「……問おう。運び屋を喚び求め……なんだ、五塵の者か。久し振りですね、元気にしてましたか?」
「ああ、自由は少ないが健康面で言えばそこらの被験体より遥かによく出来てるからね」
「……これは、どういうつもりだ?」
「出所祝いとでもしておきましょうか。別に金を取るつもりも無いですし、恩義を感じる必要もないですよ」
「……なるほどね。ただ、あいにく私には持ち合わせが無くてね。旧来の慣習にはなるが、代わりに物々交換と言うのはどうだい? 君のお眼鏡に叶う物なら幾らでも準備できるだろうからね」
「元よりそのつもりですよ。運び屋は取引の有無で変わるほど大きな組織でも、何かを重んじる組織でもない。まあ個人活動なので組織でもないんですけど」
「相変わらず調達の腕は流石のようだね。君に教えた覚えはないんだが、今は不問としようか。しかし拠点の準備が間に合っていなくてね」
「なら、連絡先も渡しておきましょうか。前は定期配達してましたけどここだと見つけるの大変なので」
「本当は互いの為に繋がり足り得るものは減らしておきたいが、仕方ない。これが私のモモトークだよ」
「……登録できましたね」
「早速だが、等価交換と行こうか。器具に関してはサービスと言ったが、こっちの材料は別料金……そうだろう?」
「ええ、もちろん。受取拒否なら……料金は構いませんが、空き巣に入られた事になってしまう。そんな所です」
「私としても一から集めるのは手間取ってしまうからね。払えるだけの報酬は差し出そう。……何が欲しい? 圧倒的な身体能力を得る薬剤か、はたまた骨の髄まで焼き尽くすような激痛を与える薬剤なんてのも喜んで提供するよ」
「今回は後者を所望しようか。効能はそうだな……」
──────────────────────────
「……遅かったな。兄貴のことだから二十分前には着いてるかと思ったけど、何かあったか?」
「ちょっと荷物の受け取りに手間取ってな。取り敢えず向いながら話そうか」
「それもそうだな。……よし、準備できたぞ」
「それじゃ向かおうか。あ、あとこれもだな」
「……入館証か。これは首に掛けておけばいいのか?」
「持ってるだけで問題ない。出入口のスタッフに見せれば通してもらえるってだけだから」
「そうか。……それで、護衛は本当に私だけなんだな?」
「空井エルの護衛はな。一応エデン条約全体の警備も付いては居るけど、結局のところ陰謀渦巻く調印式には変わりない。普段と違って何処で綻びが生まれるかも予測できないから頼りにしてるぞ」
「任せてくれ。兄貴一人くらいなんてこと無い……はずだ。……実戦は初めてだから多少の緊張はあるが、兄貴の支援を受けれるならどうにかできる」
「なら心配要らないな。……よし、会場も見えてきた」
「あれが通功の古聖堂……想像していたよりもずっときれ……兄貴? どうかしたのか?」
「……いや、ちょっと別ルートで行っててくれ」
「……? ああ、クロノスか。なら中でまた合流しよう」
「また後で」
「兄貴も変な失言するなよ」
「そのくらい分かってる。この辺りで大丈夫か?」
「そうだな。……っと、それじゃ先に行ってる」
「気を付けてな」
─────────────────────────
「……さて、自己紹介からした方が良いですかね?」
『はい、カメラに向かって年齢とお名前をお願いします!』
「……空井エル。歳は16だ」
『ありがとうございます。では、今回のエデン条約でミレニアムが参入した……ゆ…………て……くだ…………』
「……おや、電波の調子が良くないみたいですね。時間もかかりそうですしまた後日としましょうか」
『……と待っ……だ…………』
「スタジオのアイドルリポーターさんに返しますね〜。調印式が終わればそちらにも出向く予定なので、お話はその時に」
『はい! 言質取りましたからね!』
「では、また今度〜」
『ありがとうございました! ……あれ? 回線復旧しましたね』
「……お疲れ」
『報酬はエナドリ十箱で構わないから』
─────────────────────────
「さっきぶり」
「思いの外速かったな。……私は後ろを付いていくだけでいいのか?」
「射線管理はこっちの方が得意だからな。……それに、初対面の相手が多いと気まずいだろ」
「……思ったより普通の理由だな。兄貴の事だから他にも戦術的な意味があると思ってた」
「別に戦術への造詣が深い訳でも無いからな。その辺は教範に書いてあるのを見た方が何倍も的確だろうな」
「……肝心な教範は持ってこれなかったけどな」
「実戦で読んでる暇は無いんだし、変わんないだろ。むしろ、身体に覚えさせる方面で鍛えた方が良くないか?」
「それはそうだけど……」
「まぁ今後に期待しておこうか。これからは実戦の経験も積めるだろうし、みんなも観てるからな」
「……あ」
「それじゃ、カメラを起動しよう」
「そう言えば撮影は兄貴がするんだったか」
「設置したら後は裏方に任せるんだけどな」(ピース✌)
「そこは任せるんだな。てっきり全部自分でやってるのかと思ってた」
「調印式での書類については管理しないとだからな。流石に調整しながらやり切る余裕はない。と言うかミレニアムでは書類を無くしても復元が簡単だったから習慣がな……」
「よくセミナーやれてるな……」
「こっちの仕事は実働部隊がメインだからな。できれば書類仕事はこれっきりで終わりにしたい」
「それに関しては兄貴が自分で蒔いた種だろ。自分の許容範囲も把握できなくなったのか?」
「これに関しては紙媒体でしかやり取りできないのを失念してたからな。ミレニアムだと大体はデータでやり取り出来てたから運営費周りとかが特にしんどかった」
「……それだけか?」
「どういう意味かな?」
「そのまま言葉通りの意味だ。……まだ何か隠してるだろ」
「……ノーコメントで」
「ほんとに聞かせてくれないんだな」
「これだけは秘匿せざるを得ないからな」
「なんとなく理由は分かった。……ちなみに私は知ってるか?」
「知識としてはあるかもな。まあ、知らなくても問題無いレベルの話だから実際のところは何とも言えないけど」
「兄貴の言う知識なら私に分かりようがないな」
「深追いしないのは賢明な判断だな。……さて、RABBIT2。護衛を頼んだ」
「了解」
───────────────────────
「……そうみたいです。
「では、皆さんにはこちらから伝えておきますね。……ところで本当に護衛部隊を付けなくても良かったのですか? 今からでも、正義実現委員会の者を手配しますが……」
「お気遣いありがとうございます。ですが、僕の護衛に多くの兵を回しては、トリニティとゲヘナの条約としてノイズになってしまいますから。……それに、彼女は僕が一切の斟酌を持たず動ける唯一の護衛です」
「……なるほど。それならご心配は必要ありませんね」
「では、僕は時間まで会場を回ってきますね」
「お気を付けてくださいね」
────────────────────────
「……あれ、先生ですか? 久しぶりですね」
"久しぶり? だね。えぇと、後ろの子は? "
「僕の護衛ですよ。今日はキヴォトス史の転換点とも言える一大イベントですからね。流石の僕にも護衛が付いていると言う事です。ヒナタさんの方も元気そうで良かったです。改めて修復作業お疲れ様でした」
「いえ、私は修繕用の器具を運んだだけですしむしろ作業中にうっかり穴を空けてしまって……」
「どうせ古くなった素材は新しい物に取り替えるんですから大丈夫ですよ。こうして色々と見ていますが、どこも丁寧に修繕できていましたから。……先生も見て回っていると言った所ですかね?」
"そうだよ。今はヒナタに案内して貰ってたんだ"
「そうでしたか。僕も出来れば一緒に回りたかったんですが、ヒナ委員長に挨拶ができていなくて……どちらにいたか先生はご存知ですか?」
"ヒナだったら少し前に会場の少し奥で会ったよ"
「ありがとうございます先生。では、また調印式の時に会いましょう」
────────────────────────
「……エル、わざわざ探しに来て貰ってごめんなさい。本当はこっちから挨拶に行きたかったのだけど」
「大丈夫ですよ。風紀委員会は任務があるんですから。……最後の最後に大仕事を任せる事になって申し訳ありません」
「エルが気にする必要はないわ。……無事に調印式が終われば私も少しだけ仕事はあるだろうけど、それで終わりだから。むしろ感謝したいのは私の方よ。エルのお陰でエデン条約の要項を纏めるのもかなり楽になったか……!?」
「伏せ……」
ドカーン
戦闘描写について……
-
今まで通り、会話と思考だけの描写
-
身体の動きや銃撃の表現を入れた描写