けるならもっと早くに仕掛けないと。距離を離すのが大事なのに、粘りすぎたねマジック」

 

 顎に手をやり考える。果たしてどう攻略したものか、と。自分ならあの状況でどう動いたかを。

 

(とはいえ、マジックが悪いわけじゃない。普通なら問題ない仕掛け方、相手が悪すぎた)

 

 動き出しは完璧だった。ここしかない、というタイミングで抜け出したと言える。おそらく、中距離最強格のコンストリブルを相手にしても出し抜けただろう、と思うほどだ。

 事実、アーモンドアイは少しだけ遅れた。珍しく後手を踏まされたのである。常に先手を取って動いていたのに、今回のラストスパートでは遅れる形になった。

 

 もっとも、遅れただけ。すぐさま追いついて自分に有利な競り合いに持ち込み、マジックと鎬を削りながら走る。

 観客からすれば白熱した勝負だ。1番人気と2番人気が至近距離で激突し、ゴール目指して全力を出しているのだから。

 

 だが、当事者からすれば地獄だ。特にマジック側は。

 

(マジックからしたら嫌だろうね、アレは。アーモンドアイが競り合いに強いのなんて、ヴェガスクライとの戦いで分かってるんだから)

「あの状況に持ち込まれた時点で終わり。は~ぁ、本当嫌になる」

 

 今日何度目かの溜息か分からない。今度戦う相手の強さを再確認したから、とか弱点がないに等しいとか、そういう理由ではない。

 

「何度考えてもおかしいって……なんで愛チャンからカドラン賞来るの? せめてもうちょっとさ、関係のあるレースにしようよ。ヴェルメイユ賞とかさぁ」

 

 ローテが規格外にもほどがあるから、である。そのことに頭を悩ませていた。

 

 現在アーモンドアイが走っているレース場はどこか? アイルランドのレパーズタウンレース場であり、距離は芝の2000mの中距離戦だ。

 では、カドラン賞が開催される場所はどこか? フランスのパリロンシャンレース場であり、距離は芝の4000mの超長距離戦である。

 この時点で気づく人は気づくだろう。というか、どんなに察しの悪い人でも気づく。この2つのレース、関連性もなにもあったもんじゃない、と。

 

(普通のウマ娘は距離を絞るから、ある程度似通った条件で走る。ぼくだって長距離に限定しているし、他の子だってそうだ)

 

 ローテとはある程度絞って決める。そんな全部の距離を走れるわけでもないし、出来る限り前走に近い条件で走りたいのがウマ娘としての本音だ。トレーナーはウマ娘の適性をしっかりと理解し、勝てるレースを選別する必要がある。

 普通ならそうなのだ……普通ならば。

 

 アーモンドアイは普通じゃない。ローテに一貫性がないし、前走とは真逆の条件で走ってくる可能性がある。それこそ今年のローテがそうだ。

 超長距離であるアスコットのゴールドカップを走ったと思えば、短距離のジュライカップに出走。その後は中距離のキングジョージに出走と、何もかもがめちゃくちゃなローテで走ってきた。どういう頭と思考をしているのか問い質したいほどのローテである。

 

(ヴェルメイユ賞ならまだ分かるよ? 同じパリロンシャンレース場だし、距離は違うけど意識してきたんだなって分かる)

「でもさぁ、愛チャンは違うじゃん。条件何もかも違うじゃん。これで何を参考するって言うのさ……」

 

 頭を抱える。偵察のためトレーナーに了承を貰ったはいいものの、分かったことは強いということだけ。見りゃ分かんだよそんなもんとしか言えない情報を手にするために来たわけではないのに、と口にしたくなった。

 

「トレーナーが着いてこなかった理由これかぁ。そりゃこんなの分からないよねぇ。これ見たところでカドラン賞の対策にはなんもならないよねぇ」

 

 収穫はトレーナーが偵察に来なかった理由が分かっただけ。実質収穫が0の現状を嘆く中、レースの決着がついた。

 

《アーモンドアイだアーモンドアイだ! 追いすがるマジックをねじ伏せて、アーモンドアイが7バ身差で勝利を収めました! これは強い、あまりにも強い! この強さこそがアーモンドアイ! 次走のカドラン賞も楽しみです!》

《なんでカドラン賞? ってツッコミはしないようにね。アーモンドアイ陣営のローテは意味が分からないから》

《カドラン賞ではプライベートベーリングと二度目の激突。ゴールドカップではアーモンドアイに軍配が上がりましたが、このカドラン賞ではどうなるか分かりません! きっと、プライベートベーリングも対決を楽しみにしていることでしょう!》

「いや、うん。楽しみではあるよ? 楽しみではあるけどさ……それ以上に困惑するよこんなの」

 

 予想通りの勝利。実況と解説にツッコミを入れつつ、プライベートベーリングはレース場を後にした。

 

 

 帰宅しながらトレーナーへと連絡。今回の偵察に関する報告を怠らない。

 

「あ~トレーナー。うん、うん。アーモンドアイのレース見てきた。見てきたけど、トレーナーの言った通りだったよ。参考にならないね、アレ」

《ま、まぁ、距離とか全然違うもん。作戦も違うし、メンバーも違うし、走り方も違う。なにもかも変えてくるだろうから、愛チャンはあんまり参考にならないな、って思って》

「別に疑ってたわけじゃないけどね。いざ観戦して分かったのはアーモンドアイの強さだけ。いや~、本当に強いね、アレ」

 

 弱みとなるものは見つけられなかった、癖もなかった。分かったことと言えば、アーモンドアイが強いということだけ。

 

 しかし。

 

「燃えるね~。そうでなくっちゃ。ぼくを負かしたんだから、そうでなければ面白くない」

《べ、ベーリング? な、なんか電話越しでも燃えてるのが分かる気が、する、ん、だけ、どぉ》

「トレーナー。そっちには走って帰るよ。身体の疼きが抑えきれなくてね……それじゃあまた!」

《走って帰るって、どうやって!? アイルランドからイギリ》

 

 だからこそ燃え上がる。相手が強いと分かっているからこそ、本能が、魂が疼く。強い相手を乗り越えてこそ、だと。

 

(きみが成長したように、ぼくもまた成長している。おそらく、成長度合いで言えばきみの方が上だろう……けどね)

「タダで負けてやる気はないよ、アーモンドアイ。カドラン賞ではぼくが勝つ。そのために、B.C.ロングディスタフ*1を諦めてカドラン賞に狙いを定めたんだから!」

 

 ゴールドカップの敗戦は今でも脳裏に焼き付いている。悔しさで枕を濡らしたし、屈辱で顔が真っ赤になった。

 故に、カドラン賞へと狙いを変えた。おそらくこっちに出走してくるだろうと予見し、ドンカスターカップが終わった後にわざわざ宣言したのだから。

 

 事実、アーモンドアイはカドラン賞へと舵を取った。凱旋門賞に進むコンストリブルを狙うのではなく、カドラン賞に出走する自分へと狙いを定めてきた。

 

(ぼくがB.C.ロングディスタフに行っても、彼女は来たかもしれない。けれど、勝負をつけるなら)

「フランスの超長距離G1。ゴールドカップに次ぐ長さのこのレースが相応しい。あの日の屈辱を、晴らすにはね」

 

 今度こそは負けられない。そんな思いを抱いて疾走する。

 リベンジを果たすために。アーモンドアイにまだつけられていない黒星を、自分こそがつけると誓って。

 

「勝負だ、アーモンドアイ。ぼくはきみに勝つ。勝って、長距離最強として、欧州最強ステイヤーとしての地位を取り戻す!!」

 

 レパーズタウンレース場を走って去っていった。

 

 

 そして、日が沈んだ後。

 

「と、トレーナー? そ、その~ぅ……」

《む、迎えだよね? 今どこにいるかだけ教えてくれる? わ、わたしも丁度アイルランドにいるから》

「……ごめんなさい」

 

 結局トレーナーを頼ることになった。

*1
ブリティッシュ・チャンピオンズ・ロングディスタフ。決してブリーダーズカップの略ではない




そろそろカドラン賞よ~。その後はジャパンカップよ~。
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