「失礼します」
「あ、エルだ。部長なら奥にいるよ」
「……部屋の温度ですぐ分かるな」
「あとエルは服脱いで」
「はいはい。……ヒマリ先輩少し良いですか?」
「おや、この誰もが認めるミレニアム最……」
「妖怪を見つけたので、ヒマリ先輩の見解をもらいたくて」
「……エルも途中で止めるようになったんですか!?」
「私が教えたよ、あとここ座って。…………ふぅ、もうちょっと体温下げれない?」
「風邪引いたらワンちゃんあるかもな」
「その、エルには羞恥心とかないんですか?」
「妹にも夏場はよくこうされてましたから。慣れです」
「それに部長がエアコンの温度下げてくれないからだよ」
「エイミに渡したら一桁台まで下げられて、このミレニアムに咲く一輪の花である明星ヒマリが凍えてしまいますから」
「……ヒマリ先輩は百鬼夜行で遭遇する妖怪や怪異について何か知りませんか?」
「百鬼夜行では確かにその様な伝承は有名だそうですが、それが形を為す…………。サンプル等は持ち帰れましたか?」
「無理でしたね、捕まえたんですけど百鬼夜行の外に持ち出す時に崩れて形もなくなりましたね」
「恐らく百鬼夜行の内部でしか活動を行えないと言うこと。いくつか理由は考えられますが、妖怪は百鬼夜行では老若男女関わらず浸透している『文化』と言うことが要因だと考えていいでしょう」
「文化ですか…………」
「どうやら私の知るところによれば、エルが出会った怪談家は風流や物語に少し敏感なようで……」
「……見てましたね?」
「このキヴォトスのあらゆる情報を観測できるこの天才美少女ハッカーにはすべてお見通しですよ」
「部長それストーカーみたいだよ」
「そのうちプライバシー関連の事件が起きそうだな……」
「それはともかくです。恐らくは妖怪と言うのは元より人々の思いが生み出した思念とも言えます。それになぞらえて物語を組むことで妖怪を生み出していたのだと考えられます」
「あ、そう言えば怪書もありますよ」
「確か百花繚乱の方々に怪談家の方諸共投げ入れたのでは?」
「いえ、丁度さっき脱いだ上着の右内側に入ってますよ」
「エルそんなとこにポケット追加してたんだ……」
「ヒビキに頼んだら、大容量で見た目に影響しないように縫い付けてくれてね」
「……まさか怪書を持ち帰っていたとは、感情さえ心の奥底に隠してしまう悲劇の美少女の私でも驚きましたね」
「あ、ほんとに出てきた」
「エル、少しお借りしても良いですか?」
「いいですよ」
「はい、部長これだよ」
「……上着ではなく怪書の方です。あとエイミはエルとくっついていない時はファスナーを閉めてください……」
「でも、どうせすぐ引っ付くから……」
「こっちですね」
「一度調べておきますが、一通り終えたら陰陽部の方々に渡すようにしてください。ミレニアムだといつ粉々になるか分からないので」
「それにしても最近は特に酷かったですね…………主に鏡の件でセミナー襲撃が起こるなんて予想してませんでしたから。…………そう言えば鏡はヒマリ先輩が作ってましたよね」
「そうですが何か思い当たることがありましたか?」
「色々と調べる中でゲーム開発部にG.Bibleの存在を教えたのはヒマリ先輩だったなと分かりまして。それに騒動はG.Bibleの解読に鏡が必要になったから起きたものでしたし」
「つまり部長のせいでエルの仕事が増えたんだね」
「あとは先生も悪いかな。仮にも生徒を導く人がセミナー襲撃に加担するのはちょっとな」
「確かにそれは否定できませんが、先生はゲーム開発部の為に動いたわけですからね。エルが思うほど腹黒い人ではありません」
「……大人はだいたい腹黒いと言う認識は、少し改めないとですかね?」
「……エルは先生への印象ってどうなの?」
「危機感が足りない……いや、自分の価値を正しく理解できてなくて合理性に欠けるって感じかな。あと噂では変質者って話もあるから……不信感が付きまとってくるかな」
「けど不信で済んでるんだね。そこまで行くなら嫌悪とかそのレベルまであると思ってたけど」
「まぁ僕は平和主義者だからな」
「……エルが平和主義者? もしかして熱でもある?」
「熱があるのはエイミの方だろ。あと平和主義者っていうのはもちろん冗談……けどエデン条約の立会人として平和主義者っていう外聞があった方がいいだろ?」
「そう言えば、エルに伝言がありましたね。ビッグシスターから『エデン条約についてはエルに一任する』と」
「……連絡取れてたんですね。まぁ、会長からの許可もあるなら心置きなく動けます」
「まるで今までは本腰を入れてなかったような言い様ですね」
「まだ、本腰を入れて進めてませんから。……それに僕の役割はあくまでも仲介なので、しばらくは暇なんですよね」
「セミナーの仕事があるでしょ」
「交通回りの整備も終わって、エデン条約の前準備も大方終わったから時間はあるんだよ。元からある業務もユウカやノアに任せる方が速いし確実だしな」
「なら私達の方をちょっと手伝って欲しいかな。部長が動けないから効率も悪いし」
「ヒマリ先輩みたいに出向してこようかな。もうマニュアルも出来てるから僕がいなくても仕事は回るし、え~となんだっけ。テトラグラマトン?の方も被害大きそうだからな」
「デカグラマトンだよ。でもエルが来てくれるなら助かるかな。私一人だと情報を集めるのも大変だし」
「なら書類は、特異現象捜査部の部長であるこの私が準備しておきますね」
「……そう言えば今履いてるエルの靴ってどうなってるの? 羽みたいなのが付いてるけど」
「ああ、ミレニアムプライスの後そのまま来て履き替えるの忘れてたな」
「ちなみにその靴って見た目の通りに飛べたりするの?」
「飛べたりする……はず」
「恐らくそれで飛べたのはエルくらいなのではないですか?」
「一応スミレも飛べましたよ。……審査員の人は今にも倒れそうな様相になってやっとでしたけど」
「……もしかして水の上を走るみたいな感じで飛ぶとかそんな感じのやつ?」
「それが本来の運用だったんだけど、走りながら滑空を行って更に速度を上げるって方面の評価がされたんだよな。それで、体力測定で翼の付いた靴を使うのが禁止された」
「その規定が無かったんだ……」
「エンジン積んだりローラー付けたりして無いから、構造的に禁止されて無かったのが分かってな。さっき規定に追記した」
「……はい、書類の準備もできました。では、これからよろしくお願いしますね。エル」
「短い間ですがよろしくお願いします」
「エルがいる間は部長と争わなくてよさそうだね」
「あと先生もお呼びしないとですね。なにせデカグラマトンの情報は、彼女がもたらしてくれたものですから」
「そう言えば今日はゲーム開発部の方に行ってたから、近くまで来てると思うよ」
「ならもう呼んできちゃうね」
「ちょっとエイミストップ。……ファスナー開けたままはいろんな意味でダメだろ」
「忘れてた」
「……あとこれからは僕も部長呼びの方が良いですか?」
「ふふ、そうですね。エルからその様に呼ばれるのは少し面白いですから、特異現象捜査部に所属してる間はそう呼んでもらいましょうか」
「それじゃあ、改めてよろしくお願いしますヒマリ部長」
「……取り敢えず先生連れてくるね」
「では、お願いしますね。………………エイミも行ったことですしエルには聞いておかないとですね。アリスと接触した感想は如何でしたか?」
「ほんとにプライバシーの欠片もないパターンですか…………まぁ今更ですかね」
「これに関しては偶然、ゲーム開発部と先生を保健室へと案内しているところを見つけただけですよ」
「そうですか。一応確認ですけど"接触した"感想ですよね」
「あなたの場合はその一語があるのとないのとで、意味が違ってきますからね。それにかわいい後輩という感想は既にあるでしょうし」
「ユウカの甘さには少し心配もありますけどね」
「……ではマニュアル作成者としてどうでしたか?」
「難解ですね…………いくつものオーパーツを組み合わせて作られてる様なので理解度が不足してますね。ただ、本来のパーツから何かしら欠けてるような状態だとは思います」
「…………なるほど。エルはあの僅かな接触時間でも、そこまで読み取れるようになっていたんですね。それほどに成長しているとは、喜ばしいことです」
「まぁ、エンジニア部の方で大量にマニュアルを作ったのが効いてるんでしょうね。それで、急にアリスについて聞いたのは何か理由があるんですか?」
「興味本位というのも一つありますが、デカグラマトンをエルには解読して貰います。……別に難しく考えなくて良いですよ。敵の行動パターンを読み解いて不意の攻撃に備える保険のようなものです」
「それくらいなら多分大丈夫ですね。緊急時はそのまま退けばどうにかはなるでしょうし」
「このミレニアムが誇る天才ハッカーである、私が支援するので心配する事は無いですよ」
「相変わらずですね。あと、和菓子あるので冷蔵庫に入れておきますね……飲み物も何か買ってきましょうか」
「エイミに買ってきてもらうのを忘れていました。では代金は送るのでいくつかお願いします」
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「……エルはどうしたの?」
「少し前に買い出しに行ってたのですぐ戻りますよ」
"エルってセミナーの子だったよね? "
「いえ、今は特異現象捜査部も兼任してます。セミナーの業務でエルが担当する物が無く暇だったようなので、こちらを手伝って貰うことにしました」
「……そういう訳なので先生、これからよろしくお願いします」
"!? ……いつの間に"
「ヒマリ部長が調子に乗った辺りから待ってました。エイミは飲み物コーラで良かった?」
「うん、あと自分の奴は部長が勝手に飲まないように名前書いといたほうがいいよ」
「取り敢えず冷蔵庫に入れとくから後で書いといて……。それと改めて、セミナー兼特異現象捜査部のエルです。これからよ……エイミはもうちょっと待てなかったのか」
「だって暑いから」
"暑いのはエルにくっついてどうにかなるものなの? "
「……ちょっと触ってみてください」
"…………あっ、ひんやりしてる"
「……なんでファスナー開けるのを止めてるのエル」
「先生がいるからに決まってるだろ!」
「そう言えば開けてないのが普通でしたね…………」
「ヒマリ部長もおかしい事とは認識しておいてください」
"前にモモイが言ってた冷たい人って、物理的な意味でだったんだね"
「そうですね。なんなら死体と間違われたこともあります」
「実際ヘイローなくて体温が低いと驚くよね。ちゃんと脈拍とかはあるけど、こうしてひっついてないと分からないし」
「……なぁ思ったんだけど僕の心音はわかるか?」
「これだけ密着してれば流石にわかるよ。けど、ずっと一定だから余裕があるように感じる」
「…………エルも戻ってきたことですし、今後の事についてお話しましょう」
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「今の私達に必要なのは、とにかくデカグラマトンのデータを収集することです」
「ですのでまずは、現在知られているデカグラマトンの出現地点のひとつである『アビドス砂漠』から始めましょう」
「アビドス砂漠か…………」
「エルは行ったことあるの?」
「二年前とかに何度か行ったきりだけどな…………」
「なんか暗いね」
「砂嵐に一回巻き込まれちゃって、色々と危なかったからしばらく避けてたんだよな」
「……何か隠してる気がする」
「まぁ今回の事とは関係無いから気が向いたら話すよ」
「二年前だと砂漠化の影響で地形の変化もあるでしょうから、最新の地図を送っておきます」
「それに『ビナー』を見つけるのは難しいかもしれませんが、デカグラマトンの部下のような存在が幾つも徘徊しているのでそれらを処理してデータを集めていくことにしましょう」
「了解」
「天候はしばらく良さそうだな」
「そうですね。今日はもう日が暮れているので、明日からよろしくお願いします」
「……そう言えばエルの家ってD.U.だったよね」
「そうだな、シャーレもこっちの方が近いし泊まってくか?」
「そうする」
「明日の朝にシャーレの方に迎えに行きますので、準備しといてくださいね」
「細かい位置については後で送るので、本日は解散にしましょうか。お疲れさまです」
"それじゃあ明日はよろしくね? "
「先生の指揮頼りにしてますよ」
デカグラマトンを軽くやったら今度こそエデン条約に入る。投稿前に寝落ちしたのでこんな時間になってしまったのは大目に見てほしい