その瞳に勝利を   作:カニ漁船

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ミーティアに新しい部員が入った。新しい部員が入るとどうなる?


始まる欧州遠征

 メイクデビューを終えたアイに、正式に入部することになったフォーエバーヤング。いろいろとあったけれど、今から僕達は。

 

「向こうに渡るの、なんだか久しぶりな気がします!」

「キタサンとドゥラの時に渡ったから、実際はそうでもないんだけどね」

「感覚的には久しぶりに違いないんだ。細かいことは気にするものではないよ、トレーナー君」

 

 欧州へと渡る。アイが主戦場にする舞台へ、飛行機に乗って向かっていた。

 

 遠征することも増えたのでもはや慣れたもの、なんだけど。どうしても慣れないことが1つだけある。それが時間の問題だ。

 日本からフランスまでは飛行機。当然だけどめちゃくちゃ時間が掛かる。その間は機内でなにかしておかなきゃいけないんだけど、これがまぁ困るんだよね。

 

「日本からフランスまでは12時間から15時間。ロングフライトだよね~」

「やっぱり慣れるものじゃないね。エコノミークラスの飛行機だったら耐えられなかったかもしれない」

「URA提携のプライベートジェットなんでしょ? 太っ腹だね~」

 

 15時間も暇を潰すのはそう簡単なことじゃない。Wi-Fiもあるし、やろうと思えばPCも開ける。普通の飛行機よりはいろいろと出来るとはいえ、それでも15時間も潰すのは結構難しいんだ。経験があるからよく分かる。

 

「プライベートジェットでも、向こうまでの到着時間が大きく変わるわけじゃない。というわけで、どうにかして私の暇を潰したまえトレーナー君」

「論文でも書く?」

「なんで初手で出てくる案が論文なんですか。普通にゲームとかしましょうよ」

 

 時間を潰す案として、タキオンと一緒に論文でも書こうかとしたけれどタルマエにツッコまれた。別にいいと思うんだけどな、論文作成。

 

 まぁ僕とタキオンしかできないし、他のみんなが暇するだろうからと却下。なにか別の案を募ることに。

 ババ抜きとかU〇Oとか、いろいろと案が出てくる中、アイが身を乗り出して提案する。

 

「じゃあ、みんなでキューまるを見ましょう! テレビもあるし、Wi-Fiもあるから勿論見れるわよね?」

「……きゅーまる?」

 

 キューまる、と呼ばれるものを見ようと。いや、キューまるってなんだ? 少なくとも僕は聞いたことがないぞ。

 

 周りへと視線を向ける。

 

「ほほう、良いですねッ! 委員長は賛成ですよッ!」

「懐かしいな~。そういえば最近見てなかったからいいかも!」

「名前は聞いたことありますわね。この機会に見てみるのもいいかしら?」

 

 え~っと、僕以外に知らない子は。

 

「楽しみだ」

「ドゥラさんも知ってたんですか? キューまる」

「あぁ。幼い頃に見たことがある。それっきりだが、毎週のように見ていた」

「あ、私も私も! 人気ですよね~キューまる」

 

 ふむ、なるほど。

 

「アタシも小さい頃よく見てたな~。イクイはどう?」

「私は今でも。小さい頃から好きなんです、キューまる」

「本当!? 気が合うわねイクイ!」

 

 どうやら僕以外全員知ってるみたいだね。知らないのは僕だけか。

 

「キューまる~? なんだいそれは? 見たことも聞いたこともないぞ」

 

 いや、1人だけいた。タキオンだ。タキオンもどうやら、キューまるなるものについて知らないらしい。気が合うな、僕達。

 

「タキオンも知らないんだ。実は僕も知らないんだよね」

「ドゥラ君の小さい頃見ていた、という発言から察するに、子供向けのアニメみたいなものだろう。あいにくと、私は小さい頃から研究一辺倒でね。そういう類の物は見たことがない」

 

 確かにタキオンは見なさそうだ。研究一筋ってのは聞いたことがあるし、仕方ないのかもしれない。

 

 なんて思っていると。

 

「そんなのもったいないわよ!」

 

 バンッ、と。勢いよく飛行機の床を叩いてアイが身を乗り出してきた。思わずのけ反る僕達の事なんかお構いなしに距離を詰めてくる。

 

「キューまるはただの子供向けアニメじゃないわ。とっても応援したくなる、可愛くて優しくてカッコいいキューまるが主人公の最高のアニメなんだから!」

「いや、だからそのキューまるというのは何だい? 私は見たことも聞いたことも」

「この子よ! ほら、キュウリを持ったこの子! ほんわかしてて可愛いでしょ!」

 

 アイがどこからか取り出してきたキーホルダー。こう、良い感じにゆるいカッパがキュウリを持っている。おそらくこの子がアイの言うキューまる君なんだろう。可愛いし受けが良さそうなデザインだ。

 

 うん、なんだ。

 

(とりあえず、アイがこのキューまる君とやらの大ファンなのはよく分かった)

「劇場アニメ化もたくさんしているのよ? キューまるの映画を全部観たら、フランスなんてあっと言う間よ!」

「そ、そうかい。そこまで凄いんだねぇ」

 

 すぐさまキーホルダーを取り出せる。知らないと発言した僕とタキオンに今も魅力を力説している。観たことがないなら一緒に観ようと提案する。よっぽどこの作品のことが好きなんだろう。

 

 となると、当然興味が湧いてくる。アイをここまで虜にするキューまるというものが何なのか。

 隣にいるタキオンに目配せ。頷いたところを見るに、僕達の意見は一致しているみたいだ。

 

「分かった。なら観ようか、キューまる」

「観たことがないし、なによりアイ君がそこまで力説する作品は非常に興味を惹かれる。観ようじゃないか」

 

 どうせ時間はたっぷりあるわけだし、暇を潰すのにもってこいだ。飛行機に乗っている間はキューまる上映会と行こう。どうも、他のみんなも乗り気みたいだし。

 その中でも一番乗り気なアイ。僕達が観たい、と答えると、それはもう嬉しそうに表情を輝かせる。

 

「じゃあ早速観ましょう! トレーナー達は観たことがないから、アニメ本編から!」

「どれどれ……ちょっと待ちたまえ。アニメ本編だけでも結構な数があるじゃないか。下手したらこれだけでフランスに着くんじゃないのかい?」

「それだけ愛されてるコンテンツなのよ、キューまるは! 早速1話から観ましょうっ!」

 

 あれこれ探して、本編を一から観ることになった。さて、アイが力説するキューまるはどんな感じなのか。

 

(思えば、アニメなんてほぼ観たことがないな)

 

 前世の小さい頃はさすがに観たことあるし、大人になってもウマ娘のアニメは観たことがある。ただ、こっちの世界に来てからは観たことがない。小さい頃から勉強ばっかしてたし。

 だから、ちょっとだけワクワクしている。どんな作品なのか、楽しみだ。

 

 

 その結果。

 

《当機はまもなくフランスのシャルル・ド・ゴール国際空港に到着します。席にお戻りになり、シートベルトを着用して》

「えー!? 今良いところなのになんだいなんだい! 全く、空気が読めない時間だねぇ!」

「ほら、文句言ってないで早く席に座りなさい。私が無理やり席に着かせますわよ」

「私の首根っこ掴んで言うことじゃないだろうジェンティル君! やめたまえ! 君の力で引っ張られたら私の服が破ける!」

「加減はしてますわ」

 

 ものの見事にタキオンはハマった。なんなら僕ももうちょっと時間伸びてくれても、なんて思うくらいには名残惜しく感じている。よし、仕事の合間に流すとするか。事務仕事の片手間に観るくらいわけないし。

 

「ふふ、タキオンさんとトレーナーにもキューまるの魅力が伝わったみたいで嬉しいわ!」

 

 アイは上機嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 いろいろありつつもフランスに着いた。改めて現地に来ると懐かしいな。

 

 で、僕達を出迎えたのは。

 

「『久しぶりだね、高村トレーナー。今日からまた、我々と共に頑張ろう』」

「『うん、久しぶりモンジュー。またこっちでお世話になるよ。迷惑をかけるね』」

「『迷惑だなんてとんでもない。貴方達が来ることを、我々は待ち望んでいた。もっと言うならば、貴方達がフランスに来ること自体を、ね』」

 

 モンジュー。かつて世界の頂点に君臨したウマ娘で、いろいろとミーティアと交流のあるフランスのウマ娘。前にお世話になったことがあるけど、また彼女達のチームでお世話になる。

 褒められて悪い気はしない。お世話になる分、モンジューが所属するチームのためになるように力を尽くそう。

 

 ……で、触れないようにしていたけど。珍しく彼女がいないな。

 

「『ところでモンジューさん? いつものお姫様はいらっしゃらないのかしら? 愉快な声で鳴いていらっしゃるお姫様は』」

 

 ジェンティルも気になったのだろう。怪訝な顔でモンジューを問い詰めている。件のモンジューは、苦笑いを浮かべていた。

 

「『我らのお姫様の事ならば、今頃部屋の掃除中だ。今日も貴方達が来ることを知って来たいと言っていたが、部屋が荒れ放題でな。当然、掃除が終わるまで来ないようにと指導した』」

「……『またなんだね』」

「『また、だ。どうも、いまだに片付けが苦手なようでな』」

 

 溜息を吐くモンジュー。ちなみに彼女達の言うお姫様とはヴェニュスパークのことだ。フランス、ロンシャンの女神と称され、G1を通算10勝以上した女傑。モンジューのチームのエースだった子。

 モンジューとヴェニュスパークはほぼセット。モンジューがいるならヴェニュスパークもいる、って感じで、てっきり今回もいるものだと思ってた。まさか部屋の掃除が終わってなくて来れないとは思いもしなかったけど。

 なんだろう、泣き言を言いながら部屋の掃除をしている光景が目に浮かぶ。

 

「『終わらない限りミーティアには近づかないようにも言ってある。こうでもしなければ、あの子はすぐにサボるからな』」

「『随分と厳しくしてるね。さすがに可哀想な気も』」

「『いいや、淑女としてやらなければならないこと。覚えさせなければ意味がない。甘やかす理由にもならないからな』」

 

 ぴしゃりと言い放つモンジュー。部屋の掃除はできた方がいいし、正論だ。言い返すつもりはない……ヴェニュが可哀想だとは思うけど。

 

「『さて、どうやらミーティアには新顔がいるようだ。そちらの貴方は初めましてだな』」

「『ども~、アタシはフォーエバーヤング。ミーティアのニューカマーだよ。気軽にヤン子って呼んでね』」

「『ヤン子、ヤン子……ふふ、悪くない。これからよろしく、ヤン子』」

 

 自己紹介も済ませてモンジュー先導の下、宿泊先へ。前に泊まったこともある豪華な宿だった。

 

 

 宿に着いて、モンジューと別れ。全員部屋に荷物を置いたら早速ミーティングだ。

 とはいっても、今日はフランスに着いたばかりでみんな疲れてる。大半のメンバーが遠征慣れしているとはいえ、早めに休んだ方がいいだろう。

 

「それじゃ、今日からはしばらくフランスに滞在することになる。明日は軽めのトレーニングで済ませる予定だけど、質問のある子はいるかな?」

 

 誰も手を挙げない。問題はないということで、今後の予定だ。

 

「それじゃあアイ。君の今後についてだ。出走するレースを改めておさらいしておこうか」

「えぇ。分かったわ」

 

 他のメンバーを交えつつ、アイが出走するレースについて確認していく。

 

「まず、こっちの条件戦に1つ出る予定。どのレースに出るにしても、条件戦で間隔を掴んでおかないといけないからね。VRウマレーターで練習しているとはいえ、だ」

「アイちゃん、こっちの芝は結構違うから気を付けてね。分かんないことはあたしがお助けするから!」

「ふふ、頼りにしているわキタサン」

「そして、条件戦を1つ叩いたらデューハーストステークスに出走。欧州のジュニア級王者を決めるレースの1つだ」

 

 ジュニア級の大目標は10月に開催されるデューハーストステークス。ここに出走して勝つこと。ジュニア級の強い子達が集まってくるだろうし、アイにとっても良い経験になるはず。このレースに出るのは確定だ。

 後は芝の対応問題。これに関しては明日以降確かめる必要がある。欧州での最優先確認事項だ。

 

 それから諸々の連絡を挟んで、後は自由行動の時間にする。

 

「ミーティングはこれくらいにして、後は自由に行動していいよ。ただ、外出する時は気を付けてね。フォーエバーヤングは」

「ヤン子」

「……」

「ヤン子」

 

 すんごいジト目で見られてる。呼ばなきゃダメなんだろうな、これ。

 

「……ヤン子も分かってるだろうけど、気を付けるようにね」

「ふふん、よろしい。外出の件については大丈夫だよ。これでも海外旅行とか経験してるからね」

 

 ヤン子と呼んだら機嫌が良くなった。ならいいか。

 他のメンバーも問題はない。みんな海外遠征は初めてじゃないし、リスクについても分かっている。問題行動を起こしたりはしないだろう。バクシンオーがセーヌ川をバクシンしないことを祈るだけだ。

 

 

 こうして始まるフランス遠征。頑張っていこう、うん。




知らんのか?恋のダービーステークスのキャラが増える。
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