化けガラスってマジっすか……。   作:SOGEKIKUN

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9羽:「穏やかな日々に届いた急な化け狸の知らせ⑥」

 

 

 

 

 同時刻、尻尾が太めの化け狸の背中を追って、分かれ道の多い入り組んだ地下壕の中を小走りに動いていた布都と、未だに彼女に荷物みたいに背負われていた屠自古は、尻尾が太めの狸狸が立ち止まったことで、必然と足を止めることになった。

 

 

(ふう…………ここまで来れば、取り敢えずはゆっくりできるかな?)

 

 

「はぁ、はぁ……。人一人を背負って荷物を持ちながら走るのは中々きついのじゃ。」

 

「………なんかごめんな。布都。」

 

「はぁ……はぁ……取り敢えず降ろすぞ?」

 

「…おう。ありがと。」

 

「うむ。」

 

 

 布都が上半身を縛られていた屠自古を足から順に降ろすと、布都は疲労のせいで地面に座り込んでしまった。それに続いて、屠自古も布都の隣の壁際を背中を合わせるように座り込んだ。

 

 

「ふぅ…ふぅ……。少し休ませてくれ。」

 

「まあ…私達は徹夜して斑鳩宮を走り回ってたんだ。疲労が来てもおかしくねぇからな。私も少し、疲れた。少し休憩したい。」

 

 

 そんな息絶え絶えの二人に尻尾の太い化け狸は、語りかける。

 

 

(まあ、休憩は大事なのは分かるけどな?もう少し急いでくれよ?俺達、奈良の狸達はマミゾウ親分にあんたらを斑鳩宮から何処か遠くに逃がすように言われてんだ。)

 

 

「「………?」」

 

 

(ん?なんでそうな『よく分からない』って顔をしてんだよ二人共?俺は詳しくはないけど、太子だがなんだかが二人を逃がしたいとか言ってたらしいけど?

 ほら、マミゾウ親分ってお前達の屋敷にいた狸のことだよ。それとも、まだマミゾウ親分の正体を知らなかったのか?マミゾウ親分、正体がバレるまであそこに居候するとか言ってたけど……?)

 

 

「え………?あの狸が?それに太子様が逃がしたい?」

 

「どういうことじゃー!化け狸!」

 

(わっ!そんなに身体を揺らすなー!子供ー!!)

 

 

「我は子供ではない!というか何故太子様は我等を逃がそうとしとるんじゃー!!」

 

(だ、だからー!!俺は詳しく知らないって!少なくとも俺達はあんたら二人を『安全な所に逃がしてくれ』ってマミゾウ親分に頼まれただけなんだからー!め、目が回るー!?)

 

「さっさと吐けーー!」

 

(うわぁーー!?子供ー!!本当に違うものが出るからー!!)

 

「我は子供ではなーい!!」

 

 

 屠自古は、隣で疲れが吹き飛んだ様子で尻尾の太い狸の身体を揺らしているのを横目に一人静かに考え出す。

 

 

 どういことだ?

 

 まず、太子様は私達に、材料を集めさせた。それは尸解仙になる為の材料が不足していたから。けど…この狸が言っていたのを根拠にして、私達を逃がしたいのが本当の目的とすると、あの狸の正体が親分だということと、狸達が助けた理由としては繋がる。

 

 だとしたら、太子様は嘘を吐いていた?本当は一人で死ぬつもりだった?

 

 

「なぁ、化け狸。」

 

 

(な、なんだー!?というかコイツを止めてくれー!答えられないじゃないか!!)

 

「布都?」

 

「……わ、分かったのじゃ。そんな怖い顔しないでくれ屠自古。」

 

 

「なぁ、今頃布都の別荘はどうなってるんだ?」

 

(あ〜?そういえば、他の狸からの噂話だとぉ〜?

 ……確かぁ〜?…今マミゾウ親分がいるっていう屋敷は、あんたらが出ていって少しした後に僧侶達が現れて、その後は結界に囲まれたとかかんとか…………?)

 

「た、太子様は大丈夫なのか!?」

 

(大丈夫だろ?マミゾウ親分とほかの狸達がまだやられてないのは皆知ってるし、マミゾウ親分があの屋敷についてるならあんな結界如きでやられることはないさ。)

 

 

 この化け狸…………嘘は言っていないように見える。だとしたら……本当に太子様は、私達を逃がす為に嘘を?でも………あの時の太子様の表情は本気で尸解仙になるつもりだった。

 

 屠自古は妻として、一人の従者として…そして、小さい頃からの許嫁の幼馴染として、太子の行動や習性は知り尽くしているという自負がある。

 

 あの時の太子様は嘘を吐く時の癖は無かった。………恐らく太子様のことだ。小さな『私達をこの場から離れさせる為の』嘘を入れて、残りの『尸解仙になる為のに』本当のことを言ったんだ。そうすれば、私に自身の嘘が見破れにくくなるということを考慮して。

 

 そして、太子様は嘘を少し練り込むだけじゃなく私達に離さなかったことがある。それは、今の太子様とマミゾウがいる布都の別荘が僧侶達によって囲われるということからわかるだろう。

 

 

 ………考えろ。私。昔の小さい頃から太子様とはこうやって根比べや考え比べで遊んできたんだ。

 

 

 これは、太子様の挑戦状だ。太子様は私を試していると思え。

 

 

 恐らく、私がこの太子様が持っている答えを出せなかったなら、私と布都は太子様とは二度と会えなくなるかもしれない………。

 

 

 太子様は……私達を布都の別荘から遠ざけたかった。僧侶達から私達を逃すため。

 

 これは恐らくこの場合なら、尸解仙になるための材料は揃っているんだろう。

 

 けど、……私と布都を逃がそうとしている理由以外にも何か考えがあるような気がする。

 

 何故ならば、太子様が尸解仙になることだけは本当のことだと私は確信しているから。だとすると……太子様と私達を二分させて斑鳩宮中を回らせたのは、僧侶達が二分されることから、太子様の側にいるマミゾウ達の負担が減って突破される可能性が低くなる。

 

 これが理由の一つだ。けど、それだけじゃなにか足りない。

 

 

 それだけは私だけじゃ分からない。だって、これ以上は太子様の心内でしか分からない、何かの感情的な理由だと思えたから。

 

 

 なら、考えは纏った。後は私達は帰って太子様に直接聞くだけだ。従者として、そして、一人の妻として。そして、私達を手放そうとしている馬鹿な主人をぶん殴ってやるんだ。『この分からず屋の鈍感主人!!』っだって。

 

 

「布都。荷物はいらねえから、さっさと太子様の所に帰るぞ。」

 

「ん?どういうことじゃ?どうして帰る?まだ材料が揃いきってもないし、もし、太子様が我等を逃がそうとしているのなら、我等は逃げなければいけないのだろう?」

 

 

 私は私の拘束を霊力と風水で解いてくれていた布都に向き直ってそう言うと、キョトンと布都はそう馬鹿なことを言う。そうだった。こいつは誰かを謀ったり唆す時以外は基本的に馬鹿なんだった。

 

 

「材料は私達が一日半前に集め始める前に、もうとっくの昔に揃ってたんだよ。私達は太子様から本当に逃がされる為に来させられたんだ。それも、太子様が尸解仙になる為の囮として。」

 

「な、なんと!?」

 

「ああ。そうだ。………本当に腹が立つよな?私達のことを手放すようなのとして。従者の私達よりも狸を頼ることにしてよ?

 ここまで私達は太子様に必死についてきたってのに私達はポイッだぜ?…………そりゃあ、酷いと思わないか?」

 

「それは……酷いのじゃ!」

 

 

「だからよ?布都?私達で、太子様の所に戻ってこう言ってやろうぜ!『私達をそれくらいで簡単に手放すことなんて出来ませんからね!私達は貴方の主従以前に、永遠の絆を誓いあったんですから。』ってな?」

 

「いい考えじゃな!我も言う所はビシッと言えと、太子様に言われている!ならばここぞという時に言わねばならぬな?」

 

「おう!」

 

 

 この時、二人には太子をこのまま見捨てることを視野に入れていなかった。

 

 主人に嘘をつかれ、主従としても半場裏切られたのも同然であるのに、それでも二人は主人である彼女を見捨てない。

 

 何故ならば、二人は主人をこれまで共に歩んできた人生から心の底から信頼していたからだ。そして、何よりも主人が大好きだからだった。

 

 

「それじゃあ行くぞ!」

 

「そうじゃな!」

 

 

 

 二人は手に持っていた尸解仙の為の材料を地下壕の地面へと捨て去って、一斉に走り出した。

 一個一個の材料を貨幣に変換すると、立派な屋敷なら一つは買えるだろう材料の数々を二人は一刻も早く太子の所に戻る為に簡単に捨てることが出来る。

 

 そんなの当たり前だった。お金や物の価値よりもことよりも二人にとって太子様が大事だからだ。

 

 

 

(お、おい!そっちじゃないぞ!?早く逃げないのか?)

 

 

「ここの地下壕はどうなっておる?」

 

(うん?ここの地下壕は俺達奈良の狸が頑張って掘って作った奴だったかな?多分、斑鳩宮の中の至る所まで繋がってると思うけど……?)

 

 

 

「なら、案内を頼んだぞ!化け狸!」

 

「よろしく頼むのじゃ!」

 

(いやっ!おい!お前ら二人は逃げるんだよぉ〜!?って急にどっか行くなー!マミゾウ親分がいる方向は逆だー!!)

 

 

 

 

 太子様!今すぐ行きますからね!!殴られに待っていてくださいよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 布都と屠自古が斑鳩宮から脱出して、布都の屋敷へと戻ろうと地下壕を疾走しているその頃、太子は布都屋敷の地下の薄暗い霊廟の中で、一人黙々と座禅を組みながら、最後の修行に取り組んでいた。

 

 

 

 

 傍らには金丹を混ぜ合わせるための道具類と、その関係品である金丹。それが……三人前。

 

 

 

 

 

 そして、暫くそのまま座禅を組んでいた彼女はゆっくりとその重たく酷いクマが出ている瞳を開けて目の前を見やった。

 

 

 

 そんな彼女の目の前には、3人分の依代。先ほどまで自分の分しか作っていなかった筈だが、いつの間にか他の2人分も用意されているのが分かる。

 

 

 真ん中には自分の依代である七支刀に…左右には皿と壺。

 

 

 

 太子は何故か、ここに置かれている自分以外の2つ分の依代が目の前に置かれていることに、少し怪訝そうに眉をひそめた。

 

 

 

「…………変ですね。私はこの場で、ずっと自身の修行か自分の分だけの金丹の作製しか取り組んでいなかった筈です。依代は既に、物置にしまった筈…………。」

 

 

 ここに、ここに………左右の依代が2つ多くある筈がないのだ。

 

 

 

 

 

 そう、…きっと………これは幻だ。未練が見せた幻だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………いえ…自分に嘘をつくのは辞めましょう。」

 

 

 

 どうやら過集中をしている時に、無意識に二人の分の皿と壺をしまっていた物置から取り出してきた並べていたようだった。

 

 

「…………まだ、未練があるのでしょうか?」

 

 

 既に、自分は従者二人を裏切ったも同然なのだ。自分をまだ見捨ててくれなかった二人を私はあえて裏切った。

 

 それに、布都は兎も角、屠自古ならば自分の意図に幾分か気がついている頃合いの筈。

 

 

 ならば、もう来ないだろう。私に失望し、失意のうちに狸達に連れられて斑鳩宮を去っていくだろう。だが、それでいいんだ。彼女等は人間として生きてほしい。これ以上、自身に付き合う必要はないんだ。

 

 

 

 ………にしても、胸の内側が痛い。身体に直接くる身体を蝕む水銀の痛みとは別の、心の方の痛みがズキズキと響いてくる。

 

 

 

 …………人心掌握に長けた私が、最後に自分の心だけは操ることも出来ないとは……皮肉なモノですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 太子は身体だけでなく心までも苦しさに蝕まれながらも、着々と孤独な暗闇の中、そうして一人で修行を続けていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、布都の別荘の結界付近では、化け狸の大将と高尚な僧侶が沈黙の中、お互いに動くことなく対峙していた。

 

 

 高尚な僧侶の背後には一番弟子の青年を先頭に彼の弟子の僧侶達。その一方では化け狸の大将がただ一人ポツリと佇んでいた。

 

 

 それも…葉っぱで変化させた煙管を呑気に吸っては吐いてを繰り返してニヤニヤとからかうような目線を僧侶達に向けて彼等の神経を逆撫でさせていた。無論、これもワザとである。

 

 

 暫くの間、事態の拮抗状態が続いていたが、高尚な僧侶が口を開いてその拮抗を破った。

 

 

「一つ聞きたいことがある……………何故、化け狸の大将はこの冬の間聖徳王の傍にずっと付いていた?」

 

「まあ、その場の流れじゃ。それ以下でもそれ以上でもないわい。それ以外には聞きたいことがあるか?若造?」

 

 

 その僧侶の言葉を化け狸の大将はバッサリと切った。その余りにも無遠慮な物言いに後ろの弟子達が、一斉に札や数珠をつけた手を構えるが、一番弟子が右腕をあげて弟子達を静止させた。

 

 

 

「私はそこまで若くはないが。」

 

「ふふっ…妖相手にそれを言うとはお主は中々いい才気があるのう?それも道化の方じゃ。僧侶などせずに見せもんをやっとったら良いんじゃないのかのう?若造?」

 

「ぬかせ…………何故、豊聡耳神子とその一行の手助けをする?明らかに彼女等は妖怪にとっては敵でもあるだろうに?」

 

「まあ、間取った昔柄じゃ。因みにこれについては嘘じゃ。いや?昔見かけたからそうかもしれん。いや、それも嘘かもしれん。お主はどっちが正しいのかのう?クックックッ。」

 

 

 緊迫した状況下にでも化け狸の大将は人をからかいだす。

 

 何故ならば、彼女は人間のことを、人間と書いて悪戯相手のカモと呼んでいるのだから。

 

 それが彼女の妖怪としての性である。だからこそ、彼女はいつどこでも人をからかい化かすのだ。だが、経験の豊富な換算上人は化け狸の戯言には取り合わわない。

 

 

「…これ以上化け狸の戯言に付き合っていられんな……………処でだ。化け狸の大将よ、いい加減この場から退いてもらおうか?

 私達の目的は聖徳王の身柄だけなのだ。

 今ここで退いてくれれば、こちらとしてはお主等を退治しなくて済む。お主は子分達がこれ以上危険に晒されることはなくなるだろう?」

 

「わっはっはっ。たかが数十年生きているだけの矮小な人間如きがこの大妖怪である儂に脅しか?馬鹿馬鹿しい。

 じゃがしかし、その態度から余程の腕の自信は人間の中ではある方だと見たが、…………お主が一番知っておるのじゃろう?そう、大妖怪の力を?恐ろしさを?

 多少法力かという力をつけた程度の人間が、かなう筈も無かろうに。黙って恐怖に打ち付けられて震えておればよいのに。その残りの人生も少ないヨボヨボの身体で、無理に出しゃばっても碌な死に方はせんぞ?若造?」

 

『くっ!?良くも師匠を侮辱したな!』『退治してやる!!』

 

「………動くな!!」

 

 

 その時、弟子の僧侶達の幾人かが尊敬する師匠を侮辱されたことで感情的になってしまったことで札で法力を扱おうとしたのを察知した換算上人は、大声をあげて弟子達の動きを無理やり止めさせる。

 

 

「カッカッカッ。何じゃ?ちゃんと気がついておったのか?もう、おぬしらは術中にはまっておることを?」

 

「数十年妖怪退治をしていれば、大妖怪とは何度か対峙したこともある。絡め手を組み込んでくるのは当たり前なのは知っている。」

 

「ほう……よく身をわきまえている人間じゃな。それではネタバラシといこうかのう?

 さっきまで儂が煙を巻いていたのはそういうことじゃ。今、動けば身体の四肢はバラバラになって落ちていたじゃろうに。バレておったとは惜しかったのう。ワッハッハっ!!」

 

 

「…………妖め…。」

 

 

「何じゃ?妖はそういう存在じゃが?………悪いか?それとも過去に何かあった?今しがた、お主から恐怖を感じるが?」

 

「恐怖か………人間ならば当たり前。恐怖があろうとも臆することない………退かぬのなら、今ここで全霊を持ってお主を退治しよう。………一番弟子。他の弟子達を下がらせよ。」

 

「はっ、では私はこちら側に余波が届かぬように結界を張ります。」

 

「宜しく頼む。」

 

 

「なんじゃ?やっとヤル気が出たか?……いつまでも対峙ばかりしていたせいで待ちくたびれたぞ?儂の子分達も欠伸をしてしまったわい。ふぁ〜〜ぁ。…おっと、儂もじゃったな?ワッハッハッ!」

 

「………何処までもムカつく狸だ。」

 

「儂ら化け狸の人間(カモ)共が、何か言い寄るわい。」

 

 

 

 そして、化け狸の大将と高尚な僧侶は激しくぶつかり合い始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖徳太子の命日まで、後1日半。

 

 

 

 

 

 





 次回でクライマックスです。

読者の皆様にとっての女オリ主のイメージを教えてください!

  • 可愛い! ここに皆入れてね!
  • 格好いい! そう?まあそれもありだね?
  • 美しいね! エヘヘー分かってんじゃん!
  • 変態! でも変態なお姉さんは好きでしょ?
  • 人情姉さん! 私についてきな!君達!
  • 大人なお姉さん! 妥当だよねー!うふふ♪
  • 乙女だよ! 分かってるねー!
  • 人妻最高! 良い子の皆は入れないでね?
  • 未亡人最高! なんか投票欄が怪しくない?
  • もっと強くなれよ! あっはい、頑張ります
  • ポンコツだね。 ん?これは褒め言葉?
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