その瞳に勝利を   作:カニ漁船

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史実だとしてもラッキーライラックがエリ女に逃げようが海外勢全員エリ女に出走できるという罠。


ライバル達への視線

 ジャパンカップが近づいている今日。秋華賞に菊花賞、天皇賞・秋が終わった。トレーナー室で記事をまとめつつ、直近のレース成績について確認する。

 

 秋華賞はクロノジェネシス。こちらはグランアレグリア経由で名前を聞いたことがある。詳しくは知らないけど、ウマ娘の過去のドラマが好きなんだとか。

 僕のチームであるミーティアにも多大なる興味を持っているらしい。というか、かなりの大ファンらしい。これはグランアレグリア情報だけど。

 

 あの時は確か。

 

「クロノちゃん、ミーティアの大ファンなんです。常識外の記録を数々と打ち立てた伝説のチーム! って、いつも言ってました」

「そうなんだ。なんだか照れくさいな。でも、その割には僕のチームには来なかったんだね」

「恐れ多いんですって。そういう子たくさんいますよ。まぁあたしはミーティアの人達を倒したいので!」

 

 なんて言われたんだっけな。恐れ多い、恐れ多いか。確かにタキオンとかジェンティルは初見じゃとっつきにくいかもしれないけど、みんな良い子なんだけどなぁ。

 そんなクロノジェネシスはジャパンカップには出走せず、有記念の方に照準を合わせるらしい。秋華賞のインタビューでそう答えていた。なので、警戒をする必要はないだろう。こっちに来る気もないらしいし。

 

 菊花賞ウマ娘の子は年内休養の予定。体質がよろしくないみたいで、無理をする段階じゃないとインタビューで語っていた。来年のレースに向けてしっかりと身体づくりをするとのこと。

 最後に天皇賞・秋。秋天を制したのは──ラッキーライラックだ。宝塚記念で敗戦を喫したブラストワンピースを下し、堂々の3バ身差勝利。

 トリプルティアラにエリザベス女王杯の冠をあわせたクワトロティアラウマ娘。そんな彼女は次走をジャパンカップに定めている。

 

「始まる前から負ける気で挑むウマ娘はおりません。当然、私なりに一生懸命走らせてもらいます」

 

 と、少しばかり謙遜している言い回しをしていたけど。

 

(そんなことはない。目の奥が凄くギラギラしていた……アレは、負ける気なんてさらさらない目。何度も見てきたから知っている)

 

 目の奥は燃えていた。アイを倒すのは勿論のこと、海外のウマ娘にも負ける気はないと。東京2400mの舞台を勝つと語っているようだった。

 

 後出てくるのは、天皇賞・秋から引き続いてブラストワンピースやキセキ。ブラストワンピースはクラシック三冠に春秋グランプリウマ娘、キセキも2人に匹敵する実力者。いつもながらとはいえ、楽な道のりではない。

 日本勢だけでもこれだけ豪華だ。ちなみに、グランアレグリアとクロノジェネシスの同期であるオークスウマ娘、ラヴズオンリーユーはジャパンカップではなくエリザベス女王杯に出走予定。こっちに来る気はないらしい。

 

 海外勢もコンストリブルとヴェガスクライを筆頭に、かなりの猛者が集まってくる。メンバーを見た時に抜けているのはこの2人だけど、他もG1レースを勝っている子のみ。今回のジャパンカップが魔境と呼ばれている原因もここにあるだろう。

 彼女達の目的はただ1つ。アイへのリベンジだ。ヴェガスクライは公言しているし、コンストリブルは公言こそしていないもののなんとなく察しがつくだろう。

 かつて世界を沸かせた2人の女王がジャパンカップへ。URA側も猛プッシュしているらしい。

 

(そろそろ現地入りだって言ってたかな? 日本の芝にどこまで慣れてくるかだけど……これはもう本番にならないと分からない)

 

 適応できなかったとしても、陣営がそのことを口にするはずがない。ジャパンカップの日になるまで、2人がどこまで走れるかは未知数だ。警戒しておくに越したことはないんだけど。

 

「さすがに警戒する相手が散らばりすぎているな。ある程度絞らないと」

 

 アイでも全員を警戒しながら動くなんて芸当は無理だ。目標に定める相手、しっかり選別しないとね。

 

 とはいえ、すでに決まっているんだけど。

 PCのとあるデータを立ち上げる。開いたデータの中身は、僕がまとめたジャパンカップに出走予定の子達の情報……ステータスだ。

 

 

コンストリブル

 

適性:芝A ダートG

距離:短G マE 中S 長B

脚質:逃げB 先行A 差しA 追い込みG

 

スピード:UA5 1859

スタミナ:UC9 1691

パワー :UC1 1614

根性  :UD2 1529

賢さ  :UD1 1510

 

 

ヴェガスクライ

 

適性:芝A ダートG

距離:短A マA 中S 長G

脚質:逃げG 先行A 差しA 追い込みG

 

スピード:US1 1915

スタミナ:UD4 1531

パワー :UC2 1629

根性  :UE7 1474

賢さ  :UE2 1422

 

 

 海外勢2人のステータス上昇は微々たるもの、と言うには無理がある。特にヴェガスクライはスピードの値が結構増えてきているな。上がり幅が少なくなるシニア2年目以降と考えると、だけど。

 

 対するラッキーライラックとブラストワンピース。こちらはアイと同世代だから、かなり目覚ましい成長を遂げている。

 

ラッキーライラック

 

適性:芝A ダートG

距離:短G マA 中A 長B

脚質:逃げF 先行A 差しA 追い込みG

 

スピード:UA9 1898

スタミナ:UE9 1497

パワー :UD9 1595

根性  :UD1 1513

賢さ  :UF4 1347

 

 

ブラストワンピース

 

適性:芝A ダートG

距離:短G マD 中A 長A

脚質:逃げG 先行A 差しA 追い込みD

 

スピード:UA5 1857

スタミナ:UD7 1574

パワー :UD4 1544

根性  :UF8 1386

賢さ  :UG9 1297

 

 

 コンストリブルやヴェガスクライにも見劣りしないステータス。キセキも大体同じくらいかちょい上。他のG1級ウマ娘はこれのちょい下ぐらい、って言ったところか。

 

 育成ストーリーでこんなウマ娘が出てきたら、スマホをぶん投げる人がたくさんいそうだ。そもそも出走するモブウマ娘のステータスすらUランクを超えている、マスターズチャレンジに出てくるようなモブばかり。恐ろしいことこの上ない。

 いくら領域がない子のステータスはSSで打ち止めになるとはいえ、それでも上限を叩いている。相手をするのは一苦労だ。

 

 ……もっとも。

 

「問題ないように仕上げている。後は、最後の詰めに入るだけだ」

 

 最大限に警戒すべき相手を1人2人ピックアップして、PCを閉じる。この後はアイのトレーニングだ。

 他のメンバーは自分のトレーニングに集中している。僕は最小限の指示だけ飛ばして、個々人の調整に任せている感じだ。

 問題なく仕上げる。放任じゃない、信頼で成り立っていること。僕は彼女達が最高の状態で仕上げると信じているし、彼女達もまた僕の期待に応えるような仕上がりをしてくると考えている。

 

(……なんて、僕の勝手な憶測だけどね)

 

 とはいっても、強い相手と戦うことに燃える子達だ。同じチームで、強いと分かっているライバル。生半可な仕上がりにすることは侮辱に近しい、そう考えるような子達。

 だからまぁ、あまり口出しはしない。みんな分かっているから。

 

 アイのトレーニングを見つつ、イクイやヤン子の練習も。

 

「2人とも凄いからな。与えた課題を軽くこなしてくるし」

 

 呟きつつ外へ。部室に向かいながら、アイのトレーニングメニューを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 トレーニングの時間。すでに着替えて準備万端の様子のアイから言われたのは。

 

「トレーナー、ララ達のステータスはどんな感じか見せてもらえるかしら?」

 

 ジャパンカップに出走するメンバーの情報。ステータスを見せてほしいとのことだった。

 話が早いな。丁度今から見せる予定で持ってきたから。

 

「丁度持ってきてるよ。はい、これがラッキーライラックたちのステータス」

「ありがとう。それじゃあ、少しの間はこっちに集中するわね」

 

 ステータスが書かれた紙を渡す。アイは真剣な表情で眺め、ブツブツとなにかを呟いていた。

 おそらく考えているのだろう。ジャパンカップでどう走るか、誰を警戒すべきかを。

 アイの後ろに回って、イクイとヤン子も内容を見ている。できる限りアイの邪魔をしないように。

 

「やはり、高ステータスですね。海外勢のお2人は知っていましたが」

「ライラックもブラストもケアレスネス*1できないね。クライ達に十分迫ってる」

 

 なんなら2人も攻略するならどうするか? なんてことを考えているかもしれない。向上心の塊みたいな子達だ。

 

 しばらく待って。顔を上げたアイがこちらに資料を手渡してくる。

 

「ありがとうトレーナー。全部理解できたわ」

「うん。それで、どうかな?」

「どう、って言われてもね」

 

 困ったように笑った後、その笑顔がいつもの自信に満ちた表情に変わる。

 

「燃え上がっただけよ。やっぱり、トレーニング前に見ておいて正解だった。だって、わたしは今こんなにも燃えているんだもの!」

「そうだよね。ワクワクした顔になっているからね」

「えぇ。やっぱり、ララもブラストも凄いわ。凄く強くなってるんだもの!」

 

 早くレースをしたくてたまらない、そう言わんばかりに震えている。いつもの目の輝きが2倍とか3倍くらいに輝いて見える。

 気の緩みはない。相手を侮りもしない。等身大の相手を、ありのままに見つめている。いつものことだけど、心配することはない。

 

 なので、僕がやることも決まっている。

 

「それじゃあ、今日の練習メニューはこれね。イクイはこっちで、ヤン子はこっち。それじゃ、今日も頑張ろうか」

「分かったわトレーナー。今日も頑張りましょう!」

「分かりました。今日も一日、よろしくお願いします」

「ね、ね、トレーナー。バクシンオー達のトレーニングをウォッチするのはアリ?」

「邪魔しない範囲でなら構わないよ」

 

 いつも通りのことを、いつも通りにすれば良いだけだ。

 

 

 そして始まるトレーニング。アイの熱の入りようが凄い。

 さっきアイが自分で言っていた通り、ラッキーライラックたちのステータスを見たのが効いているんだろう。負けていられない、なんて考えているのかもしれないね。負けず嫌いな子だから。

 

(今のアイのステータスはまだ見せていない。今日のトレーニングが終わった後、改めて見せる予定だ)

 

 本人も見る気はないのか、僕に聞くことなく始めた。今見るべきではないと判断したのか、それとも聞くよりも先に身体が動いていたのか。多分半々ぐらいだ。

 やる気バフが掛かっている状態のアイ。僕が渡したメニューを軽々とこなしていく姿に安心感を覚える。

 

(それでも、レースに絶対はない。100%勝てるレースはないし、どんなことが起きるか予想がつかない)

 

 だからこそ面白いし、勝った時の快感は何物にも代え難い。何度勝っても嬉しいのは、これが理由なのかもしれないね。

 

 ノートを開く。アイのステータスが書かれているページを見る。

 

 

アーモンドアイ

 

適性:芝A ダートA

距離:短A マA 中S 長A

脚質:逃げG 先行A 差しA 追い込みD

 

スピード:LG1 2015

スタミナ:UC1 1601

パワー :UC5 1652

根性  :UC3 1635

賢さ  :UD7 1571

 

 

「油断はしないし、見くびりもしない。僕達ができる最大限の用意をして、ジャパンカップに臨む」

 

 レース本番までみっちり仕上げよう。アイの勝利のために。

*1
油断




このステータス差で慢心しないのストイックの塊がよ……私なんてこれだけのステ差があったら勝ったな風呂食ってくるわするぞ。
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