「久しぶりセイア……いやセイア様の方が良いのかな?」
「そうだね、立場の違いは往々にしてそれは適切な環境であるからこそ始めて成り立つと言える。そして、この密室に私達以外の他者が介入することも無い、君たちの価値観で言うところの変数はなく、意識するだけ無価値であると言うことだ」
トリニティ総合学園の一室にてセミナーの役員とティーパーティーのホストは別の顔を持ち向き合う
「体調が良くないから口数が減るもんだと思ってたけど、去年より達者になってそうだねセイア」
「私に課せられた役割はここと外とを繋ぐ仲介者。些か口を出す機会も増えるだろう。それに此処には動揺の念も含まれているんだ」
「まぁ、会いに来る時は連絡入れてたけど今日は適当に買い物して帰ろうと思ってたからな」
「それ故に、私は客人へと贈れる様なものは持ち合わせていなくてね。此処にある品々はどれも客人へと振る舞うに値する価値はあるだろう、しかしどれも足が早くてね。君のお目にかかるものはここにはないだろう」
「そもそも、お菓子をたかりに来た訳じゃないから気にするものじゃないよ。それにメインの目的は菓子折りでも、サブミッションは終えられたから満足だよ」
「なるほど、百合園セイアは君にとってはただ通過点に過ぎないと言うことか」
「今日はそうだね。ただお菓子を買おうとしただけだから、セイアと会えたのは奇跡とでもしておくよ」
「君がこのトリニティを訪れたのは去年の秋頃だったろうか。あれからも街並みは姿を変え、"定めの携行人"は姿を消している。かの"運び屋"は終幕を迎えたとしていいのかい?」
「"運び屋"はずっと活動を続けてる。それこそ秋頃には桁違いの報酬を得て新居の準備も終えて生活を送っているよ」
「ならよかった。旧友の頼みで託すには積荷が大きくてね。だからこれは一人の依頼人からの頼みとして受け取ってくれ」
「なら……【運び屋
「単刀直入に言おう。百合園セイアは二週間後の今夜にヘイローを破壊され死亡した。だから君には【自室にて暗殺された百合園セイアを蒼森ミネの元へと輸送】して欲しい」
「……偽装工作か。しかもホストの案件と来た。そうだね…………依頼料は財産の三割は貰おうか」
「もちろんだとも。いや、私の財産の五割を渡すから追加で【蒼森ミネの活動基盤が整うまでの引っ越しを手伝う】ことも頼めるかな?」
「それだけあれば充分。どちらの依頼も請けよう。契約書にサインを貰えるかな?」
「ああ、それと細かい時間や場所はこのメモにまとめてあるから活用してくれ。これで以上だよ」
「毎度あり。……ほんと不便だよな、対策は取れても結果は発生するって言うのは」
「未知であることは出会えば混乱するが、私の場合は既知である場合が殆どだからね。特に外交先で起こる事故等の怪我への処置を事前に備えれると言うのは、仕事に追われる者達にとって計り知れないものだ」
「まぁ、いいけど。それとトリニティの案内を任せれるかな」
「勿論だとも。旧友と久方ぶりの邂逅を果たしたんだ。それも共に夕日を追いかけた日々が夢でなく現のことだと確証を持てるほどの。そんな友と共有したい知見も膨らみ続けている」
「なら聞かせて貰おうか。直接話してこそ伝わるものもあるだろうから」
一室から足を踏み出せば学園の上に立つものとしての威厳を保ちトリニティ総合学園の敷地に歩を進める
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「こんなに買って貰って良かったのか?」
「私はあまりお金を使わないからね。業務に忙殺され個人的な趣味と言うものに費やす時間が失くなったのもあるが、以前のように車を運転することもなくなっている影響かな」
「あと今日は無理やり予定開けてたんだろ? 僕が来ることを知ってて」
「そうとも。今生の別れとまでは言わないが、しばらく君と直接言葉を交わすこともできないだろうからね」
「それに運び屋はアナログ主義者だからな。最終契約は対面せざるを得なくなる。そこに例外は存在させない」
「ミレニアムの生徒がアナログ主義者へと変遷するのは、さながら自身の力に嘆き未来を待つだけの狐のようだ」
「自虐的だね。……どこまで行ったのか聞いても言いかな?」
「そうだね。少なくとも君のことは一度も見れていない。つまるところ今回の件に君が巻き込まれる可能性は本来なら無いと言うことだ」
「今まで通りだね」
「そして今回の鍵を握るのは間違いなく【エデン条約】だ」
「前に連邦生徒会長が失踪して途絶えたんじゃ無かったか?」
「私達の代でミレニアムの台頭も踏まえての判断と言ったところかな。反対の声も上がっていてクーデターもかなりのものになるだろうね」
「それでゴタゴタが起きて暗殺沙汰になるのか。にしてもヘイロー持ちを暗殺なんて不可能だろ」
「ああ、普通は不可能と言えよう。なにせ私のような者でも殺すとなれば数時間は持つと言えるからね。それも銃弾を撃ち込んだ上でだ」
「そんなことして正義実現委員会が気付かないなんてこと無いだろうしな。……てことはゲームで言うところの、一撃必殺の何かがあると考えるべきか」
「その様なことを考えても実際に事が起きてみなければ分からないのが現状だ。未来が見えるとは言っても所詮は見えるだけだからね。これはそこまで万能なものではない」
「…………改めて聞いてると副作用の影響も大きいからな。自発的に見ることは控えててくれよ、ほんとに」
「…………それは善処をするとだけ言わせて貰おうかな。君との約束を破るような人間にはなりたくないからね」
「……はぁ、律儀なのは良いことか。まずは二週間後だな」
「それが失敗すればまさしく終わりだろうね」
「取り敢えず今夜は送っていくよ。別れはもう少し惜しませて欲しいから」
「私もそれを聞いて断るほど、冷たい心を持ち合わせてはいないからね。せっかくだ、お姫様抱っことやらをご所望させて貰おうかな?」
「荷物を抱える相手にそれ注文するのは、大概だと思うけどな……まぁ、いいか。ほら……荷物は持っててくれ」
「それくらいお安い御用さ。あと以前の家ではなくセーフハウスの方に住まうことになっててね。案内はするからよろしく頼むよ」
「シマエナガ達も乗車したみたいだし、指示を」
「形は違えどこうして君のナビゲーターをするのは、どこか懐かしい感覚になるよ。まるで微睡みの夢のようだ」
「取り敢えず人に見付かったら面倒だから飛ばすよ、シマエナガ達も振り落とされるなよ?」
「暴走する電車に軽々と追い付ける君が言うと、鳥肌が立ってしまうね。かわいいシマエナガ達も毛が逆立っているよ」
「その話しはした覚えがないんだけどな。ニュースにでもなってたか?」
「なっていたとも。クロノスの方で一時期特番も組まれていた筈だよ。"ハイランダー鉄道学園の秘密組織"としてね」
「初めて聞いたな。その特集ってクロノスのチャンネルにあがってたりするか?」
「いいや、今は消されているね。もっとも外部の組織からハッキングを受けたようだ。空井エルと言う存在が確実に露見しない程度に収めるために」
「…………なんかヴェリタスが真面目に作業してる時あったけど、それかもなぁ。てか情報組織には顔バレしてるかもな」
「その可能性は薄いと言えよう」
「その心は?」
「君はその日、百鬼夜行でお土産を買っていた。そして君は伝統的な木彫りの面を着けたままだったからね。私のように長い付き合いがなければ気付けないだろう」
「…………ヴェリタスにお土産持っていった時に、お面持ってるか聞かれたんだよな。それから真面目に作業し始めてたけど多分あいつらがやったな」
「…………次のところを左へ行ったら到着だ」
「思ったより近場だったか」
「今日は近場のセーフハウスの日だったと言うだけだよ。それと感想だが、存外快適で居心地が良かったと言える。……依頼当日もこの運び方で頼もうかな?」
「流石にムリ。移動ルートと対応策の関係だけどな」
「当日の配送ルートは何処を使うのかもう決まったと言うことで良いのかな?」
「まぁ、当日のお楽しみかな? 安全は保証するけど」
「なら楽しみにしておこう。……エル、久し振りにお泊まり会でもどうかな? まだ、語り足りなくてね」
「同意見だよ。今日という日の結びに入るにはまだ早い」
「それは良いんだけど家に護衛は付けてないのか?」
「ああ、今日は優秀な守人が居るからね。彼女達は今後休めなくなるだろうから休暇を与えているよ」
「なら良かったよ。紅茶を淹れようか」
「久し振りに飲みたいと思っていたんだ。ナギサの淹れる紅茶は風味豊かで至高の味と言っても良いんだが、どうしても昔淹れて貰った君の味が忘れられなくてね」
「僕もその至高の味とやらを知りたいんだけどまぁ、むりか」
「君の立場を利用すれば案外可能かも知れないね。まぁ、今しばらくは件の事がある彼女にミレニアムまで相手する余裕は無いだろうがね」
「ならまた全部片付いたら考えようか。……ほら淹れてみたよ」
「…………変わらぬ味と言うと成長もしてないと否定的な意味に取られそうだが、私にとってはいつまでも飲んでいたい味でね、これからの惨劇の前に味わえた事を喜ばしく思うよ」
「……相変わらずの感想で良かったよ。それとティーパーティーの方でもそろそろ"先生"について話題になってたりするか?」
「それはもう、大きな話題になっていたよ。与えられた権限を考えれば妥当……いや、小さいくらいだね」
「まぁ、ヘイローを持たない人間だからこそ最終手段が成立するってところから来る感覚なんだろうな」
「本人に直接的な力はない。権力者の暴走が起きても力で抑えられる…………今の段階ならね」
「これからの活動次第としか言えないか。正直なところ変数と言っても前提をひっくり返すレベルのものは扱う頻度が少なくてね」
「私も同じだよ。ただ、今回の件に先生と言う存在を巻き込むのも一つの手だろうね。文字通りの可能性であると言える」
「こっちは、先生に対してできる限り静観させて貰おうかな。人間性や活動方針、指揮能力をはかる必要があるからね」
「これからの活動方針も語り合ったところで、今夜は何処で眠りに就くのか考えるとしよう。残念ながらベッドは一つしかなくてね」
「まぁ、言われてみれば同じセーフハウスに何人も留まることないしな」
「君は私と一緒に寝ても問題はないだろうか?」
「誰かと付き合ってるわけでもないからな。それに、前も同じ布団で一冊の本を読みながら考察を進めてたからな」
「今夜も謎解き本を準備してあってね。どれも難題と記されるものだが、君となら楽しむのに適切な難易度と言えよう」
「それじゃあ始めようか」
こうして同じ布団に体を埋め、ヘッドライトが照らす灯りの下で難題を語る謎は解かれている。難題と言う評価は正確だ。しかし相手取るは、古くより語られる法則を探さんとするもの達だ。100をまとめた難題は長針の一周する間もなく、解を出された。そうして新たな謎へ探求者の如く挑むのだった
ちなみにドラテクの師匠はセイア。彼女のオープンカーを預かることになるのをエルはまだ知らない