一般流浪人がスタレのキャラに狙われる話 作:しいたvol.3
「大丈夫だ、俺は変わらないさ。いくらか経ったら、また会おう。約束だ」
「破ったら、どうするの?」
「そうだな…その時は…」
__君が、俺を変えてくれよ。多分、君ならできるからさ。
「う゛ッ…う゛おぇ…」
また吐いてしまった。
吐いたといってもほとんど何も食べていないため、胃液だけが出る。
昨日からずっとのこの調子だ。
彼のことを考えて考えて考えて、それでもこの鈍い頭が最終的に導き出すのは最悪な結論だけ。
そんな結論を否定するように、肉体だけは拒否を示すのだ。
なぜ彼は私の約束破って、強さのためなんかに自分を変えてしまったのだろう。
数年前の小娘を一人、説得するために適当な約束をしただけだ。
私が彼を縛り付けることなど、それこそ私の本意から外れてしまう。
私の頭はそんな疑問を正論で押さえつけてくる。五月蠅い。そんなことはわかりきっている。
それでも、この数年と約2日の思考によって私の思いの矛先は彼に収束してしまうのだ。
…許せない。
私の心を弄んで、どうしようもないほど歪めた彼が、また私の元を去ろうとする?
彼には責任を取ってもらわなければならない。
彼が私を歪めたというのなら、私も彼を歪めつくしてやろう。
籠の中に閉じ込めて、少しずつ堕とす。
私の持てる愛をありったけ注ぎ込んで、彼も同じくらい捻じ曲げてやる。
そう思った時には私はもう行動をしていた。
彼にメッセージを送り、実験に協力してもらうという体で彼を監禁する。
「ふふっ、待っていてくださいね。すぐに、あなたも私と同じにしてあげます」
__失礼する。アグライア殿はいらっしゃるか?
「居ますよ。どうぞ入ってきてください」
キメラたちの世話をしてからしばらく経った。
ファイノンとの任務にも慣れ、最近は彼と骨とう品鑑定をしに行った。
服のセンスと違って鑑定眼は間違いないようである。
我も長いこと旅をしているが、彼の眼はかなり正確に物を見ているのである。
そんな頃、アグライア殿から呼び出しがあった。
彼女と会う機会はめったにないため、内心我はウキウキである。
彼女からの許可を得た我はドアを開けて部屋の中へと入った。
「お久しぶりです。あなたの仕事ぶりはオクヘイマでも噂になっていますよ。無論、私自身も金糸で見ていましたが」
__それは身に余る光栄である。これからも精進させていただく。
「もうここでの生活には慣れましたか?」
__うむ。ほかの黄金裔からの手厚い支援があった故、すぐに慣れたのである。
他の黄金裔達とも会ってみたい、というのが本音でもあるが。
「そうですか…。申し訳ありません。一つだけ、質問をさせてください」
__もちろんである。なんでも答えよう。
彼女の眼からは何も読み取れない。
彼女自身は「浪漫」の半神であり、人間性が少しずつ摩耗している。
おそらく彼女は目が見えていない。彼女自身が話したわけではないが、我は目を見れば大抵のことはわかる。
本来あるべき「感情の揺らぎ」というべきものが、彼女の瞳には一切映っていないのだ。
「過去、私とあなたが初めて会った時、あなたは強さを求めている。と言いましたね」
「では、貴方は強さの果てに何を望むのですか?」
いつの間にやら我の指に金糸が巻き付いている。
__成程。そういう話であるか…
「監視官であるキャストリスやファイノンからの評価もいい、市民からの報告でもあなたは善い人間であると言えます」
「しかし、私は皆をまとめる者として、あなたが真に信頼すべき人間か確かめなければならないのです」
正論だ。
彼女からすれば我は立場を脅かしかねない天外の人間。
加えて、我の力もファイノンやキャストリスを通して知ったはず。
つまり、これは我を仲間に加えるか否かの「最終面接」的なものである。
__強さの果てにあるのは孤独である。しかしながら、我が強さを求めるのは単に人のためであるのだ。
強さを求める道の果ては孤独だとしても、その道中には様々な出会いがある。
その道中に出会った貴方達の崇高な理念に同意したから協力をしている。それではいけないか?
彼女は短く「そうですか」とだけ答えた。
少しの間我と彼女の間を静寂が包み込んでいた。
「…貴方は信頼に足ると判断しました。今までの数々の無礼、謝罪しましょう」
__貴方は当然のことをしただけだ。謝る必要などありませんよ。
「監視も外しましょう。これからも、どうか私たちに協力してください」
__願ってもないこと。この身尽きるまであなた方に従いましょう。
「固い話はここまでにしましょうか。私個人としてもあなたと話したいのです」
その後は、彼女となんでもない話をした。
我の今まで経験した事であったり、彼女自身のことであったりした。
一見完璧に見える彼女でも憂うことは多いらしい。
「キャストリスやファイノンが貴方を慕う理由がよく分かります。特にキャストリスは少し内気な面がありますから」
「それにしても、私に求婚したのに随分とキャストリスと仲が良いのですね?
先日彼女と一緒にオクヘイマを歩いていたそうですが」
あ、ヤバい。
表情から読み取れないが、我がヘルタ殿と話している時のルアンと同じ詰め方なのである。
「…冗談です。そもそも、あの求婚は私から断ったものですから」
どう言い訳しようか必死に頭を回していると、彼女は少し微笑んでそう言った。
…あ、焦った。こういう時の女性は何よりも恐ろしいものである。
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