一般流浪人がスタレのキャラに狙われる話   作:しいたvol.3

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我、流浪のものである29

泣きそうになっていたキャストリスを一通りなだめ終わり、何とか我は解放された。

 

我はすぐさま駆け出した。

かの邪知暴虐のカスライナを除かねばならないと決意していたからである。

 

しばらくこの空間を走り抜けていると、ファイノンが廊下らしきところを歩いているのが見えた。

すぐに角を曲がってしまったが、走れば確実に間に合うであろう。

さらに速度を上げ、角を曲がろうとした。その時であった。

 

ドンッ!

 

「きゃぁっ!」

 

ちょうど曲がり角から出てきていた小さな影とぶつかった。

 

__も、申し訳ない。怪我はないだろうか…

 

「だ、大丈夫です。ちょっとビックリした…だ…け…」

 

声の主は我の方を見つめると、言葉が途中で止まってしまったようだ。

我も声の方向へと顔を向けると、そこには見知った顔があった。

 

「よ、ヨロイたん!?ヨロイたんじゃないですか!」

 

なんと、声の主はヒアンシーだった。

相当驚いたのか、先のぶつかった件はどこへやら、すぐに立ち上がり我の方へとグイグイ迫ってきた。

 

「怪我はありませんか!?どこも傷みませんか?」

 

__平気だヒアンシー、貴殿こそ大丈「私のことはいいんです!」

 

鬼気迫るといった表情で彼女は我の身体の隅々まで触り、傷がないか確認してきた。

我が大丈夫だといっても聞かずに必死に調べている。

暫くすると、彼女はほっと息を吐いて我から離れた。

 

「…とりあえず、外傷はありません。でも内臓に響いてるかも…」

 

__ヒアンシー。落ち着け。

 

あまりにも彼女の様子がおかしいもので、強めに制止した。

 

「あ…。ご、ごめんなさい」

 

__いや、ぶつかったのはこちらだ。しかし、様子が変に思えたのでな。

 

「ごめんなさい。取り乱してしまって…」

 

明らかに目の前のヒアンシーは狼狽えている。

心ここに在らずと入った感じで、今の我を見ている気がしない。

 

__問題ない。しかし、何故そのような…「それにしても!」

 

「ヨロイたんも、ここに来ていたんですね!とっても会いたかったです!」

 

__あ、ああ。キュレネが配慮してくれてな。ヒアンシーは…息災であったか?

 

「もちろんです!お医者さんが元気じゃなかったら、治るものも治りませんから!」

 

__頼もしいな。それでこそヒアンシーだ。

 

「まぁこの空間は傷がついたりはしないんですが…それでも、廊下は走っちゃダメです!」

 

__おっしゃる通りで…。ファイノンを追いかけていたものでな。

 

「ファイノン様ですか?確かにさっきすれ違いましたけど…何かあったのですか?」

 

その後、我はヒアンシーへと事情を説明した。

ヒアンシーは一通り事情を説明すると、ふむふむと頷いていた。

 

「そうですか…アグライア様へのハグへとキスと…それは怒っちゃうかもですね」

 

__しかし、仄めかしたファイノンにも非はある。すこし仕返しをしてやろうと思ってな。

 

「ふふ、それならちゃんとお返ししてあげてください」

 

__そうであるな。よし、それでは我はこれで。

 

「はい、今度アナイクス先生を連れて行きますね!」

 

ヒアンシーは小さく手を振って我を送ってくれた。

 

我は再びファイノンが言った方向へと歩き出した。もちろん走らずに。

 

少し歩いた後、我は彼女に言い忘れていたことがあるのを思い出した。

立ち止まり、まだこちらの背中を見つめていたヒアンシーの方へと振り返った。

 

__一つ、言い忘れた。

 

「なにかありましたか?」

 

__無理をするな。辛いときは隠さず言え。

 

「…?はいっ。分かりました」

 

しかし、これで治るものとも思えぬが…言わないよりマシであろう。

この空間、身体の傷は治っても精神の傷はそう簡単に行かないようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッはぁ…はぁ…」

 

彼の姿が見えなくなるのを確認して、私は廊下の床にぺたりと座り込んだ。

まるでなにかに胸を押さえつけられているかのように呼吸が浅かった。

 

「あはは…バレちゃってたなぁ…」

 

本当に彼は凄い。

取り乱した後、必死に苦しさを押さえつけていたのに。

それでも彼は気づいていた。

 

 

 

 

…私は医師という職業の関係上、たくさんの患者を診てきた。

その中で、救いきれずに失った命も数多く見てきた。

 

もちろん、彼も。

 

多くの場合戦うことができない私を守るために、彼は死んでいった。

彼が傷ついても気休め程度の治療しかできず、ただ彼が死にゆくのを見ているしかできない。

 

そんな光景を、何度も。

 

『…前を向け。我が死のうと、君は…』

 

何度も、何度も。

 

『グゥッ!!ガハっ!振り返るなぁ゛!進め!』

 

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 

『ひ…ヒアン…シー。生きろ…我の事は…気にするな…』

 

 

 

もう、頭にこびり付いて離れなかった。

 

想像するだけでも手の震えが止まらない。呼吸が苦しくなってくる。

 

でも、彼はこの空間にもいた。いて、くれたのだ。

この空間は安全だ。怪我なんてものはない。ここにいる限り、彼は傷つかない。

 

私もきっと、この傷を治せる。

彼がいるなら、この心の病気もきっと…

 

 

 

…本当に?

彼が天外の人間だ。しかも星々を渡り歩く旅人。

 

いつ、ここから出ていくかも分からない。

この空間を出れば、彼は傷つく。死んでしまう。

 

天外は、この世界ほど甘くない。

繰り返されてきた輪廻は存在せず、死ねばそれで終わりなのだ。

 

「もし、ヨロイたんがここから出る。なんて言ったら…」

 

私は…

 

 

 

 

 

「言ったら、なんだ。ヒアンシー」

 

「…え?」

 

顔を挙げると、そこにはあの鎧が視界に映った。

 

「な、なんで…さっきちゃんと、確認した、のに」

 

「どうしても気になったものでな。引き返してみれば案の定。」

 

「隣、失礼するのである」

 

彼は私の横へと片足を立てて座り込んだ。

隣に座られると、改めて彼の大きさを実感する。

 

彼は一拍置いて話し出した。

 

「先の様子から、何となく事情は把握している」

 

「えへへ…バレちゃって、ましたよね」

 

「無理に笑わなくていい。周りに人がいないのは確認して来たのである」

 

「…」

 

何でも見透かされてしまう。

 

私の下手な演技なんて意味をなさないくらいに、その兜の奥の瞳はじっと私の奥底を見つめていた。

 

「心配か。我がここを出るのが」

 

「…はい。正直に言えば、そうです。貴方が傷つくのはもう見たくない」

 

「そうか、そうか。身を案じてくれるのは嬉しいことだ。こちらと違って一回死んだら終わりなわけであるしな」

 

「ヨロイたんがとっても強いのは知っています。でも、それでも怖くて…」

 

私は正直に話した。

隠したところで、彼には見抜かれてしまうのだから。

 

「きっと、ヨロイたんは誰かを守ります。そしてその為に自分を傷つけることを厭わない」

 

そういう性格だ。彼は。

強さを求めるのに、その道は決して孤独ではなく、むしろ協力する為に使う。

 

「怖いです。嫌です。離れてほしくないです。ずっと、私が見守っていたいです。」

 

「…ああ」

 

本音がポロポロと漏れていく。

私のひび割れた心から、どんどんと汚い欲が流れ出て来てしまう。

 

彼は、横に座ってただ私の言葉に相槌を打つだけだった。

 

「痛いんです。ずっと胸がズキズキします。手も震えます。夜寝る時に、涙が止まらなくて寝られません」

 

「そうか」

 

「すぐに自分を犠牲にするヨロイたんが嫌いです。自分の身体を大事にしないで、甘い言葉をかけて人を駄目にするヨロイたんが」

 

「…きらいです。ヨロイたんのことなんか。きらいッ。だいきらいっですっ」

 

しばらく、あたりには私の啜り泣く声だけが響いていた。

 

彼は私が泣き止むまで、大きな手で背中をさすっていてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたか」

 

「少し、だけ」

 

汚いことも正直に彼に話したせいか、私の心は少し軽くなった。

 

でも、そのせいで彼の顔を見るのがなんだか恥ずかしくて。

私はそっぽを向いて彼に答えるので精一杯だった。

 

「ヒアンシー」

 

「…なんですか」

 

「これを」

 

私が彼の方を向くと、彼は一つの指輪を渡した。

シンプルな意匠で、小さな緑の宝石が着いている。見ているだけで吸い込まれそうな深い緑だ。

 

「私にですか?」

 

「ああ。少し特殊な指輪でな。宝石に記録した一人の状態が指輪を付けている人物に伝わる、というものである」

 

「不安になったら、指輪に我の姿を想像して念じてくれ。そうすれば我がヒアンシーのもとへワープする」

 

「…いいんですか。これを使って悪さ、しちゃうかもですよ」

 

「好きなだけするといい。我は貴殿を信頼している」

 

「ただ寂しいって理由で、あなたを呼び出して迷惑をかけるかもしれませんよ」

 

「立派な理由だ。もっとも、戦闘中は勘弁してほしいが」

 

本当に、彼は甘い。

守ろうと思った相手には心底優しくて、ずっと気にかけてしまう。

 

だから、少しだけ私も背中を預けることにした。

 

「ありがとうございます。大切にしますねっ」

 

私はその指輪を絶対に手放さない様に両手で握りしめた。

私と彼を繋ぐ指輪だ。これが、どこにいても私を繋ぎ止めてくれる。

 

「ああ、そうしてくれると嬉しい」

 

きっと、この指輪が少しずつでも私の心を治してくれる。

まだ傷は深い。それでも、彼はその傷を治す薬を与えた。

 

「…さて。今度こそ本当にファイノンを懲らしめに行くとしよう。また何かあれば言ってくれ」

 

彼は立ち上がると、先ほどファイノン様が歩いて行った方向を見据えた。

ファイノン様とモーディス様、そして彼はよくこういう遊びをする。

 

いつまでたっても子供のようにはしゃぐあの人たちを見ると、やっぱり彼も人間なんだなと思ってしまう。

私はさっきとは違う、ちゃんとした笑顔で彼を送ることにした。

 

「はい!思いっきりやっちゃってくださいね!あ、でもやり過ぎはダメですからね?」

 

「分かっている。精々鼻にエンドモを突っ込むくらいである」

 

 

…それ、絶対にやり過ぎですからね。ヨロイたん。




・ヒアンシー
原作の太陽みたいな性格をどこかへおいてきてしまっている。
通算ヨロイさん死亡見届け数1位。

・ヨロイさん
挨拶してしばらく過ごしたらまた星々を旅しようかなと思っている。
ルアンや爻光にもアクセサリーはプレゼントしたことがある。意図はない。


・エーグル
ごめん。

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