その瞳に勝利を   作:カニ漁船

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風邪治ったと思ったら今度は花粉症になってファッキン。


現地でのトレーニング

 始まった欧州遠征。まずは環境に慣れることから始まる。

 

「日本との時差があるからね。早めに体を慣らしておくためにも、早く寝て早く起きることを心がけようか。日光浴の時間も設けてあるから」

「分かっ……てはいるんだけど、トレーナーが言うといまいち説得力に欠けるわね」

「トレーナー君は遅くに寝て早くに起きるからねぇ。どの口がと言いたくなるよ全く」

「人のこと言えるんですかタキオンさんは」

 

 時差ボケの対策。フランスに来る前から対策はしてあるけど、こちらでもできる限り時差ボケを早くなくすようにスケジュールを組んである。体調面での不安がないように、時差ボケはない方がいい。

 ネットやお医者さんから教えてもらったことを実践。これは昔から変わらない。海外遠征をした時からずっとやっていること。徹底した対策で管理してある。

 おかげさまで、みんな軽症で済んでいる。後はそれほど日が経たないうちに慣れるはずだ。

 

 環境に慣れるのは日常生活の事だけじゃない。欧州の芝にも慣れておかないといけない。

 日本の芝とは違い、欧州の芝はパワーがいる。日本のウマ娘が海外で苦戦する理由の1つにも挙げられていることだ。

 

 なので、1日目から芝に慣れるためのトレーニングを積んでいる。最初の1週間は軽い調整しかできないけど、それでもやれることはたくさんあるからね。

 モンジューのチームと合流、すぐさま芝のトレーニングコースを貸して貰っていた。

 

「『お久しぶりです。またこちらでお世話になります』」

「『久しぶりだね高村! そんな堅苦しい挨拶は抜きにしてくれ。楽にしてくれて構わないよ』」

 

 向こうのトレーナーに挨拶。そしてトレーニング。コーチにはキタサンとバクシンオーに着いてもらっている。

 

「アイちゃん、あたしがこっちでの走り方を教えてあげるね! お助け大将キタサンブラック、アイちゃんをお助けしちゃいます!」

「委員長が欧州で走る秘訣を教えましょうッ! バクシンです、バクシンこそが道を切り開きますッッ!! バクシンバクシーーンッ!」

「あ、ありがとう2人とも。でも、バクシンオーさんは少しだけ抑えてくれるかしら?」

 

 キタサンは欧州の芝を走るのが得意だから、バクシンオーはメンタル的に盛り上げるのが上手いから。欧州芝適応のために、この2人が協力する。

 バクシンオーの役割はいるかいらないかで言われたら絶対にいる。理由は単純だ。

 

(ただでさえ慣れない土地で不安な状況。バクシンオーのような盛り上げ係は、トレーニングの調子維持のためにも絶対に必要だ)

 

 アプリで言う、やる気効果を持続させるため。やる気低下によるトレーニング効率の低下を防ぐためだ。

 誰だって良い調子でトレーニングをしたいと思うはず。やる気がない状態でやるよりも、やる気がある状態でやった方が絶対に良い。これは何事もそうだ。

 バクシンオーの役割である盛り上げ役。一見すると何の意味が? と思うかもしれないけど、実はかなり重要な役割。アイのやる気を持続させるために、必要不可欠な存在だ。

 

(いつもバクシンオーが担っている盛り上げ役。ただ、今後は)

「じゃ、アタシも手伝うよ。ヤン子さんにお任せ!」

「え? でもヤン子さんは芝走れないんじゃ」

「問題ナッシ~ング。トレーナーから受け取ったタスク表があるからね。これさえあれば、アイの適性問題をソリューションできるってわけ」

 

 フォーエバーヤング、ヤン子。彼女は明るく、みんなを引っ張ってくれるリーダー気質だ。バクシンオーとはまた違う形で盛り上げ役になってくれる。

 バクシンオーとヤン子。2人の盛り上げ役と教えること中心のキタサン。この3人でしばらくはアイを欧州の芝に適応させる。

 

 トレーニングを始めて、アイたちの様子を見守る。その間は、向こうのトレーナーさんと交流だ。

 

「『あの子がこっちで走る予定のアーモンドアイ、か』」

「『そうです。どう映りますか?』」

 

 モンジューを育てた欧州の名トレーナー。いったいどういう風に映っているのか純粋に興味がある。現段階でアイはどれだけの評価を下されるのか、少しだけドキドキしていた。

 結果は……苦笑い気味の笑顔。

 

「『今の時点で彼女が凄いのがよく分かるよ。芝に苦戦する子が多い中で、彼女はすでに適応しつつある。精鋭達に育てられているのもあるけど、それを抜きにしても飲み込みが早い』」

 

 ダメ、というよりは良すぎる、という意味での苦笑いだったみたいだ。つまりは高評価、かな。

 

「『前に来た時もそうだったけど、君が育てる子は本当にとんでもない子ばかりだ。ウチのお姫様も加えてね』」

「『ありがとうございます。一生懸命頑張ってきたおかげでしょうか……それにしても、ヴェニュはどこに? まだ見当たりませんけど』」

「『お姫様ならモンジューにしごかれてるよ。先日の部屋の件がまだ尾を引いてるみたいでね』」

「……『どれだけ汚かったんですか』」

 

 流れでヴェニュの現状を聞いてみたけど、どうも汚部屋の一件が尾を引いているのか、まだモンジューが怒ってるみたいだ。道理でここに来ないはずだよ。いつもはいの一番に来てたのに。

 

 その後もモンジューのトレーナーと一緒にアイのトレーニングを見学。他のメンバーは他のメンバーで、こっちのチームの子達と交流しているみたいだ。ジェンティルというお目付け役がいるので、タキオンが暴走することもないだろう。

 時折聞こえる感嘆の息。アイの素質の素晴らしさに見惚れているのか、今にも拍手をしそうだ。

 

「『いや、素晴らしいね彼女。どうだい? ミーティア全員フランスに来ないかい?』」

「『素晴らしいお話ですが、僕達は日本が故郷ですので』」

「アッハッハ! 『いつも通り、フラれてしまったな!』」

 

 こういう冗談もくれる……冗談の割には若干本気のように見えるのは、気のせいだと思いたいな。

 

 キタサンが教える欧州芝の走り方。最初の1週間はずっと芝に慣れるために、同じことを反復してやっていた。

 地道に続けて、欧州芝に適応しつつある現状で次の段階へ。

 

 今度はこっちのレースで勝つための計画を立てる。とりわけ、欧州でメジャーとされている走り方の対策だ。

 

「さて、キタ君から私が引き継いだわけだが。まずはアイ君、こちらのウマ娘がどのように走るかは覚えているね?」

「覚えてるわ。こっちのレースはチーム戦、最後の直線でのよーいドンになりやすい、でしょ?」

「基本を押さえているようでなにより。では次に、ラビットと呼ばれるウマ娘について講義しよう。彼女達はペースを作るための役割で」

 

 日本とは違う作戦。こちらの独自の走り方を研究して、対策を立てる。身体だけではなく、頭も欧州基準に変えなきゃいけない。

 全てを今の環境にアップデートする。それこそが、勝利への最善の道だ。

 

 変わらず感嘆の息を漏らしているモンジューのトレーナー。感心したように頷いている。

 

「『アーモンドアイは天才な上に勤勉。最も厄介な子だね』」

「『これくらいはまぁ、前提の知識として必要ですから。僕達は勝ちに来ているので』」

「『良い目だね、いつも通りに。飽くなき欲求、ウマ娘に対して真摯なその態度。君がフランスにいないのが本当に惜しまれる』」

 

 良い目、か。ハイライトがないから生気のない、死んだ目とはよく言われるけど、そう言われたのは初めてだな。というか、どれだけフランスに来てほしいのだろうか。そんなに残念がらなくても。

 

 タキオンの講義を聞きつつ、その後は実践。実際にモンジューのトレーナーのチームのウマ娘と併走をする。

 

「ではでは、実践と行こうじゃないか! とはいっても、我々が走るわけではない。こちらのウマ娘と走ってもらうよ」

「『よろしくお願いします、みなさん!』」

「『よろしくね~。ミーティアのウマ娘とのトレーニングはありがたいよ本当に』」

「『うんうん。学びがたくさんあるからね~』」

 

 向こうの子達にも快く協力してもらった。ありがたい限りだね。

 

 ……で、その中で1人。

 

「『私私! 私も参加する!』」

「『え? いや、さすがにヴェニュはまずくない? てか私達が嫌なんだけど』」

「『いいでしょ別に! 最近師匠が厳しっ、後輩たちのためにも私が一肌脱いであげる!』」

 

 ヴェニュが混じることになった。なんで? チラチラとこっちを見てるけど。

 疑問に思っていると、モンジューが呆れ顔でこちらへと耳打ちしてきた。

 

「『君に良いところを見せたいのだろう。後は、牽制の意味合いも込めてだろうな』」

 

 牽制、牽制か。誰に?

 

「『誰に牽制するの? 誰もいなくない?』」

「『貴方がそう思っているのであれば、そう思う方が幸せなのだろうな。まぁ他の子にとっても良い機会だし、君達さえよければヴェニュスパークも併走に加えてやってくれ』」

 

 やたら気になることを言われたけど、ヴェニュが併走に加わってくれるならありがたい限りだ。彼女はロンシャンの女神と称されるほどの実力者、必ずアイにとって良い経験になる。

 

 なら、やるべきことは1つだ。

 

「『お願いしてもいいかな? ヴェニュ。みんなを揉んでやって』」

「『任せてくださいヒジリ! 私、出来る子なので!』」

「『できる子なら部屋の掃除も頑張ろうね。モンジューにこっぴどく怒られたみたいだし』」

「ヴぇっ!? う、『はい』……」

 

 ヴェニュにも併走に参加してもらう。本人もやる気みたいだし、丁度いいだろう。部屋のことを切り出したら一瞬でやる気が下がったような気がするけど、多分気のせいだ。ステータスのやる気が一気に下がったような気がするけど気のせいだ。

 

 そして始まる併走。ヴェニュの強さを肌で体感して、アイにはさらに上へ行ってもらう。

 

「『ヒジリが見てる前では負けられません!』」

「『いやこれ併走! 勝ち負けとかないから! 練習が主だから少しは手加減してヴェニュスパーク!』」

「やぁぁぁ!」

「いいのかい? アレは。アイ君はおろか他の子達も置き去りにされているが」

「大丈夫だよ。ほら、追いつこうとみんな躍起になってるし、むしろ本気を出してくれる分ありがたいんじゃないかな?」

 

 本気を出しているような気がするけど、それならそれでありがたい話だ。かつて欧州最強の座に君臨した女王の強さを体感できるのだから。

 

 そんな併走の結果はというと、6、7割くらいの力を出していたヴェニュの圧勝。いや、併走だから勝ち負けとかそんなものないんだけど。なんにせよ、上機嫌でヴェニュが帰ってきた。

 

「『ヒジリ、ヒジリ! 凄いでしょ? 私、さらに強くなったよ!』」

「『うん、凄いねヴェニュ。前よりも強くなったのが分かったよ』」

「『やったー! ヒジリに褒められたー!』」

 

 強くなったのはステータスで分かるのもそうだし、一目見ただけで理解した。あれからさらに成長したのか、ヴェニュ。

 

 で、肝心のアイはというと。

 

「これが欧州女王……いいじゃない、燃えてきたわッ!」

「『日本のウマ娘が燃えてる』」

「『凄いね~。折られる子もいるのに、この子のメンタルは相当だ』」

 

 落ち込むなんてことは微塵もなく、逆にヴェニュに対して燃え上がっていた。いつか必ず追いつく、絶対に倒してみせると決意の籠った瞳で笑っている。

 

 その姿を見て、ヴェニュも面白いものを見つけた目で笑った。

 

「『あの子、凄く面白いです。私の強さを知って、それでも勝とうとしている』」

「『アーモンドアイ。こっちで走る予定の子だ。いつかきっと、君にも挑戦状を叩きつけるだろうね。彼女はそういう子だ』」

「『望むところです。勝つのは私ですが……成長した時が楽しみですね』」

 

 どうやら、お気に召したようだね。いつか彼女とも戦う日が来るのかもしれない。アイなら絶対に挑みそうだし。

 

 

 欧州での日々は順調。条件戦も近いし、デューハーストステークスという大目標に向けて気合いを入れて調整しよう。




条件戦辺りはサクサクっとする予定。
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