①『祈年祭と化けガラス』
②『神奈子様と化けガラスの物づくり』
③『大巫女さんの1日』
④『文と椿ちゃんと影狼ちゃんの鴉による対面四者懇談会』
⑤『椿という花について』
今回は③と④です。
第二章に進む方は必須になるかもしれませんね。
③『大巫女さんの1日』
大巫女の朝は早い。太陽が昇らないうちには已に起床し、巫女達と共に普段からの修行をしながら新人の巫女を指導し、太陽が昇り始めば、起きてくる神々のお世話の指示をこなしながら政に必要手続きを済まさなければならない。
朝食を済ませばまた修行や巫女達の指導だ。
それが一段落して始めて大巫女は一息つける。今は休憩も兼ねて自室でお茶を嗜んで来た時だった。
急にドタバタと音が聞こえてきて自室の木製の扉が開いた。恐らく、いつもの流れだろう。已に大巫女はこの新たな日常に慣れ始めていた。
― ガタッ ―
「ねぇ〜!!聞いてよ大巫女〜!!!神奈子がさぁ〜!!ツれないんだよ〜!!」
最近増えてきた諏訪子様と神奈子様の痴話喧嘩。喧嘩する程仲が良いとはいうものだが、高頻繁にあってはこちらもたまらない。しかし、大巫女はそんなことを気にしない。彼女の器は神様レベルで広いから。
「………まずは状況を聞きましょうか?諏訪子様?」
「それがさ〜(カクカクシカジカ)でさ〜!?」
―(少女説明中)―
「―飛燕とずっと物づくりしてるんだよ!!」
「成る程……。恐らくですが、神奈子様は何かしら諏訪子様に手作りした物を贈りたいのかもしれませんね。その贈り物で驚かせて喜ばせようとしてるんですよ。」
実は前日、工作小屋を訪問した際に私も見かけてしまったが、神奈子様にこのことを秘密にしておいて欲しいと頼まれていたのは秘密だ。
諏訪子様に怪しまれた時点で私は答えるしかないので、なんとなしに教えるが、これについてはお互いに気を配りあった結果の行き違いだ。少しくらいは私が嘘を吐いても大丈夫だろう。
「た、確かに………神奈子は作る物の内容を教えてくれなかった。」
「そうですよ。だから諏訪子様。安心してください。しかし、貰ったときは私がここで話したことは知らんぷりしておいてくたさいね?
ちゃんと驚いてあげれば神奈子様にとっては、とても嬉しいと感じられるものなんですから。」
「うん。分かった。いつもありがとね。大巫女。」
「いえいえ。お役に立てられて光栄ですよ。」
2時間後。
新しく作られたという『鹿威し』という物を聞きながら趣味の裁縫をしていると、また私室の前でスタスタと歩く音が聞こえてきた。
― パタ ―
「ねぇ〜!!大巫女さぁ〜〜ん!!相談があるんだけど。」
「はい。飛燕様。なんでしょうか?」
「えっとね………神奈子さんと一緒に作った飾り物を幾つか作ったんだけど、椿ちゃんにあげたいんだ。…………けど、少しだけ完成に自信がなくてさ。どうすれば良いんだろう?」
本当にこの人は恋愛事には弱い。普段あれほど熱烈にしているのに何故こんなことで戸惑ってしまうのか。不思議だ。
巫女はその役目を担っている間は祝言を挙げられない。故に大巫女を中心とした巫女は恋愛事情に疎いが飛燕様程恋愛事に弱い者は見たことがない。もっと自分に自信を持てばよろしいのにと思う大巫女だった。
私は姿勢をただして真剣な眼差しで飛燕様と向き合った。
「飛燕様。貴方は器量はよろしいし、そのお優しい性格も好感が持てます。そして、お姿も非常に目目麗しいです。」
「その………はい……。」
私がお褒めすると、飛燕様は顔を真っ赤にして自信なさげに照れ始める。本当に自信がないお方だ。椿様ももう少しこういう所をお褒めになるとよいのだ。普段の飛燕様とは違うこのような可愛らしいお姿を見れるというのに。
「何が自信を持てていないんですか?飛燕様はこんなに素晴らしい女性なんです。だから、胸を張ってシャキとしてください。
真っすぐに渡すことが出来れば椿様のことです。きっと大はしゃぎでお喜びになされるはずです。」
「はい………。」
「丁度、椿様が日課の国の民に対する呼びかけの演説を終わらして帰って来る頃です。その時にお渡ししてください。」
「はい!!」
途端に元気になる飛燕様。やはりしおらしいお姿よりもこのように元気で陽気な御姿が一番似合いますね。
あっ!これだけは言って置かねば。守屋神社の風紀が、乱れてはいけませんからね。
「そうでした。一応言っておきますが、もうお昼間近くになるので出来るだけ一目に忍ぶ場所をお選びください。
椿様がその後どういう行動をとるのかは飛燕様が一番ご存じでしょうから。」
「………ハイ。ありがとう御座いました。大巫女さん。」
今度は別の意味で顔を赤らめながら部屋をおずおずと出ていく飛燕様。普段から積極的でおられるのに何故時々こういうことで消極的なのか。
理解に悩む。しかし、それも飛燕様の魅力的な所なんでしょう。
そんなことを考えながら裁縫を進めていく大巫女。やがて一着の布地が完成する頃には夕方手前になっていた。
「さて………暇な巫女達を呼んでご夕飯の準備をいたしますか。」
完成した衣服をいつもの戸棚にしまった大巫女は長く座っていた筈なのにその素振りを見せずスクリと立ち上がり、私室を出ようとしたが、今度は控え目なトタトタとした足音が聞こえて、丁寧な声が聞こえてきた。
「大巫女。いらっしゃいますか?」
椿様の声だ。しかし、少しだけ元気がない。時々来る『例の感情』でしょう。いけませんね。考え事は程々にして、まずはお答えしなければ。
「いますよ。どうぞ遠慮なさらずお入り下さい。」
するとスッとほとんど音を立てずに戸を開ける椿様。やはり普段の行動からそれぞれの性格は表れますよね。
「失礼します。」
朝方見かけた時にはなかった竹で出来た可愛らしい首飾り飾り物をつけていた椿様は、くらい表情で押し黙ってしまっていた。
「どうしましたか?遠慮なくお話ください。」
「…………はい。今日はいつもの例のことです。」
「そうですか。ではお話ししてください。私はちゃんと聞いておりますから。」
私の催促によってやっと決心がついたのか、椿様はポツポツと話し始めた。
「はい……………私はこのまま飛燕さんと交際していくべきなんでしょうか?」
「…………。」
その時の椿様は飛燕様にお救われになられた時よりも前のような辛そうな、そして怖がるようなご尊顔をしておられました。
「勿論、飛燕さんと一緒にいる間はとても幸せです。飛燕さんと肌を重ね合わせる度に幸せは更に強くなります。それが凄く心地がよくて…………、
けど……………ふと一人になった時、どうしょうもない程の不安に襲われるんです。」
「……私は怖いんです。この幸せがいつか崩れてしまうことが、私がいつか飛燕さんよりも早く他界したとき、飛燕さんが酷く傷ついてしまうんじゃないか………それが凄く恐ろしいんです。」
「………けど、この幸せは絶対に手放したくない。飛燕さんだけじゃなくて、諏訪子様や神奈子様、大巫女や巫女達、そして私を信仰してくれている民達との生活はとても楽しいものです。
ですが………このいつかくる幸せの終わりがとてつもなく怖いんです。」
多くの人は死自体を怖がるわけではない。死んでしまって今まで培ったできた幸せや記憶や感情を失ってしまうことを恐れている。
かく言う私もそれに関しては覚悟は出来ているが恐れて居ないわけではない。
しかし、人にとって年月だけは平等だ。皆等しく年をとり、生まれ成長しては老いて死んでいく。逃れられる術は人間という種族以外になるしかない。
だからこそ言わなければならない。
「人は死して完成する。これは古来から伝わる大陸での言葉です。」
「…………………。」
「『そして、人は人足らんことで人で有り続けられる。故にただ一筋の美しき道、駆け抜けるから人と言う』」
「『二つ無き身を惜しまずに、我が身は進む仁のため。たった三文字の不退転――それが心の花である』」
「…………………。」
「椿様。今の私達は人間です。例え不思議な力を扱うことができてもそれは変わりません。
大陸の言葉の通り、私達は人である限りは『その道』を走り抜けねばなりません。その完走まで。」
「それに、どうせなら彼女らに見せつけてあげましょう。彼女らに私達の『生き様』を。
彼女らのその一生の中で忘れることが出来ない程に。」
「そうですね。そういう考え方もありますよね。母上も良く話していました。『人は死後、誰にも思い出されなくなった時に本当の意味で死ぬ。それは神も妖怪も変わらない。』と。」
「ええ私も良く知ってます。私も諏訪子様に拾われた小さい頃から良く聞かされてきましたからね。…………どうですか?例の『感情』はとれましたか?」
「はい。なんだか心が軽くなった気がします。ありがとう御座す!!大巫女。
よ〜し!まずは飛燕さんの身体から私の隅々を覚えさせていきます!!そしたら嫌でも思い出しますからね!!」
「あ、あははは…………。」
う〜〜ん………気の所為でしょうか?いい話で終わる筈でしたが……私は椿様の教育を間違えていたのでしょうか?諏訪子様?
「早速、実行していきます!!」
そう言って、椿様は軽くピンク色に染めた頬を緩めたまま、猛スピードで部屋を出ていってしまいました。
私はどこかで間違えたのでしょうか。
大巫女は頭を抱え込んで思い悩んでいたが、結局は悩んでいた当人同士が楽しくしていられるなら大丈夫だと考えるのをやめたのだった。
「取り敢えずお二人分のご夕飯は遅めに作ることを巫女達に知らせなければ。」
夕食の間。飛燕様と椿様の御姿は見当たらなかったのをここに追記しておこう。そして、神奈子様と諏訪子様が呆れていたご様子も。
翌朝、朝食の場で、異様にツヤツヤとした肌色の椿と彼女の身体にもうそれはべったりにくっついていた飛燕がいたのを諏訪大社の皆が目撃したという話が出たとか。出てないとか。
④『文と椿ちゃんと影狼ちゃんの鴉による対面四者懇談会』
「さて、これから『第四回報告会及びお茶会』を始めます。今回も私、椿が進行役を務めさせて頂きます。お集まり頂いた皆さん。誠にありがとう御座います。」
「ねえ……文。毎回この丁寧な挨拶いるのかしら?」
「まあ…本人がしたいならいいんじゃないかしら?影狼。」
「あの………取り敢えず出して貰えませんかね?」
「「嫌なんだけど?」」「嫌です。」
「変な所、チームワークがいいね。皆。」
今日のお茶会のメンバーを紹介しよう。まずは司会役の椿ちゃん。そして、文に影狼ちゃんです。今回は内密な話をしたいとのことでいつもいる、はたてや椛さんや龍さんはいません。
椿ちゃんが無駄に張り切っている姿を見てこのお茶会のメンバーが少し呆れの表情を見せる中、何故か私だけ手作りの竹製の檻に入れられてます。解せぬ。
助けて誰か。
「今回は、『例の竹林事件』についてお話したいところですね。取り敢えず。飛燕さん?何か申し開きはありますか?」
「あのぅ………私は訳も分からず襲われたんですけど?」
「死刑よ。飛燕。」「私の能力では大罪と出ました。(嘘)」
「え………。理不尽。」
「さて、影狼ちゃ、うゔん。影狼さん。どうして飛燕さんを襲ったのでしょうか?私と文さんとの関係を知りながら。」
「それについては………ごめんなさい。丁度発情期が来てるのもあって……本能的な出来心で………、けど、飛燕。貴方も悪いのよ。
いつも私に誘うようにエッチなイタズラをして。そのクセ、こんな私に凄く優しく接してくれて。そんなことを続けられてたらその内我慢できなくなるのは仕方ないじゃない!!」
「う〜〜〜ん。私はそういうのはまだ経験もないし、よく分かんないから何とも言えないわね。椿はどう思うの?」
「影狼ち……、影狼さんは無罪だと思いました。」
「えっ!?ちょっと待って椿ちゃん!!いつもの『能力』は!?なんか凄く納得出来ないんだけど!?」
「椿…文………。良いの?それで………?私、最悪祓われる覚悟もしてたのに…………。」
「良いんです。全ての罪はあの罪な女性に全て背負わせれば良いんです。」
さっきから凄く理不尽だ。私が悪い所は結構ある節はあるけど、少なくとも2人のことを大事にしてるし、影狼ちゃんに対しても友達として大事にしてきた。今回の事件で、少し考えを改めなきゃいけないけど…………。
「良いのよ。飛燕の借りたツケは大きいから。まあ私のことを一番に思ってくれてるのは分かってるから。器の大きい私は許してあげるわよ。影狼。」
「むぅ〜〜聞き捨てなりませんね。愛は重さはあれど順序立てるものではありませんよ?
それに、アッチの経験なら私のほうが圧倒的に多いんです。そこはゆめゆめ忘れないでおいてください。」
「そ、それは………飛燕が『モラル』とかなんだとかで手を出さないんだもん。それに『もう少し成長したら』って言ってくれてたもん。軽い口付けはしてくれるけどそれ以上はだめだって言ってくるのよ!!」
こ、これにはしょうがないと思う。ほら……文の見た目はまだ小6くらいだ。まだまだ子供なのに流石に手を出せないよ。
てゐみたいに身体が子供のようでもこれ以上成長しなかったり、すでに精神年齢が成熟してるなら話は別だけど、文はまだまだ思春期に入ったばっかだからそういうのは控えるべきだ。
大きくなったらいただきます!………デヘヘへ。
「成る程………。それで、『軽い口づけだけ』だと?」
「そうよ!!……なにかダメかしら?」
「ふ〜〜〜ん………まあそうですよね。おこちゃまはその程度ですもんね。舌を入れた口づけはまだですよね?」
「ふ、ふんっ!!別にいいでしょ?いつかやってくれるなら。
それに、その内あんたの胸なんか追い越してやるんだから!!せいぜい胡座をかいて待ってなさい。このデカチチ!!」
「なっ!?文さん!?」
もはや、いつも通りの展開で、文が椿ちゃんの胸をもんだりして取っ組み合いをし始め出した。お互い喧嘩ということでもなく、女子風呂でよく見るじゃれ合いのような雰囲気だった。
それにしても仲良くなったね二人とも。最初の対面のときは凄く恐ろしい顔をしてたけど、アイコンタクトだけで和議を結ぶとは思わなかったよ。
見ているこっちとしては素晴らしい光景だ。ありがとう御座います。お二人とも。
「あの………結局、私は許されたのかしら?」
「多分………許してると思うよ。私は許されてなさそうだけど。」
「……………そのごめんね。飛燕。襲っちゃって。」
「別に良いよ。丁度発情期だったのもあるだろうしね。それに、それ程私のことを好いてくれてたんでしょ?相思相愛だよ。ね?」
「……………ふ、ふん。やっぱり飛燕は有罪ね!!そのまま閉じ込められてなさいよ!!これ以上、女を引っ掛けないように!!!」
「えっ!?なんで!!」
別に………私はただ前世での親友のように、他の子とただじゃれ合いながら仲良くしたかっただけなのに。
解せぬ。
* * *
『第四回報告会及びお茶会』の解散後、迷いの竹林にて。
「それで………どうだったうさか?飛燕の身体は?影狼?」
「なんでそんなことを聞くのよ?まあ……凄く良かったわ。」
「そううさか………良かったうさ。『運良く』温泉に媚薬を垂らすようにして、二人に盛っておいて。」
「ちょっ!?あんただったのね!?てっきり唐突な発情期かと思ってたのに!!」
「いや〜〜。さっさと告れば良かったのに中々告らないのが悪いうさ。」
「お、横暴よ!もし、嫌われたりしたらどうするつもりだったの!?この老骨兎!!」
「なに、心配することはないよ。ちゃんと気持ち良く終われるように『運』は良くしておいたうさ。老骨者からささやかな気遣いだと思ううさ。」
「ッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!?」
まさかのこの事件の黒幕は例のウサ耳少女でした。やるね。てゐ。いいぞもっとやれ!!!
次回か、その次回でおまけは終わりですね。
いよいよ第二章になりそうです。
ついでに言って置きますが、毎日投稿は基本第二章ではしません。まあこれから忙しくなる時期ので。
投稿する曜日時刻についてはエピローグの後書きの時間帯で1週間に書いた分を1時間ずらしで纏めて投稿しようかなって思ってます。
ただ、夏休みとか長い休みは『出来るだけ毎日投稿キャンペーン』でもしようかと思ってます。
作者の寿命を代償にしましょうかね。