一般流浪人がスタレのキャラに狙われる話 作:しいたvol.3
「キミは酒の類は飲まないのか?」
クソガキ…もといカイザー「ケリュドラ」殿の配下になってしばらく。
少し前まで起こっていた黄金戦争が終了し、祝杯を挙げている最中である。
またしても戦いへとを置いているわけだが、味方になった時の目の前の彼女…セイレンスは非常に頼もしい。
それはもう鬼神の如き強さで、カイザーが彼女を信頼するのも頷ける。
__飲まないわけではないのであるが、飲んでも酔えなくてな。宴は好きである。
「ワタシも宴と酒は好きだ。皆と焚火を囲んで飲むメーレは何物にも代えがたい」
彼女は「海洋」のタイタン、ファジェイナの神権を継ぐ半神であり、それと同時にファジェイナの眷属であるセイレーンの一族だそう。
初めて彼女とあった時はその腹にある水なんだと思っていたがセイレーンと聞いて納得である。
…いや、セイレーンってそんなものなのであろうか?
「それにしても、キミが仲間に加わってからしばらく経つな。カイザーもキミのような単独で動ける強い人材は頼もしいと言っていた。」
「ワタシも…その、君になら安心して背中を預けることができる」
__ああ、我もセイレンスになら安心してこの命を預けられる。
そりゃあもう彼女みたいな強い剣士が背中に居ようものなら安心して戦えるのである。
しかし、彼女も頬が少し赤くなっているような気がする。
「その、キミはだな…」
「先生。その会話、私も混ぜていただいてもよろしいでしょうか?」
セイレンスが何かを言おうとした矢先、後ろから声がかかる。
前回の輪廻よりも声に明るさがある。それは彼女の人間性がまだ失われていないからであろう。
__アグライア。構わないが…そう面白い話をしていたわけではないぞ。
「構いませんよ。私は先生と共に居ることが好きなのです」
「む…金色のマスか。しばらく前から剣術を教えてもらっていると聞いた。調子はどうだ?」
「ええ、とても良くしてもらっています。先生は無理に私の元来のものを否定しませんから」
__もともと君の剣術は完成しているだろう。
我が教えることなどほとんどないと言っているのに…カイザー殿にも少々困ったものである。
アグライア。
今回の輪廻でも彼女とは早い段階で出会うことができた。
しかし、当然というべきか彼女は我のこと知らない。
故に彼女との関係は少し変化し、我は今彼女の剣術の先生ということになっているのである。
「ふふっ、先生は冗談がお上手ですね。あなたに教えてもらってから随分と上達したのですよ」
「…羨ましいな。今度ワタシにも教えてくれ」
__我は戦場で自由に動きたいのだが。
求められるのは嬉しいものだが、我の得手は戦闘である。
しかしながら、カイザーは本当に重要な戦い以外に我を出さない。
基本的に我がすることはほかの黄金裔たちに何かを教えることくらいである。
__そういえば、もうすぐ一回目の火を追う旅か。
黄金戦争が終結した後、オクヘイマの統治者はケリュドラとなった。
そしてその後、タイタンと討伐して火種を奪うために「第一次火を追う旅」が開始されることとなったのだ。
「ああ、タイタンの討伐…容易ではないだろうが、きっと大丈夫だ。心強い仲間たちがいるからな」
__ああ、そうであるな。我も全力を尽くそう。
また火種を集める旅が始まり、我は彼女らがいれば思いのほか簡単に終わりそうだと思っていた。
「カイザーが死んだ!」
カイザーが火種を返還したすぐ後。
オクヘイマに待機させられていた我とアグライア、そしてトリスビアスのもとにその報告が届くまでは。
__セイレンス。いや、へレクトラ。
オクヘイマ郊外。あたりが見渡せる小高い丘の頂上で、彼女は呆然と立ち尽くしていた。
カイザーの死体を確認した瞬間に気づいた。こんな斬り方で殺すのは彼女しかいないのだ、と。
「なんだ。君か」
「何の用だ?ワタシを殺しにでも来たか?」
__そういう話ではない。我はただ理由が知りたいからだ。
「…失望した。彼女はただ『法』の試練を突破するためだけに、彼女は黄金裔500人を死地へと追いやった」
「笑いものだろう?一番の忠臣として彼女に仕えていたワタシが。彼女に一生の忠誠を誓ったこのワタシが。
他の誰でもない自分の手で主君を殺したのだから」
__はぁ。
成程、そういう事情であったか。
合点がいったような、なんとなく納得も言っていないような気がして我は一つため息をついた。
「…何も、言わないのだな」
__何か言った方がいいか?どのみち歳をとった爺が君に何を言ったところで止められなかったであろう。
「そうだな。正直、今のキミだったら勝てるだろう。ワタシが強くなったわけじゃない。キミが老い過ぎた」
そう、今の我は老い過ぎていた。
黄金戦争は我の思っていた以上に続いていたし、そもそも我の寿命は彼女ら黄金裔と違う。
長く生きれて150年。剣を握れるのはもっと短い。
技術ははるかに高みへと至った。
しかしながら、もう身体はとうに戦いに身を置ける状態ではない。
__そうかそうか。へレクトラ、君の真意はよく伝わった。
我はその場に座り込み、兜を脱いで首をさらけ出した。
そろそろ死に時であろう。アグライアにも迷惑をかけることが多くなってきていたのだ。
セイレンスは目を細めて、拳を握りしめていた。
「…まさか、キミも逝くのか?」
__ああ、正直限界でな。迷惑をかけるが、君に介錯を頼みたいのである。
「…ふざけるな!お前はいつもいつも!」
「ワタシだって悲しいんだ!主君をこの手で殺して苦しくないわけがないだろうが!
それなのに…お前はまたその苦しみを与える気か!?」
セイレンスは初めて氷のように固まっていた表情を崩した。
その表情は感情を剝き出しにして泣く子供のようにぐしゃぐしゃで、とても人に見せられたものではなかった。
しばらく、彼女はその場にぺたりと座り込んで泣いていた。
いくらか経ったあと、彼女は立ち上がって剣を握りしめてこちらへ来た。
どうやら、意志は固まったようだ。
__一つ言うが、我は帰ってくるぞ。何年かかってもな。
「…そうか。心に留めておく」
彼女は我の後ろへと経って、ふうと一息ついた後、剣を上へと振り上げた。
__迷うな。その剣に曇りを生ませてはいけない。
ふっ…と、我の意識は黒へと染まっていった。
おまけ
「メーレだ!もっとメーレをよこせ!」
__セイレンス、飲みすぎだ。あと食いすぎである。
宴で用意されていた大量の食べ物がその腹へと吸収されていた。
その細い体のどこにその量の食べ物が入るかと非常に疑問である。
「何を言う!私はまだまだ食えるし飲めるぞ!そら、ヨロイももっと飲め!」
…明らかに目の前のセイレンスは酔っぱらっている。
いつの時代のどこだとしても酔っ払いは面倒くさいのだ。
「ほら、見てみろ。これが『カイザーサラダ』だ。中々おいしい」
ふざけた名前だ。
こんな料理カイザーが見たら命名者を打ち首にするに違いのである。
無理やりセイレンスに兜の隙間からサラダをぶち込まれた。
うむ、中々おいしいのであるな。名前以外はいい料理である。
「む、ヨロイ殿ではないか。それと…剣旗卿か、しかも相当酔っていそうだ」
__ん?断峰卿か。冬霖卿との話はもうよいのか?随分とお楽しみの様であったが。
「う、うるさい!誰があのような女といい感じなどと…」
そこには断峰卿がいた。
彼もこの軍の中で相当の精鋭である。
気風ある屈強な戦士といった感じで、ちゃんと良識がある。
__いい感じではないか。もう情事は済ませたのか?
「な、ななっ…!」
「確かに、二人はワタシの眼にもお似合いに見えるぞ。…情事…か」
セイレンスからじっとりとした視線を感じる。
分かる。ここでセイレンスに捕まったとしたら確実にクソ面倒くさいことになると。
__断峰卿、健闘を祈る。
我は神速にも見紛うスピードでその場を離れることにした。
この場においては「脆術」の半神セファリアですら我に追いつくことはできないであろう。
これは男の尊厳を守るための名誉ある逃走である。
「何!?っておい!待てヨロイ殿!ウォォォ゛゛!!!」
我は振り返らないことにした。
火を追う旅は喪失の道である。たとえ仲間の尊厳が失われようと、それは仕方のないことなのだ。
・セイレンス
おもしれーお姉さん。長いことヨロイさんと背中を預けて戦う仲だったものの、最後は主君とその仲間を殺す羽目に。あーカワイソ
・ケリュドラ
カイザーが死んだ!ヨロイさんのことはまぁまぁ大事にしていた。
・アグライア
多分いきなりおじいちゃん先生が死んだくらいの悲しみはある。
・ヨロイさん
初めての寿命死(?)。黄金裔と比べればその生涯の長さはハムスターみたいなもん。
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