第一話 森にて
ある日、森にクックルが現れた。
鳴き声は間が抜けており、姿もどこか愛らしい。
どうせ魔物だろう、と誰かが言った。
そして殴られた。
ドゥドゥドゥ!!
それだけの話である。
……たぶん。
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森は静まり返っていた。
木漏れ日の中を進む勇者アレスは、剣を肩に担ぎながら笑う。
「魔王軍幹部も三人目だ。俺たち、もう中盤って感じだな」
戦士ガルドが豪快に笑い返す。
「王都に帰ったら英雄扱いだぜ」
弓使いは周囲を警戒しながらも余裕の表情だ。僧侶は祈りの言葉を軽く唱え、魔法使いリオだけが、わずかに眉をひそめていた。
「……静かすぎる」
「ビビるなよ」とガルドが言った、そのとき。
ガサッ。
茂みが揺れた。
全員が武器を構える。
そこに立っていたのは、小さな何かだった。
( ゚∋゚)「クックル」
丸い目。とぼけた顔。翼のようなもの。どこか愛嬌がある。
アレスが首を傾げた。
「……鳥?」
リオの顔色が変わる。
「待て。あれは、分類不能だ。魔物図鑑にも記録がない。存在構造が――」
( ゚∋゚)「クックル?」
小首をかしげる。
ガルドが鼻で笑った。
「どうせ魔物だろ!」
剣を振りかぶり、突進する。
(#゚∋゚)「クックルクックル」
空気がわずかに重くなる。
ドゥ。
ガルドの顔面にハイキック。
ドゥ。
回転しながら胴体に右フック。
ドゥ。
ひるんだところへ左アッパー。
「がっ……!」
ドゥドゥドゥドゥ!!
戦士は見事な弧を描き、木にめり込んだ。
「なっ……!」
アレスが叫ぶ。
「全員、囲め!」
矢が放たれ、炎弾が飛び、聖光が降り注ぐ。
( ゚∋゚)「クックル」
ドゥ。
矢が空中で弾かれる。
ドゥ。
炎弾が掴まれて消える。
ドゥ。
僧侶が地面を転がる。
ドゥ。
勇者の剣が宙を舞う。
ドゥドゥドゥドゥ!!
森に静寂が戻るころ、勇者パーティーは綺麗に並んで倒れていた。
( ゚∋゚)「クックルー…」
少しだけ、呆れたように鳴く。
そして、ゆっくりと歩き去った。
森には風だけが残る。
遥か北、魔王城。
巨大な水晶が、森の光景を映していた。
玉座に座る魔王は鼻で笑う。
「ふん。あの程度の魔物に負けるとは。貧弱、貧弱ぅ!!」
側近の魔物たちも嘲笑する。
「勇者も所詮は人間よ」
そのとき。
ガラララ。
玉座の間の背後で、引戸が開く音が響いた。
魔王が振り向く。
豪奢な石造りの壁に、場違いな木製の引戸がある。
「……何だ?」
( ゚∋゚)「クックル」
静かに、そこに立っていた。
「ほう。我が城に無断で――」
ドゥ!(みぞうちに正拳突き)
魔王の体がくの字に折れる。
「ぐ……!」
ドゥ!(顎に膝うち)
鈍い音とともに、魔王は玉座から転げ落ちた。
側近たちが凍りつく。
( ゚∋゚)「クックル」
短く鳴く。
次の瞬間、誰も見ていない隙に、引戸は消えていた。
玉座の間に、重い沈黙だけが残る。
森にも、城にも。
何事もなかったかのように、世界は回り続ける。
ただ、ほんの少しだけ。
理屈の通らない音が、どこかで鳴った気がした。
ドゥドゥドゥ。