魔法少女ぜんぶのせ☆ ~マジカルハーレム、進行中!~   作:夏目八尋

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新章開幕!

あと、今話よりメインタイトルを変えました。
「魔法少女ものがたり論」改め「魔法少女ぜんぶのせ!」よろしくお願いします!


第2章 魔法少女ものがたり論
第10話 調部博物館(個人経営・隠れ家的拠点)


 春の日差しが照らす街中を歩く。

 GWを越えてしばらく。ようやく過ごしやすい気候が訪れ、道行く人々からも穏やかな表情が浮かぶ。

 街路樹の立ち並ぶ一角で作業する人たちだけが、ベタつく汗に難儀していた。

 

(植え替えでもしてるのかな?)

 

 何か所か同時に作業が行われているのを見て、思ったより大規模な工事だと気づく。

 今の市長は都市改革に積極的だと聞いているから、その一環かもしれない。

 

 俺の知らないところで、今日も世界は少しずつ変わっている。

 

 

「さて、目的地は……あっちか」

 

 端末を操作し、向かうべき場所への道順を確かめる。

 これまでの道のりが間違っていないことをあらため、行く先を迷わぬよう記された情報と視界に映る景色とをしっかりと見比べる。

 

「……よし」

 

 設定した目的地は『調部(しらべ)博物館』と表示されていた。

 

 

(あのつむぎが魔法を使ってる……なんて、言われてすぐには信じられなかったが)

 

 今朝、リリーから伝えられた驚きの情報。

 二人の魔法少女と出会った衝撃の日から一夜明けてさらに明かされた新事実。

 

 当然のように確認を取ろうと本人に『MAGI』づてで質問をした結果。

 

『13時に、私の指定した場所に来て欲しい』

 

 っていう短いメッセージとともに添えられていたMAPの場所が、例の博物館だった。

 

 

(質問に対して、つむぎは肯定も否定もしなかった)

 

 その事実にどんな意図が含まれていたのかは、現状どれだけ考えてもわからない。

 ただ、そこに行けばきっと、つむぎは俺に何かを伝えてくれる。

 

 そう信じられるってだけで、俺が指示に従う理由としては十分だった。

 

 

(ただひとつ、問題があるとするなら……)

 

 ここに来て、俺は目を背け続けていた現実に、ようやっと意識を向ける。

 

「ねぇ、あの子……」

「わ、すご……美少女。ちらちら見えてる髪も超キレイ……!」

「着ているお洋服も一流品、ですわね」

 

 さっきから行き交う人のほとんどが振り返り、何事かと語り合う……その原因。

 

 

「ここが兄さんの過ごしてる町、ここが人間界……不思議ノ(ふしぎの)市!」

「リリー、しーっ。魔法系の単語はNG」

 

 本日早朝、俺の妹(部分的にそう)になった魔法の国のプリンセス。

 リリーネイア・デカルマーニ・エターネーヴァこと御伽守(おとぎもり)リリーが、俺の隣でキラキラと瞳を輝かせながら、視線をキョロキョロ向けまくっていた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「あうっ。ごめんなさい、つい……」

「まだ慣れてないもんな。でも少しずつでも意識していこう」

「はぁ~い」

 

 軽く“めっ”て叱るとショボショボしつつ反省してくれる同行者リリー。

 つむぎに会いに行くと伝えたら、彼女も付いていくと物凄くせがまれた結果こうなった。

 俺が認めるまでそれはもう飛んで跳ねての大騒ぎだったことを、ここに記す。

 

「物珍しいのはわかるが、約束の時間もあるからほどほどにな?」

「わかってるわよぉ……ぶー」

 

 わかりやすく頬を膨らますリリーの姿は愛らしい。怒ってても可愛いのはすごいことだ。

 というか、誰の目にも一目でわかる絶世の美少女は、私服に着替えても絶世の美少女だった。

 

 

「それにしても、立ち並ぶ建物からしてエターネーヴァとは全然違うわね……」

「そっちの建物はどんな感じなんだ?」

「バルコニーからよく見てたけど、トンガリ屋根が多かったわ」

 

 隣を歩くリリーが着てるのは、つば広の白い帽子と薄く水色に染まったワンピースドレス。

 母さんのクローゼットに保管されてたサンプル服からいくらか見繕って着てもらったのだが、正直に言って後悔している。

 

「あっ! 兄さん兄さん。あの鳥はなんて言うの?」

「あれはシラサギだな。不思議ノ市を代表する鳥として認定されてるんだ」

「へぇー。エターネーヴァのアーダダーにそっくり!」

 

 似合っている。

 とてもよく似合っている。

 

「「「……じー」」」

 

 似合いすぎて、めちゃくちゃに視線を集めている!!

 

 

(もうちょっと、地味めのコーデにした方がよかったかなぁ……?)

 

 後悔してももう遅い。

 目立つ紫ロングヘアを誤魔化すために帽子を被らせたけど、それも含めて見事な“ご令嬢お忍びお出かけシチュエーション”が出来上がってしまっている。

 

 目力のある瞳が至近距離以外じゃ見れないようになってるだけ、ギリギリといったところだ。

 

「ねぇ、ねぇ。兄さん、兄さん!」

「はい、はい。わかってる。わかってるから抱き着かない」

 

 さっきからずっと高いテンションもさらに拍車を掛けていて、どこをどう切り取っても絵になる美少女がそこにいた。

 

「すごい、すごいわ! 生の人間界すごい!」

 

 ……楽しそうにしてくれているのは、悪くないんだけどな。

 

 

「ほらほら、あんまり目立ちすぎるとよくない縁も引き寄せちゃうぞ」

「わぷっ」

 

 帽子の上から軽く頭に手をのせて、歩みを促す。

 実際一つ所に留まりすぎると、際限なく周囲の目を惹くポテンシャルがリリーにはあった。

 

(慣れるまで、しばらくは一緒に連れ立って歩いた方がよさそうだな)

「うー……あっ! 兄さん、あれは! あれはもしかしてらぁめん! らぁめん屋!? すするのね!」

 

 不満げに唇を尖らせていたのも束の間、すぐさま次の興味対象に向かうリリーを追って、俺も歩き出す。

 プリンセスのエスコートしてますってよりは、大型犬のお散歩してるような気分だ。

 

「あ、待った待った。その格好で全力疾走はダメ!」

「ひゃっ!」

「はい。手を繋いどくから、歩くペースを合わせてくれ」

「ひゃえっ! え、ええ……わか、わかったわ!」

 

 リードの代わりに手を繋いだが、どうやら効果は覿面だったようだ。

 大人しくなってくれたリリーと並んで、危うく逸れそうだった道をさりげなく修正した。

 

 

「え、と……兄さん」

 

 不意に、リリーが俺を呼ぶ。

 目を向けると、つばを掴んでこっちを見上げるディープブルーと目が合った。

 

「なんだ?」

「その、これは今後のワタシたちの関係のために必要だから聞くのだけど」

「うん」

「あの……兄さんは、アナタは、ワタシが大人しく、楚々としてる方が……その、いいの?」

「ふむ」

 

 問われ、なるほどと感心する。

 その問いに込められた意図を、俺は正確に理解した。

 

 

(リリーは魔法の国のプリンセス。人間界には王家の試練のためにやって来た)

 

 個人的には、今の表情豊かな彼女も魅力的だと思う。

 けれどそこは女王候補、公私を分けるというのも必要なことに違いない。

 

 だったら、俺の答えは一つだ。

 

 

「そうだな。リリーが清楚に振る舞うところも、俺は見てみたいと思う」

「そっ…………そうなのね! なるほど、なるほど! お清楚キャラは有効……っと」

「?」

 

 なんか、妙な間があったような気がするが。

 

「ええ、いいわ! ……じゃなかった。もちろんです、兄さん。ワタシの楚々とした振る舞いも、ぜひご覧になってくださいませ?」

「おおっ」

 

 美しい所作のカーテシー。

 直後に見せられた見事なお清楚モードのリリーに感動して、思考はすぐに吹き飛んだ。

 

 っていうか……。

 

「うわ、やっぱどっかのご令嬢だあの子」

「すごっ。令和にいるんだ、本物の清楚な人って」

「天常様とは違うタイプのお嬢様ですわ!」

 

 まずい、目立ちすぎた。

 

 

(目的の博物館は、もうすぐそこだな……なら!)

 

 繋いだ手に、力を入れる。

 

「へっ?」

「悪いが急ぐぞ、早足だ。リリー!」

「ひゃあっ! に、兄さん! お清楚! お清楚がくずれる~~~~!!」

 

 焦らず無理なく加速して。

 なんなら途中からはリリーを支えたりしながら、俺は急ぎ目的地へと向かう。

 

「に、兄さん! 兄さん! 腰! 腰に手が回って!」

「我慢我慢! ハリーアップだ!」

「ひゃわわ~~~~~~!!」

 

 リリーの情けない声が響き渡ったが、周りから向けられる視線はどこか温かだった。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「へぇ、ここが……」

 

 ほどなくして、俺たちは目的地――『調部(しらべ)博物館』に到着した。

 お武家様のお屋敷みたいに大きな家の広い庭に建てられた、これまた大きな蔵を改装して作られた様子のその建物の、内側は。

 

「……すごいな」

 

 どこもかしこも歴史的な資料で埋め尽くされた、個人所蔵とは思えない規模の宝の山だった。

 

 

(あ、これ……『千寿子(ちづこ)(ひめ)』伝承の資料か? 古っ、まさか当時の物だったり? え、じゃああっちの本ってもしかして江戸時代に書かれたっていう不思議ノ市の伝承まとめたやつ?)

 

 地域の歴史・伝承にまつわる貴重な資料の数々に目移りする。

 

「む、なによ。やる気? やるならやるわよ!」

「こらこら」

 

 展示されてる武者鎧に身構えるリリーを引っぺがしながら、しばらくのあいだ館内を巡る。

 曲がりなりにも『ふでん研(不思議ノ伝承研究室)』なんていう地域密着型民俗学サークルに所属する者として、ここに並べられている物は何一つとして見逃せなかった。

 

 と。

 

 ポンッ!

 

「っとと、マナーモードにし忘れてた。……お、つむぎからだ」

 

 MAGIを通じてつむぎからメッセージを受け取る。

 そこにはこちらの到着に気づいている旨と、奥の部屋へと来るようにという指示が書かれていた。

 

 

「リリー。つむぎに会いに行くけど、ここで待」

「行きます」

 

 シュババッ!

 

 っと一瞬で距離を詰め……なぜか腕を取られてギュッとされ、隣でリリーが鼻息荒く息巻く。

 

 ブブブッ!

 

 そこに計ったかのように追加のメッセージが届き、つむぎからもリリーの同席を願う内容が書かれていれば、俺にもう否やはなくて。

 

 

「それじゃ、行くか」

「ええっ! ……じゃなかった。はい、兄さん」

 

 お上品に腕を組み直したリリーと一緒に、俺は博物館の奥……つむぎの待つ部屋へと足を踏み入れるのだった。




見た目はお姫様。

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