激闘!燃え盛れ怒りの灰! ~ルビコンで一番つええ犬~   作:abubu_nownanka

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ルビコンで一番つええ犬-04 挿絵追加

男はMTのコクピットにだらしなく身を預け、片足をコンソールに引っ掛けたまま、無線に越しに仲間とバカ話に興じていた。

 

ルビコンの大地に聳え立つグリッド086。その裾野に近い下層ブロック。構造体が平坦を描き、地表の大型垂直カタパルトを眼下に据えるこの場所は、見張りには丁度いい場所だった。侵入者が来れば丸見えだし、何より“来ない”。

 

グリッド086がRadの根城であることはルビコニアンなら誰もが知っていることだ。

 

見張りは五人。鳥脚の小型MTに乗っている自分を含めて新入りばかりだが、少し離れた高台の一機を操縦しているヤツはそれなりに下っ端歴が長いらしく、新入りのまとめ役を気取っている。

 

最初に顔を合わせた時から、なんとなくノリが悪いヤツだと思っていた。昨夜、前のチームにいた頃の“武勇伝”を下っ端仲間に聞かせてやったが、ヤツだけあからさまに嫌そうな顔をしていた。もちろん他の連中は腹抱えて大笑いしたが。

 

そもそも真面目に見張る必要など無いのだ。粗末なMTのセンサー探知範囲は本来もっと狭いものだが、Radの機体はグリッド内に敷設された補助センサーと連携することで、その可視範囲を大幅に拡張している。そして防衛システムは侵入者があれば即座に自分達に向けて警報を飛ばしてくれる。こんな仕組み一つとっても、Radが力のある組織だと分かる。

 

Radはドーザーの最強硬派。歯向かうヤツは皆殺し。その抗争は苛烈で、敵対集団が根城にしていた対岸のグリッドに弾道ミサイルをブチ込んだ逸話はあまりにも有名だ。

 

というより、あの花火は自分も地表から見ていた。てっきり老朽化した動力炉か何かの爆発だと思ったが、後にあれがRadの仕業だと聞くと居てもたってもいられなくなった。

 

元居た組織のMTを引っ提げて数名の仲間と共に入団志願に駆け込んだ。そうしたら丁度どこぞの独立傭兵が派手に暴れて手下に欠員が出ていたとかで、全員アッサリと受け入れられたのだ。

 

Radも案外チョロい──。憧れて飛び込んだ組織を“チョロい”と貶すのは矛盾であるが、男にさしたる違和感はない。

 

力は好きだ。天然モノのコーラルをキメるのも悪くないが、組織内でのし上がってもっとデカいMTを乗り回せたら最高だろう。

 

そう思うのだが生憎とルビコンで"力"を語るなら避けて通れない存在がある。

 

汎用機動兵器:アーマード・コア。戦場の花形として度々持ち上げられるが、何故か自分にとってはあまり興味を引かれない対象だった。ベイラムは定期的に強化兵士となる志願者を募集しているし、確かに戦場を飛び回って雑魚どもを蹴散らせれば気分が良いのだろう。

 

それでもACは無敵ではない。圧倒的な物量に為す術なく鉄屑と化したACの屍なんぞは、ルビコンにいくらでも転がっている。兵器マニアの仲間がAC語りに熱を上げているのを見るとむしろイライラするし、"強化手術"と聞くたび、借金のカタに手術を受けさせられた義兄の顔がチラつくのだ。あんな風に廃人になり、薄汚い病床で惨めに干乾びるのは御免だ。

 

やはり自分が本当に魅力を感じるのは、ACをも上回る力だ。それこそRadのような集団的暴力。弾道ミサイルだってそうだ。グリッドを丸ごと吹っ飛ばせるACなんか存在しない。組織として叩きつける破壊こそが美しい。

 

極めつけに、Radの子飼いのAC乗り──コールサインで"無敵"を名乗っているから余計始末が悪い──は重量級MTに勝てるかすら怪しいもんだし、どう見ても脳がイカレている。

 

そしてまた新たなイカレたシルエットがメインモニターに映り込んだ。

 

【挿絵表示】

 

古い地球の映画か何かで見た、深海の魚だかサメだかに似た平たく左右に突き出た頭。ヌルリとした滑らかな装甲の逆関節脚はあまり見かけないタイプだ。それとは対照的に、両手に下げたライフルはベイラムの普及型。両肩にミサイルランチャーらしきものを積んでいるが、左側のものだけやけにバカでかく、しかも真っ赤に塗装されているのは一体何の意味があるのか。それでいて本人が興味が無いからなのか、ACにありがちな機体カラーリングはなく、ただ落書きみたいなエンブレムだけがコア左側に雑に貼り付けられている。

 

その異形のACは自身の存在を誇示するかのように、100mほどの距離にじっと佇んでいた。それだけのことだが、男にはコクピットシートにいるであろう何者か──どうせ手足を動かすのもままならない廃人だろう──が、接近に気付かなかった自分達を嗤っているように感じられた。

 

やはりAC乗りには不気味な異質さを感じる。これは、自分が欲しい"力"ではない。

 

さっきまで下品に笑っていた仲間の声が無線の向こうで途切れる。誰かが小さく息を呑んだのが分かり、男は鼻で笑った。ビビる必要は無い。防衛システムが警報を鳴らさなかったのは、コイツがRadの正式な味方識別信号を発しているからだ。

 

"ビジター"。

 

Radと付き合いのあるフリーランスのAC乗りは何人か居るようだが、こいつは舐められているのかコールサインではなく、ただ"ビジター"と呼ばれていた。「グリッド086への来訪者」ではなく「ルビコンそのものへの密航者」という意味合いのようだが、細かいことはどうでもいい。

 

一つ、見せつけてやる必要がある。もちろん、この余所者に対してではない。下っ端仲間に対してだ。こういう小さな場面での振る舞いが、後々の仲間内での序列を決める。舐められたら終わりだ。

 

『よぉ──』

 

男はACに近づこうと操縦桿を軽く倒したが、近づく必要は無かった。

 

アサルト・ブーストの爆発的な加速をもってして、メインモニターいっぱいに鋼鉄の脚が飛んできたからだ。

 

◇ ◇ ◇

 

ACとMTの体格は大人と子供ほど違う。異様に後傾する姿勢から前方に突き出されたACの逆関節脚は、MTのコクピットブロックを1/4ほどに圧縮し、ひしゃげた残骸を床面たる平坦構造の端まで吹き飛ばした。

 

"ブースト・チャージ"とはいつしかこの攻撃手段につけられた俗称だが、より露骨に言えばそれは"足蹴り"に他ならない。

 

ブーストの加速力を載せた数十トンに及ぶ鉄の巨体から繰り出される有無を言わせぬ打撃。最初にこれを目の当りにした過去の技術者たちは頭を抱えたに違いないが、しかし今日のAC設計工学はこの野蛮極まる機体運用を織り込んでいる。中量~重量級ACともなれば関節強度はそれに耐える設計となり、衝撃分散機構が組み込まれ、近距離戦闘重視のブースターは打撃前提の加速制御に最適化されていた。

 

もっとも、人類を傍から観察する者──、コーラル意識体にしてみれば、全長十数メートルの機動兵器が蹴りや掌打を攻撃手段とするのは至って自然に映るのだろう。

 

原始時代から変わらず、人間はそうやってきたのだから。

 

取り巻きの2機目もほとんど反応できなかった。後傾姿勢を立て直すのもそこそこにACが撃ち放ったライフル弾の1発で胴体を抉られる。3機目が無線に短い雑音を残し、僅かに機体耐久性を有していた4機目が『なにを──』と言いかけて爆炎に飲み込まれた。

 

『ビジター!何してやがる!!』

 

まともな言葉を発したのは高台に居た5機目だったが、それが最後の言葉となった。直後に頭上から降り注ぐプラズマミサイルの雨に焼かれ、装甲を赤熱させながら弾け飛んだ。

 

トップアタック軌道を描き、着弾地点に超高温のプラズマフィールドを形成するそれらは、最初のアサルト・ブーストを起動するのと同時に発射されていたものだ。

 

5機の見張りMTは、一瞬にして鉄屑に変えられた。

 

ACは何かを待つようにして再びその場に静止した。元より全周360度を視認可能な機動兵器だが、シュモクザメにも似た異形のセンサーヘッドは、パイロットが何処に意識を向けているのか輪をかけて分かり辛い。

 

防衛システムは既に警報を発しているらしい。間を置かずグリッド086に流れる広域チャンネルから女の声が響いた。

 

『ビジター。一体何のつもりだい?』そこにはビジターが最初にこの場所を訪れた時に見せた軽妙さは無い。より黒く、威圧感が滲んでいた。『企業の依頼…、じゃないだろうねぇ。訳があるなら聞こうじゃないか。』

 

応答の代わりに、Radのローカルネットワークを通じて頭目たる女の元へ短いデータパケットが滑り込む。音声ではなくテキストメッセージだ。

 

[拝啓 カーラへ 

 

殺しに来ました。

 

初めて会った時のことを覚えていますか?

あれってテストしてたんだよね。

カーラは私がウォルターの犬としてやっていけるかテストしたよね。

でもよく考えたらウォルターの仲間だからってカーラだけが私をテストするのはフェアじゃないよね。

こっちがカーラをテストしてもいいよね。

だからカーラがウォルターの仲間としてやっていけるかテストするね。

 

死んじゃったら残念だけど仕方ないかくらいの勢いで適当に殺しに行くので、頑張って生きてください。 

 

ウォルターの犬より]

 

異様に拙い、子供じみた文面だった。

 

旧世代型の強化人間が感受性の面で問題を抱えるのは往々にしてあることだ。それとも怪文書めかしてビジター流にからかっているだけなのか?

 

『笑えないねぇ。狂ったのかい?』

 

返信は無い。

 

恐らく現在の621は完全な戦闘モードにあり、生体を巡るあらゆる神経は機動兵器の演算装置としてのみ機能している。自身の口腔筋の"操縦"がままならないのだ。だからこそ、事前に準備したメッセ―ジを送信してきた。

 

その状態にあるパイロットでも選択式のメッセージならば意思疎通は充分に可能だ。実際、ウォルターも作戦行動中の強化人間とはそのようにしてコミュニケーションしている。

 

『あなたは狂いましたか?』 YES/NO

 

そんな問いを送りつけてやろうかとも思ったが、やめた。

 

第四世代強化人間:C4-621。友人にして協力者であるハンドラー・ウォルターが見出した掘り出し物。

 

幻聴や幻覚症状があるらしいとは聞いていたが、命令には従順で精神的にも安定していた筈だ。あの律儀な初老の友人が、自身の猟犬と日常的に会話していることも知っている。無論、いちいち内容を詮索するような野暮はしないが。

 

思えばカーラはビジターと直接言葉を交わしたことが無い。カーゴ・ランチャーへの道を開いてやった時も、テンプレートで作成された作戦行動目的の開示があっただけだ。一度、"スペシャル版"のシミュレーションプログラムを送信した時にちょっとからかったことはあったが、あの時は返事とも言えない不愛想な反応から、肉体相応の精神年齢を勝手に想像してしまっていた。

 

最初にこのグリッドへ侵入してきたのも、"幻聴"にそそのかされての独断だったという。グリッド上部に設置された大陸間輸送用カーゴ・ランチャーを利用したアーレア海横断。ブッ飛んだ発想だと思うが、その実は合理的だし、カーラが好む"笑える"タイプの無茶だ。

 

破綻した異常者のそれではないと思っていたが──。

 

グリッド086上層区画。シンダー・カーラは武装集団Radの指令室に坐している。

 

“指令室”と呼べば聞こえはいいが、実態は継ぎ足しと改装を繰り返した末の寄せ集めだ。天井は配線ラックに侵食され、床には束ね切れなかったケーブルが蛇のように這い回る。型式の揃わないディスプレイが壁面を埋め、古い物理端末と最新鋭の演算機が無秩序に同居していた。とは言え、この部屋の機能性についてはカーラ自ら保証するところだが。

 

中央にはグリッドの全体像を投影する巨大なホログラム。監視システムの稼働率、MTの配置、電力供給状況、各区画の損耗率。それらが色分けされた光点としてリアルタイムで更新される。

 

指令室への立ち入りを許されているのは、主にRadの技術者陣。それと戦闘部隊を統括するごく上澄みの構成員だけだ。戦闘担当達は部下のドーザーどもを従えるため外見こそ威圧的に装っているが、その眼差しはコーラル中毒者上りなどではなく、非正規戦を渡り歩いてきた軍人のそれだった。

 

今も彼らが各隊へ命令を飛ばす声が室内を満たす。その喧噪をどこか遠くに聞きながら、シンダー・カーラは思考を研ぎ澄ませていた。

 

621が単に自分を平伏させて悦に入りたいだけならば、話は簡単だ。しみったれた根性の犬相手に慈悲を乞い、腹芸してみせることなど自分が負った使命に比べたら何でもない。ため息一つでやってのけられる。

 

だが、本当に自分を殺すつもりだったら──?

 

621が全力でかかってきた場合、それを撃退する力があるか疑わしい。そもそもRadの戦力はルビコンの非合法武装集団や民兵組織を相手取ることを想定して構築されたものだ。グリッドの複雑な構造を利用したゲリラ戦、センサー網による早期警戒、MTの物量に物を言わせた包囲殲滅。それらは散発的な小競り合いや、せいぜい中規模の企業傭兵部隊を相手にするためのものだった。仮に企業の正面戦力を投入されたとしても、グリッドの迷路のような通路と垂直構造を活かせば、足の重い大部隊相手に攻略の遅滞を強いることも不可能ではない。

 

敵が超高速で一点突破を図る単騎のACである場合は、どうか。

 

普通であれば問題ない。閉所に誘い込んで囲んで叩けばすぐに終わる。普通であれば。

 

621はあの"小手調べ"で感じとった以上の化け物だった。化け物は過去の猟犬たちならば命を散らせていたであろう死線を幾度となく潜り抜け、不可能と言われた"壁越え"を果たし、惑星封鎖機構の特務機体を撃破し、3対1のAC戦で一発の致命打を受けることもなく敵を捻じ伏せた。その報告を聞いたとき、カーラは自身の称賛の笑いに戸惑いが混ざったことを認めざるを得ない。

 

ウォルターの猟犬ならばこれまでに何人も居た。彼らはあくまで代替可能な駒だった。しかし、あの一頭は今や計画に欠かせない駒になりつつある。

 

精神不安定を原因とした暴走ならば、何とか捕獲して再調整すべきだろう。だが、ことによるとルビコンに潜伏する為に作り上げたこのRadという仮初の居城を捨ててでも、技術スタッフと共に退避すべき状況かも知れない。

 

今、この場でその判断をすることを迫られている──。

 

"野暮用"で外しているハンドラー・ウォルターに連絡を取るのは、どうにも間に合いそうにない。

 

傍らのコンソール画面にアバターとして浮遊していた"相棒"が抑揚に乏しい男性の声で尋ねてくる。

 

『ボス、どうするつもりだ?』

 

未だ決断を下すことはせず、カーラは指令室を見渡す。技術陣の上位、彼女の目的の一端を知る者たちが不安げにこちらを見ていた。その視線に浮かぶ動揺は、この予期せぬ騒動が"計画"そのものを破綻させかねないという、深刻な脅威を感じているからではないか──。

 

Rad頭目の思案は時間にして一分にも満たなかったが、戦況判断では絶望的に長い時間だ。音速の怪物は既にグリッドの前庭を食い荒らし、中腹に食い込みつつあった。中央ホログラフは、単なる光点の消失という無機質な形でRad構成員の死を告げてくる。

 

一秒ごとに部下が死ぬ。

 

ドーザーなんぞはルビコンを這う蛆虫だ。美味い汁を啜ろうとRadへ寄ってきた下っ端のチンピラ連中も、どこでどんな悪事を重ねたのだか知れたものではない。「路傍でくたばるのが分相応。」それがカーラの本音ではあった。だが、遊びや冗談で彼らの"薄汚い命"を使い捨てたことは一度としてない。

 

かたや、621の行動にどれほどの道理がある?子供じみた不満──恐らくは強化手術の影響なのだろうが──を募らせ、冗談のような戦線布告と共にMTを蹴り潰してみせた。

 

遊び半分の殺戮でなくて何か。

 

それは、笑えない。

 

「急いで機体を準備しな。『フルコース』と『サーカス』を。チャティ、アンタにも出てもらうよ。」

 

【挿絵表示】

 

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