伝説の世界。
ここでは空にも怪物がいる。
地を這う蛇。
人を石にする鶏。
そして。
象すら掴み上げる、
空の王。
ロック鳥。
千夜一夜の物語に語られる、
巨大なる伝説の鳥である。
そんな巨鳥の前に現れたのは。
クックルである。
しかも今回は。
なんか王として仕上がっている。
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砂漠の奥地。
切り立った谷があった。
深い。
とても深い。
見下ろせば、足がすくむ。
というか普通に怖い。
谷底には岩。
岩。
岩。
そして。
きらきら。
光る。
宝石である。
商人の一人が言った。
「見ろ!」
「ダイヤだ!」
別の商人が言う。
「ルビーもあるぞ!」
「サファイアだ!」
谷底は宝の山であった。
だが。
問題がある。
深すぎる。
降りられない。
降りたら戻れない。
というか戻る前にたぶん死ぬ。
そこで。
商人たちは古くから伝わる方法を使う。
肉である。
大きな肉塊。
羊肉。
牛肉。
とにかく肉。
商人の親方が胸を張った。
「よいか」
「この谷の宝石は」
「肉で拾うのだ」
若い商人が言った。
「いや理屈がわからん」
親方が言う。
「谷底に肉を落とす」
「すると宝石が肉にくっつく」
若い商人。
「うん」
親方。
「そこへロック鳥が来る」
若い商人。
「うん?」
親方。
「肉を巣へ運ぶ」
若い商人。
「いや待って」
親方。
「その隙に宝石を回収する」
若い商人。
「待ってください親方」
「その説明だと」
「ロック鳥が全部危険じゃないですか」
親方。
「そうだ」
若い商人。
「そうだじゃないんですよ!!」
だが他の商人たちは慣れたものである。
「縄を用意しろ!」
「肉をもっと持て!」
「欲張るなよ!」
「いや欲張るだろ宝石だぞ!」
完全に利欲の民である。
商人とはそういうものである。
そして作業開始。
肉。
ドサッ。
肉。
ドサッ。
肉。
ドサッ。
谷底へ投げ込まれる。
しばらくすると。
宝石がくっつく。
肉に。
べったり。
きらきら。
商人たち。
「ついた!!」
「ついたぞ!!」
「でかいダイヤだ!!」
「待てあの肉は俺のだ!!」
「まだお前のじゃない!!」
盛り上がっている。
非常に盛り上がっている。
だが。
空が暗くなる。
商人の一人が言った。
「……来た」
全員が空を見る。
巨大な影。
でかい。
いや。
でかすぎる。
翼が空を覆う。
バサァァァァァ!!
風圧。
砂が舞う。
商人たちが目を細める。
「うわあああ目があああ!!」
「砂!!」
「羽ばたきで砂嵐起こすな!!」
ロック鳥。
伝説の巨鳥。
象を掴むと言われる怪物。
いや象を掴むって何だ。
サイズ感がどうかしている。
山のような胴体。
岩のような脚。
鉤爪ひとつが人間の背丈ほどある。
商人が震えながら言った。
「でかすぎる!!」
親方が言う。
「だからロック鳥なのだ!!」
若い商人が叫ぶ。
「もっと早く言ってくださいよ!!」
ロック鳥は谷底へ降りる。
肉を掴む。
ごっそり。
宝石つき肉を。
そのまま翼を広げる。
商人たち。
「今だ!!」
「縄を引け!!」
「巣の方へ回れ!!」
「宝石を取れ!!」
だが。
ここで問題が起きる。
欲張り商人がいた。
「もっとだ!」
「もっと肉を落とせ!」
「もっと宝石をつけろ!」
親方が叫ぶ。
「やめろ!」
「十分だ!」
だが欲は止まらない。
肉。
ドサッ。
また肉。
ドサッ。
さらに肉。
ドサッ。
若い商人が言う。
「いややりすぎでは!?」
そのとき。
ロック鳥。
止まる。
ゆっくり。
商人たちを見る。
沈黙。
若い商人。
「……怒ってません?」
親方。
「怒っているな」
欲張り商人。
「まさか」
ロック鳥。
ギャアアアアアアア!!
咆哮。
風圧。
砂嵐。
商人たち。
「うわあああああ!!」
「怒ったああああ!!」
「そりゃ怒る!!」
「肉泥棒だと思われてる!!」
ロック鳥。
急降下。
鉤爪。
岩を砕く。
バキィン!!
商人が吹き飛ぶ。
「ぎゃあああ!!」
荷車がひっくり返る。
宝石が転がる。
肉も転がる。
商人も転がる。
完全に地獄絵図である。
親方が叫ぶ。
「逃げろ!!」
若い商人が叫ぶ。
「だから危険だって言ったじゃないですか!!」
そのとき。
谷の縁。
ズシン。
ズシン。
ズシン。
何かが来る。
全員が振り向く。
そこにいた。
( ゚∋゚)
クックル。
だが。
前回までとは違う。
あの蛇柄の緑色はない。
落としたのだろうか。
もう飽きたのだろうか。
知らん。
とにかく今回は。
本来の白い羽。
白。
とても白い。
そして。
頭。
王冠。
しかも前より豪華である。
バジリスクから奪った王冠をもとに。
宝石を盛ったのか。
巨大化している。
きらきら。
ぎらぎら。
無駄に威厳がある。
若い商人が言った。
「なんか王になってる!!」
親方が言った。
「前から王だったのかもしれん!!」
「知らんけど!!」
欲張り商人が言った。
「鳥だ!!」
若い商人が言う。
「鳥ですね!!」
親方が言う。
「しかも王だ!!」
若い商人が叫ぶ。
「王って何なんですかこの谷!!」
ロック鳥も気づく。
見る。
クックルを見る。
白い羽。
王冠。
ムキムキ。
二足歩行。
身長二〜三メートル。
ロック鳥に比べると小さい。
だが存在感がおかしい。
若い商人が言う。
「……仲間ですか?」
親方が言う。
「知らん」
「だが鳥だ」
欲張り商人が言う。
「鳥対鳥だ!!」
若い商人が叫ぶ。
「このサイズ差で!?」
ロック鳥。
巨大翼を広げる。
風。
轟音。
クックル。
立っている。
白い羽が揺れる。
王冠が光る。
なぜか妙にかっこいい。
腹が立つ。
クックル。
静かに鳴く。
( ゚∋゚)「クックル」
次の瞬間。
ロック鳥が突っ込む。
速い。
でかいのに速い。
なんだその機動力は。
鉤爪。
クックルを掴む。
持ち上げる。
そのまま空へ。
商人たち。
「うわあああああ!!」
「終わった!!」
「連れていかれた!!」
「白いのが空へ!!」
空中。
ロック鳥の爪に掴まれたクックル。
普通なら終わりである。
というかたいていの生き物は終わりである。
だが。
クックル。
腕を振り上げる。
そして。
ドゥ。
ロック鳥の顔面に一発。
ロック鳥。
ぶれる。
商人たち。
「空中で殴ったああああ!!」
「やるのかそこでも!!」
ロック鳥。
怒る。
さらに上昇。
クックル。
もう一発。
ドゥ。
ロック鳥。
体勢を崩す。
若い商人が叫ぶ。
「やばい!!」
親方が叫ぶ。
「落ちるぞ!!」
ロック鳥。
ぐらり。
翼がぶれる。
クックル。
さらに。
ドゥドゥ。
連打。
ロック鳥。
墜落。
ドォォォォォン!!
谷全体が揺れる。
岩が崩れる。
宝石が跳ねる。
商人が転ぶ。
「うわあああ!!」
「谷が揺れた!!」
「巨鳥落ちた!!」
「落とした!!」
地面に叩きつけられたロック鳥。
まだ起き上がる。
強い。
さすが伝説の巨鳥。
伊達に象を掴んでいない。
いや象掴むな。
ロック鳥。
咆哮。
翼を広げる。
クックル。
着地。
王冠きらり。
なんか着地まで堂々としている。
腹が立つ。
ロック鳥。
突撃。
クックル。
ドゥ。
翼に一発。
ロック鳥。
よろける。
ドゥ。
脚に一発。
ロック鳥。
傾く。
ドゥドゥドゥドゥ!!
怒涛の乱打。
巨鳥の羽が舞う。
砂が舞う。
宝石が跳ねる。
商人たちが叫ぶ。
「殴ってる!!」
「ひたすら殴ってる!!」
「ロック鳥が押されてる!!」
「押されるなそんな巨大なのに!!」
最後に。
クックル。
大きく振りかぶる。
( ゚∋゚)「クックル」
ドゥ。
ロック鳥。
飛ぶ。
横に。
でかい鳥が。
横に飛ぶ。
そのまま岩壁に激突。
ズガァァァン!!
沈黙。
静寂。
砂が落ちる。
羽がひらひら落ちる。
商人たち。
「……」
若い商人。
「……伝説の巨鳥が」
親方。
「……殴られたな」
欲張り商人。
「殴られたな」
谷の縁。
宝石のきらめき。
倒れたロック鳥。
そして。
立っている。
白い羽。
豪華な王冠。
( ゚∋゚)
( ゚∋゚)「クックル」
若い商人が言った。
「……あれ」
「ロック鳥より」
「こっちのほうが怖くないですか」
親方が即答した。
「怖い」
欲張り商人も頷いた。
「怖い」
完全に一致した。
珍しいことである。
そのとき。
谷底で光る。
宝石。
親方の目が輝く。
「……よし」
若い商人。
「何がよしなんですか」
親方。
「あの鳥がいる間に拾うぞ!!」
若い商人。
「懲りてない!!」
欲張り商人。
「今しかない!!」
結局。
商人とはそういうものである。
だいたい殴る。
それが。
クックルである。