L社の技術を持っただけの擬態型一般人Aがキヴォトスで生き残るためにできること。 作:D-T45-45-1919JP
死ぬしかないじゃない!!!
あ〜、やることないって素晴らしい。
ゆったりとソファに寝転び、窓から入る光に目を細める。
以前、黒服との話で合同研究を行わないかという提案もあったが……アリウスに目を付けられているというこの状況なら、それも当たり前のように無理だ。火中の栗を拾う趣味はないし、何より俺は自分の命が惜しい。
幸い、エンケファリンの在庫は先日のアルとの作業で大幅に貯まってくれた。お陰で当面はエネルギー不足を気にする必要もない。作業の副産物として、通常の神名結晶とは別に、『アルの神名結晶』という特殊な物質も多少取れたが……これは俺のE.G.Oの最深部で厳重に保管してある。
流石にネームドたちの神名結晶は誰にも渡さない。……少なくとも、先生以外に渡すつもりはない。黒服にあげたら何をするかわからんし。
『神秘』を上手く扱えないゲマトリアの技術では、ネームドの強固な神名結晶を貰ったところで、即座に何かできるわけでもないとは思うが……念のためだ。
「……にしても、回線遅いな、ここ」
砂がいまいち取り切れないソファに深く沈み込み、スマホを弄る。動画再生もラグが酷い。画質もガビガビだ。だが、こういう無駄で、かつ平和(?)な時間を過ごせていることは幸せなことだと思う。
自力で掃除した管理フロア以外は砂と埃のパラダイスだが、まぁこれも引きこもり生活中のどこかでやればいいか。
コン、コン。
エントランスから上品なノックの音が聞こえてくる。
「…………誰だ?」
アリウス? 便利屋? 大穴で疑似科学部のミライの可能性もあるか? 彼女には先に納品した分があるが、足りなくなって会社まで来た可能性がある。
それにしてもノックだと……? アリウスもミライも礼儀正しくお上品にノックなんてするような生徒じゃない。
強いて言えば緊張したアルがしそうなくらいだが……便利屋にはついこの前に依頼したばかりだ。追加で依頼したこともない。支払いも終えている。
マジで心当たりがないが……もしや俺の角がバレたのか?
俺はため息をつき、頭の横に鎮座する悪魔の角に手を当てた。これ、ただの装飾品じゃないから、外すとかできないんだよな……普通に生えてるし。
これ付けたまま来客対応するのか俺。
あ~マジで気まずい。絶対アル以外居ないからなぁ、こんなとこ尋ねるような人間。
はぁぁ……仕方ない。重い腰を上げ、対応に向かう。
「……どちら様だ」
「――あ、失礼いたします。こちらはLogos Companyの代表者様、A様でよろしいでしょうか?」
そこに立っていたのは、トリニティ総合学園の制服に身を包んだ、いかにも良家の令嬢といった雰囲気の生徒だった。背中の翼がパタパタと遠慮がちに動いている。
エッ……!?
ぎゃぁぁぁぁぁあ!!!!! でたぁぁぁぁぁあ!!!!!???
アイエエエ!? トリニティ!? トリニティなんで!?
彼女は俺の顔を見るなり、一瞬だけ息を呑んだ。仏頂面すぎて微塵も顔に出ていないが、俺は息を呑むどころか心の中で叫び散らしているくらいだった。
なんで!? マジでなぜ!? 何があってトリニティの生徒が来た!?
何のフラグも踏んでないって! だって俺がキヴォトスで関わった存在なんて精々、トキ、リオ、ミライ、便利屋、あとはブラックマーケットの少女くらいだぞ!?
もしやいつぞやの少女がアリウスに向かった際に、トリニティに助けを求めたとかか? でも不良の言い分なんて、平時でも受け取ってもらえないだろう。混乱期である今ならなおさらそのはず。
あーマジでわからん! なんでトリニティの生徒が、しかもよりによってこのタイミングで来るんだぁぁぁあ!!!!
「……ああ。俺がAだが。トリニティの生徒が何のようだ」
「い、いえ! 私はティーパーティーの使いとして参りました! 招待状をお届けに……!」
彼女は震える手で、淡いクリーム色の封筒を差し出してきた。
ティ、ティーパーティ……? なぜ!?
ティーパーティって言えば、トリニティの最高権力機関だ。
ナギサ、ミカ、そして――セイア。
……セイア? セクシーセイアさん、なのか? 俺を探しているのは。どうあがいても接点に心当たりがない以上、接点を俺の知らないところで作り出せるのはセクシーセイアさん以外居ないよな。
しかし百合園セイアはエデン条約編3章が終わるまで結構自暴自棄だったイメージがあるんだが、なぜ今動く。
……未来視か? 俺のことを未来視で知って、コンタクトを……?
わざわざ諦めに沈んでいた百合園セイアが、重たい腰を上げて俺のこと探してるのか……。
不穏すぎない?
マジで未来の俺何したんだ。いや、セイアの未来視は厳密には未来を直接見ているワケではなく、偏在する可能性の先を見ている的な感じだったはず。今の俺が直接その未来に繋がっているわけではないと思うが……
えぇ……嫌だな、すっごい嫌だなぁ!!!
「……ティーパーティーが、零細企業の社長に招待状だって? 何かの間違いなんじゃないのか?」
「詳細は私にも……。ただ、百合園セイア様より、『新しい隣人に、お茶会の招待を』とのことです。ご多忙とは存じますが、是非ともご足労願いたいと……」
ぷるぷる震えている少女。
要らない威圧感を与えるのも忍びない。ぶっちゃけAの顔って常に無表情だから怖いしね……ごめんね、さっさと帰っちゃっていいからね。
「……わかった。受け取ろう」
「あ、ありがとうございます……! それでは、失礼いたしますっ!」
逃げるように去っていく生徒を見送りながら、俺は手元の招待状を見つめた。
封蝋にはティーパーティーの紋章らしきものが。
「……はぁぁ……マジかぁ…………」
ベアトリーチェに目を付けられ、次はティーパーティーからの呼び出しと。
実に最悪なタイミングだ。本当に。今頃ティーパーティがAに連絡を取ったことをベアトリーチェに報告しに、戻ってる頃だろうか? マジでやばいんだけど本当に!!
サオリとか躊躇なく俺殺しに来るって!!!
「しかも俺、このまま生き残れたとしてもアルの角付けたまま天使モチーフのトリニティ行くことになるのか……?」
凄いミカに睨まれそ~……あとミカとセイアの仲も心配だぁ……
あは、あはは! 死んだか? これ。
俺は絶望し、とりあえずL社のE.G.Oの中に入って招待状に記載された詳細な日時を確認することにした。
死んだんじゃないの~?
やばくね~――やばいよ。普通にやばいよ。
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