クライマックスまでもう少しかかりそうです。
蘇我屠自古と物部布都が尸解仙になるための材料を掻き集めるためににと、斑鳩宮を奔走して始めてから夜通し薬屋や禁断の店を回って何とか集めているうちに、いつの間にか夜は開けていて2日目に突入してくる頃。
その頃になると、材料は半分揃ってきていて後は残りの半分だけとなっていたが、代わりに、段々二人の服装は乱れてまくっておりボロボロになっていた。
だが、二人にはそんなことを気にしているような余裕なんてなかった。
なにせ、そもそも尸解仙になるための材料を揃えるのに本来から最低でも数ヶ月かかるのに、既に半分も集めているのだ。
それ故に、どれ程無理をしているのかは言わずとも分かるだろう。二人の今のボロボロな格好は二人の我武者羅さのその証拠とも言えた。
それでも、残りの一日と半日間以内には、全ての材料を揃わせなければならないのは事実。余裕という言葉すらも生ぬるい程の焦燥感が二人の間には僅かに燻っていた。
「ハァ!ハァッ!布都!大丈夫か?金丹(きんたん)の材料は落としてないよな?」
「ああ!大丈夫じゃ!ハァハァ!ちゃんと一つも落としておらん!そっちこそ、何かしらを落としてはないじゃろう?」
「あぁ!大丈夫だ!!ハァハァ!お前みたいなヘマはしねぇよ。」
「なにぃ〜!我はそこまでおっちょこちょいじゃないのじゃぁー!!ハァハァ!だが……疲れてくるのう。」
「そうだな。その時は倒れる前にどうにか一旦身体を休ませねえと………。」
ボロボロなフードを被った二人組がぎゃいぎゃいしながら都の町中を走り去っていく様子を、道行くすれ違う周りの都の人々は不思議そうに見やるが、二人はそんなことに気を使うほどの余裕がない。
いや……日夜問わずこのように喧嘩口をしているのだから、案外余裕はあるかもしれない。
だが、時間の余裕はそこまでないことは屠自古は十分に理解していた。
ふぅ……何とか後半分だな…。けどまだ半分もある。まだ余裕はねぇな。
にしても…………さっきからコソコソと動き回っている奴らがいるけど…………。
必死に荷物を持ちながらアレやコレやを考えながら真っ直ぐと並走しているアホな同僚を横目に、屠自古はチラリと後ろを確認する。
チッ………僧侶達か………勘のいい野郎達だな。……いや、これだけ都の中を駆けずり回ってたら嫌でも勘づくか。
既に太子様が倒れたことはこの都中には知れ渡ってる筈だ。そこで私達が動いているとするのに気が付かれているのなら…………。
その時、屠自古は急いで布都に自分達は追われているということを、教えるために話しかけようとした。
だがその時、屠自古と布都を密かに追っていた僧侶達とは別の方向に潜んでいただろう数人の僧侶達が錫杖(しゃくじょう)を取り出しながら右斜め後ろにあった裏路地の入り口から表れて、自分達にむかって捕縛用の札を投げつけて来ていることに気がついた。
そして、その札が行き着く先は布都の背中のど真ん中だった。それに気が付いた心優しい姉御肌の彼女の取る行動はただ一つ。
「ッ!?布都!!危ない!!」
「ん?…わっ!?」
屠自古は咄嗟に布都の背中を押して庇った。
だが、その代わりに屠自古の背中に布都を狙っていた捕縛用の札が張り付いてその札に込められた法力が発動し、屠自古は仏経の文字列で作られた縄のようね紐状の物体に胴体を拘束されて転んでしまう。
「屠自古!?」
「早くいけ!地面に金丹の材料は放り投げておいた!それを拾って、お前だけでも逃げろ!!何とかして材料を集めるんだ!!」
「………嫌じゃ!」
「ッ………聞き分けのねぇ奴だ!!早くしろ!!」
「嫌じゃー!!我は屠自古を置いていかないのじゃー!!」
「無理だ!奴等は歓算上人の一門だ!!奴等はこの副都で一番勢力のある妖怪退治の専門家達だぞ!!
普段から妖怪を相手にしてる奴等にとって、私達を無力化するのは赤子の手をひねるくらいに簡単なことなんだ!
いくら霊力と妖怪退治の心得があっても、みみっちくて背の低いお前じゃ、彼奴等に勝てないのは分かってるだろう?だから早く材料を拾って逃げろ布都!」
「霊力も風水の心得がないお主に言われたくないわ!!それに!我には力がある!ならば、守りたいものに使うのが本当の力の使い所だと我は太子様に教わっておるのじゃ!!」
「くっ……布都の馬鹿野郎!!今は優先順位が逆なんだよ!」
「我にとっては太子様の次に屠自古の方が大事じゃ!!材料はまた買い足せばいいのじゃ!!」
「それすらも時間的に無理だからこそ言ってるんだよ!!」
「グゥ〜……けど……。」
「けどじゃねぇ!!…………今はお願いだ!布都!………早く、早く!私を置いて行ってくれぇ〜!!!」
「クッ………わっ!分かったのじゃ!」
その必死な形相の屠自古の剣圧に根負けした布都は、先に折れて、進行方向へと前向いて走り出そうとするが、しかし、布都は既に、逃げる先すらも回り込まれ、追い込まれてしまっていることに気がつく。
『居たぞ!奴だ!捕まえろ!』
『逃げ場は潰した!諦らめよ!神妙にいたせ!』
「くっ!?いつの間にか、回り込まれていたのか?!?」
周りの都の人々はこの余りにも非日常的な状況に逃げ出す者や、その場で立ち止まって行く末を見物する者までいる中、布都はその袋のネズミ状態に頭を抱えてしまう。
だが、その人の波に埋もれてしまっていた僧侶達が、まだこちらには辿り着くまで余裕がある。そこで、屠自古は屋根上に逃げろと言い出す。
「クソっ…ろ…屋根上に登っては逃げられないのか?」
「ダメじゃ!既に他の僧侶共が少なくとも複数人はおった!くそぅ!………に、逃げ場がない!!」
余りにも四面楚歌に加え、こちらの傍には無力化されて地面を転がっている大切な同僚を庇わなければいけない。今の布都にとっては余りにも不利な状況だった。
「………ま、まだ…全て集め終わってもいないのに……私達は終わりなのか?」
「……くっ…万事休すか?」
札や弊を構えて戦闘態勢に移った布都と下を向くことしか出来ない屠自古が絶望の色を見せ始めたその時、
― キュー ―
どこからともなく、一匹の狸の鳴き声が都中に響くように聞こえてきた。
その瞬間、
― バウン ― ― ポン ― ― ドロン ―
その狸の声の合図を皮切りに、周りで行く末を見物していた街の人々の幾人や僧侶達の内の数人が急に、葉っぱを頭へと乗っけた狸へと変わる。そして、そのことに驚いた僧侶達の隙を突くようにして、他動物や古代の兵士や空を飛ぶ鳥や中には鴉天狗へと自らをドロンと次々と変化して、僧侶達に攻撃?というよりも妨害をし始めた。
「ガウッ!ガウッ!」「ヒュ〜ルリリリ〜!」「てやぁ〜!」「ピュー」「我は鴉天狗!!風を起こすものなりぃ〜!!」
『化け狸か!?』『なんだこの数は!?』『早く対処しろ!!』『無理だ!この数は!!』
僧侶達が動揺を示す中、追加で現れた化け狸達は、更に次々と化けて行く。
― バウン ― ― ポン ―
「ホーホケキョッ!」「シャァ〜〜〜〜!!」「ヒヒ〜ンッ!」「アォ〜〜〜〜ン」「我は白狼天狗!!陸地を疾走するものなりぃ〜〜!!」
そして、その化け狸達は二人を囲う用に人混みを掻き分けながらこちらに進んできている僧侶達へと、一斉に次々と襲いかかっていく。
「な、何じゃ!?何が起こっておるのじゃ?」
「え?いったいどういう状況なんだ?これ!?」
急な事態に布都と屠自古が混乱していると、二人の近くにあった壺が急に狸へと変わって、少し大きめな尻尾をフリフリと僅かに揺らしやながら、困惑する屠自古と慌てて札を構える布都に青年のような声で話しかけてきた。
(おい!人間の二人組!今のうちだ!早くこっちに来てくれ!)
「なっ?壺が?狸に?……お、お主も化け狸なのか?………何故、妖獣であるお主達が人間である我と屠自古を助ける?」
「……私もそれが分からない。何で私達を助けるんだよ?」
(あぁ〜!もぅ〜〜!!今は詳しく話せる暇はないんだっての!
これだけ言うからな?俺達はマミゾウ親分言われて、仕方なく人間達を助けてるだけだからな?調子に乗るなよ?
兎に角、もっと詳しい訳は逃げながらでも話すから!仲間達が僧侶達を食い止めてる内に早く逃げてくれよ!)
「わ、分かったのじゃ!」
― ヒョイ ―
「キャッ!お、おい!布都、私を物みたいに運ぶな!?」
「文句を言うでないわ屠自古!!今は緊急事態なんじゃ!!それに我は荷物で片手が殆ど塞がっておる!だから、我が屠自古を肩で背負うくらい我慢するのじゃ!」
「チッ!…………分かったからさっさと運べ!」
「おう!!」
(ちゃっちゃと早く来いよ!緑の女の分の荷物は俺が咥えて持っていってやるから早くしてくれ!!仲間達が僧侶達に、退治とか封印とかされたらごめんなんだからな!!)
そうして、屠自古を肩に背負った布都と、荷物のように背負われた屠自古と、一匹の尻尾が太めの狸は路地裏の地下壕へと入っていくのだった。
……太子様。ご無事でいてください。我と屠自古は太子様から頂いた使命を全うしますから。
* * *
一方、布都の屋敷の前では、
『結界を張れ!』『妖及び、豊聡耳神子の巫女を逃がすなよ!』
『急げ!対人間用の奴もだ!』『悪辣な異教の使徒を取り逃がしてはならんぞ!』『封印途中に邪魔が入ったら面倒だ!人避けの護符も辺りに貼り付けろ!』
『内側だけの奴で十分だ!』『出さなけばこちらの者じゃ!』
斑鳩宮中の僧侶の総数の約半分程が、この布都の屋敷を取り囲む用にして構えていた。
そう、一人の高尚な僧侶を中心にして。
その高尚な僧侶は、老いびれた一人の老人だった。そして、過去のあの時の妖怪に襲われた村から逃げ出した青年だった者である。
その老人は遠くにある弟子の僧侶達や他の門の僧侶達が協力して屋敷を囲って結界を張っているのを眺めていた。
そんな老い寂れた老人の僧侶に話しかける者が一人。それは彼の弟子だった。
「師匠、副都の斑鳩宮から知らせの者がきました。」
弟子はまだまだ若い。齢は丁度、妖怪が襲われていた村から逃げ出した時のあの時の青年と同じくらいだ。その青年を老人は一目見て、コクリと頷いて青年に応えた。
「……通せ。」
「はっ!」
青年の弟子が数珠を鳴らして、立ち去ると少ししてから知らせの使者を纏って、歩いていくる。
そして、知らせの使者は老人である換算上人に頭を下げて斑鳩宮の状況を報告しだす。
「換算上人。都にて散らばっていた僧侶達は、何かしらの材料を斑鳩宮のあちこちで買い集めていた豊聡耳神子の二人の従者を取り逃がしたようです。」
「……腕のよい弟子たちがそう易易と失敗するとなると、異例の事態の筈ではあるが?……いったい何があった?」
「はっ……どうやら、目の前の屋敷にて群れを率いて立てこもっている大狸の大妖怪の部下の一味の化け狸による集団に、邪魔され、その隙に従者二人組を取り逃してしまったとのことです。
化け狸の集団の乱入によって、現場の混乱は極めていた最中、従者二人組と共に化け狸の集団が急に逃げ出して事態は収まりましたが、その後は従者二人は行方が不明となってしまい、二人の追跡の手を振り切られました。」
「そうか………分かった。下がっていい。」
換算上人の許しに対して、知らせの使者は一度頭を下げたあとに、換算上人から離れていき、近くに止めていた馬斑鳩宮の方へと向かって駆けていった。
その様子を見送った換算上人は顎を擦り始めた。
「いまいち思考が読めない。豊聡耳神子め。従者をあえて都に向かわせ騒がせるだけでなく、化け狸の大将と手を組むとは………死にかけだろうにこの期に及んで何を考えている?」
「はっ……恐れながら師匠。恐らく何かしらの目的の為の時間稼ぎかと……。」
「……妥当か…だとしても、意味がない。瀕死の豊聡耳神子を診ていた医者と共に気絶されられた黒い馬を荷車に乗せて出てきた舎人の3名をひっ捕らえさせて、その者共を吐かせた証言からすれば、奴の命は残り2日間しかない筈。それが……企みをしているだと?」
「それは……詳細は分かりません。ただ、師匠が二十日程前に、『街中で彼女等を見かけた時に、身体の内を流れる力からあの冬前を騒がせた『邪仙』と同等の忌廻しい力が流れている』、と仰ったことをきっかけにこの事態が動きだしましたので……………何かしらにおける道術や仙術の企みが起きているというのが妥当かと………?」
「……………やはり、仙人にでもなろうというのか?豊聡耳神子は?…………いや、確定か。
久々にだが、遠目に見た奴の身体は、始めて奴を見かけた時とは違い、常人にはあってはならぬ程の仙力を究め、その身に纏っていたのだ。」
「察するに、師匠の言うとおり事実でしょう。しかし、安心してください師匠。
二人の従者が集めているのが仙人という邪悪な存在になるために必要という話ならば、従者達は我々の2つの包囲を突破しなければいけません。
斑鳩宮を封鎖している僧侶達、そして目の前を結界で防いでいる我々。このどれもこの斑鳩宮で最も優秀な者達です。
故に、従者達がこの屋敷の中へとその材料を運び入れることは確実に不可能でしょう。このままの体勢を2日間を乗り切れば豊聡耳神子は次期に力尽き、仙人となることはあり得ないでしょう。」
「………うむ……確かにお前の話で今の状況の納得はいくが…。どうにも引っかかる……私達には異教に詳しい知識がない。それらを知っている者達…そう物部の一族は滅びてしまった。奴の従者の一人を除いて……。」
「物部布都ですか………。やはり、彼女だけでも取り逃がしたのは大きいですね。」
「兎に角、慎重にいけ。そういえば、手柄目当で屋敷に侵入した他の門徒の僧侶達はどうなったのだ?」
「どうやら豊聡耳神子と共に立てこもっている大狸の化け狸とその部下によって化かされてしまい、何の情報も得られず少しの間、正気と気を失ってしまっていたようです。
しかし、相手は大妖怪。いくら優秀な者達でも、その強大な力は人間の範疇にまったく収まりません。あの者共のように、安易に仕掛ければ返り討ちに合うでしょう。」
「………やはり他の門徒は役に立たんな。人の忠告も聞かぬばかりか、返り討ちにあって輪を乱すとは………このよつやことは我々の門下にもあっては非ぬ。
2番弟子から末弟子にまでの私の門下の僧侶達に全員、知らせろ『決して私の許し無しにあの屋敷に入ろうとするな』と。それはお前もだ。一番弟子よ。」
「はっ……。」
一礼した後、一番弟子の青年が立ち去って行く中。青年だった老人の僧侶はどんよりと曇っていた空を見上げて、一人静かに独り言を呟いた。
「師匠………。私はこれでいいんでしょうか?もう、老いた私には分かりませんが、もし間違っていたのなら、そちらに行った後に叱ってくだされ。」
師匠だった彼の形見の数珠を無意識に握っていた老人の、その身に着ていた僧侶服の肩に、どんよりと曇っていた空から振ってきたみぞれがポツリと当たっては溶けていったのだった。
○尸解仙になる為に必要な材料
鉱物類(水銀、大光明丹、雄黄など)
:毒性の強い鉱物を熱して精製した「金丹」が使われている。これらを飲むことで、呼吸や心拍を極限まで止め、周囲に「死んだ」と誤認させる。
植物類(太乙大黄、あまちゃづる、松脂など)
:『雲笈七籤』などの道教書に記載される「尸解薬」の処方箋には、特殊な霊草を調合した薬も登場する。
自分を死んだと認識させるための身代わりの物。
:刀がもっとも位の高い尸解仙になる者。但し、それ相応の修行とそれにより得る力を持たない者が使えば身体が持たない。その次に身の回りの壺や皿が一般的。最後に一番位が低いのが竹筒だ。
なお、良い子の皆は真似しないでね?
読者の皆様にとっての女オリ主のイメージを教えてください!
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可愛い! ここに皆入れてね!
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格好いい! そう?まあそれもありだね?
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美しいね! エヘヘー分かってんじゃん!
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変態! でも変態なお姉さんは好きでしょ?
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人情姉さん! 私についてきな!君達!
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大人なお姉さん! 妥当だよねー!うふふ♪
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乙女だよ! 分かってるねー!
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人妻最高! 良い子の皆は入れないでね?
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未亡人最高! なんか投票欄が怪しくない?
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もっと強くなれよ! あっはい、頑張ります
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ポンコツだね。 ん?これは褒め言葉?