第二十一話 「雑兵」
第21話 「雑兵」
戦国の世。
侍とは限らない者たちも戦場に立っていた。
田畑から集められた雑兵。
そして地域によっては武士とも扱われ、そうでないこともある足軽。
名も家も持たぬ者たちが、槍を持って戦う。
だが今日の戦場には、もっと分からないものがいた。
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戦国の戦場。
朝靄がまだ残る野原に、二つの軍勢が向かい合っていた。
旗が風に揺れる。
槍が並ぶ。
鉄砲の火蓋が準備される。
だが前に立つ者たちの多くは、侍ではない。
雑兵。
農民や町人を集めて槍を持たせただけの兵だ。
「おい、今日はどこの戦だ?」
「さぁな。隣村と同じで、侍様が決めたことだ」
「まぁ槍持って前に立ってりゃいいんだろ」
緊張感のない会話が続く。
彼らの後ろには、少し装備の良い兵が立っている。
足軽だ。
雑兵よりは訓練され、刀も持つ。
地域によっては武士と扱われることもある。
だが多くの場合は、侍と雑兵の間の存在だった。
足軽の一人が前を見て眉をひそめる。
「……おい」
「ん?」
「あれ、何だ?」
雑兵たちが顔を上げる。
双方の陣のちょうど真ん中。
そこに一つの影があった。
( ゚∋゚)
立っている。
ただ立っている。
戦場のど真ん中に。
旗も持たず。
槍も持たず。
鎧も着ず。
丸い目でこちらを見ている。
「……鳥か?」
「いや鳥だろ」
「鳥だな」
雑兵の一人が笑う。
「こんなところに迷い込むとは運の悪い鳥だ」
槍を持ち上げる。
「よし、突いて落としてやる」
槍が振り下ろされる。
ドン。
いや。
違う。
振り下ろされるはずだった槍は、途中で止まった。
なぜなら。
クックルの目が開いたからだ。
(#゚∋゚)「クックル」
次の瞬間。
ドゥ。
雑兵が空を飛んだ。
「え?」
槍を持ったまま、見事な弧を描く。
そして。
ドサッ。
地面に落ちる。
周囲が沈黙した。
「……今」
「殴った?」
「殴ったな」
足軽の一人が刀を抜く。
「何だあれは」
もう一度クックルを見る。
( ゚∋゚)「クックル?」
首を傾げている。
その顔はどこか愛嬌がある。
だが。
足軽は刀を構える。
「ふざけるな。ここは戦場だ」
走る。
刀を振り上げる。
斬る。
はずだった。
ドゥ。
足軽が横に吹き飛んだ。
「がっ!?」
刀は地面に刺さる。
足軽は転がる。
雑兵たちは一歩下がった。
「何だあれ!?」
「鳥じゃねぇ!」
「殴ったぞ!」
その騒ぎは、敵陣にも届いた。
向こうの兵がざわめく。
「何が起きている?」
「真ん中で揉めてるぞ」
「今が好機だ!」
誰かが叫んだ。
「突撃!」
敵陣の兵が一斉に走り出す。
槍。
刀。
鉄砲。
怒号と共に押し寄せる。
雑兵たちは慌てた。
「敵だ!」
「構えろ!」
だがその間にいるのは。
( ゚∋゚)
クックルだった。
敵兵が最初に突っ込む。
「どけぇ!」
槍が突き出される。
ドゥ。
兵が後ろに飛ぶ。
次の兵。
ドゥ。
また飛ぶ。
三人。
四人。
五人。
ドゥドゥドゥドゥ。
殴られる。
吹き飛ぶ。
転がる。
槍が宙を舞う。
刀が地面に落ちる。
叫び声が上がる。
「何だこの鳥!」
「殴るぞ!」
「殴ってくる!」
戦場は一瞬で混乱した。
敵も味方も関係ない。
突っ込んできた者が、ただ殴られる。
ドゥ。
ドゥ。
ドゥドゥ。
槍隊が崩れる。
足軽が倒れる。
雑兵が逃げる。
戦場は止まった。
誰も前に出ない。
そして。
しばらくして。
土埃が落ち着いた。
そこに立っていたのは。
( ゚∋゚)「クックル」
一羽だけだった。
戦場の中央で。
風が吹く。
旗が揺れる。
誰も近づかない。
ただ一つだけ、はっきりしていた。
この戦は。
まだ始まってすらいなかった。