王は報告書を読んだ。
勇者は生きていたらしい。
だいたい殴られたらしい。
エリア55という単語も書いてあった。
側近たちは真面目に議論した。
国家としてどう対処すべきか。
結論は討伐である。
そして扉が出た。
----------------------
報告書には、そこまで書いてなかった。
王都、玉座の間。
赤い絨毯の上に、重々しい空気が漂っている。
王は報告書を片手に、ゆっくりと口を開いた。
「……森にて、正体不明の存在と遭遇。勇者パーティー、壊滅。生存は確認。殴打多数。エリア55への連行を視認――」
大臣が咳払いをする。
「殴打多数、とは」
「だいたい殴られた、と書いてある」
「雑だな報告書!」
将軍が腕を組む。
「鳥型魔物と推測されますな」
「鳥に殴られる勇者とは何事か」と別の大臣。
魔導院の賢者が杖を鳴らす。
「問題はそこではない。“エリア55”なる領域です。異界か、隔離区画か――」
王が眉をひそめる。
「王都にそのような地名はない」
「では国外か?」
「国外に“エリア”はないだろう!」
議論が白熱する。
「討伐すべきです!」
「まずは調査を!」
「勇者の再派遣を!」
「もう殴られてるぞ!」
王が手を上げる。
「静まれ」
一瞬で沈黙が落ちる。
「国家は理不尽を許さぬ。騎士団三百を動員。魔導砲を準備せよ。クックル討伐とする」
将軍が胸を叩く。
「御意!」
そのとき。
ガラララ。
玉座の間の背後、石壁に、場違いな木製の引戸が現れた。
全員が凍りつく。
「報告書の扉だ!」
「押さえろ!!」
衛兵十数名が一斉に扉に飛びつく。
「開けるな!」
「絶対開けるな!」
扉は静かに、ゆっくりと動く。
「力を込めろぉぉぉ!!」
ぎぎぎ、と音を立てて開く。
「押してるのに開くな!!」
「逆に押せ!」
「逆とは何だ!?」
衛兵が必死に体重をかけるが、扉はするりと全開になる。
しかし――
中はただの白い空間だった。
「……何もいない?」
「フェイントか?」
「報告書にフェイントとは書いてなかったぞ!」
その瞬間。
正面の巨大な会議室扉が、勢いよく開いた。
バン!!
全員が振り向く。
( ゚∋゚)「クックル」
「そっちかい!!!!」
大臣が机を叩く。
「背後を警戒していたのに!」
「国家の威信はどうした!」
将軍が剣を抜く。
「総員、迎撃!」
(#゚∋゚)「クックルクックル」
空気が震える。
「報告書に“クックルクックル”はないぞ!」
「追記しろ!!」
ドゥ!(将軍の顔面に直撃)
「ぐはっ!」
ドゥ!(大臣が机ごと吹き飛ぶ)
「書類がぁぁ!!」
ドゥ!(賢者が宙を舞う)
「まだ解析が――」
ドゥ!(衛兵が壁に貼り付く)
「国家予算がぁぁ!!」
玉座の間が一瞬で乱戦になる。
王が立ち上がる。
「我は王だぞ!!」
( ゚∋゚)「クックル?」
「困惑するな!!」
ドゥ!(王冠が宙を舞う)
ドゥ!(玉座にひびが入る)
衛兵たちが必死に叫ぶ。
「陛下を守れ!」
「いや守れてない!」
賢者がよろよろと立ち上がる。
「陛下! 溜め動作です!」
(#゚∋゚)「クックルクックル」
「報告書にはないぞ!!」
「ページめくれ!」
「追記! 追記!」
ドゥドゥドゥドゥ!!
衝撃が走る。
轟音とともに、王城の一角が吹き飛んだ。
青空が見える。
煙が立ち上る。
玉座は半壊し、赤い絨毯は焦げている。
静寂。
( ゚∋゚)「クックル」
短く鳴く。
誰も視線を外していない。
だが次の瞬間、クックルはもういなかった。
背後の扉も、正面の扉も、消えている。
将軍が瓦礫の中から顔を出す。
「……討伐は」
大臣が呻く。
「再検討で」
王は崩れた玉座に座り直し、深く息を吐いた。
「……対策本部を設置せよ」
「名称は?」
王は少し考えた。
「クックル対策局だ」
遠くで、どこかで。
ドゥ。
と、音がした気がした。