クックル物語〈ドゥドゥドゥ!!〉   作:ヒツジ(ラム肉

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第四話「やめてください先生」

大賢者は興奮していた。

 

クックルという現象は実に興味深いらしい。

 

音には法則があり、扉には理がある。

 

エリア55にも、きっと意味がある。

 

弟子たちは止めた。

 

衛兵も止めた。

 

やめてください先生、と何度も言った。

 

先生はやめなかった。

 

そして扉が出た。

 

今回は最初から開いていた。

 

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 王都魔導院、最上階研究室。

 

 黒板というより黒壁と呼ぶべき広さの板に、数式がびっしりと書かれている。

 

 中央で、白髭の大賢者が目を輝かせていた。

 

「素晴らしい……実に素晴らしい……!」

 

 弟子の一人が顔を引きつらせる。

 

「先生、何がですか」

 

「分からぬか! 未知だ! 未知だぞ!」

 

「未知は危険の同義語です!」

 

 衛兵が壁際で槍を握る。

 

「我々は護衛任務であって研究補助ではないのですが」

 

 大賢者はチョークを振り回す。

 

「まず“クックル”という音だ!」

 

 黒板に大きく書く。

 

 クックル

 

「発音ではない。あれは現象だ!」

 

「やめてください先生!!」

 

「音節は二つ……いや三つの振動構造を持つ……」

 

「数えないでください!!」

 

 別の弟子が報告書を掲げる。

 

「勇者報告によれば、クックルの後に打撃が発生します!」

 

「そうだ! “ドゥ”だ!」

 

 黒板に

 

 ドゥ

 

 と大書。

 

「この打撃音は物理ではない! 因果の前倒しだ!」

 

「前倒しするな!!」

 

 衛兵が思わず叫ぶ。

 

「陛下は“対策”を命じられたのです!」

 

「対策とは理解だ!」

 

「違います!」

 

 大賢者はさらに書き殴る。

 

 クックル → 座標固定

 

 ドゥ → 因果干渉

 

 エリア55 → 回収領域?

 

「見えるぞ……見えるぞ……!」

 

 弟子たちが一斉に叫ぶ。

 

「見なくていいです!!」

 

 そのとき。

 

 研究室の隅。

 

 ガラララ。

 

 木製の引戸が、静かに存在していた。

 

 すでに、開いている。

 

 弟子の一人が震える。

 

「先生……」

 

「分かっておる!」

 

「分かってるならやめてください!!」

 

 大賢者は振り向かない。

 

「“クックル?”は疑問ではない。あれは観測確認……」

 

( ゚∋゚)「クックル」

 

 背後から鳴き声。

 

 全員が固まる。

 

「出たぁぁぁ!!」

 

 衛兵が槍を構える。

 

「陛下に報告を!」

 

「今報告してる場合ですか!?」

 

 大賢者、振り返る。

 

 目が輝いている。

 

「よく来たな……実物……!」

 

「喜ぶな!!」

 

(#゚∋゚)「クックルクックル」

 

 空気が震える。

 

「溜めです!!」

 

「報告書に“溜め”は記載がなかった!」

 

「追記ぃぃ!!」

 

 ドゥ!(大賢者の帽子が吹き飛ぶ)

 

「なるほど……頭部優先……!」

 

 ドゥ!(杖がへし折れる)

 

「物理干渉確認……!」

 

「検証するな!!」

 

 ドゥ!(壁に叩きつけられる)

 

「座標……固定……いや違う……揺らぎ……!」

 

「最後まで言うなぁぁぁ!!」

 

 弟子が泣きながら叫ぶ。

 

「先生! 言語内容に触れたら!」

 

 大賢者は笑う。

 

「“クックル”とは――」

 

 ガラララ。

 

 背後の扉が完全に開く。

 

 中は白い空間。

 

 看板が見える。

 

『エリア55 解析区画』

 

「区画あるのかよ!!」

 

 衛兵が絶叫する。

 

「部署分かれてる!?」

 

「人員足りてるのか!?」

 

( ゚∋゚)「クックル」

 

 大賢者を軽々と持ち上げる。

 

「待て! まだ仮説が!」

 

 ドゥ!(軽く腹を叩かれる)

 

「検証材料がぁぁ……!」

 

「材料扱いされてますよ先生!」

 

 そのまま、扉の中へ。

 

 ガラララ。

 

 閉まる。

 

 消える。

 

 静寂。

 

 研究室には、粉塵と破壊された黒板だけが残った。

 

 黒板の一番上。

 

 大きく書かれている。

 

 クックル=

 

 そこから先は、書かれていない。

 

 チョークが床を転がる。

 

 弟子が震えながら言う。

 

「……先生は」

 

 衛兵が真顔で答える。

 

「解析区画送りだ」

 

「そんな区画あってたまるか!!」

 

 遠くで。

 

 どこかで。

 

 ドゥ。

 

 と、音がした気がした。

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