戦国の世。
武士と呼ばれる者にも、様々な階層があった。
功績を挙げ、ようやく苗字を許された者。
だが主家の家臣ではなく、家臣の家臣。
陪臣。
武士ではある。
だがまだ家格は低い。
ゆえに彼らは鍛える。
功績を求め、武名を求め、戦場で前へ出る。
だが今日の戦場には、
武功という概念が通じない相手がいた。
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戦場の中央。
弓隊は倒れた。
鉄砲隊も倒れた。
槍足軽も長巻隊も、金砕棒の豪腕兵も倒れている。
倒れた兵たちの間に。
( ゚∋゚)
クックルが立っていた。
風が吹く。
旗が揺れる。
誰も近づかない。
その様子を、少し離れた丘の上から見ている者たちがいた。
四騎の武士。
いや、正確には。
陪臣である。
鎧は立派だった。
胴丸に籠手。
兜もきちんとしたものだ。
足軽より装備は明らかに良い。
そして体格も違う。
鍛錬を重ねた筋肉。
弓を扱う腕。
馬を扱う技。
彼らは武士だった。
ただし。
主君の直臣ではない。
家臣の家臣。
陪臣。
一人が口を開く。
「……足軽が全滅したな」
「雑兵もだ」
別の陪臣が目を細める。
「噂は聞いていたが」
クックルを見る。
( ゚∋゚)
「本当に鳥か?」
四人目が言った。
「どうであれ好機だ」
馬の手綱を握る。
「足軽が崩れた今、我らが武功を挙げる」
他の三人も頷いた。
陪臣とは、そういう存在だ。
武功を挙げねばならない。
武名を立てねばならない。
そうでなければ。
一族は上へ行けない。
先頭の武士が弓を取った。
四張りの弓。
普通の弓よりも強い弓だ。
腕力がなければ引けない。
矢をつがえる。
弦を引く。
ギリ、と音がする。
狙う。
戦場の中央。
( ゚∋゚)
クックル。
「放つ」
弦が鳴った。
ビィン。
矢が飛ぶ。
ただの矢ではない。
重い弓から放たれた矢だ。
空気を裂く。
まるで槍のような勢い。
ヒュン。
一直線。
クックルへ。
ドゥ。
矢が弾かれた。
地面に落ちる。
陪臣たちが沈黙する。
「……弾いた」
「今、殴ったか?」
クックルが首を傾げる。
( ゚∋゚)「クックル?」
先頭の陪臣が歯を食いしばる。
「もう一度だ」
矢をつがえる。
弓を引く。
今度は二本。
放つ。
ヒュン。
ヒュン。
ドゥ。
ドゥ。
また弾かれる。
陪臣の顔が引きつる。
「……弓は効かぬ」
別の武士が槍を取る。
「ならば槍だ」
馬の腹を蹴る。
ドッと走る。
蹄が地面を打つ。
槍が振り上がる。
「武功、頂く!」
槍が振り下ろされる。
その瞬間。
ドゥ。
陪臣が空を飛んだ。
槍を持ったまま。
見事な弧を描いて。
ドサッ。
地面に落ちる。
馬だけが走り抜ける。
残る三人が固まる。
「……殴った」
「殴ったな」
「殴った」
クックルは静かに立っていた。
( ゚∋゚)
首を少し傾げる。
「クックル」
三人の陪臣が槍を構える。
「行くぞ」
「武士だ」
「退くな」
三騎が一斉に走る。
槍が並ぶ。
馬が駆ける。
斬撃。
突き。
横薙ぎ。
同時に来る。
だが。
ドゥ。
一人飛ぶ。
ドゥ。
二人飛ぶ。
ドゥドゥ。
三人転がる。
馬が逃げる。
槍が地面に落ちる。
戦場がまた静かになる。
土埃が落ちる。
倒れた陪臣たちの間で。
( ゚∋゚)「クックル」
クックルが立っていた。
遠くの陣から、それを見ていた武士たちがざわめく。
「陪臣がやられた」
「弓も槍も通じぬ」
「……侍だぞ、あれは」
風が吹く。
旗が揺れる。
戦場の中央で。
クックルはまだ立っていた。