その瞳に勝利を   作:カニ漁船

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最終回ですわ~。


最強達のフィナーレ

 20万人の大歓声が東京レース場に響き渡る。レースの決着に、隣の人と肩を組んで盛り上がる。

 最後まで目が離せなかった。一進一退の攻防に手に汗握った。差して差し返されの勝負にドキドキが止まらなかった。最後まで続いた競り合いに涙を流す者もいた。もはや推しなんて関係なく応援していた。それほどの勝負が、この東京レース場で繰り広げられていた。

 

 世界最強のチーム、ミーティア。世界中を魅了してやまない彼女らの真剣勝負。勝者は──アーモンドアイ。

 

《最初から最後まで全く読めなかったこのレース、勝ったのは新時代のプリンセスアーモンドアイ! トゥインクル・シリーズを現役で走るウマ娘が、ドリームトロフィーで鎬を削ってきた猛者を相手に勝ちました! いや、凄い、これ本当に凄いですよ!》

 

 およそ勝者とは思えないほど消耗し切っている。膝をついて息を荒げ、立ち上がることすらもできないくらいに疲れていた。

 他のメンバーも同様である。サクラバクシンオーやキタサンブラックは芝の上に大の字で倒れ、他のメンバーもどうにか立っている状況。ここ最近では見られなかった景色に、観客は慄く。

 それだけの激闘だった。体力が底を尽いてしまうほどの勝負だった。いざ目の当たりにすると、この勝負を見ることができて本当に良かった、と感じる。心の底からそう思った。

 

 勝者であるアーモンドアイ。なんとか立ち上がり、拳を天高くつき上げ──観客に向かって指を突きつける。

 

「見ていたかしら?」

 

 いつもの決まり文句を口にする。

 

「勝つのはわたし、勝つのはアイ。アーモンドアイに、負けはないわッッ!」

 

 これだけは譲れないとばかりに、勝者の特権を行使する。自分が勝った、自分がこのレースの勝者であることを誇示する。

 反論するものは、いない。当たり前だ。勝ったのだから観客が反論するわけもなく、称えるように拍手をするのが当然の理。微笑ましさを覚えながらも拍手を送る。

 敗北したウマ娘達もまた何も言わない。自分達はレースに負けた、純然たる事実であり覆しようのない真実。アーモンドアイに負けたのだから何を言われても仕方がない。受け入れている。

 

「い、いや~、さ、さすがはアイさんですねっ。この模範的な学級委員長を超えるとは~」

「検証が不十分だったか? いや、やはり最初のポジション争いが響いたな。とにかくレースをデータ化しなければ! 今夜は忙しくなるぞぉ!」

「ほほほ。舐めてかかったつもりはありませんでしたが、強いですわね。ですが次は負けません。勝つのは私です」

「……二度目はありませんよ、アイさん。私は、負けた後の方が強いらしいので」

「あ、アイちゃん強くなったね~。次も一緒に走ろうね! ドリームトロフィーで待ってるよ!」

「今回は負けた。だが、次は負けないようにする。それだけの話だ。君の勝利を祝福しよう、アーモンドアイ。次は負けない」

 

 どちらかといえば次の勝負を楽しみにしている姿しか見えないが。やはりミーティアのウマ娘は生粋のレース&バトルジャンキーである。

 

 レース後の余韻に浸る中、シンボリルドルフによるレース解説が挟まる。皇帝と呼ばれたウマ娘の私見が東京レース場で聞くことができた。

 

《アーモンドアイは最内の経路、俗に経済コースと呼ばれる場所を終始走っていました。必然、スタミナや距離のロスはなく、誰よりも余った状態で最後の直線を走ることになります》

《成程。序盤の先行争いを制したのが、後の展開に響いた、というわけですね?》

《そうなります。後は、アグネスタキオンが前に詰めてきた場面ですね。アーモンドアイは前に、ホッコータルマエは後ろに下がる判断をしました。ここが勝負の分かれ目、分水嶺となった。もし逆だった場合、勝ったのはホッコータルマエだったかもしれません》

《あ~、あの場面ですね》

《ですが失敗とは言えないでしょう。後ろに下がる判断も、一概に間違いとは言えません。相手はアグネスタキオンにジェンティルドンナ、後ろに引いて脚を溜めるというのもアリです。これらはたらればに過ぎないでしょう》

 

 皇帝と呼ばれたウマ娘によるレースの感想戦。貴重なんてものじゃない。気づけば歓声は止み、誰もがマイク越しの声に耳を傾けている。

 

《アグネスタキオンにとっても、アーモンドアイが競り合いを選ぶのは予想外だったと思われます。少し反応が遅れていましたからね。これはジェンティルドンナも同様です》

《2人は下がると判断していた、もしくはペースを落とすと考えていた。ですが、アーモンドアイはむしろペースを上げた、結果反応が少し遅れてしまった、というわけですか?》

《そうなります。最後に、先頭を走るサクラバクシンオーとキタサンブラックですが、この2人はシンプルにスタミナが残っていなかったと思います。ただでさえ序盤からハイペースでしたから。ドゥラメンテとホッコータルマエも追いついていましたし》

 

 レースの私見を1つ1つ丁寧に解説し、どんな考えで走っていたのか? どういう意図があったのか? 自分なりの考えを語り、最後に総まとめに入った。

 

《アーモンドアイの勝因は、最短経路を進んだことによって、勝負を優位に進めていたことでしょう。さらには予想外の策をぶつけたこと、最終的に消耗戦になったこと。全てが良いように作用しました》

《勝つべくして勝った、ということでしょうか?》

《なんとも言い難いですが、そうかもしれませんね──あくまで合理的に見るなら、ですが》

 

 含みのある言い方。続きが気になる観客の耳に入ってきたのは。

 

《誰よりも勝ちたい気持ちが強かった。だからこそ、最後の局面で誰よりも早く一歩を踏み出せたのではないか? 私はそう思っています》

《勝敗の分かれ目になったのは、勝ちたい気持ちですか。それは、それは!》

《えぇ。とても素晴らしいことだと思いますよ。とてもロマンがあると思います》

 

 作戦ではなく気持ちの差。勝ちたい気持ちが強かったからこそ、この勝負に勝てた。そう言ってシンボリルドルフは締めくくった。

 

 

 パラパラとまばらに巻き起こる拍手。何時までも続きそうなそれは、アーモンドアイ達を温かく包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 レースの決着だ。とても、凄く。心が熱くなる勝負だった。

 最後の最後まで分からなかった競り合い。勝ったのは、誰よりもキツい状況と思われていたアイだった。

 

(シンボリルドルフの言うように、気持ちの差だと思う。バクシンオー達よりも勝ちたいって気持ちが強かったからこそ、アイは勝ったんだ)

 

 別に、バクシンオー達の気持ちが劣っていたとかそう言いたいわけじゃない。ただ、この時この場においては、アイが誰よりも勝利を望んでいた。そう思っている。

 

 レースは終わった。じゃあ何をするべきか? 決まっている。

 

「ふっふ~ん。ついにアイが勝ったわ! この勝利はなによりも大きい一歩ね!」

「たかが1勝程度でよくそこまで騒げるね。次走る時にコテンパンにしてやろうかな?」

「あらあら大人げないですわねタキオンさん。その役目は私のものでしてよ」

「人のこと言えた義理ですかジェンティルさん」

 

 みんなのご機嫌取りだ。いや、そんな嫌なわけじゃない。全員に1人ずつ、今回のレースの反省点とかを洗い出すだけだ。

 だけ、なんだけど。

 

「うぅ~、つ、次はあたしが勝つもん! アイちゃん、長距離で勝負だよ!」

「さらっと自分の得意分野に引きずり込まないでキタサン! まぁ長距離でもわたしは負けないけど!」

「……中距離で借りを返す! 首を洗って待っていろ!」

「みなさんの気持ちがとてもバクシンしていますねッ! これはもう1レース行けるのではないでしょうかッ! 短距離を走りましょうそうしましょうッッ!」

 

 うん、7人分だからとても大変だ。今日までに終わるといいな。軽い確認程度に留めておくか。

 

「レースが終わった後なのにアグレッシブだね~みんな。まだまだ走れそうじゃん!」

「疲れよりも悔しい気持ちの方が上、何だと思います。みなさんとても負けず嫌いですから」

「気持ちは分からないでもないけど、さすがに今日は自重してほしいね。みんな疲れているんだから」

 

 そんなわけで、みんなを労いつつイベントは終わった。ちなみにこの後はハイセイコーさんを始めとした、いろんなウマ娘達による年越しライブがあったりする。企画はライトハローさんだ。配信が終わった後すぐに来てくれるらしい。とんでもないフットワークの軽さだ。

 

 

 諸々のことを終えた後、アイと2人に。他のみんなはやることがあるので退出した。主に年越しライブの件にである。

 アイも出演するんだけど、その前にと2人きりになった。

 

「見ていたかしら? トレーナー。ついにみんなから1勝をもぎ取ったわよ!」

「見ていたよ。凄く頑張ったね」

「えぇ! 凄く頑張ったわ!」

 

 子供が褒めてと言っているような振舞い。こういうところを見ると、アイもまだまだ子供っぽいなと思わずにはいられない。微笑ましい年頃の少女だ。

 

「でも、まだまだこれからよ。これまでの負け分、しっかりとり返さないといけないんだから!」

「取り返すのは何時頃になるだろうね。大分かかると思うけど」

「大丈夫よ! アーモンドアイに負けはないもの!」

「まぁ、それまでずっと見ているよ」

 

 気の長い道になりそうだ。当然、僕は最後まで見届ける。だって、アイは僕の担当ウマ娘なんだから。

 

 ただ、みんなとの勝負だけじゃない。他にもいろいろなことが待っている。

 

「あ、そうだわ。年明けはまたオーストラリアに行かないと。ヴェガスクライさんから挑戦状を叩きつけられたわ。勿論挑みに行くわよ!」

「……香港マイルは結局出走しなかったんだっけ?」

「らしいわね。またトレーナーにげんこつされたみたいよ。気にしてないみたいだけど」

「それは気にした方がいいんじゃないかな?」

 

 アイはトゥインクル・シリーズの現役続行を表明している。年明けは初っ端からヴェガスクライとの勝負が待っているし、また欧州に帰ってコンストリブルやプライベートベーリングとの勝負が待っているかもしれない。

 勿論、ラッキーライラックやブラストワンピースとも勝負したい、と本人は言っている。

 

「ララやブラストとも1回じゃ満足できないわ。何回でも勝負したい! みんなそう思っているはずよ! でも、ララには凄い嫌そうな顔されたわね。なんでかしら?」

「何でだろうね」

「まぁいいわ。だって挑みに行くのはわたしだもの。ララが出走するレースにも当然出るわ! ブラストやキセキちゃんのレースにもね!」

 

 ……どこかで悲鳴が上がったような気がするけど気のせいだろう、多分。

 後は後ろの世代。特に、グランアレグリアとの勝負だ。

 

「マイル女王になると宣言しているグランちゃん。グランちゃんとも勝負しないと! う~ん、戦いたい相手がたくさんいすぎて迷っちゃうわね」

「ラヴズオンリーユーにクロノジェネシス、G1勝利こそないけどカレンブーケドールもいるね」

「全員と勝負するわよ! 世界中飛び回ることになるわね!」

「そうなるね」

 

 余談だけど、香港マイルを勝ったのはグランアレグリア。すでにG1レースを8勝している。短距離とマイルにおいて無類の強さを誇る、新たなるマイル女王。すでに同期の中でも1人だけ飛び抜けた強さを誇っている。

 そんな彼女との勝負、か。倉科君との勝負にもなるわけだね。

 

「ひとまずは、まだ走ったことがない子との勝負を優先しようか。目下はグランアレグリアかな?」

「そうね。グランちゃんの出るレースに出走しましょう!」

「見繕っておくよ」

 

 楽しみだ、うん。

 

 

 いろいろと語りたいことがたくさんある。他のみんなもそうだけど、話していて飽きない。

 

「ねぇトレーナー。わたしね、あの日ミーティアにいって良かったと思ってる」

 

 そんな折に、突然アイがそんなことを言い出した。本当に唐突だ。

 

「どうしたの? 突然」

「急にふと思ったの。ミーティアにいないわたしってどうなったんだろう? って。どういう道を進んでいたのかな? なんて思ったら、口が動いていたわ」

「どこのチームでもアイは変わらなそうだけどね。どっちかというと、僕のチームに挑みに来そうだ」

「間違いないわね。だってそれがわたしだもの……って、そうじゃなくて!」

 

 ぷりぷり怒っているからさすがに茶化すのは止めておこう。機嫌を損ねたくはない。

 

「トレーナーが隣にいてよかったって思ってる。だって、こんなにもわたしに尽くしてくれるんだもの。どんなに諦めが悪くても着いてきてくれて、無理難題って思われても構わずに考えてくれて。本当に感謝してるわ」

「僕は僕のやれる一生懸命をやっただけだよ……って、これがよくないんだったな。ごめん」

「ふふ、いいわ。その方がトレーナーらしいもの。トレーナーがいてくれたから、わたしはここまで来た。ミーティアのみんなに勝つことができた」

 

 控室で、とびっきりの笑顔で。アイは。

 

「ありがとう、トレーナー。貴方はわたしにとって最高のトレーナーよ! そして、これからもわたしから目を離さないでね!」

 

 僕に感謝の言葉を述べて。それに対して僕は。

 

「勿論。僕は君のトレーナーだからね」

 

 嬉しさを覚えながら、どこまでも着いていくと宣言した。

 

 

 これから先もアイの道は続いていく。その瞳に勝利を映して──次はどこに向かおうか?




あとがきは活動報告にて。
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