一般流浪人がスタレのキャラに狙われる話 作:しいたvol.3
…戻ってきたか。
黒に染まっていた意識がだんだんと戻ってくる。
それと同時に我が見たのは宿の天井だった。
あの剣が我の心臓を貫いた瞬間を、我の体ははっきりと覚えている。
記念すべき、と言っていいか分からぬが我は初めて輪廻の一つを観測したと言えるのだろう。
とはいえ、「紡がれた物語」のページはまだまだ残っている。
これから途方もなく長い時間、我はオンパロスを観測し続けるだろう。
しかしながら、後ろ向きな感情はない。
今あるのは、ただこの物語を読破したいという一読者としての思いと強者と何度でも戦えるという武人としての思いだけだ。
さあ、新たなページを開くとしよう。
次はどんなことを知れるだろうか。
まだ見ぬ黄金裔達か?それとも一度会った者たちとのさらなる親交か。
そんな期待と共に次のページを開いた。
「お前は誰だ?王たるこの僕の私室に入るとは死にたいようだな」
…目が覚めた時、我はなぜか縛られていた。
この世界はとりあえず見知らぬ男は縛る常識があるのであろうか。
どうやら我が移動してきた場所は目の前の偉そうな水色の髪をした少女の私室だったようだ。
まぁ乙女の私室に入ったとなれば責任は重大であろうが、転移する場所は選べぬ。
どうやら転移してから意識を取り戻すまで少しの時間があるようで、その間に我は縛られたらしい。
「お前は何をしに来た?返答次第では今この場で首を刎ねる」
そして、その少女のほかにもう一名。
縛られている我の首へと剣を添えている…美女?美女がいた。
__本当に申し訳ないが、今の状況を把握しきれていないのだ。なぜ我は縛られている?
「言葉遣いがなっていないな。剣旗卿」
「ああ」
目の前の少女が指をクイっと動かし美女に命令した。
瞬間、我の首へと掛かる力が強くなる。
__大変失礼いたしました。愚鈍なるわが身では今の状況が理解できぬ故、状況のご説明を賜れないでしょうか。
超痛い。これ普通に我死ぬやつである。
2回もリスキルはされたくはないのだ。今は目の前のクソガキに最大限敬意を払うとしよう。
「…剣旗卿」
「カイザーが休息をとるために私室に入ったところ、その床にお前が転がっていた。暗殺者の類かと思い拘束して情報を吐き出させようと今に至る。分かったか?」
隣にいる美女が説明してくれる。カイザーというのは目の前のクソガキのことだろうか。まさかの王であったらしい。
それにしても、よく見えていないが彼女の方向から水槽のような音がするのは気のせいであろうか。
__寛大な御心に感謝いたします。王よ、僭越ながら申しますと、我は暗殺者ではありませぬ。
むしろ、あなたに仕えたく思い侵入した次第です。
「…ほう」
__我は剣の道に通じております。それと同時に、隠形や侵入することも得意なのです。
王の私室となればそこに至るまでの警備も警戒も厳重であったはず。しかし我はそれを突破して見せました。
これが我にできる最大の技術の誇示であると邪推いたしました。
「確かに、僕の部屋までの警備は厳重だ。本来なら蟻一匹通せないほどの堅牢さを誇っている。その技術は認めよう。
しかし、剣旗卿の前で剣に覚えがあるだと?」
…どうやら、交渉を少し誤ったようである。恐らく「剣旗卿」というのは我に剣を添えている彼女のことだ。
みるからに側近らしく、そんなお気に入りの目の前で剣が得意は少し地雷であったか。
「いいだろう。そこまで言うのなら剣旗卿と今ここで斬り合ってもらおうか。彼女か僕が認めれば不問とし、この僕の配下として加えてやる。光栄に思え」
「カイザー。殺す気でやっていいのだな?」
「そうでないと困る」
ぱっと我の拘束が外れたかと思うと、地面に我の剣が刺さっていた。
クソガキの態度的にこの決闘は実質的な死刑のようなものだろう。
証拠に、目の前の剣を持った彼女からは恐ろしいまでの気迫を感じる。並大抵の剣士では歯が立たないほどに。
「剣を取れ。ワタシがお前を試してやろう」
__相当な強者とお見受けする。しかしながら、我もその道を歩むもの。遠慮というものはありませんぞ。
「ふっ、ワタシに手加減だと?随分となめられているらしい…なっ!」
超速の刺突が迫ってきた。
速いが、避けられないほどではない。
彼女の剣技は流麗で、今命が懸かっているこの状況だというのに見惚れてしまいそうになる。
先ほどから思っているが、彼女の腹はどうなっているのだろうか。腹に水があるように見える。
無駄話はここまでにするとして、とにかく彼女の剣はすっと流れるように繋がる。
一度の斬撃から次の斬撃への動きがあまりにも少ない。
しかしながら、我は受けることができる。
正直、これより強い斬撃を食らい、しかもそれを何人も同時に受けていたのだ。
我の捌きは並みのそれではなくなっている。
何分か経って、突然彼女がぴたりと動きを止めた。
「無理だな。どう攻めても崩せる気がしない」
「…ほぉ。面白い」
「カイザー。この男の剣技は本物だ。ワタシは配下に加えてもいいと思う」
冷たい戦闘時の顔を少しだけほころばせた美女は、クソガキ…カイザーへと進言した。
「剣旗卿との決闘でここまで言わせるとはな。気に入った、僕の配下になることを許そう」
…どうやら、我はこの世界で一旦生きる権利を貰えたようである。
おまけ
前回の輪廻にて…
__よーしモーディス。前回は高温ピュエロスだったが、今度は超高温ピュエロスなるもので勝負と行こうではないか!
「望むところだ。クレムノスの辞書に敗北の文字はない」
「面白そうなことをしてるね!僕を混ぜてよ!」
__む、ファイノンか。もちろんである。
しかし…ただ勝負するというのは味気ない。なにか負けた際のペナルティーを付けるというのはどうだ?
「いいアイデアだね。ベタだけど一位が最下位に何でも言うことを聞かせるっていうのはどうだい?」
「俺はそれで構わない。救世主殿はこの後すぐオクヘイマに恥をさらすことになりそうだな」
「むっ…」
__まぁまぁ。その話は後にしてその条件で勝負と行こうではないか。湯加減もどうやら整っているようであるぞ。
目の前の超高温ピュエロスを一言で形容するのならマグマである。
あきらかに湯の色が赤色で、グツグツという音を上げている。見るからに熱い!
「よーし、このオクヘイマで一番勇敢な男が誰か、今こそ知らしめる時だ!」
「フン!その威勢がいつまで続くか見物だな」
ザバァァァァ!
我らは一斉に湯へと浸かっていた。
まるで体が火に炙られているような感覚!圧倒的な熱が我らの体を包み込んだでいく。
しかしながらここで退くことは許されていない。それこそ、辛そうな表情すら見せてはいけないのだ。
それこそ漢というもの。男として生まれたからには誰しも「常識」として持っていることである。
「おや、随分と辛そうな顔をしているねモーディス。そろそろ上がった方がいいんじゃないかい?」
「まだまだ余裕だ。そっちこそ、顔色に余裕がないぞ?」
「ハハっ、この程度の温度、以前エイジリアに遠征した時の方が熱かったくらいさ」
__ハッハッハ。我もまだまだ余裕であるぞ。その減らず口がいつまで叩けるか見物であるな!
「「「…」」」
数刻後、ピュエロスには三人の男たちが揃って死んだように浮かんでいる様子が見られたそうな…
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