大学が動いた。
国家は研究を委託した。
音声解析と物理検証である。
教授は興奮していた。
理はあると言った。
院生は止めた。
止まらなかった。
今回は研究室の隅に最初から扉があった。
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国立総合大学・先端解析研究センター。
ホワイトボードいっぱいに波形が描かれている。
中央に立つのは、音響物理学の権威、黒崎教授。
「実に興味深い……!」
モニターには、例の映像。
( ゚∋゚)「クックル」
ドゥ。
再生が止まる。
「ここだ。ここが問題だ」
院生の一人が恐る恐る言う。
「教授……本当にこれ、触れて大丈夫なんでしょうか」
「触れねば分からぬ」
「触れた結果があの映像ですよ」
別の研究員が小声で言う。
「国家案件ですよこれ」
教授は笑う。
「国家も理の前では一研究機関に過ぎん」
「過ぎないでください」
ホワイトボードに大書する。
クックル=?
ドゥ=?
「まず“クックル”だ」
波形を拡大。
「音節ではない。あれは振動パターンだ」
院生が青ざめる。
「教授、第一報告書に“理解しようとすると危険”と」
「迷信だ」
「迷信じゃないです三回殴られてます!」
教授は構わない。
「“ドゥ”は衝撃音ではない。因果の発火だ」
「因果に触らないでください!」
研究室の隅。
誰も触れていない空間。
木製の引戸が、静かに存在している。
最初から。
半分開いている。
院生の一人が気づく。
「教授……あれ……」
「集中したまえ」
教授は振り向かない。
「“クックル?”は疑問符ではない。観測確認だ」
院生が叫ぶ。
「やめてください!」
( ゚∋゚)「クックル」
背後から鳴き声。
全員が凍る。
教授だけが目を輝かせる。
「来たか……!」
「喜ばないでください!」
(#゚∋゚)「クックルクックル」
「溜めです!」
「報告書にありました!」
「教授逃げて!」
ドゥ。
教授の眼鏡が宙を舞う。
「接触確認……!」
ドゥ。
机がひしゃげる。
「物理的干渉……保存……!」
「保存しなくていいです!」
ドゥ。
教授が床を滑る。
「座標は固定……いや、重ね合わせ……!」
「量子に逃げないでください!」
(#゚∋゚)「クックルクックルクックルクックル」
院生たちが絶叫する。
「最大段階です!」
「解析やめて!」
ドゥドゥドゥドゥドゥ!!
壁が震える。
モニターが割れる。
論文データが吹き飛ぶ。
教授がなおも呟く。
「“クックル”とは……」
ガラララ。
背後の扉が完全に開く。
中は白い空間。
看板が見える。
『エリア55 学術区画』
「区画増えてる!!」
「専門部署あるのかよ!!」
クックルが教授を軽々と担ぐ。
「待て……論文が……」
ドゥ。
「ぐっ」
そのまま扉の中へ。
ガラララ。
閉まる。
消える。
研究室は半壊。
ホワイトボードには残された文字。
クックル=
その先は空白。
院生が震えながら言う。
「教授は……」
研究員が小声で答える。
「学術区画送りだ」
「そんな区画あってたまるか!!」
遠くで。
ドゥ。
と音がした気がした。