毎月残業三百時間。
残業代は出ない。
手取りは五万。
税金と謎の天引きで、口座はいつも空に近い。
それでも会社は成長中らしい。
ニュースリリースでは「急成長ベンチャー」と呼ばれている。
問題になるから自分でやれと言われた。
やりがいです。
扉は会議中でも出る。
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深夜二時。
オフィスの蛍光灯が無機質に光っている。
コーヒーの空き缶が机に並び、
キーボードの音だけが断続的に響く。
誰も雑談しない。
誰も時計を見ない。
見たところで意味がない。
「おい」
部長が通路をゆっくり歩く。
「進捗どうなってる」
「……七割です」
「七割?」
机を叩く。
「七割で満足してんのか」
「いえ……」
「やる気あるのか」
別の社員が小さく言う。
「残業が……限界で……」
「残業?」
部長は鼻で笑う。
「自主研鑽だろ」
「社会人として当然だ」
「やりがいを感じろ」
会議室に全員集められる。
社長が巨大モニターの前で腕を組む。
「利益は右肩上がりだ」
グラフは美しく伸びている。
「我々は社会に価値を提供している」
拍手はない。
「給料が少ないのは投資だ」
「会社への信頼だ」
誰も目を上げない。
部長が一人の社員を前に押し出す。
「こいつ、顧客対応でミスをした」
社員は震えている。
「問題になるから」
部長が静かに言う。
「自分でやれ」
拳がゆっくりと上がる。
頬に当てる。
鈍い音。
「もっとだ」
もう一度。
「反省が足りない」
三度目。
会議室は静まり返る。
上層部は無言。
利益のグラフだけが伸び続ける。
そのとき。
ガラララ。
会議室の壁に、木製の引戸が現れる。
音は小さい。
誰も気づかない。
「ほら、やりがいだろ?」
部長が笑う。
( ゚∋゚)「クックル」
社員の拳が止まる。
全員が振り向く。
「……何だその鳥は」
( ゚∋゚)「クックル?」
首をかしげる。
「誰だ入れたのは」
部長が近づく。
「ここは会社だぞ」
(#゚∋゚)「クックルクックル」
空気が沈む。
社員たちが自然と一歩下がる。
ドゥ。
部長の頬が横に跳ねる。
「なっ――」
ドゥ。
机が真っ二つに割れる。
ドゥ。
社長が椅子ごと吹き飛ぶ。
「警備を――」
ドゥドゥドゥ!!
上層部が壁に叩きつけられる。
「これは……暴力だ……!」
ドゥ。
「コンプライアンス違反だ……!」
ドゥ。
床を転がる部長。
「問題になるから……」
ドゥ。
「自分で……」
ドゥ。
言葉が折れる。
社員たちは、ただ見ている。
誰も殴られない。
誰も触れられない。
( ゚∋゚)「クックル」
静かに鳴く。
背後の扉が開く。
白い空間。
看板が揺れている。
『エリア55 労働環境改善室』
「部署あるのかよ……」
誰かが呟く。
クックルが部長の襟首を掴む。
社長も引きずる。
ガラララ。
扉が閉まる。
消える。
会議室は静寂。
割れたモニターのグラフが止まっている。
誰かが小さく言う。
「……定時だ」
誰も止めない。
社員たちが立ち上がる。
蛍光灯の光が、少しだけ柔らかく見える。
遠くで。
ドゥ。
と音がした気がした。