一般流浪人がスタレのキャラに狙われる話 作:しいたvol.3
彼は出会った時からとっても不思議な人だった。
入ってこれないはずの私の部屋まで侵入してきて、挙句には「自分は危ないものでない」ですって。
今思い返しても笑ってしまう。全身鎧の人が急に入ってきて、疑うなってほうが無理よね。
でも、彼は実際危ない人物じゃなかった。
聖女として、私と母様はずっとこの部屋に閉じ込められて、たまに予言を聞くだけの日々。
その母様も、事故死という形でいなくなってしまった。
私も母様もこのままこの国の傀儡として生き続けるのだと思っていた。
そんな日々をちょっとだけ変えてくれた。
彼が語ってくれる不思議なお話を聞いて、そうしておやすみの時間になってさようならをする。
そんな日常が、とっても幸せだった。
「また明日」
私が言った何気ない一言。でも、私にとってはとっても大事な一言を、ずっと守っていてくれた。
ヤーヌスの火種を盗むときだって、彼は何を言わずに手伝ってくれた。
戦えない私のために、道を切り開いてくれた。
__道は、我が開く。だから進め、貴殿は『明日』を紡ぐために走るのだ。
彼は何本だって矢を受けて、何人の兵だって蹴散らした。
ついに火種を手に入れて、私は半神と成った。
本当はもう少しだけお話ししたかったけど、今はそんなことしていられない。
「私」の自我は千人に分裂し、明日を紡ぐための長い旅が始まった。
この先のことはよく知らないけれど…きっと、彼は「私たち」を守ってくれるんでしょうね。
我、流浪の身である。
しばし前にトリスビアスが半神と成る瞬間を見届けたのだが…
彼女たちは千の破片となり、我もあまり所在を知ることはできていない。
しかし、火種が6つ変換される頃には彼女たちもたった3人へと減ってしまうのだ。
我も、出来る限り彼女たちを守らねばならない。
トリスビアスとしての彼女たちの意志を、我はしかと見届けたのだ。
そんなわけで、我はいったんヤヌサポリスを離れ、オクヘイマへと出向いていた。
なんだかんだ長く過ごしているのはオクヘイマであるし、ここには大量の情報が集まる。
やはり昔のオクヘイマもさして変わらず栄えているなと思っていると、裏通りらしいところへと辿り着いた。
あたりも薄暗く、人通りも少ない。
そこには建物こそあれ人の気配はしない。ただそこに木箱などの荷物が存在しているだけだ。
早くここから出ようとさまよっていると、なにやら奥の方に木箱に座っている人影が見えた。
逆光で見えぬが、おそらく子供である。
近づいていくと、だんだんとその影の正体は鮮明になってきた。
金色の髪をした少女である。つまらなさそうに地面を見つめ、足をぶらぶらとさせている。
不思議に思った我は、その少女へと話しかけることにした。
のだが、その少女はこちらの存在に気づくなり少し距離をとってしまった。
「…誰でしょうか。」
__これは失礼。名も知らぬレディよ。我は決して怪しいものではない。しかし、この人通りの少ない路地に君のような少女が一人でいるのは危険ではないのか?
「…」
訝し気にこちらを見つめてくる少女。
見た目こそ少女ではあるものの、その佇まいや言動からして良家のお嬢様といったところだろうか。
というか、その存在が猶更なぜここにいるのかがよくわからぬ。
この歳の女子が考えそうなことはよくわからぬ、とりあえず適当に可能性を探って言ってみることにするのである。
__無粋なことを聞くが、まさか家出をしているのか?
「…」
帰ってきたのは沈黙、それと俯きだけだった。
ぐう、とお腹が鳴った。
無論我の腹からではない。とすれば目の前の少女だけである。
どうやら空腹のようだ。古来から食事というのは有効なコミュニケーション手段であるのだ。
目の前の少女に心を開いてもらえるチャンスかもしれない。
__食うか?
我はたまたま外の屋台で買ったオートミールパイを差し出した。
少女は我の言葉とその匂いに気づいたのか、俯いた顔を上げた。
眼をキラキラと…はさせていない。ただ顔は嬉しそうである。
しかし、はっと何かに気づいた様子をみせると、ふいっとそっぽを向いてしまった。
「け、結構です。そうやって私を篭絡するつもりでしょう」
あながち間違いではないのだが、言い回しが犯罪集がするのでやめてほしい。
オートミールパイで幼女を篭絡しようとする男がこの銀河のどこに存在するというのだろうか。
__そうか…ならばこのパイは捨てるとしよう。生憎、我は今とても腹がいっぱいなのだ。
「え…」
__はぁ。残念だ。我が不甲斐ないばかりにこのパイは道端へと捨てられ地面へと還ることになるのだな…
わざとらしく残念そうにしてとぼとぼと帰ろうとする。
後ろからうめき声が聞こえる、おそらく葛藤しているのだろう。
「ま、待ってください!」
__む、何か用であるか?
「い、頂きます。食べないと、そのパイがかわいそうですから」
恥ずかしそうにこちらへと手を差し出してくる少女。
作戦がうまくいきすぎて怖いのである。
この少女大丈夫かと思いながら、オートミールパイを渡すと、やはり空腹だったのかすぐにおいしそうに食べだした。
その時の顔だけは、年相応の可愛らしい少女の顔だった。
__もう一つあるのだが、食べるか?
「…いいのですか?」
本当は自分の分だったのだが、幸せそうな顔を見ていたらもっと食べさせたくなった。
__気にするな。君に食べてもらった方が、きっとこのパイも喜ぶ。
「お礼は、できませんよ」
__ハハ、子供に代価を要求するほど腐っていないさ。
「む…子供ではありません!」
金色の綺麗な髪をふりふりと揺らして彼女は怒ってしまった。
おっと、この年頃の女子に子供扱いは禁句であったか。
__失礼、レディよ。ところで、名前を聞かせてもらってもよろしいかな?
少女は食べるのをやめて、あらためて我の方へと向き直ると、ふふんと嬉しそうにしゃべりだした。
「私の名前はアグライアといいます」
__はぁ?
おまけ ヨロイさん、初めての老衰死の巻
「はぁっ、はぁっ」
アグライアは走っていた。
半神と成ってからしばらく、このように恥も外聞もなく外へと駆け出したのは初めてである。
アグライアがそのようなことをしてまで走る理由は一つ。
自身の尊敬する師の一人である鎧の男が危篤との知らせが入っていたからだ。
アグライアも理解できていないが、なぜだか走らなければいけない気がした。
息を切らしながらなんとか彼の病室へとたどり着くと、一つ深呼吸をして彼が無事であることを祈った。
そして扉を開け、目の前の光景を知覚する。
__アグライアか?
「ええ、そうですよ。先生」
今目の前の彼は、虫の息だった。
もうほとんど命の灯は消えかかっている。
アグライアは、今この感情を理解できない。うまく、その胸に渦巻くものを顔へと出せないのだった。
__我はそろそろ死ぬようである。最後に、君の顔が見れてよかった。
「そうですか。それはとても光栄なことです。今までお世話になりました、先生」
上手くその感情を前に出せないが故に、冷たい返事になってしまう。
淡々と、中身のない返答をしてしまう。その顔に張り付いた神としての仮面が、へばり付いて離れなかった。
そんな状態が気持ち悪く思えて、アグライアは彼のとの思い出を語りだした。
なるべく、昔の彼女であろうとするために。
男はそんな彼女を目を細めて見つめると、もうほとんど消えかけの声でアグライアへと最期の言葉を紡いだ。
__アグライア。下手な演技は辞めなさい。無理に君であろうとするな。
「…ぁ」
そう言うと、彼はふっと眠ったように動かなくなってしまった。
そんな彼の顔をしばらくの眼を見つめていた彼女は、自分の頬へと涙が伝っているのに気付いた。
その涙の理由を、彼女は理解できなかった。
・ヨロイさん
下手な演技は辞めなさい。無理に君であろうとするな(無理して昔のようにしなくても、君の気持ちはよくわかってるよ。無理しないで!)
・アグライア
下手な演技は辞めなさい。無理に君であろうとするな(お前みたいな化け物が無理に人間だった頃の真似をするな。見苦しい)
・トリスビアス
また明日!ヨロイさんが加わった輪廻の内ほとんどは3人以上生存している。
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