その瞳に勝利を   作:カニ漁船

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ふと思ったんですけどキタちゃんのソロ曲っていつ出るんでしょうね(ロストシャインと空のほほえみ方はアニメ曲なので違う気がする)


最強達の共演 前

 東京レース場に多くの人が詰め寄る。12月31日の年末、すでにレースの全日程は終了しているというのに、まるでG1レースさながらの客入りを見せていた。

 

「チケットの確認を行っておりまーす! ご来場の皆様はチケットのご用意をお願いしまーす!」

「慌てないでくださーい! 1人ずつ順番に、SS席の方からご案内しておりまーす!」

 

 そして、これまたレース場では見られない光景。まるでライブのように入場規制が設けられている。いつものレースとは一味違う様相だ。

 

 今日は普通のレースはない。ないのだが、代わりにあるのが──チーム・ミーティアによる真剣勝負。東京芝2400m左回りで行われる戦いだ。

 ミーティアの名を知らない者はいない。レースと聞けば西へ東へ、果てには海の向こうへと渡るチーム。かつて日本にあった凱旋門賞のジンクスをぶち壊し、数々の大レースを制してきた実績を持つ、世界最強のウマ娘達が集う夢のようなチームだ。

 さながら流星のごとく。レースに出走しては勝ちをかっさらっていく星々。ファンの目に焼き付き、ライバル達を震撼させる。流星の名に恥じない活躍を残し続けてきた。

 

 そんな彼女達、7人のウマ娘の真剣勝負。現地で見るためなら何百万も払おうとするファンもいるほどだ。それだけの価値がこのレースにはある。

 配信によって全国どころか世界中に中継され、始まる時を今か今かと待ちわびている。年末のお祭りレース、世界中ほぼ全ての人が見ていると言っても過言ではない。配信は1つではなく複数だが、どのチャンネルも10万人を超える人が視聴している。今もどんどんと増えており、合計すれば100万を優に超える見込みが立っていた。

 

 現地では出店が立ち並んでいる。普通のフードコートからミーティアのウマ娘のグッズ店、変わったものとしては苫小牧の物産展などもある。苫小牧に関しては、ミーティアに所属しているホッコータルマエの仕業だろう。彼女も当然、出走メンバーの1人だ。

 友達と来た人、その場で仲良くなった人、海外からはるばるやってきた人。いろんな人が入り乱れて出店に並ぶ。

 

「うお、これ新しいグッズじゃん! さっそく買わないとっ!」

「えぇ!? バクシンオーのグッズもう売り切れてるの!? そんなぁ」

「『安心して日本の人。高村が事後通販もするって言ってたわ! だから問題なしよ!』」

 

 大賑わい。この時点でもう興行的には大成功といってもいいだろう。まぁ、本番はここからなのだが。

 

 

 時刻はお昼を回った頃。早朝の入場整理から始まり、チケット入場のファンが全員入った頃。指定された席に着いて待っていると──1人の男性が姿を現した。

 170後半のスーツ姿。キッチリとした着こなしに好青年のような出で立ち。ただ……初見ではまずびっくりする、死んだ魚のような目。ミーティアのトレーナー、高村聖がマイク片手に登場する。

 

《あ、あー……大丈夫そうですね。会場にお集まりの皆様、こんにちは。今回のレースを企画させていただいたチーム・ミーティアのトレーナー、高村聖と申します》

 

 ぺこりと頭を下げると、割れるような拍手の音が東京レース場を支配する。特に驚いた様子は見せず、淡々と説明を始めた。

 

《もうすぐ出走するみんながこのターフに入場してきます。パドックはなく、ここで簡易的なパフォーマンスをするつもりです。パドックが見たかった、という方もどうかご安心ください》

 

 話すことはそれだけなのか、もう一度頭を下げて場を後にした。

 

 それからしばらく待って──その時が来る。

 

《さぁ、みなさんが待ち望んだこの日がやってきました、世界最強チームミーティアによる真剣勝負! 東京レース場芝2400m左回り、バ場の状態は良バ場の発表です! 今回の解説役にはこの方をお呼びしています!》

《こういう場は慣れていないから、少しばかり緊張してしまうな。トレセン学園の生徒会長、シンボリルドルフです。解説の立場は浅学非才の身でありますが、精一杯務めさせていただきます……願わくば、私もあの舞台で走りたかったものですが》

《まさか初代無敗の三冠ウマ娘が解説役になってくださるとは、このレースがいかに豪華なのかを物語っているでしょう!》

 

 実況と解説のアナウンスが会場中に響き渡る。会場はざわつき、その時が来ると直感した。

 その直感は当たる。1人目の出走者が、ターフへと姿を現したのだから。

 

《いろいろと説明を挟みたいですが、早速入場してきたのはジェンティルドンナだぁぁぁ! 無敗のトリプルティアラ、不抜の聖域とまで呼ばれた5バ身差を狙って勝つ剛毅なる貴婦人! チーム随一のパワーを誇るウマ娘が、一番最初に乗り込んできたぁぁぁ!》

「さぁ。蹂躙しましょうか」

《ジェンティルドンナの持ち味はなんといってもパワーでしょう。進路を無理やりこじ開けることができます。無論、それだけではありません。レースタクティクスも上位に食い込んでいます》

 

 ジェンティルドンナ。不敵な笑みを携えて、観客の拍手と歓声を受けながらの入場。心地よさそうに耳を揺らし、パドックであるかのような優雅な振舞いをする。

 

 まだ1人入場しただけで1番人気のウマ娘が入ってきたかのような盛り上がりだ。

 だが、ここからである。

 

 次に入場してきたのはドゥラメンテだ。緊張しているのか、代名詞でもある独特なステップを刻んでいる。

 

《次に登場したのはドゥラメンテ! 後方一気で全てを撫で切る最強の体現者、最後の直線だけで全てを捲る圧倒的速さ! 彼女もまた、ドリームトロフィーで結果を残しているウマ娘です!》

《ドゥラメンテは最後の直線のスピードだけに目がいきがちですが、実は道中置いていかれないだけのスピードを発揮することができています。不利な脚質でここまで結果を残しているのが何よりの証左でしょう》

 

 静かに深呼吸。一度、二度。何回かの呼吸の後。

 

「……やろう。私に流れる血の、証明に」

 

 ギラリと目を輝かせ、鋭くターフを睨む。ジェンティルドンナと同様に、ウォーミングアップを始めた。

 

 もはや全員が超スター級。だからこそ、1人入場する度に盛り上がる。3度目だろうとなんだろうと、観客の熱は収まることを知らない。

 

《続いてアグネスタキオンだぁぁぁ! 世界に認められたレーティング140の輝き、勝利予想では断トツの支持を集めていた超光速の貴公子! ドリームトロフィー最強格の中距離ウマ娘がここで登場だ!》

《ミーティアで1、2を争う速さ、それすなわち世界最速レベルのスピードを誇っているということです。特に中距離での彼女の強さは圧倒的ですね……テイオーがまた騒いでいるだろうな》

「ふーんだ! 最強格なだけだもんねー! 中距離最強はボクだもんねー!」

「落ち着けってテイオー。今そんなこと言ったってしょうがないだろ?」

 

 アグネスタキオン。今回のレースで最も勝ちに近いウマ娘と目されている。中距離における強さは疑いようがない最強格だ。

 当の本人は観客の反応など知ったことではないとばかりに辺りを見渡す。ジェンティルドンナとドゥラメンテを視界に収めると、愉快そうに顔を歪めた。

 

「い~い実験材料になってくれよ? 私の研究に役立ってくれたまえ」

 

 安い挑発の中にある絶対の自信。自分が負けるとは微塵も思っていない、強者の余裕を感じさせる。先に登場した2人も警戒を強めていた。

 

 続く4人目。普段であれば愛嬌を振りまく彼女だが。

 

《4人目はホッコータルマエだ! ダートの魔王、砂のシンボリルドルフと呼ばれるレースメイク能力! 一度彼女に狙われれば、そのレースを無事に走ることは許されない! 誰が餌食になるのか? 誰を供物に見初めるのか!》

《レースメイクに関してはミーティア一と言ってもいいでしょう。彼女とのレース談義は花が……ん、んんっ! とにかく、彼女に狙われた場合、無事に走るのは至難の業です。誰をターゲットにするのかが注目ですね》

 

 そんな姿は少しもない。静かに息を吐き、ターフにいる全員を睨みつけている。

 

「……やりますか」

 

 短く言葉を紡ぎ、万全の態勢で走れるように体をほぐす。

 本気だ。観客がそう思うには十分すぎる圧であり、同時に震えた。やはりこのレースはとんでもない祭典なのだと。

 

 終わりが見えてくる5人目。出てきたのは。

 

《さぁ続いてはキタサンブラックの登場だ! 長距離での強さは天下一、見る人を笑顔にさせる天下無双のお祭り娘! 無尽蔵のスタミナから繰り出される逃げは攻略不可能とまで呼ばれています!》

《彼女の武器はやはり豊富なスタミナでしょう。圧倒的なスタミナで他のウマ娘をすり潰す。言葉にすると簡単ですが、やっていることは恐ろしいことこの上ありません。本領は長距離ですが、中距離でも発揮できますよ》

「わっっっしょぉぉぉい! お祭り娘の登場ですよぉぉぉ!」

 

 キタサンブラック。元気いっぱいに音頭を取り、観客の声援に応えるかのように登場した。先程の空気を一変させる、見事な業だ。本人にその気はないだろうが。

 それでも、ここに立っている以上は競技者。バチン、と両頬を叩いて気合いを入れている。

 

「頑張るぞ!」

 

 戦いに行くウマ娘の目。気合十分だ。

 

 残り2人。6番目に登場するのは。

 

《ここでトゥインクル・シリーズ現役のウマ娘、アーモンドアイだ! 現時点において23連勝のG1を21連勝、ヴェガスクライの記録を抜くのが視野に入ってきた現役世界最強のウマ娘! 2400mの世界記録保持者でもあります!》

《一見すると場違いなんて思う人がいるかもしれませんが、その認識は改めた方がいいでしょう。今の彼女は我々に匹敵する実力の持ち主、このレースを勝つことができるだけの十分な資質を持っています。まぁ、ジャパンカップで察している人は多いと思いますが》

 

 アーモンドアイだ。出走者の中では唯一のトゥインクル・シリーズ現役。今もなお連勝記録を伸ばし続けている、世界最強の女王様。

 辺りを見渡す。観客へと視線を向ける。自信満々の笑みで、いつもの宣言が始まった。

 

「勝つのはわたし、勝つのはアイ」

 

 ただ、いつもとは少し違う。くるりと振り向いて、ジェンティルドンナ達へと向き直る。

 不敵な笑みを携えて、会場中に聞こえる声で。

 

「アーモンドアイに──負けはないッッ!!」

 

 堂々と、またも宣戦布告をした。ジャパンカップでの挑発では飽き足らず、この場でもまた、ミーティアのメンバーに対し勝つと宣言した。

 瞬間、一気に膨れ上がるプレッシャー。ダートコース側の観客はあまりの圧に腰が砕けそうになるが、アーモンドアイは意に介さない。臆することなくメンバーと対峙している。

 その様子にふっと笑い。

 

「楽しめそうね」

 

 ジェンティルドンナの一言。他のメンバーは言葉にせずとも同じことを思っていたのか、口元にはわずかな笑みが見えていた。

 その様子にアーモンドアイも笑う。やはりこの舞台は最高だ、と。

 

 アーモンドアイで数えて6人目。出走者は7人であり、次のウマ娘が最後である。

 最後に出てきたのは──全ての始まり。

 

「私としたことがまさかの一番最後ですか! いやはや、気が逸りすぎて逆に遅くなってしまうとはなんたる不覚ッ!」

 

 笑いながら登場する。愛嬌たっぷりの笑顔と共に、圧倒的強者のオーラを纏いながら姿を現す。

 誰もが興奮していた。

 

《そして最後に登場するのは! 全ての始まりにして頂点! 最速、そして無敵の王! 今に続くミーティアの伝説はここから始まったと言っても過言ではありません! サクラバクシンオーだぁぁぁ!》

《もはや言葉は不要でしょう。彼女こそが始原であり、常識外の記録を打ち出した最初のウマ娘。純スプリンターでありながら無敗の三冠、いや四冠を勝ち取った唯一のウマ娘っ!》

「ですがご安心をッ! みなさんの学級委員長が出走しないなどありえませんッ! サクラバクシンオー、ただいま登場ですッッ!!」

 

 王の出走に。ミーティアというチームの始まりのウマ娘に。その日一番の拍手で出迎えていた。

 

 サクラバクシンオーの人気が成せること。勝ち負け抜きにしても、彼女の人気は衰えることを知らない。

 短距離ならば無敗。それ以外の距離でも最強格に君臨する最速無敵の驀進王。ここまでのミーティアの偉業は、全て彼女から始まったのだ。当然、人気もずば抜けている。

 無論人気だけではない。実力に関しても疑う余地が一切ない。ドリームトロフィーにおいて唯一である短距離無敗。距離限定とはいえ、魔境のドリームトロフィーリーグで無敗なのはサクラバクシンオーだけだ。まさしく最速無敵の驀進王の名に恥じない実績である。

 

 無意識のうちに力を込めるアーモンドアイ達。恐怖? 否、歓喜だ。強敵との戦いに、心が震えている。

 その歓喜を、サクラバクシンオーは受け取った。にっこりと笑い、胸を張る。

 

「みなさんいいレースにしましょうッ! 衝動のままに、本能の赴くままにッ! 我々らしいレースをッッ!!」

 

 当然、とばかりに全員頷く。闘争の準備は、もうできているのだから。

 

 

 これで全員。まだデビューしていない2人を除いて、ミーティアの全メンバーである。

 

《この7人が東京レース場で走ります! 誰が勝つのか全く予想ができない勝負、も~うすでにドキドキが止まりません! どうですか? 解説のシンボリルドルフさん》

《私も今から出走できないでしょうか?》

《ははは、場を和ますためのジョークとして受け取っておきます! 入念にストレッチをしているウマ娘達。出走の刻は近づいています!》

 

 歴史的名勝負の幕が上がろうとしていた。




次回が出走よ。
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