第六話「やらせではありません」
都市伝説系配信者が森に入った。
視聴者数は伸び悩んでいた。
バズりたいらしい。
夜を越え、朝になった。
森で何かを見つけた。
コメント欄が盛り上がった。
ちょっと触った。
やらせではなかった。
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午前五時四十二分。
森の中で、スマートフォンのライトが揺れている。
「どうも皆さん、おはようございます。都市伝説ハンター・ヨシオです」
画面には寝不足の男。登録者数二万三千人。
最近伸び悩んでいる。
「今日は例の“謎の目撃情報”を検証します」
コメントが流れる。
『また森?』
『やらせだろ』
『熊出るぞ』
『登録解除しよかな』
ヨシオが苦笑する。
「やらせじゃありません。ガチです」
朝日が差し込む。
鳥が鳴く。
そして、茂みの奥。
( ゚∋゚)「クックル」
ヨシオが止まる。
「……え?」
コメント欄が爆発する。
『何あれ』
『CG?』
『かわいい』
『待ってスクショ』
『鳥?』
ヨシオがズームする。
丸い目。
じっとこちらを見ている。
( ゚∋゚)「クックル」
「やば……新種か?」
コメントが流れる。
『近づけ』
『触ってみろ』
『鳴き声もう一回』
『絶対やらせ』
『距離詰めろ』
ヨシオが笑う。
「ほら、動かないですよ?」
一歩近づく。
クックルは動かない。
ただ、見ている。
コメント。
『触れ』
『検証しろ』
『ビビってんの?』
『やらせなら蹴れるだろ』
ヨシオが少し顔をしかめる。
「蹴るのは……」
『やらせ確定』
『逃げたw』
『つまんね』
ヨシオが息を吐く。
「軽く触るだけですからね? やらせじゃありません」
手を伸ばす。
クックルの頭を、つつく。
静寂。
( ゚∋゚)
無言。
コメント。
『固まった?』
『フリーズ?』
『草』
ヨシオがもう一度つつく。
「ほら、平気――」
(#゚∋゚)「クックル」
空気が変わる。
『あ』
『溜め?』
『なんか嫌な予感』
ヨシオが固まる。
「え、ちょっと待――」
ドゥ。
ヨシオの顔が横に跳ねる。
『!?!?』
『ガチじゃん』
『痛そう』
ドゥ。
カメラが揺れる。
『手ブレすご』
『CGうま』
ドゥ。
地面に倒れるヨシオ。
『救急車』
『これまずくね?』
『やらせじゃない』
(#゚∋゚)「クックルクックル」
『段階上がった』
『待って待って』
『やばいやばい』
ドゥドゥドゥドゥ!!
画面が上下に激しく揺れる。
木が揺れる。
コメントが滝のように流れる。
『配信切れ』
『通報した』
『スパチャ投げる』
『やらせじゃない』
『マジでやらせじゃない』
ヨシオが地面を転がる。
「まっ……て……」
ドゥ。
スマートフォンが地面に落ちる。
画面は空を映す。
視聴者数が急増する。
三万。
五万。
八万。
コメントが滝。
『伝説』
『歴史的瞬間』
『これBANされる?』
『エリア55行き?』
クックルが画面外から近づく。
影が差す。
カメラが拾う。
丸い目。
どアップ。
( ゚∋゚)「クックル」
画面が暗転する。
配信終了。
——配信は強制終了されました。
森には朝の光だけが残る。
遠くで。
ドゥ。
と音がした気がした。