刑罰:学園都市キヴォトス征服支援   作:霧霊旅団のしたっぱ

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第六話 "本物"

 古聖堂周辺からアリウスの生徒が撤退を開始した。

 その理由は定かではないが、それそのものは一旦の事件の終着を示している。

 

 ゲヘナもトリニティも"先生"の指揮のもと追撃はせず、両者の間に緊張は走っているものの要救助者の保護と治療に奔走する形となった。

 

 そんな中、独自に動いている勢力がいた。

 万魔殿──否、羽沼マコトと棗イロハが率いる一両の戦車である。

 

 マコトは信頼できる部下に現場指揮を任せた後、僅かな兵を率いてアリウスの追走を始めていた。

 虎丸の砲塔に何故か乗り込み、何かを辿っているマコトを見て、イロハはこの日何度目かもわからない溜め息をついた。

 彼女の予想する何がどうしてこうなっているのかの元凶は、まあ外れていないだろうという確信がある。

 

「なんで、ツァーヴをそこまで信用しているんですか?」

 

「部下を信じることが、上に立つ者の務めだからだ」

 

 答えになっているともなっていないともよく分からない回答に、イロハは再び呆れ気味の溜め息を返す。

 

「じゃあ、私が退きましょうって今言ったら従ってくれます?」

 

「当然、本当に心の底からそれが最善だと思って進言するなら一考の余地がある。しかし、そうは思っていないだろう?それくらいは分かる」

 

 納得していない表情をするイロハに対し、マコトは苦笑を漏らす。

 マコトにとって、部下同士が苦手意識を持っていることは望ましい状況ではない。

 どうするべきかと思案したところで、必要が無いと考えて言っていなかったが常々思っていたことを少しこぼした。

 

「そんな顔をするな。私は、あいつとイロハには似ているところもあると考えているぞ」

 

「えぇ……?無いでしょう、気持ち悪いこと言わないでください」

 

「キキッ、そうかもな」

 

 そういうところが少し似ている、という言葉は、マコトは流石に呑み込んだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 命からがらアリウス自治区に帰還することに成功したアリウススクワッドを待ち受けていたのは、正体不明の敵との戦闘であった。

 隠れ潜んでいたアリウスが言えた口ではないが……"それ"は、あらゆる全てが奇妙で奇怪で、意味不明だった。

 

「いやあ案外楽勝っスね。そうそう、お分かりの通りオレって殺しの天才なんスけど、それでもこんなに凄腕になっちゃったのにはそれはそれは悲しい過去があって!暗殺教団って分かります?ほんと最悪なんスけど年端もいかない子供を連れ攫って洗脳するんスよ。その哀れな被害者がツァーヴくんなんです!」

 

 ツァーヴが拾った無線越しに、サオリたちの元に声が届いていた。

 

 狙撃手というのは、通常寡黙である。

 普段の人間性はともかく、少なくとも狙いをつけて対象を撃ち抜く際は自身の姿を悟られてはならない上に極限の集中を要するために、誰もが口を噤む。

 それはアリウスで最も優れた狙撃兵であるヒヨリも同じであった。

 単独行動で狙撃ポイントまで走って息を潜め、対物ライフルを構えている。

 

「そこでの標的をバッサバッサと華麗に殺しまくって……ああいや、これは嘘っスね。実は標的を殺したことは一度もないんスけど、それにはこのオレのとんでもない優しさに起因しててるんです」

 

「ぐへっ!?……って、うえぇぇっ!?」

 

 ヒヨリの顔面に大きな衝撃が走ったかと思うと、彼女の持つライフルのスコープが破壊されていた。

 銃身が歪むなどして撃てなくなっているわけではないが、これではまともに狙いをつけた長距離射撃など不可能である。

 

「うん、やっぱり身体に弾丸を当てても戦闘不能にできないのなら武器を壊した方が話が早い。簡単っスね。で、続きなんスけどオレってやっぱりお人好しすぎるせいでちょっと標的の人となり知っちゃうと同情して殺せなくなっちゃうんスよ!この人ちょっと前に結婚して子供生まれたばっかじゃん!とか思っちゃうとも~無理!でも、オレが失敗すると指示した上司の評価が下がってそれもかわいそうでしょ?そこでオレはめっちゃスマートなやり方を思い付いたんスよ!分かっちゃいます?」

 

 当然、ツァーヴの言に対する反応などない。ベアトリーチェのホログラムも、彼の近くからはとっくのとうに消え失せている。

 

「残念、時間切れ!正解はそこら辺を歩いてる体格とか似てそうな奴を原形が分からないくらいぐちゃぐちゃにすることでその死体が標的であるように偽装する、でした!これ凄くないっスか?標的は助かって嬉しい、上司は成果が上がってきて嬉しい、オレはいいことができて嬉しいの一石三鳥!オレって本当に天才っスよね」

 

 アリウスの生徒たちは、頭がおかしくなりそうだった。

 侵入者からの言葉は貴重な情報源であり、聞かないという選択肢は存在しない。

 

 気の狂いそうな異常な空気の最中、サオリがベアトリーチェから共有されているツァーヴの現在地が、唐突に動き出した。

 それまでは高台から動いていなかったというのに、かなりの速度で、アリウスの本丸……"バシリカ"へと移動している。

 

「総員、現在の行動を中断してバシリカへ迎え!」

 

 サオリは端的な指示を飛ばすと急いで先回りするためにバシリカへ走りだした。

 高台にいるツァーヴを包囲するかのように動いていた生徒たちも、それに遅れて移動を始める。

 

「そういえばなんスけど、ここってやっぱり子どもに訓練させるための施設なんスかね?な~んか節々から嫌な懐かしさを感じるっていうか。ってかさ」

 

 先行しているサオリがバシリカのすぐ近くの路地を走っている時、無線と同時に肉声が上から降ってきた。

 廃墟を辿って、通りに姿を現さないように行動していたらしい。発生源を探すように足を止め、目を周囲に光らせる。が、そんなことはわざわざするまでもなかった。

 

「君たちも聞こえてるんでしょ?無線(これ)、一方通行じゃないんだし名前くらい名乗ってよ。まるでオレが独り言言ってるみたいで気分悪いじゃん!ベアトリーチェの姐さんは名乗ってくれたよ?」

 

 謎の敵──ツァーヴが、目の前に降り立つと同時に急にこちらを認識して話しかけてきた。

 悪寒を感じながらも反射で応戦する。

 

「おっと、悪くない反応!」

 

 手にしていたアサルトライフルで胴体を狙うと、反射的にのけぞるようなスウェーで躱される。

 のけぞった態勢のまま、勢いを使って宙返りをするような動作で銃身を蹴り上げられると同時に驚異的な踏み込みで懐に入り込んでくる。

 

 接近戦──サオリは躊躇なく銃から手を離すと、腰からナイフを抜き放ち、喉元目掛けて振るう。

 地獄を見るような訓練で染みつかせた淀みない動き。確実に仕留めたと思った。

 

 当たる直前、ナイフを握っている手首に掌底を当てられる。軌道をずらされると同時にツァーヴが体勢を屈め、ナイフを躱されると同時に腕を取られた。肩を関節を極められそうになる。

 

(この男……狙撃の腕が狂っているというのに接近戦がここまで強いとは……その上に、外から来たというのにキヴォトスにおける戦い方を理解している……!)

 

 サオリは咄嗟に無理やり膂力の差を生かして全身を捻り、激痛に耐えながらも関節技を外す。

 サオリが全力で身をよじった影響で密着していたお互いの体が地面を転がった。

 

「やるね!ここの子にしては頑張ってるんじゃない?いやオレが言うんだから間違いないよ」

 

 ツァーヴは地面を転がりながらも、そのはずみでサオリの銃を蹴り飛ばす。

 そのまま飛び起きると、片膝をついたサオリに懐から取り出した小銃が向けられ、心臓に向かって一発衝撃が走った。肺の空気が一気に抜けるような感覚がして、呼吸が止まる。

 一瞬で攻防が入れ替わった。

 

 曲芸じみた馬鹿馬鹿しい動きであるというのに、まともに攻撃を当てられる気がしない。

 サオリの常識が通用しない、異質な相手であった。

 

「ま~オレの方が上なんだけどね。これは普通のことだから落ち込まないで!」

 

 無駄口を繰り返し口元には笑みを湛えているというのに、どこか冷たいツァーヴの目を見てサオリは捨て去ったはずの感情を覚えていた。久方ぶりに感じるそれは──恐怖。

 

「なぜ……貴様は、一撃で簡単に死ぬというのに、戦えるんだ……!」

 

 サオリの口から疑念が飛び出る。それは、あまりにも饒舌な男に釣られてしまったからかもしれなかった。

 

「ウケる!一発いいの貰ったら死ぬって、それ当たり前でしょ!なのに死なないように戦えちゃうのが天才ってところなんだよなあ!」

 

 再びの銃撃で視界が揺れる。しかし、気絶することはない。

 勝つためには優位性を生かす必要がある。すなわち、自身の耐久性と味方の数。敵の足をこの場に止めることが自分の使命である。

 ──自分が仲間を頼る日が来るとは思っていなかった。

 

 サオリは傍に転がるナイフを手に取って姿勢を低くし、鋭く息を吐く。

 

「骨あるねぇ。めんどくさいなあ」

 

「うるさい……口を閉じろ!何もかもッ、無意味だというのに……!」

 

 サオリが自身の無駄な思考を吐き捨てるようにそう言った時、ツァーヴは意外そうな顔を一瞬した後、軽く口笛を吹いた。

 

「あ~分かる!世の中つまんないし、どうでもいいことばっかだよね!この感情を共有できるなんて珍しいから、解決方法を教えてあげる。そういうつまんないことについて考えるのこそ全部無駄じゃん?だったらさ、愉快なことだけ考えてればいいんだよ!」

 

 ツァーヴのおしゃべりのせいか、何人かの生徒が路地での戦闘を察したようで、走り寄ってくる。

 サオリを射線の盾にしながら踊るようにツァーヴはサオリと相対する。

 万魔殿のコートが靡き、ツァーヴのシルエットが不明瞭になると、サオリの体を避けた上でその五体に正確に狙いをつけることは困難である。

 

「なんも楽しくないって言うなら、今できることから楽しみを作ればいい!だってそっちの方が得でしょ?」

 

 ナイフがツァーヴの頬を切りつけるのと同時にツァーヴの肘鉄がサオリの側頭部に突き刺さった。

 

「殺ししかできないっていうなら、殺しに楽しみを見出せばいいじゃん!それに君、結構上の立場なんでしょ?やれることなんていっぱいあると思うけどなぁ。賭場とかね!」

 

 その言葉にサオリが一瞬気を取られた刹那、ツァーヴは背に負っていた棒状の何かを構えると、閃光がサオリの額を貫いた。

 

 異常な痛みと体に走った強い痺れによってサオリはその場に倒れ伏す。

 集中が途切れかけていたところに感じたことの無い種類の衝撃を食らったせいで、咄嗟に起き上がることができなかった。

 

 その隙にツァーヴはバシリカに向かって走り去って行く。

 路地の奥へと走っていくツァーヴを捉えるよりかはバシリカに向かうべきだと判断したのだろう、周囲にはバシリカへと走る生徒たちが何人かいる。

 

 サオリが痛みに耐えながらも何かを考えるように蹲っていると、スクワッドのメンバーである戒野ミサキが心配そうな顔でのぞき込んできた。

 

「リーダー、立てる?」

 

 そうミサキから声を掛けられると、サオリはハッとした様子で顔を上げる。そこには不安げな表情でサオリの顔を伺っているアリウススクワッドがいた。

 サオリは迷いを振り切るかのように顔を振りながらも、しっかりと立ち上がった。攻撃されたところはどこも軽傷である。

 最後に直接"何か"に撃たれた額に走る痛みは引いていないが、この程度の苦痛に耐える訓練はしてきた。

 

「……怪我は大したことない。戦闘の続行は可能だ」

 

「だったらリーダー!追わなきゃですよ!」

 

「……ああ、そうだな」

 

 どこか煮え切らない態度のサオリに怪訝な様子ではあるものの、それぞれはバシリカへと向かっていく。

 

 異常な反射神経と勘と動体視力。

 サオリはツァーヴと近接で戦っていて、妙な感覚を覚えていた。

 

 戦い方が、自分たちと似ている。相手を殺傷することを幼少から骨の髄まで叩き込まれた人間特有の獰猛さが匂っている。自分は指導されたこともしたこともされたことがあるため理解できる。並大抵の軍事訓練などで身に付く次元の動きではなかった。

 

 ……だが、性格や価値観は全くもって自分たち(アリウス)とは違う。

 

 その言い分は明らかに異常で欠片も共感などできるはずもないが……ほんの少しだけ、羨ましいと思った。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ツァーヴがバシリカ──教会であり、アリウス自治区におけるベアトリーチェの拠点に訪れたのは、アリウスの生徒たちも追い抜いた一番乗りであった。

 普段、アリウスの生徒はなるべく内部に入らないようにしているということも起因しているが、それでも異常な移動速度である。

 

「おわぁ、生で見るとますますグロいっスねえ。それ、前とかちゃんと見れてるんスか?」

 

「……戯言には耳を貸しませんよ。……まさか、狙撃だけでバルバラを5体撃破するとは、やってくれましたね」

 

 狙撃により大きな個体を狙ったのは、単に戦場での経験から異形(フェアリー)の"トロール"や"バーグェスト"のように近接戦で対処できないと思ったからだ。

 ツァーヴはユスティナ聖徒会の複製(ミメシス)のことを全く理解していないが、異形(フェアリー)と同種ならば、無尽蔵に生み出せるものではないとあたりをつけ、そしてそれは幸運なことに『バルバラ』という強力な個体に関しては当てはまっていた。

 

 護衛として出していたバルバラを全て撃破した瞬間に『天上天下』を放棄しバシリカへの移動を始めたツァーヴの予想通り、あっさりとベアトリーチェの前まで向かうことができたのだ。

 

「じゃ、一応聞きますけど……あんた、投降する気はある?今なら殺さないであげるっスよ?」

 

 ツァーヴは背から抜き放った杖のような物の先をベアトリーチェに突き付け、見る者の神経に障るニヤケ顔を浮かべながらそう言い放つ。

 

「私自身は、弱いとでも?思いあがらないでください、あなたはみすみす死体を晒しに来たということを教えて差し上げましょう……!」

 

 ツァーヴは本気で投降を要求したわけではない。鼻で笑うと、躊躇なく攻撃を放った。

 

 ベアトリーチェは余裕ぶっている。銃による攻撃であれば、ツァーヴによるものなどいくら食らっても大したことはない。例の改造対物ライフルならばある程度は通る可能性はあったが、持ち運ぶのは諦めたようであり、今持ち運べているのは精々がアリウスで鹵獲したアサルトライフル程度だ。

 

 しかし、その予想は外されることになる。

 かあん、という高い音が響くと同時に、ベアトリーチェの頭部が抉れた。

 

「ぐぅっ!?これは……!?」

 

 ベアトリーチェは苦悶の声を上げながらも、体を再生させる。

 花弁が開くように、ゆっくりと頭部に花が咲いた。

 

「うおっ!ますますキショッ!」

 

 ──聖印。それは印と太陽光の力によって、異界より超常を召喚する技術。

 ツァーヴが手製で一から一本だけ作った『雷杖』に刻まれているそれは、雷を召喚する聖印であり──それには、強弱こそあれ『神秘』そのものが宿っている。

 その雷は、ベアトリーチェの肉体には、銃器によるものより強く響いた。

 

「その武器は……一体何なのですか……!?」

 

「手作りっス、悪くないセンスでしょ?聖印調律に関しては専門じゃないんスけど、やっぱオレって天才すぎるかも……オレはこっちの方が慣れてるし、使いやすいっスね!今のうちに遺言を残しといたほうがいいんじゃないスか?」

 

 雷杖による初撃は致命には到底及んでいないが、それはベアトリーチェの警戒を強くさせるのには充分であった。

 ツァーヴとの射線に、過剰なまでにユスティナ聖徒会の複製(ミメシス)を展開していた。

 

 ツァーヴは追撃のため再び雷杖を構えるが、とある違和感に気付いて面倒そうな顔をするとともに、コートの中に手を突っ込む。

 

 聖印の刻まれたプラスチック片を出すとわらわらと湧き出たユスティナ聖徒会信徒に放った。それが炸裂すると、雑兵は霧散していく。

 いざというときに使えるようにチマチマ作って持ち歩いていた爆破印を刻んだ聖印兵器である。手榴弾とそこまでの違いは無いが、ツァーヴにとってはこちらの方が使い心地が良い。

 

 ベアトリーチェはそこにツァーヴを殺さんと頭部から光線を放つが、動きが大きくツァーヴには避けられる。

 

「ベアトリーチェの姐さんの攻撃は大したことないのはいいっスけど……蓄光塗料の質が悪いっスねぇ~。ちょっとオレのスペックに世界が追いついてないかも?」

 

 ツァーヴの元居た世界は聖印による技術が発展していたため、当然聖印を生かすための太陽光を活かす蓄光塗料の改良も大きく進んでおり、科学が発展しているとはいえ聖印の存在しないキヴォトスと比べて遥かに高い性能を発揮するようになっている。当然ツァーヴの作った聖杖もそれに合わせた調律が成されており、キヴォトスの蓄光塗料では万全の性能を発揮することができない。

 

 一瞬、僅かな隙間が空いたのを見て雷杖を放つが、蓄光塗料の効率が悪いせいか2発目以降の雷杖の性能は大きく落ち込んでいて、ベアトリーチェの表皮を焦がす程度に留まる。

 ベアトリーチェはほくそ笑む。当然だ。ここまで即興で行動してきたようなものが、そう全てが上手くいくわけがない。

 

 帰還したアリウス生徒たちがトラップに引っかかっているのか遠くで断続的な爆破音がする。

 

 ツァーヴは愉快そうに笑い、コートから複数の聖印兵器を取り出して一気に投げる。それらの爆風に紛れてツァーヴがベアトリーチェの前に再び姿を現す。立て続けに2発の雷が走り、ベアトリーチェを焦がしていく。威力が初撃と同程度だが、ならば想定外であったはずで消耗は激しいということは仕組みを理解していないベアトリーチェにとっても自明である。

 事実、ツァーヴは雷杖の蓄光弾倉にアドリブで塗料をぶち込むことで無理やり威力を増強していた。無理をしている以上蓄光弾倉の消費は倍どころではない。

 そもそも初劇は油断していた上に戦闘態勢に入っていなかったために起きたイレギュラーなのだ。この威力でも対処できる、と判断する。ダメージが無いわけではないが無理な攻めだ、とベアトリーチェは思う。

 増援が来ることを考えて短期決戦を狙っているのだろうが、ならばこちらは逆に時間稼ぎに徹するだけのことだ。

 

「爆破印とフットワークでここまで大立ち回りできるなんて、オレ雷撃兵の才能もあるのかもしれないっスね」

 

 ツァーヴはどこか余裕めかしているが、戦線に加わるアリウスの生徒も徐々に増えてきて、弾丸がツァーヴの体を掠めることも多くなってきた。

 煙で迷彩を張るにも、ツァーヴの作った聖印兵器の数にはかなりの限りがある。

 一人で勝つには、絶望的な状況であった。

 

「あなたがその口を閉じた静かな死に顔を晒すのが楽しみですよ」

 

「う~ん、おしゃべり相手がいるのは悪くないっスけど、あまりに思い上がりが酷いと聞いてて気分よくないっスねぇ。話が通じない感じって言いますかね?」

 

 ベアトリーチェはツァーヴの言葉を鼻で笑う。どちらの思い上がりが酷いかなど、分かり切っていることだろう。

 

「特攻は無謀でしたね。その技術をこちらに提供するというのならば、生かしても……」

 

「バカっスか?あんたは手下を呼んだから勝ったと思ってるんでしょ?」

 

 ツァーヴは小馬鹿にするように声を上げながら走り回る。

 攻めっ気を出したかと思えば、妙に逃げに徹していることには違和感を覚えずにはいられなかったが、何ができると言うのか。

 

「確かに、あれらは烏合の衆ですが……意味が無いわけではありませんよ」

 

 ツァーヴは耐えきれないように吹き出した。

 

「違う違う!ホントバカだなぁ……オレも、一人でしか戦えないわけじゃないってこと!」

 

 ──轟音とともにバシリカ全体に衝撃が走った。やや離れた位置から援護をしていたアリウスの生徒が吹き飛ばされる。

 

 直撃していない生徒も、反射的に伏せたアリウススクワッドを始めとする生徒以外は爆風に煽られてまともに動ける状態ではなくなっていた。

 

 その場にいる全員が金縛りにあったような緊張が走る中、土煙の中から、一つの巨影が姿を現した。

 

 ──ツァーヴが遠くの爆破音を聞いて無理な突撃をしたのは短期決戦を仕掛けるためではない。一定のリズムによる二発の砲撃──マコトからの暗号を聞き、彼女らが到着するまで自分に注目を集めるための一手である。聖印兵器の爆音で現在地を知らせる目的もあった。

 ベアトリーチェが常時自治区全体を把握しているわけではなく、何らかの確認を行う必要があるということを認識した上での行動である。

 

「もしかして完全に予想外?へへっ、ウケる!あんた、オレらのボスに肩を並べる大間抜けだ!」

 

「ツァーヴ……それは言い過ぎ!」

 

 虎丸から、再びの轟音とともにイロハからの怒声が飛び出る。

 

「お前たち、私を何だと思っているんだァ!?」

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