名探偵プリキュア!×名探偵コナンのクロスオーバー二次創作です。
原作「名探偵プリキュア!」のストーリーが崩壊するかもしれませんが、コナン(キュアホームズ)がどう絡んでいくかを描いていきます。
あんなの「はなまる!」とコナンの「真実はいつも一つ」がぶつかり合う化学反応を楽しんでいただけたら嬉しいです。
更新頻度は不定期ですが、長く書き続けていくつもりです。感想・評価いただけると励みになります!
夜の米花町は、静かだった。
少なくとも、表面上は。
裏路地に面した古ぼけた倉庫の壁に背中を預け、江戸川コナンは息を殺していた。灰色の空気が秋の夜の冷気と混じり合って肺に沁みる。眼鏡のレンズ越しに暗がりを見渡し、コナンは素早く状況を整理した。
――倉庫内に人間が三人。全員、黒の組織の構成員。右奥の人物が手にしているのは拳銃。左手前の男が抱えているのは金属製のスーツケース。そして中央――あいつが今夜のターゲット、コードネーム「スコーピオン」。
ここまではよかった。
問題は、スーツケースの中身だ。
男が蓋を開いた瞬間、コナンは目を細めた。中から滲み出た光は、電灯でも懐中電灯でもなかった。青白く、脈打つように揺れる光。まるで生きているかのような光源が、倉庫の壁を不気味に照らし出す。
(あれは……なんだ?)
コナンの脳裏に、警戒信号が点滅した。これまで黒の組織が扱う「商品」はいくつか見てきた。薬物、兵器、情報媒体。だがあんな光を放つものは、一度も見たことがない。
「輸送は今夜中に済ませろ。ボスのご要望だ」
スコーピオンが低い声で命じる。ガラス質の光が、男の横顔を青く染め上げた。
「了解。しかし……本当にこれが、次元の扉を開く鍵なんですか?」
「余計な口を叩くな。お前に必要なのは運ぶことだけだ」
次元の扉。
その単語がコナンの耳に引っかかった瞬間、男がスーツケースの中の光源に触れた。直後、光が爆発的に膨張した。
「っ!?」
コナンが身を翻す暇もなかった。光の奔流が倉庫の壁を突き破り、路地全体を飲み込んだ。熱も衝撃もない。ただ、白い。世界が白一色に塗りつぶされていく。
(まずい――まずいまずいまずい!)
体が浮き上がる感覚。重力がどこかへ消え失せる。コナンは必死に地面を探したが、足の下には何もなかった。空間そのものが消えたように、ただ白光の中に一人取り残される。
意識が、遠くなった。
落下する。
どこへ向かっているのかも、わからないまま。
衝撃は、思ったより柔らかかった。
草の上だ、とコナンが認識したのは、鼻腔に土と緑の匂いが飛び込んできてからだった。慌てて身を起こし、周囲を確認する。眼鏡がずれていた。直しながら立ち上がると、コナンは短く息を吐いた。
(……米花町、じゃない)
一目瞭然だった。
空の色が違う。
米花町の夜空は、都市の明かりに染まってオレンジがかった灰色をしている。だがここの空は透明度が高く、まだ茜色が薄く残っている。夕方だ。商店街らしきアーケードに電灯はまだ灯っておらず、行き交う人々の服装がどこかレトロだった。女性のワンピースのシルエット、男性のジャケットの型。テレビで見た平成初期のファッションに妙に近い。
(時代が……違う?)
コナンが眉根を寄せたのと同時に、遠くで爆発音がした。
続いて、悲鳴。
探偵の血が、考えるより先に体を動かしていた。
現場は、商店街から二ブロック離れた広場だった。
コナンが角を曲がった瞬間、目に飛び込んできた光景に思わず足を止めた。
巨大な怪物がいた。
身長は優に三メートルを超える。人型ではあるが、全身が暗紫色の装甲に覆われており、頭部には虫眼鏡を歪めたような形のツノが生えている。両腕から生成した紫の衝撃波を、無差別に周囲へ叩きつけていた。地面がめくれ上がり、近くのベンチが宙を舞う。
(なんだあれは……!)
だがもっとコナンを驚かせたのは、その怪物と戦っている二人の少女だった。
一人は紫を基調とした衣装をまとい、長い紫髪をツインテールにしている。怪物の攻撃を俊敏なステップで回避しながら、冷静に状況を見極めているようだった。額に人差し指を当てるような仕草が、癖らしい。
もう一人は桃色の衣装。こちらは怪物と真正面から対峙し、「はなまる! はなまる!」と気合いを入れながら次々と回避し、反撃の糸口を探している。動きそのものはキレがあり、直感で戦うタイプだとわかった。
二人とも、年は十四、五歳ほどか。しかし「変身した」としか言いようのない外見と、人外の身体能力で戦っているという事実が、コナンの常識とまったく噛み合わない。
(……プリキュア、ってやつか? いや、そんなものが本当に――)
「きゃっ!」
桃色の少女が衝撃波をまともに受けて吹き飛んだ。石畳の上を転がり、自動販売機に背中を打ちつける。「みくる!」と紫の少女が叫ぶ。
コナンは舌打ちを噛み殺した。
(考えるのは後だ。今は――)
探偵の本能とは別の何かが、コナンの足を動かしていた。
「あんな! 右から来るよ!」
小林みくるは叫びながら、石畳を蹴って跳躍した。体が痛い。怪物――ハンニンダーの衝撃波は、想像以上に重かった。
(第一話を乗り越えて、まだこんなに強い怪物が……!)
みくるは奥歯を噛みしめながらも、頭の中で怪物の動きパターンを整理した。衝撃波は主に右腕から放たれる。左腕の動きが大きくなったとき、右腕からの攻撃が来る。この法則性はすでに掴んでいた。
「わかってる! キュアミスティック、援護お願い!」
明智あんなが走りながら叫ぶ。直感で動く彼女は、みくるが分析した法則を共有するより先に体で回避してしまうことも多い。それが時に頼もしく、時に心臓に悪い。
「プリキュア・アンサー・ストライク!」
あんなが右手に光を込め、前方へ真っ直ぐ放つ。光の拳がハンニンダーの胸部を直撃した。怪物が一歩後退し、低くうなる。
有効打だ。だが、倒せていない。
「ミスティック・シールドウォール!」
みくるが両手を前に突き出し、四角形の障壁を展開する。ハンニンダーが放った反撃の衝撃波が、障壁に弾かれた。石畳に亀裂が入る。みくるの爪先が地面を掘った。
(力が強すぎる……! このままじゃ、障壁ごと押し切られる……!)
「みくる! 大丈夫!?」
「大丈夫……じゃないけど、なんとかなります……!」
声には出したものの、みくるの表情は険しかった。ハンニンダーの出力が上がっている。このまま防御に徹しても、じり貧だ。あんながもう一撃「アンサー・ストライク」を放てれば状況は変わるかもしれないが、あんなは今、障壁の後ろから回り込もうとする怪物の側面に対処しなければならない。
二人の間に、距離がある。
それが今、最大の問題だった。
と。
「そこのでかい怪物! 右腕を上げるタイミング、左肩が下がってから〇・三秒後だろ! 次の攻撃は三秒後に来る――今のうちにそこから離れろ!」
広場の端から、子供の声がした。
みくるが反射的に振り返る。
石畳の段差の上に、小学生くらいの男の子が立っていた。丸い眼鏡をかけ、サッカーボールを脇に抱えている。どう見ても、この戦場に似つかわしくない存在だった。
しかし、その目だけが子供のものではなかった。
灰色がかった蒼い瞳が、怪物の動きをじっと追っている。感情の起伏がほとんどない、分析者の目だ。
「……子供!? 危ない、逃げて!」
みくるが叫んだ瞬間、ハンニンダーの左肩が沈んだ。
三秒後、右腕から衝撃波。
男の子の言った通りだった。
「言った通りだっただろ」
コナンは落ち着いた声で言いながら、広場の中央へと歩み出た。怪物がこちらを見た。巨体が低く軋むような音を立て、コナンに視線が向く。
(でかい。でも、速くはない)
コナンは怪物の体格を素早くスキャンした。三メートル超の巨体は、相応に重い。重いということは、重心の移動に時間がかかる。重心が定まっていない瞬間が必ずあり、そこが隙になる。
あの二人は、どちらも戦闘能力が高い。片方は直感型で突破力があり、もう片方は分析型で防御が固い。組み合わせとしては悪くない。問題は、連携がまだ完成していないことだ。
(二人の間に、起点を作る役がいれば話が変わる)
「ちょっと! なにやってるの! 子供が来たら危ないよ!」
桃色の方――キュアアンサーが叫ぶ。声はまっすぐで、嘘がない。感情が全部声に乗っている人間だ、とコナンは即座に判断した。
「危ないのはわかってる。でも逃げるより先にやることがある」
「そんな、危険には変わりないでしょ!? はなまるじゃないよ!」
「……なんで怒られてんだ俺は」
コナンは小声でぼやきながら、脇のサッカーボールを地面に落とした。転移の衝撃で道具はほぼ失われていたが、広場の端に転がっていたボールを無意識に拾ってきていた。習慣というのは、恐ろしい。
(使えるものは使う。それが探偵ってもんだ)
ハンニンダーが動いた。コナンめがけて右腕を振り上げる。重心が揺れた。左肩が沈んだ。衝撃波が来る前の予備動作だ。
コナンはボールを右足のインサイドで弾いた。
甲で打ち抜くボレーではなく、インサイドで押し込む軌道。この距離では、こちらの方が軌道が読まれにくい。跳ね返りを計算した角度で放たれたボールは、直線的にハンニンダーの右腕の関節へと飛んだ。
乾いた音がした。
ハンニンダーの右腕がわずかにぶれた。衝撃波の放出タイミングがずれ、光の奔流は地面を抉って明後日の方角へ消えていく。
コナンはすでに走り出していた。怪物の死角――左側面へ向かって。
「今だ! キュアアンサー! 正面が空いてる!」
一拍の間があった。
だがキュアアンサーは、そのたった一拍で判断した。迷うことなく「アンサー・ストライク」の構えを取る。右手に光が集束していく。
「どんな謎でもはなまる解決――!」
「プリキュア・アンサー・ストライク!!」
放たれた光の拳が、ハンニンダーの胸部を真正面から打ち抜いた。今度は一歩退くだけでは済まない。怪物の巨体が大きく仰け反り、崩れるように膝をついた。
しかし、倒れない。
装甲の一部がひび割れているが、まだ動ける。ハンニンダーが低くうなりながら立ち上がろうとした。コナンは素早く左側面からの距離を計算し直した。
(あと一撃。でも今の蓄積ダメージがある。タイミングさえ合えば――)
「キュアミスティック! 十秒後に正面から障壁を押し込んでくれ! 怪物の重心が前に崩れる!」
「え……あ、はい!」
みくるが即座に反応した。分析型の彼女は、コナンの指示の意味を瞬時に理解したのだろう。一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに「ミスティック・シールドウォール」の構えを取る。
コナンは怪物の左側で足を止めた。地面にボールを置く。
ハンニンダーが立ち上がりかけた。重心が前に出る。ちょうど足場が不安定になる瞬間だ。
コナンは助走をつけずに、左足一本でボールを蹴り上げた。
サッカーのシュートではない。蹴り方はバックスピンをかけた山なりのロブ。怪物の頭部へ、ゆっくりと弧を描いて落ちていく軌道。ハンニンダーの視線が、自然とボールを追った。
その〇・五秒が、コナンが作りたかった「隙」だった。
「今です――ミスティック・シールドウォール、全力!!」
みくるが地面を蹴った。展開した四角形の障壁ごとハンニンダーの胴体に激突する。怪物の重心が、前方に完全に崩れた。よろめいた巨体が、大きく正面に傾く。
「キュアアンサー! 今!!」
「わかった! はなまる全開――!」
「プリキュア・アンサー・スペシャルストライク!!」
あんなが跳躍した。両手に集束した光が、通常の「アンサー・ストライク」より明らかに大きい。宙に舞いながら、前傾姿勢で転倒しかけているハンニンダーの頭部めがけて、全力の光を叩き込んだ。
轟音。
閃光。
地面が揺れた。
煙が晴れると、ハンニンダーは地に伏していた。巨体がゆっくりと光の粒子に変わっていく。紫色の装甲が、ひとかけらずつ夜空へと溶けていった。
静寂が、広場を満たした。
あんなが着地し、みくるが駆け寄る。
「大丈夫? みくる」
「は、はい……なんとか。あんなこそ」
「全然はなまるだよ! あの子のおかげで助かったし!」
あんなが振り返る。コナンは広場の中央に立ったまま、倒れたハンニンダーの残滓が消えていく様子を眺めていた。
「ねえ、きみ! ありがとう! 名前、なんていうの?」
あんなが元気よく駆け寄ってくる。コナンは少しだけ間を置いて、振り向いた。
「……江戸川コナン。小学一年生」
「え、一年生!? すごい、一年生なのに怪物相手に全然怖くないの!?」
「……まあ、慣れてる」
そう言ってから、コナンは内心でため息をついた。
(慣れてる、か。黒の組織に比べれば、あの怪物の動きは単純だった。だが、それはそれとして)
(――俺は、今どこにいる?)
改めて周囲を見渡す。倒壊した石畳、吹き飛んだベンチ、ひびの入った街灯。戦闘の痕跡が生々しく残る広場の向こうに、夕暮れの街並みが続いている。看板の書体、街灯のデザイン、道路標識の形。どれもこれも、コナンが知っている米花町とは微妙に異なる。
(黒の組織の「次元の扉」とやらが暴走して、別の世界に飛ばされた……そう考えるのが自然か。でも、なぜ俺はここに? なぜプリキュアがいる世界に? 偶然か、それとも――)
「あの……」
声をかけてきたのは、みくるだった。あんなの後ろで少し遠慮がちに立っている。変身が解けたのか、先ほどの桃色の衣装から私服姿に戻っていた。
「さっきの指示、すごく的確でした。どうしてわかったんですか、ハンニンダーの攻撃パターン」
「見てればわかる。動きに癖があった」
「……一年生で?」
「一年生だろうが六年生だろうが、目で見たものを分析するのに学年は関係ない」
みくるが目を丸くした。あんなが「はなまる!」と拍手している。コナンは「なんで拍手されてんだ」と思いながら、もう一度広場を見渡した。
と。
「やっと見つけましたな」
突然、どこかから声がした。
全員が辺りを見回す。声は、コナンの足元から聞こえていた。
地面に、何かが落ちている。
小さな生き物だ。犬のような体型で、頭にシルクハットをちょこんと載せている。白い毛並みと、知的な光を宿した茶色の瞳。それが、コナンの爪先のすぐ近くでちょこんと座っていた。
「……なんだ?」
「自己紹介が遅れましたな。私の名前はワトソン。あなた――江戸川コナンさん、いや、工藤新一さんのお相手として、この世界に来ましたですな」
コナンの体が固まった。
「……お前、今なんつった」
「工藤新一、と申し上げましたな。小学一年生の体に、高校生の名探偵の頭脳を持つ方。それがあなたでしょう?」
あんなとみくるが、コナンとワトソンを交互に見ている。
「ワトソン……って、あの妖精? 見たことない子だけど」
「ポチタンのお知り合い、ですか?」
あんながポケットから声をかけると、丸っこい犬型妖精――ポチタンが顔を出した。ワトソンを見て首を傾げている。
「ポチっ? 知らない妖精さんだポチ」
「私はポチタンとは別組織の者ですな。詳しい説明は追って。今はまず、コナンさんにお伝えしなければならないことがありますな」
ワトソンがコナンをまっすぐ見上げた。眼鏡の奥の目と、妖精の茶色い瞳が合う。
「あなたがこの世界に来たのは、偶然ではありませんな。まことジュエルがあなたを呼んだのです。そして――」
ワトソンの体が、ぽうっと光った。
その光の中から、一つのアイテムが浮かび上がってきた。
銀色に輝く、ルーペ。
レンズの中に、星のような光が瞬いている。柄の部分には繊細な彫刻が施されており、まるで職人が一つ一つ手作りしたかのような精巧さだった。
「これが、あなたの変身アイテム。『まことルーペ』と申しますな。真実を見抜く力を持つ者だけが、これを使いこなせる」
「……変身?」
「ええ。あなたはこの世界の三人目のプリキュア――キュアホームズとして戦う使命を持ってここに来たのですな」
沈黙が落ちた。
あんなが「え!? この子が!? 男の子なのに!?」と目を輝かせた。みくるが「プリキュアに……男の子が……」と呟きながら固まっている。ポチタンが「男の子のプリキュアポチ!?」と叫んでいた。
コナンはルーペを見つめたまま、しばらく黙っていた。
(三人目のプリキュア。男の子が変身する。正気か)
(でも、この世界で元の場所に帰るには、何か手がかりが必要だ。この妖精が俺を知っていて、俺を「呼ばれた存在」と言っている。それが本当なら、ここに来た理由もある。そしてこいつは「まことジュエル」と言った。俺が倉庫で見た光――あれと同じ響きだ)
コナンは一歩前に出て、ルーペを手に取った。
思ったより軽い。しかし手のひらに収まった瞬間、体の中心からじんわりと熱が広がる感覚があった。
「ワトソン。俺が元の世界に帰るには、どうすればいい」
「まことジュエルを集めることですな。この世界に散らばったジュエルを揃えれば、次元の扉が開き、あなたは元の世界に戻れる」
「集める方法は?」
「怪盗団ファントムを倒し続ければ、おのずと集まってくる仕組みになっておりますな。詳細は――」
「わかった」
コナンはワトソンの言葉を遮った。
あんなとみくるが、コナンを見ている。二人の顔に浮かんでいるのは、驚きと、少しの戸惑いと、それ以上の何かだ。
「一つ確認する。俺がここにいる間、お前たち二人の邪魔はしない。ただし、俺のやり方に従ってもらう場面もある。それでいいか」
あんながぱっと顔を輝かせた。
「いいよ! 仲間が増えるのは、はなまる!」
「わたしも……歓迎します。さっきの分析、本当にすごかったから」
みくるが、ほんの少し照れたように言った。
コナンはルーペを見下ろした。
(帰るための手段。それだけだ。情が移るとか、そういう話じゃない)
(でも――)
目の前の怪物と戦い続けた二人の顔を、コナンは頭の中で反芻した。怖かったはずだ。痛かったはずだ。それでも諦めなかった。
(見過ごせなかっただけだ。それだけだ)
「ワトソン。変身の仕方を教えろ」
「かしこまりましたな」
ワトソンが胸を張った。シルクハットがわずかに傾く。
「まことルーペを高く掲げ、こう唱えるのですな――」
コナンはルーペを頭上に持ち上げた。
銀色のレンズが、夕暮れの残光を受けて輝いた。
「プリキュア……」
光が弾けた。
白銀の光がコナンの全身を包み込む。子供の体が、光の中で輝く。眼鏡が消え、代わりに銀色のバイザーが目元に現れた。衣装が変わる。白を基調に銀と深青のラインが入った、どこか硬質なデザインのコスチューム。靴はスパイクのような構造で、地面を踏みしめるたびに確かなグリップを感じさせる。
「――ウェイクアップタイム!」
変身が完成した。
コナンは自分の手を見下ろした。手のひらが震えている。怖いからではない。全身に力が漲っているせいだ。心臓の鼓動が速い。体の細胞が、何か新しいものに目覚めていくような感覚。
「これが、プリキュアの力か……」
「すごい……!」
あんなが目を丸くしている。みくるも息を呑んでいた。
「男の子のプリキュア、はじめて見ましたな」とワトソンが満足げに言う。
コナンは一度深く息を吸った。
体が軽い。これまでとはまったく違う軽さだ。試しに軽くジャンプすると、思った以上に跳び上がった。足の力の入り方が、明らかに変わっている。
(身体能力が上がってる。これなら、蹴る力も……)
地面のサッカーボールを軽く蹴った。
ボールが、壁に向かって真っ直ぐ飛んでいった。壁面に当たって弾け、その衝撃で壁のレンガにひびが入った。
(……化け物みたいな威力になってる)
「すごいポチ!!」とポチタンが叫んだ。
「……キュアホームズ、名乗らなくていいんですか?」とみくるが控えめに言う。
「そういうもんか」
「そういうもんですな」とワトソンが頷いた。
コナンはもう一度息を吸った。額に人差し指を当てた――あんなの癖ではなく、コナン自身がよくやる、考えるときの仕草だ。
「……真実を射抜く、銀色の弾丸」
自分でも少し恥ずかしかったが、ここはやらねばならないと判断した。
「キュアホームズ!」
あんなが「はなまる!!」と叫んだ。みくるが「かっこいい……!」と呟いた。ワトソンが「よく言えましたな」と頷いた。
コナンは「もうそれだけでいい」という顔をした。
-
その夜、コナンはキュアット探偵事務所に泊まることになった。
あんなが「泊まる場所ないんでしょ!? うちに来なよ!」と言い、みくるが「……うちというか、探偵事務所ですけど」とフォローを入れた。断る理由がなかった。
夜、あんなとみくるが眠りにつくのを確認してから、コナンは窓辺に腰を下ろした。
1999年のまことみらい市の夜空に、星がよく見えた。米花町では、こんなに星は見えない。都市の明かりが強すぎるから。
「眠れないのですな?」
ワトソンが隣に来た。シルクハットを少し傾けながら、同じ星空を見上げる。
「……蘭は今ごろ、どうしてるかな」
声に出すつもりはなかった。つい、口から漏れた。
「大切な方がいるのですな」
「……ああ。俺が消えたと思って、心配してるかもしれない」
「でも、元の世界では時間が止まっている可能性がありますな。この世界に来た経緯が経緯ですから」
「……可能性の話をしてもしょうがない」
「そうですな」
ワトソンが静かに言った。
コナンは窓の外を見つめたまま、呟いた。
「まことジュエルを集めれば、帰れるんだな」
「はい。必ずや、ですな」
「わかった。なら、さっさと集めるだけだ」
コナンは立ち上がり、毛布を被った。
瞼を閉じる前に、一度だけあんなとみくるの寝顔を見た。二人とも、熟睡している。今日の戦いで体を使い果たしたのだろう。
(お前たち二人は、今日よく戦った)
声には出さなかった。
(俺は帰る。でも、それまでの間――目の前で困っている人間を見捨てるような探偵には、なれない)
コナンは目を閉じた。
1999年のまことみらい市の夜は、静かだった。
新しい事件は、明日から始まる。
「まことみらい市での初めての朝。あんなとみくると過ごす日常は、俺が知っているどんな非日常よりもずっと――はなまるじゃないとは言えなかった。第二話、『探偵事務所の新入り?』」