勇者は魔王を倒した。
今度はちゃんと倒した。
城も崩れ、民は歓喜した。
空が割れ、神が降りてきた。
祝福の言葉も用意されていた。
だいたい良い話になるはずだった。
扉は予定を聞いていなかった。
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魔王城は崩れ落ちていた。
瓦礫の上に立つ勇者アレスは、荒い息を整えながら剣を地面に突き立てる。
「……終わったな」
戦士ガルドが笑う。
「今回は殴られてねぇな」
「やめろ縁起でもない」と弓使い。
僧侶が祈りを捧げ、魔法使いリオが空を見上げた。
その瞬間。
空が、裂けた。
黄金の光が世界を満たす。
天使たちが舞い降り、荘厳な声が響く。
「勇者よ。よくぞ魔王を討ちし者よ」
民衆が跪く。
王も膝をつく。
勇者が戸惑いながらも顔を上げる。
光の中から、巨大な存在が姿を現す。
神。
「汝の功績は尊い。世界は救われた」
天使が声を揃える。
「主よ!」
勇者が言う。
「えっと……ありがとうございます?」
戦士が小声で囁く。
「今回は普通だな」
魔法使いが頷く。
「ええ。非常に正常です」
神が腕を広げる。
「これより祝福を授け――」
ガラララ。
玉座のような雲の後方で、木製の引戸が静かに開いた。
全員が止まる。
勇者が青ざめる。
「……やめてくれ」
天使が震える。
「主の背後に不審物が!」
( ゚∋゚)「クックル」
静かに立っている。
神がゆっくりと振り向く。
「……何者だ」
勇者が叫ぶ。
「帰れ! 今日はいい場面なんだ!」
(#゚∋゚)「クックルクックル」
空気が重くなる。
ドゥドゥドゥ!!
神の体がわずかに揺れる。
光が歪む。
だが神は立っている。
「……我は創造と因果を司る存在」
勇者が驚く。
「効いてる! でも倒れない!」
天使が胸を張る。
「主は不滅!」
神が威厳を保とうとする。
「理外の存在よ、退け」
( ゚∋゚)「クックル」
観察するように鳴く。
そして。
(#゚∋゚)「クックルクックル」
周囲がざわめく。
「段階上がったぞ!」
「報告書にそんな段階なかった!」
(#゚∋゚)「クックルクックルクックルクックル」
空気が震える。
天使が絶叫する。
「最大溜めです!!」
勇者が叫ぶ。
「やめろぉぉぉ!!」
ドゥドゥドゥドゥドゥドゥ!!
神がよろめく。
ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥ!!
光輪が砕ける。
天界の音楽が途切れる。
ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥ!!
大地が割れる。
雲が吹き飛ぶ。
勇者が叫ぶ。
「数えるな!!」
王が頭を抱える。
「世界の管理者がぁぁ!!」
天使たちが泣き崩れる。
「主よぉぉぉ!!」
神が膝をつく。
「……なぜ……我は……」
ドゥ。
神の体から光が消える。
静寂。
( ゚∋゚)「クックル」
短く鳴く。
ガラララ。
背後の扉が完全に開く。
そこには看板。
『エリア55 上位存在区画』
勇者が呆然と呟く。
「区画分かれてるのかよ……」
天使が震える。
「管理部門もあるのですか……?」
クックルは力尽きた神を軽々と担ぐ。
「待て……祝福は……」と神。
ドゥ。
「ぐっ」
そのまま扉の中へ。
ガラララ。
閉まる。
消える。
空は、静かに元に戻った。
裂け目は消え、光も消え、音楽もない。
勇者が空を見上げる。
「……今の何?」
王が立ち上がる。
「世界は……大丈夫か?」
天使たちが互いを見つめる。
一人の若い天使が震えながら前に出る。
「……代行、いたします」
勇者が聞き返す。
「何を?」
天使が深呼吸する。
「管理を」
空に、わずかな光が戻る。
世界は、普通に回り始める。
勇者がぽつりと言う。
「……雑だな」
遠くで。
どこかで。
ドゥ。
と、音がした気がした。
なぉこの世界はそのあと部下の天使が神となったそうだ。