今作は幻覚に基づくフィクションです
裏路地を支配する5本指の一つで、知識と芸術を追い求めては全方面に迷惑なことをすることに定評がある組織である。
そんな薬指では新しい流行が起きていた。
『芝居派』
文字通り、舞台表現や演劇を主題として芸術創作に勤しむグループである。
芝居派のとある若きマエストロ…ここでは便宜的にドロルドとしておこう、もちろん本名ではないがそんなものは自分の生皮を小道具に使ってしまったマエストロにとって些事である。
彼はアイデアに行き詰まり追い詰められていた、というかそれが原因でもうすでに一度ねじれていた。
(なんせ都市には様子のおかしい娯楽が山ほどあるのだ、今更残酷劇を何本も撮ったところで粗製濫造と酷評されるに違いない)
そうやって自分が
「全てを台無しにするドロルド」
そうやっていかにもなねじれ方をしたのだが、ドーセント達がウキウキで自分を撮影し出したのを見て
(なんだこいつら、私は今そんなに面白いのか???)
と冷静になった、なってしまった。
映像に映ったのはフィルムでできた体に火をつけては結局水をかけている哀れな自分。
自信がないくせに作品を作っては焼いて、結局それにさえ未練があるという惨めな姿であった。
しかし、そこでドロルドは閃く
(これはネタになる!!!)
そして、気力を取り戻し作品を焼くねじれから
「わかったかね!諸君!」
「これは壮大なる芸術なのだ!」
「わかったら!殺し合いたまえ!」
そんなこんなで彼は芝居派の総力を使って都市の全域からフィクサーをありったけ集め、二人一組で協力しないと生き残れないデスゲームを開催することとした。場所は薬指の廊下からつながった先の、自分のE.G.Oで改造された巨大な劇場である。
参加者が二人一組なのは、一人ではどうやっても生き残れないであろう低ランクの非戦闘職フィクサーにも一応の希望を与えるためである。まあドロルドは彼らが生き残れるとは思っていないのだが
「む、ひとりあぶれているではないか」
「その辺で泥のように寝てたのをとりあえず連れてきたもので…」
新入りのスチューデントが申し訳なさそうにしている
「ふむ…ちょうどデスゲーム参加者の視点が足りないと思っていたところだ、あの9級フィクサーの相方として参加しながら撮影しなさい」
「えっ」
「君のこれまでの態度や成績では、次の作品がうまくいくわけもないだろう、破滅を糧としてインスピレーションを磨きたまえ!」
「どうして…指に入れたんだからちょっとはマシな生活だと思っていたのに…」
新入りのスチューデントはデスゲームが始まった直後から絶望していた。
お題の大半は戦闘力や義体に強化施術、あるいはE.G.Oなどの強みがなければ攻略できない地獄である。芝居派の総力を上げてもちょっとしか確保できなかった2級以上のフィクサー、あるいはツヴァイ協会やシ協会の提携フィクサーなどの戦闘職たちはクリアできるかもしれないが、後半戦はそれでも厳しい要素が多い。何よりそういうのは相方が弱めに設定されているので、どうにせよ絶望に直面して死ぬのだ。
「俺の相方は9級フィクサーだし…終わりだ…」
「…」
「うおおおお!なんか生き残れてる!!!すげえなアンタ!」
「…」
スチューデントは奇跡的に生き残れていた、もちろん怪我はしていたが、それも活動に致命的ではない範疇に収まっている。
「それもこれもあんたのおかげだよ、なんでそんなにすごいのに9級なんだ?さっきから一言も喋らないし、怪我とか?」
「…」
9級フィクサーはそれでも無言であった
「わかった、言いにくいなら言わなくてもいい!そもそも俺も本当なら主催者側だもんな!信用できないよな!」
「…」
「ここまで生き残るとは…私は人間、そして君たちの可能性を見誤っていたようですね」
「マエストロ様…」
「…」
「最後は私との決闘です!さあ、名乗りをあげてかかってきなさい!」
マエストロが手を掲げると、劇場の装飾が集まって一つの巨大な鋏へと変わる。その側面にはあらゆる残酷さの
「薬指芝居派マエストロ、ドロルド!至高の芸術の為に、貴方達を刻んで小道具にしてあげましょう!」
「…はあ」
その時、これまで一言も喋らなかった9級フィクサーが声を出した
「9級フィクサー、ローラン」
「ローラン…まさかあの事務所のっ」
その瞬間、ドロルドの体は完全に細切れになり、死んだ
なんの反応もできない、何も残らない、完全なる死であった
「マエストロ様が、死んだ???え、まじで???」
スチューデントは状況を把握できていなかったが、少なくとも自分が理解できない、強さの天井の向こう側を目撃したことを理解した。
「…お前も戦うか?」
「いや、いや、無理だし、あんたとは戦いたくないよ!」
「…そうか」
劇場が崩れる、生き残った他のフィクサーも、ローランも脱出していく
「マエストロ様が死んだなんて…」
「俺たちだけでどうやって生きていけばいいんだ…」
芝居派の中核をなしていたドロルドの死は芝居派の存続そのものを揺るがすニュースであった
「諦めるな!」
「マエストロ様が死んでも、俺たちだけでこの映画を完成させるんだ!」
声をあげたのはあのスチューデントであった、彼の目は、気力は、未だ死んでいなかった。
そして、完成した映画が公開されたその日
「君達、落第ね」
クソタイトルのクソ映画には当然の末路であった。
サプライズ特色なのに特色出てねえタイトル詐欺映画なのは一部の実力者達に当然バレている。