一般流浪人がスタレのキャラに狙われる話 作:しいたvol.3
我、流浪の身である。
オンパロスの歴史もほとんど終わりへと近づいている中、なぜか荒廃した世界へと飛ばされてしまった。
とりあえずあたりを散策してみるが、やはり古びた建物しかない。
それと、転がっているのは奇妙な造物たち…たまに襲い掛かってくるのも居るが、大した脅威にはなりえない。
定期的に造物たちをなぎ倒しながら歩いていると、少し大きな建物らしきところに着いた。
中へと入ってみると、目につくのは残骸。
しかし、そこらの本棚や建物ではない。
黒い外套、そして仮面。これは…フレイムスティーラー。かつてのファイノンか?
「…あなたも、来ていたのですね」
不意に後ろから声がかかり、我は背後の声の正体を確かめるようにゆっくりと振り向いた。
驚いた。まさか、このような場所にも「彼女たち」はいるというのか…
__ああ、初めまして。我は決して怪しいものでは…
「いいえ、初めましてではありませんよ。ヨロイ様」
目の前の少女…キャストリスは我への微笑みとともにそう答えた。
__失敬。久しぶりか?キャストリス。
「ええ、お久しぶりです。また、あなたとお会いできたことがとても嬉しいです」
__しかし、覚えているのだな。どこまでだ?開拓者と旅した時からか?
「全てです。およそ3000万回、すべて覚えています」
__ほぉ、それは結構なことだ。
キャストリス曰く、ここは時の果て。ファイノンが鉄墓を封じ込めるために施した封印三つの内の一つらしい。
他の黄金裔たちも最後の十二タイタンとして、きたる決戦のためにこの場で開拓者たちを待ち受けているのだとか。
たち、というのはキュレネや丹恒殿、そしてなのかがタイタンとして神権を引き継いでいるからだと。
な、なのか…?いつの間にタイタンとなっていたのであろうか。
しかし…もう決戦直前の時まで飛んでいたか。なんとか、鉄墓の戦いには間に合ったようでよかったのである。
「恐らく、開拓者さん達がここへと来るのはもう少し後になるでしょう。今はモーディス様とお話ししている頃でしょうか」
キャストリスはそこらの瓦礫へと腰かけた。
なんというか…キャストリスが上品なのも相まって非常にこの荒廃した雰囲気とマッチしている。
「少し、お話をしましょう。彼らが来るまででいいですから…」
__もちろん。と言っても、我は特に話題はないのだが。
「そうですか?では私が話題を出しましょうか…」
「例えば、私とした約束とか。でしょうか」
ピシッと、我の動きが固まった。
鎧の内側から冷汗が止まらぬ。
__はて、なんのことだったか…。
「あなたと初めて過ごした輪廻で、私はあなたが自死するところを見ました」
なんと…見られていたらしい。
当時の彼女にとって相当ショッキングな光景に違いない。
ああ、やってしまった…
「もう死ぬことは辞めてくださいと。そう約束しましたよね?」
__その一件に関しては本当に申し訳ない…。どう詫びればよいか。
我が正座で小さくなっていると、キャストリスはふふ、と小さく笑った。
「冗談です。あなたには必要な事だったのでしょう。ですが、何の罰もないというわけには、いきませんから…」
そう言いながら、キャストリスは両手を広げてこちらへと突き出すようにしてきた。
これは…どういう意味なのだろうか。
暫く我が立ち尽くしていると、キャストリスが恥ずかしそうに頬を赤らめて行った。
「そ、その…私と、抱擁するというのは如何でしょうか…」
ああ、なるほど。
今から死の権能で殺してやるから早く触れということだな!
「…とても嫌な勘違いをされた気がします。今の私は死だけでなく生の権能も扱えますから、ヨロイ様は命を落としませんよ」
どうやら普通にハグをしたいだけだったようだ。
多くの輪廻の中で我の心は猜疑に染まってしまったらしい。深く反省した。
そして我はキャストリスと抱擁した。
感想は…なんというか、暖かかった。後柔らかかった。
ちなみに、我は3000万回輪廻を経ても童貞である。
なんで卒業できなかったのかというと、我の童貞卒業へのハードルがめちゃくちゃ上がっているからである。
童貞は面倒くさいのだ。しかも比喩抜きで万年拗らせている。
もういっそのこと我を殺してほしい。
我は天然の美女のお姉さんに童貞を貰ってほしいのだ。傲慢で申し訳ないが、これは我の命より大事なことである。
「とても幸せです…。結局、どの輪廻でもあなたに触れるときは常に死が絡んでいましたから」
「今はただ、あなたと抱擁できることが限りなく幸せです…」
__キャストリス。
「すみません。もう少しだけ…こうさせてください」
__違う。星たちが来ているのだ。
「えっ」
我の胸へと顔をうずめていたキャストリスが顔を上げると、そこには生暖かい目で見つめる星たちの姿があった。
「お邪魔しちゃったみたいね。お二人はまだそこで愛を育んでいて頂戴♪」
「ちっ、違います!これは…ああぁ」
『おおっ、引きこもり姫大胆~!今まであんなに奥手だったのにね!』
__うん?ああ、セファリアもそこにいるのか。
なにやら金色の精神体の状態でモーディスとセファリアがそこに立っていた。
彼らは今タイタンな訳だし、実在する肉体など必要はないのだろう。
『久しぶりー。ゆっくり思い出話と行きたいところだけど、今はそんな時じゃないよね。…それにしても引きこもり姫は…フフフ』
「…うう」
__…ほら、他の黄金裔たちが待っているんだろう。そろそろ辞めていくのである。
その後、我は星たちへとついていくことにした。
ファイノンが残した封印の空間の中ではアグライアやアナイクス殿など…ほかの黄金裔たちもいた。
カイザーとへレクトラだけは空間から弾かれているようだが…まぁ、決戦の時再び会えるならそれでいいだろう。
それにしても、星以外の者達が変わりすぎである。
なのかは黒と赤を基調とした闇感のある服装をしているし、丹恒殿は背が伸び飲月の状態とはまた違った竜の姿に。
そしてキュレネは…普通に美女になっていた。これがあのミュリオンか?記憶とは不思議なものである。
さて、その調子で我らは全員の黄金裔たちを象徴する記憶を集め、ついにファイノンへと会いに行った。
彼を倒すことによってその封印は解かれ、ついに鉄墓は誕生したのである。
そして我らは黄金裔たちと共に鉄墓と対峙した。
輪廻を超えた彼らタイタン、そして開拓者たちは紛れもない強者、しかし鉄墓の力は強大すぎた。
我も全力を出して戦ったのだが、ほとんどダメージは与えられなかった。
そして一度、鉄墓によって銀河中の命は全て失われた。
その時、キュレネが記憶の力ですべての人々を記憶として保護した。
そしてキュレネと開拓者の手によって、この物語の最初の一筆を刻み込んだのである。
さて、もう一度鉄墓へと立ち向かう機会を得たわけだが…
今回はどうやら、ダメージが通るらしい。
タイタン達と協力しつつ、開拓者は鉄墓を破壊することに成功した。
我も鉄墓の腕を切り落としたときは爽快だったものである。
さて、その後も鉄墓はウイルスとなってまだ足掻こうとしていたわけだが…
それは彼ら黄金裔たちが一つの矢となり、開拓者がその矢を射ることによって完全に消し去った。
そしてキュレネはオンパロスの因果を固定するため、浮黎となって過去のオンパロスの因果を固定した。
これにて、紡がれた物語は完結、というわけである。
__成程。そういう事だったのだな、キュレネ。
「とっても素敵な物語だったでしょ?おっきな鎧さん」
__ああ。それはもう、な。
鉄墓との戦いの後、我とキュレネだけは別の空間で個人的に話していた。
なんでも、我がこの因果にない存在だったのは気づいていたらしい。
まぁ別に大筋の因果を変えたわけではないので、今回は見逃すとのこと。
「でも、これ以降は前の因果に入っちゃダメよ?」
__入っちゃダメというか。そもそも入れんのである。
我だって前のページを開いたら過去へ戻れるのかと思い何回か試したのだが、結局前にしか進めなかった。
結局、今我が存在できるのはキュレネが残した物語の数行の空白だけである。
「でも…せっかくここまで読んでくれたのだから、ちょっとくらいサプライズがあったっていいわよね?」
キュレネはふわっと微笑むと、我へと指をコツンとあてた。
「あなたを物語に書き記すことはできないけれど…『永遠の1ページ』には飛べるようにするわ。オンパロスが返ってくるまでの間、彼らと楽しんできて頂戴♪」
キュレネが我の背中側に回り、ぐいっと背中を押すと、先ほどまで真っ白の上下左右の間隔が薄い空間にいたにもかかわらず、我は落下していくようにキュレネから離れて行った。
「また会いましょう?大きな鎧の戦士さん?」
目が覚めると、我は知らぬ場所で立っていた。
見渡せば、花や緑が豊かな神殿といった感じである。
オンパロスで例えるなら昏光の庭のような…
まさか、ここが「永遠の1ページ」だというのだろうか。
「あれ?ヨロイさんじゃないか!おーい!」
前から見知った男…ファイノンが走って近寄ってくる。
「ヨロイさんもここに来たんだね。会えて嬉しいよ」
__ああ。どうやらキュレネが便宜を図ってくれたらしい。
「なるほど…。ということは、ヨロイさんはいつでもここに来れるって事?」
__ああ、我もしばらくここに滞在しようとは思う。しかし、我はこの「紡がれた物語」を星へと返さねばならんのである。
故に、いつでも会えるというわけではなさそうだ。
「それは残念だな…でも、永遠の別れってほどじゃないし、すぐに帰るわけじゃないんだろ?じゃあ今日はみんなと話していこうよ!」
ファイノンはウキウキといった様子で我をみんなのもとへと案内しようと躍起になっている。
おお、ここまで元気なファイノンの姿はいつぶりだろうか。
「じゃあまずは近くに居そうなアグライアに…」
「その必要はありませんよ。ファイノン」
そっと、我の肩に手が置かれた。
それと同時に、我の視界へとその金色の髪が映る。
「あの時はあまり話せませんでしたから、私とお話ししていただけますか?先生」
__その呼び方をするのは後にも先にも君だけであろうな。アグライア。
正直、先生という呼ばれ方はあまり慣れていない故に少し照れる。
というか、我が彼女に先生として教えた機会は輪廻多しといえども百回もない筈なのだが…
「おや?先生という呼び方は些か不適でしたでしょうか…先生の考えの一旦も理解できぬような者は生徒ではないと…」
「そう、ですよね。あの時だって、無理に感情を取り繕おうとする私へ叱責を…」
(ちょ、ちょっとヨロイさん。アグライアが落ち込んでいるよ!何とか慰めてあげないと)
我と目が合ったファイノンは顔と身振り手振りでそう伝えてきた。
__ちょ、ちょっと待った。アグライア、落ち込むのはまず状況を説明してからにしてくれ
目を伏せて悲しそうにするアグライアを説得し、何とか状況を聞き出すことができた。
『アグライア。下手な演技は辞めなさい。無理に君であろうとするな。』
とある輪廻で、という言葉を我がアグライアに対して言ったと。
無理に感情を取り繕って人間であろうとすることは見苦しいと、お前の様な化け物がそのようなことをするなと、先生から言われたことがとても悲しかったのだ。と告げられた。
__アグライア、誤解しているかもしれないが、我は君に無理をしてはいけないという意味でそう言ったんだ。
君が不出来なことなどあるものか。
それを聞いたアグライアは、安心しつつもどこかまだ自分を責める様な悲しい顔をしていた。
「そうだったのですね。ですが、私は先生の言葉を曲解し、勝手に傷ついてしまったのですか…」
(これ、余計に悪化していないかい?)
(ヨロイさん、当事者としてなんとかしないとダメだと思うんだ)
(そう言ったって、どうしたらいいというのだ。)
(ハハッ、決まってるだろ?それはね…)
ファイノンがキメ顔とともに小声で伝えてくる。
(ハグとキスさ!)
よし、ファイノン。お前はこの剣の錆にしてくれよう。
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