一般流浪人がスタレのキャラに狙われる話 作:しいたvol.3
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「先生…?」
我に阻まれ、腕の中のアグライアは先の言葉が聞こえていなかったらしい。
しかし、我の様子が変わったことで気づいたのだろう。
「うふふっ、ライアちゃん。ヨロイさんと『なかよし』なのね♪」
「し、師匠…」
言っている内容は明るい。しかし、声色が死んでいるのだ。
アグライアもどうやら我の背後の人物に気づいたらしい。
声と呼び方からして、我の背後にいるのは誰かは分かっている。
少しでも現実から逃避したいがために振り向かないだけだ。
我はアグライアから手を放し、少しだけ距離を取った。
…できるだけ振り向かずに帰りたいのだが、そうもいかないので覚悟を決めて振り向くことにした。
やはりというべきか。
そこに待ち受けていたのは、トリビー達でない、本来のトリスビアスとキャストリスだった。
__待て。違う、全くの誤解である。トリスビアス。キャストリスもだ。
「へぇ」
「そうですか」
__我はただアグライアを慰めるために斯様なことをしたのだ。
「ふぅん」
「…」
冷たい。相槌が薄すぎる。
もはや我の言い訳など無に等しい時間稼ぎに過ぎないのだと知った。
「言い訳、終わった?」
「私の時は、兜を着けたままでしたのに…」
我は遥かなる空を仰いだ。
ああ、なんと美しい理想郷か…
アグライアを帰した後、この二人からの説教と慰めに半日を要した。
…どうしてこうなった。
状況を説明しよう。
我は彼女ら二人から罰?として膝枕を要求された。
ちなみに、この罰の以前に我はトリスビアスからピラヴロスを顔面へぶん投げられた。
この場所の特性故かダメージはないのだが、どちらかと言えば精神へと来るものがあった。
しかし、膝枕は一人一人しかできないので、厳正なるじゃんけんの結果キャストリスが膝枕となった。
キャストリスを寝かせ、トリスビアスは後ろから我に抱き着いている状態である。
もちろんのこと鎧は脱いでいる。というか剥ぎ取られた。黄金裔たちは鎧を剥ぎ取るのがお上手らしい。
もう一度言おう。どうしたこうなったのであろうか。
傍から見れば薄着の筋肉モリモリマッチョの男が美少女二人を侍らせているという、普通に異常な光景が繰り広げられているであろう。
付け加えると、この状況になってから既に3時間経過していのである。
見下ろせばキャストリスがすやすやと気持ちよさそうに寝ている。
そして後ろからはトリスビアスの息遣いと心拍だけが小さく伝わってくる。
「キャスちゃん、寝ちゃったわね」
__そうであるな。彼女は一人で抱え込んでしまうようなタチであるし、こういう時くらいは休んでほしいのである。
「ここでは二匹のキメラを飼って楽しそうにしているわよ。妹さんとも仲がよさそうだし」
__そうか…良かった。
「私も」
__うん?
「私も、ちゃんと戻ってこれた。なぜか私たち…トリビー達もいるけど」
__ここは記憶として集まる場所だ。あの時、体が千に分かれた時点で別物という扱いであったのだろう。
「でも、私たちの記憶は共有された。つまり、千に分かれた後の記憶もちゃんと残ってる」
少し、トリスビアスが我の体を締め付ける力が強くなった。
「ちょっと不安だったの。約束、ちゃんと守っててくれるかなって」
「杞憂だったんだけど…あなたは、ちゃんと私たちのことを死力を尽くして守ってくれていた」
__それでも、救えぬ命はあった。
「仕方ないわ。もともとそういう覚悟だったんだもの。あなたが居なきゃ、結局三人まで減っちゃったんだし」
「…まさか、ここまで皆を誑かしてるとは思わなかったけど。思ったよりライバルは多いみたいね」
「落ち着く背中…この背中にどれだけの私が守られたことか」
「…んぅ…ヨロイ…様…忘れない…で…」
トリスビアスと話していると、膝元のキャストリスが苦しそうに呻いていた。
「あら、悪夢かしら?」
トリスビアスはするりと我から手を解き、キャストリスの頭を優しく撫でた。
そうしている彼女を姿を見ていると、まるで聖母のようだと錯覚してしまう。聖女だし間違いではないのであろうか?
「大丈夫…大丈夫よ。ほら、ヨロイさんもキャスちゃんを撫でてあげて」
__む?しかし我より貴殿の方が適任であろう。
「…はぁ、呆れた。いいからッ、やるの!」
トリスビアスに無理やり片腕を持たれ、キャストリスの頭に手を置かされる。
小さい頭だ。我の手の大きさでは彼女の頭がすっぽり収まってしまうサイズである。
さらさらとしている彼女の髪の上からたどたどしく撫でると、彼女の苦悶の顔が少し和らいだ気がした。
「…んっ…すぅ…」
暫く撫でていると、どうやら落ち着いたようだ。小さな寝息が規則正しく聞こえてきた。
「ほら、やっぱり効いた」
「今は違うけど、黄金裔以外でこの子を恐れない人は珍しかったのよ。孤独の渇きを感じていたこの子に、あなたなんて劇物が加わったら、それはこうなっちゃうわよね」
__劇物とは失礼な。イロモノである自覚はあるが。
しばらく、この状態は続いていた。
我の脚は死んだ。キャストリスが起きてからとても謝っていたが、『ハハ、自死の痛みに比べればなんともない』と言った。
キャストリスは泣きそうになってしまい、結局また抱きしめることになってしまった。
呆れた顔をしたトリスビアスにピラヴロスをありったけ撃ち込まれたのは、忘れておこう。
おまけ
ある寒い日の事だった。
雪が降ることはさほど珍しくないエイジリア。しかし、その日は特に猛吹雪があたりを包んでいた。
そんな中に一人の少女がいた。
名前はキャストリス。未だオクヘイマへと合流せず、各国家を巡ろうとしている若き黄金裔である。
彼女がふと立ち止まってほぅ、と息を吐けば、白い吐息と共に彼女の体温は逃げて行った。
コートは羽織っているものの、道は険しく吹雪もひどい。
それでもこんなところで立ち止まるわけにはいかず、どこか休憩できるところはないかと彷徨っている。
しかし、彼女をもっとも凍えさせているのは吹雪でも、このエイジリアの大地でなく、孤独だった。
生まれた時から触れた者の命は散ってしまう。
誰と触れることもできない。花すら枯れてしまう、この力は必然的に彼女を孤独にした。
それでも凍えながら前へと進んでいると、前方に光が見えた。
吹雪に包まれていてはっきりとは見えないものの、ぼんやりと暖かい光が見えている。
「…む?旅の者か」
前へと向かっていくと、その光の正体は一人の男が持っていたランタンだった。
男は彼女に気づき、少し立ち止まった。
見上げるほどの巨体に、大きな鎧。キャストリスは今までに見たことのない威圧感のある格好をした男に、少しだけ委縮した。
「その恰好では寒かろう。この火を持っていきなさい。」
そういうと、彼は火の灯ったランタンを手渡そうとした。
反射的に、彼女は手を引っ込めてしまった。
「ッごめんなさい。でも、こんな貴重な物いただけないです。あなただってこんな吹雪の中…」
「…ふむ。行先は?」
急に行先を聞かれたキャストリスは、少したじろぎながらも行先を答えた。
「成程。ちょうど我もそこへ向かおうとしていたのだ。貴殿が良ければ、同行してもよろしいかな?」
「え…」
「ランタンは君が持っていてくれ。いらなくなったら、返してくれればいい」
そう言って、男は彼女が行こうとしていた方向へと歩き出してしまった。
キャストリスは慌ててランタンを拾い、彼の隣へと追いつき、歩き出した。
ランタンの熱が彼にも伝わるように、なるべく近くに。
吹雪は衰える様子がない。
それでも彼女の心は、今までにないほど暖かかった。
その後、男が近づきすぎて手が触れてしまい、そのまま光の粒子となって消えたという。
ヨロイさん
・結構ギャグみたいな死に方もあった。
キャストリス
・もうちょっとヨロイさんの事は恨んでいいと思う
トリスビアス
・ママ…ママ…
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