勇者たちは生きていた。
たぶん奇跡である。
酒場でクックルの話をしていたら、悪役が出た。
いい感じに戦った。
そして殴られた。
今回は持っていかれた。
エリア55と書いてあった。
書いてあったのだから、たぶん本当だ。
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王都の酒場は、いつも通り騒がしかった。
勇者アレスはテーブルに突っ伏し、うめき声をあげている。
「まだ痛い……」
戦士ガルドは肋を押さえ、弓使いは肩を回し、僧侶は回復魔法を自分にかけ続けていた。
魔法使いリオが低い声で言う。
「間違いない。あれは実在した」
「夢じゃねぇのか?」とガルド。
「夢であんな連続膝蹴りはない」
酒場の主人が苦笑する。
「森で鳥に殴られたって噂、広まってるぞ」
そのとき。
扉が勢いよく開いた。
黒い外套の男が入ってくる。
「金だ。全員、金目の物を出せ」
盗賊団の頭目だった。
客が悲鳴をあげる。
アレスが立ち上がる。
「悪いが、今日は機嫌が悪い」
剣を抜く。
ガルドも笑う。
「ちょうど暴れ足りなかったところだ」
戦闘が始まった。
盗賊の剣を受け流し、アレスが斬り込む。
炎弾が炸裂し、ガルドの一撃が男を壁に叩きつける。
「おいおい、案外やれるじゃねぇか!」
頭目が血を吐きながら笑う。
「勇者だと? 俺は公爵家の庇護を受けている! 手を出せば――」
ガラララ。
酒場の奥、厨房の横に、木製の引戸が現れた。
全員が止まる。
「またかよ」
アレスが呟く。
( ゚∋゚)「クックル」
静かに立っている。
頭目が怒鳴る。
「なんだその鳥は!」
( ゚∋゚)「クックル?」
首をかしげる。
「今、会話してる空気だったよな?」と弓使い。
「読まないな」とリオ。
頭目が斬りかかる。
(#゚∋゚)「クックルクックル」
ドゥ!(右ストレート)
ドゥ!(腹部に蹴り)
ドゥ!(背負い投げ)
頭目が床を滑る。
「ま、待て! 俺は権力者と――」
( ゚∋゚)「クックル?」
「通じてねぇ!!」
ドゥ!(顔面に回し蹴り)
ドゥ!(膝打ち)
ドゥドゥドゥドゥ!!
酒場のテーブルが粉砕される。
客たちが壁際に避難しながら叫ぶ。
「衛兵呼べ!」
「いや誰に!?」
クックルは意識を失った頭目を片手で持ち上げる。
ガラララ。
引戸が開く。
そこには看板がかかっていた。
白地に黒文字。
『エリア55』
酒場が静まる。
「書いてあるな」
「書いてある」
「フォント普通だな」
「妙に事務的だ」
( ゚∋゚)「クックル」
そのまま中へ入る。
扉が閉まる。
消える。
酒場に残ったのは、壊れた家具と沈黙。
アレスが深く息を吐く。
「……連行型か」
「前は殴って帰っただけだったのにな」
リオが腕を組む。
「第五拾伍域……おそらく隔離領域だ」
「詳しく言うな」と全員。
そのとき。
遥か北の魔王城。
水晶が酒場の様子を映していた。
魔王が腕を組む。
「ふん。小悪党を回収したか」
側近が震える。
「陛下……あれは」
「我は関係ない」
ガラララ。
背後。
魔王が振り向く。
「またか!!」
( ゚∋゚)「クックル」
「いや待て今回は我は何も――」
ドゥ!(みぞうち)
「ぐっ」
ドゥ!(顎)
魔王が再び沈む。
側近が頭を抱える。
「突っ込んだからでは……」
扉は消え、玉座の間に沈黙だけが残った。
酒場も城も、やがていつもの喧騒に戻る。
だが誰もが知っている。
理屈は通らない。
書いてあったのだから、本当なのだ。
どこかで、また音が鳴る。
ドゥ。