「僕こそは! 覆面……ええと、まぁいい。お祭りの運営妨害の現行犯で魑魅一座を鎮圧する!!」
「アイツなんなんだよ、水着にサンダルとか言う海に行くような格好してる奴。しかも6って書かれた紙袋被ってるのにこっちの攻撃一つも当たってないです!」
「下がれ下がれ!! 一時退却!!」
「逃がすわけねぇだろ!」
「あっ、ワイヤーが……みんな待っt……」
「……逃げる奴らは今日の夕飯食えんようにしてやらぁ!!」
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「ふぅ、大声出すと疲れるな」
「Wow〜、これが本場のヤーさん……迫力満点デスネ!」
「フィーナはあのセリフどこから知ったんだ?」
「エルさんは仁義なきニャンニャンパンチをご存知デスカ?」
「……………………なるほどな。理解した」
「次! 南西部で不良同士の戦闘です」
「ありがとうウミカ……現場に急行する」
「おお、スピーディー」
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「っ……百花繚乱がどうしてここに……」
「あんたみたいなのが突然現れたら、確認せざるを得ないから」
「なぁなんでそんな格好してんだ?」
「う〜ん、姿を隠せて尚且つ敵の印象に残りやすいから?」
「なんでお前が疑問形なんだよ」
「それで確認なんだけど、魑魅一座や不良を捕まえては百花繚乱の部室に投げ込んで来てたのはあんたで良いのよね?」
「……百花繚乱が不良とかの制圧をすると聞いていたので」
「あれお前かよ。ほんとに驚いたんだからな? 音がしたと思ったら縛られた奴らが積み上げられてて」
「ほんとは引き渡したかったんですが、些か時間が無くてですね」
「まぁ、悪意があってやったわけじゃないんならいいよ。本来は私達がやるべき事を代わりにやってくれた訳だし」
「けど次からは投げ込むなよ?」
「次からはダンボールにでもまとめて置いていきますね」
「なんでそうなるんだよ!?」
「次があるので、今後もよろしくお願いします」
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「…………ここからか」
「…………」
「どうした? 急に信じられないものを見たような目をして」
「……手前がそれを言いますか!?」
「取り敢えず妖怪みたいなのは大丈夫だったか? 攻撃が効かないから急いで離れるぞ!」
「はぁ? 何を言ってんですか。あれは手前の準備したものなんですから逃げるわけないじゃないですか」
「……なるほどな。この妖怪はお前の仕業か」
「いかにも、花鳥風月部の怪談家、箭吹シュロの語りですよ。手前のような奴がここに来るのは想定してませんでしたが…………」
「なんて? 猥談家?」
「手前の耳は腐ってんですか? 怪談家ですよ、怪談家」
「怪談が実体化してるみたいだな。攻撃も効かないみたいだし……何体か持って帰ってもいいか?」
「ずいぶん舐めてるみたいですけど、手前にだって攻撃は効かないんですから諦めて特等席で怪談を楽しんでくださいよ」
「…………ホントに効いてないな」
「いきなり撃ってくるとか野蛮すぎませんか? ……ですが、これで身の程を理解できましたよね」
「……そうだな、この本に書き込んでんのか。いかにもオカルトらしい用法だな」
「……!? いつの間に……」
「……なるほどなぁ、ここに書き込んである事が実現するとなれば…………。なぁ、今から止めるなら赦すけど………………」
「今更止めるなん……んむ、むぐぐ」
「いやぁ、やっぱ怪談家の口は塞ぐべきだよな。赦そうとする心も大事だけど相手にその心がないのなら仕方ないよな。僕だって人の主張を拒絶するのは否定派なんだけどな。それで革命が起きたら目も当てられないからきちんと怪談を解体しないとな」
「んぐ、んむむ……はっ。言わせておけばペラペラと、手前にはこの怪談をどうにかすることなんて出来ないんですからやるだけ、ムダなんですよ!」
「…………傘の妖怪か…………」
「手前のような怪談を理解できない奴には、怪異の恐ろしさを思い知らせてやりま……す…………」
「…………これでいいか」
「なんで……手前が怪異を…………」
「怪書が僕の手の中にあるからだよ」
「だからどうしたと言うんですか、手前のような素人に……」
「"怪異は突如として現れた覆面に水着を着た者に倒される"そう言う昔ながらのテンプレートを付け加えただけだよ」
「何やってくれてんですか! ……風流の欠片もない陳腐で凡庸な物語に狂気を混ぜ込んだような作品にするなんて!」
「なんでこんな大事なものをしっかり持っておかないかな……。さて、それじゃあ言い残すことはあるか?」
「三までに言い残せよ。い~ち、い~ち」
「手前なん……うぎゃ、それ二進す……うぎゃっ…………」
「はぁ、妖怪退治もしないとな。てか怪書どうしようかな、この際こいつ諸共、百花繚乱の方にまとめて投げるか」
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そうして百鬼夜行のそこら中を駆け巡る中、初日で多くの人物に覆面水着の乱入者の印象を残し、日が暮れる頃には不良たちの制圧を終えた
「…………のどが」
「取り敢えず抹茶でも飲みますか?」
「……たのむ」
「えぇと、お怪我はされてないんですよね?」
「……むきずだよ」
「あれが任侠! カッコよかったデス」
「は〜い、抹茶ですよ〜」
「…………ふぅ、ん゛ん゛。いやぁ、……体力に自信はあったんだけど声帯が持たなかったな」
「にしても、魑魅一座や不良はみんな捕まえるなんて力技でしたね。一部ではエルの動きが何かの劇の役あったとか思われて客足も増えたみたいですし」
「去年も似たような事なかったか?」
「前は狂言とか言われて人が一気に集まってましたし、やっぱりエルには商売繁盛とかのご利益とかあるんじゃないです?」
「身バレ防止でやった筈なんだけどな」
「SNSにも映像がじゃんじゃん上がってますよ。ほらこれとか編集で一騎当千の強者みたいになってますし。似たようなのが結構上がってて客足が予想より遥かに多くなりましたね」
「…………あれ? そう言えば二人はとうした?」
「それなら花火の準備に向かいましたよ。ここからなら綺麗に見えると思うので、ゆっくり眺めててください」
「そう言えば妖怪みたいなのが湧いてたんだけど、何か知ってたりしないか? 百鬼夜行の昔話とかで聞くような唐傘お化けとかそういうのなんだけど」
「現実に妖怪が湧くなんて言うのは聞いたことがないですね。昔の伝承では妖怪が出たみたいなのはありますけど、昔話ってそういう所ありますから」
「う〜ん、幻覚の可能性も考えられるし写真の一つでも撮っとけば良かったな」
「そうですね、陰陽部の方なら何かしら知ってる可能性も考えられますけど…………」
「禄でもない条件を吹っ掛けられるのがオチだろうな」
「そういう事です。まぁ、今はいいんじゃないですか? 無事に今回のお祭りを終えられましたし」
「まぁそれもそうか」
「そろそろ時間ですね」
「特等席から打ち上げ花火を見れる日が来るなんて思ってなかったからなぁ、楽しみだよ」
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「久し振りに見たのもあるけど、近くで見ると今までにない迫力だったな」
「楽しんで貰えたみたいで良かったです。…………あと、何というか眠たそうですね」
「あぁ、ここ最近は寝てなかったからな」
「…………昨日も寝てなかったんですか?」
「なんならその前も、色々と立て込んでたから仕方ないんだけどな。……あ」
「? なにかあったんですか」
「宿を取るの忘れてたな。…………この辺りに空き家とか廃墟あったりしないか?」
「いやいや、それは流石にダメですよ。そもそも百鬼夜行でそんな場所は、それこそよっぽどの郊外とかにしかないですし」
「やっぱり、アビドスとかゲヘナみたいにはいかないよなぁ」
「……エルが良ければですけど、私の家にでも来ますか?」
「お願いするよ…………」
「なら、片付けがあるのでエルは少しここで寝てて良いですよ。帰るときに起こすので休んでてください」
「ありがとうシズコ、……おやすみ」
「おやすみなさい、エル」
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「…………ん〜……あっ」
「やっと目を覚ましましたね」
「完全に熟睡してた。……と言うか運んできてくれたのか、叩き起こしてくれれば良かったのに」
「気持ちよさそうに寝てる人を起こすのは忍びないですから」
「…………ところで、シズコが添い寝してるのはなんでだ?」
「そりゃ、ベッドは一つしか無いですから。それに少し暑かったのでエルに引っ付いてるんです」
「後輩からも似たような事言われたな。そんなにいいのか?」
「それはもちろん。…………ところでエルはどうしますか?」
「どうするって何を?」
「…………ごはんにする? お風呂にする? それとも……」
「テンプレ過ぎないか?」
「こう言うのは定番だからこその味があるんですよ。それで、エルはどうしますか?」
「ならシズコを頼もうか。もうちょっと寝たい」
「ダメです、夕飯を食べてください。エルは今日ご飯を食べて無かったんですから。ちなみにお風呂はまだですよ」
「さっきの言ってみたかっただけかよ。……けど目は覚めたな」
「なら早く起きてください。ほら」
「……っと。そんなに引っ張らなくてもいいから」
「取り敢えず食べてみてください。エルに合うと思うので」
「…………好みの味とか話した覚えないのに、なんで当たってるんだよ」
「百屋堂に来る度に食べてたものの傾向から分かるんですよ。エルがどう言う好みをしてるかは」
久方ぶりの平穏な日常の下で、仮面が外れたかのように口元を綻ばせ深い眠りへと導かれた
ちょっとエルの特徴みたいなのを書いておきます。瞳はサキと殆ど同じで、髪はサキより少し明るくショートヘアとなっています。あと体温が低くチョコレートを素手で触っても溶けないレベルなので、和菓子の造形の試作段階でよく支援要請が来てた時期もあるそうです