青雅さんって凄くミステリアスですよね。けどそれがいいね。
(前回からの続きです。)
「ヤバい!!逃げろ〜〜!!」
「だから言ったじゃないですか〜〜!!」
「兎に角脱出ですわ。速くこちらに。」
そう言って、青雅さんは壁に触れて穴を作り出す。凄いよね。この能力。町中で使えば逃げ放題じゃない?
「くっ!?逃げたぞ!!追え!!」
「妖かしだー!?いや?邪仙と神様と人間と死体?」
「いや!?どういう組み合わせだ!?」
混乱している人間達をよそに私達はその壁の穴へと飛び込んでいった。
確かによくよく考えてみれば凄い組み合わせだね。
* * *
「ん〜よしっ。周りには誰もいないよ。」
「ふぅ…………何とか撒けましたわね。」
「な、何故か妖怪に追いかけられている時よりも疲れたんですけど。」
「楽しかったぞ〜〜!」
何とか番兵を撒くことができた私達は森の中の倒れた木に腰掛けていた。皆息絶え絶えである。但し動く死体の芳香ちゃんは除く。
それにしてもこんなに大人数で長旅をしたことがなかったよね。椿ちゃんと妖怪の山付近でお茶会してたときとか、文達とピクニックしに行ったことはあるけど、こんなに長期間旅したことないから新鮮だ。
「そう言えば、美鈴さん。人間に見られてたよ?成功してたね。おめでとう。」
「どんな証明方法ですか!?」
美鈴さんのツッコミが入る。美鈴さんはこのパーティーの唯一の常識人だからこのパーティーのブレーキ役なのである。なお余り機能していない模様。まあ、こんなクセの強いメンバーをとめるのは不可能なのだ。
「それにしても最近は野良の妖怪が活発化してますわね?随分と凶暴化してきているようで。」
「ん?確かそうですね。私が少し前に下山した時はここまで妖怪に狙われたりはしませんでした。」
「ん〜?大陸の妖怪ってあんなに大きいんじゃない?凶暴さも天山山脈のあの群れのような感じなんじゃないの?」
「大きさは確かに元からあの大きいですが、……近年から少しずつ妖怪が凶暴化してきてるんですよ。
ほら、青雅さん達に掬い上げられる前に追いかけられた妖怪のあの大群だって明らかに不自然だったじゃないんですか。
よくよく考えてみれば、あれは何処かで拾って読んだことがある書に記されていた妖怪の全盛期という期間が訪れている証拠だったのかもしれませんね。」
「成る程……確かに『芳香ちゃんの食料が増えたな〜』と思っていたら、そんな事態が起きていたということですのね。」
…………ん?なんか凄いことを聞いたけど?まあいいや。
「ということは同時に旅の危険性が増えるってこと?」
「はい。そう言うことですね。」
「うふふふ。それなら今の状況も、納得ですわね?」
「「…………え?それはどういう……?」」
急に私達がいる地面が揺れ出す。そして、直ぐ目の前の地盤が揺れ動いて森の木々が倒れていき、遂にはその正体が現れた。
「な!?なんですか一体!?」
驚き騒ぐ美鈴さんを尻目に私が見たのは馬鹿でかい大百足だった。
その大百足はこの森の5分の1をしめる程の大きさで、その身に纏う妖力や魔力が桁違いに大きい。兎に角大妖怪なのは間違いないだろう。
その桁違いに妖力の多い化け物が長い眠りについていたのか身体をくねらせてその身体についた土や岩を落としていた。それは大陸の雄大な大地のスケールを現したかのような妖怪だった。
ただ、それだけならいいんだ。凄い体験を得れると思える。
けど、問題なのはその大百足の巨大な顔の目と私達の目が合ってるってことなんだ。
緊張の沈黙が少しの間、辺りを包む。
や、まだわからない。挨拶をしてみよう。うん。挨拶はコミュニケーションの基本だからね。
「こ、こんにちは………。」
「ギシャアーーーーーーー!!!!」
「ぎゃぁ〜〜〜!?!?」「「きゃぁぁぁ〜〜!!!!」」「うおぉ〜〜〜!!?」
どうやら、相手は対話するつもりがないようだ。よしっ!!逃げよう。
「逃げましょう!!ってもう皆逃げてる!?」
「それは逃げますわよ!!」
「お〜〜い?めいり〜〜ん?逃げるぞぉ〜〜?」
「美鈴さん!!こういう時は素早く逃げるべきなんだよ!!」
「え?ここは戦う流れじゃあ?…………ま、待ってくださいよ〜!!」
真っ先に逃げ出した私達よりも少し遅れてから美鈴さんが走り出す。あんなのに構うもんか。まともに戦ったら駄目でしょ!内は戦闘メインじゃないの!極力シリアスは控えめなんだよ(?)
「逃げるが勝ち!!」
「その通りですわ!!」
後から大百足も動き出した。てか速っ!?
「ギシャーー!!」
「完全に私達を腹の足しにしようとしてますよ!!冬眠明けの栄養分にするつもりです!!」
「それ以外に何があるんだよ!?涎が垂れてるもん。あれは完全にダメなヤツだよ!!」
「ねぇ?芳香ちゃん。芳香ちゃんはあれを食べれるかしらね?…………正直言って、気持ち悪くて私は無理ね。」
「ん〜?多分食べれるぞ〜!!」
「いや、私達が食べられそうになってるからミイラ取りがミイラになっちゃってるから!現在進行系で!?」
「ぎ、ぎしゃぁ〜〜〜…………。」
「ほらっ!気持ち悪いとか言うから傷ついちゃったじゃん。」
「言葉が分かるんですね?なら食べないでくださいよ!!」
美鈴さんが後ろに振り向きながら精一杯の命乞いをするが言葉が通じても話は通じない。何故なら狩る側の捕食者が被捕食者の言葉なんて耳にも入れないだろうから。
「ギシャァァァァーーー!!」
「駄目そうね」「駄目だわこれ」「駄目ですね!!」
このままだと追いつかれるだろう。『百足』という種族らしく足が多すぎるからか、ものすごく足が早い。この森林の足を取られそうになる障害物なんて取るに足らないかのように地面を這って私達を追ってくる。
何かしらの手段で撒かないとあの恐ろしく大きい二対の鋭い牙に人噛みで真っ二つにされるだろう。
「今度こそ空を飛びましょう!!」
「空は妖怪に目をつけられやすいじゃん。それよりもあの岩の裂け目に行こう!」
私が指を差した方向には、丁度あの大百足が入れなさそうな洞窟があった。
「良いですわね。兎に角私の能力を使えばあの洞窟の向こう側にいける筈ですわ!!」
「了解です。しかし、少しでも足止めをしないとダメです。あの巨体では、洞窟ごと破壊されてしまいそうです!!」
「オッケー!!なら私と美鈴さんで少しだけあの大百足の目眩をしよう。」
「その提案乗りました!!」
私はその場で両手を向かい合わせて、空気を『飛ばして』圧縮させる。
本当にこの技はお世話になっている。
だが、200年以上前とは違う。黒妖と白幻のシリンダーという部品を媒体にして、グレネードランチャーをヒントに、神力で炸裂弾をイメージし作成したことで、1弾1弾の威力はやや下がるが、複数のアストマティックバーストのストックを可能にした。
この技は美鈴さんとの1週間の生活の時に見せているので、私が何をするのかは分かるだろう。なんせ彼女は『気遣いの達人』だから。
「いきますよ?飛燕さん。」
「こっちは準備完了だよ!!」
所で皆は、チリンダー現象を知っているだろうか?
難しい説明は省くけど、簡単に言えば車のライトや懐中電灯のような光が拡散して明るくなるように見える現象である。
それを今から美鈴さんはやる。大『気』を操って。
「行きます!!セイヤッ!!」
美鈴さんの掛け声と共に、私は黒妖と白幻を取り出して引き金を引く。今回は近くに着弾するだけで良いので狙いは定めない。
― エクステンドバースト ―
「ギシャアァァァ〜〜〜〜〜!?!」
大百足が目の前で爆発した時に発光した花火のような強い光によって悲鳴をあげた。
幾ら妖怪だとしても体内の構造自体は百足と大して変わらないだろう。百足の目が退化していたとしても急な強い発光には弱い筈だ。
「よしっ!!皆『飛ばす』よ!!」
その隙を狙って、皆を触って私は能力を使う。
「きゃあ!?」「わぁ!?」「うおぉ〜!!」
荒れ狂う大地の中で私達は洞窟の中へと入っていった。
中国での旅は本当に暇しないね。
* * *
「…ん………?」
「あ、あやぁ〜!?」
「文様ぁ〜〜!!」
私が目を開けると、この370年の間飽きるほど聞き慣れた2人の声がしたと同時に軽い衝撃が私を襲った。
「……あんたら急に大声出さないでよ。寝起きの頭に響くでしょうが。はたてに生意気従者まで………そろそろ大人なんだから抱きつくクセは直しなさいよ。」
「「あ!?」」
はたては分かるけど……椛。あんたはそんなミスしないでしょうに…………。
渋々と2人が離れるがその顔は悪い。今でこそほっとしたかのような安堵の泣き顔だが、疲れ切ったかのような様子だ。
「それにしても2人とも色々と酷い顔よ。目に隈が出来てるわ。なんでそんなことになってるのよ――て、キャア!?」
再びはたてが抱きついてきて今度は寝具に背中が戻されてしまう。
「だ、だって〜!あやぁ〜〜!!あやぁがぁ〜〜!!」
「…………文様。貴方は一ヶ月近く意識が無かったんですよ?心配するに決まってます!!」
「…………え?」
まさか………そんなに私は寝込んでいたの?
「あやぁ〜〜!!あやぁ〜〜!!!二度と起きないかと思ったよぉ〜〜〜!!!」
「ごめんなさい。はたて。もう私は大丈夫だから。」
「あやぁ〜!あやぁ………二度と離さないからぁ………ぜっ………た……い………スゥ……スゥ…。」
はたての静かな寝息が私の最近成長が著しくなってきた胸の中で響き渡る。それが異様に心地よかった。
「本当に………あんた…は…………しょうが…な……い………。」
文様とはたて様の寝息が静かな医療部屋に響いている。数分前の風景とは同じではなく、和やかな雰囲気のある風景だった。
2人の顔はまだ良いとは言えない状態だが、寝ている顔は穏やかだ。
妖怪は本来寝なくても生きてはいけるが、やはり精神力を休めたり回復するには効率的だ。お二人には丁度良い休眠となるだろう。
「ふぅ……峠は超えたと言ってよいでのしょうか?」
この一ヶ月の間は、ずっと文様の容態は安定していなかったがここまで安定しているならば悪くなることはないだろう。これからは回復に向かっていくだろう。
いや、まだ安心出来ない。あの暗殺者達がいつ襲ってきてもおかしくはないのだ。已に2桁に達している。これ程に数が多いことは普段なら絶対にあり得ない。文様が倒れるまでは月に1回や2回はあったが、内密にしていた筈の情報を入手し、刺客を何度も送ることができる立場の者などそこまで多くはない。
………………恐らく天狗の里の何処かの大天狗様達の派閥の内の誰かか大天狗様達の…………。
いや、よそう。だとしたら余りにも候補者が多すぎるし、そもそも私はいち狼天狗。このようなことは大天狗様がお考えになることだ。
それに、とっくに大天狗様はこんなことを考えついているのことであって私はお二人の護衛を任された身である。
その筈だが…………。
「………はたて様と私はこの一ヶ月の間、文様をお守りしていたんですよ?」
私は寝ていて答える筈もない文様とはたて様に話しかける。疲れを感じない穏やかな笑顔で。
「はたて様は立派になられたんですね。私のお役目をお手伝いできる程に。お陰で私のお役目が最後まで完遂できそうです。
だから、文様。はたて様にそのまま褒美を与えてくださりませ。
きっと、貴方の元気な御姿がはたて様が一番お喜びになることなんですから。」
穏やかに、娘を見る母のような妹達を見るような目で布団をかけてから椛は物音を立てないようにして医療部屋を出る。
そして、木の襖をそっと閉じた後。
目を閉じて静かに手に曲刀の柄を手に取った。
同時に、下手人が暗闇から姿を現して常人ならば決して見えない速度で接近しながら風を纏いジグザグ上に突っ込んでくる。
椛は目を閉じたまま刀を抜いて上段の構えになってただ鍛錬と同じふうに曲刀を振り落とした。呼吸をするのと同じように。
鮮血が廊下に舞い、下手人が血塗れになって倒れる音が静かに響き渡る。
― ドサ ―
椛にとってこんなことは日常茶飯時である。敵が己の刃によってその手に握ってい獲物を地面に落とす光景は。
已にこの手は血に濡れている。だが、狼天狗にとってこんなものは当たり前だ。私が知っている者の中にはもっと無残で残酷なことをさせられてそのまま朽ち果ててしまった者もいた。
……………丁度、彼女のように。
「椛殿………お手を煩わせて申し訳なかった。」
私の曲刀で切られたことで黒装束が切れて露わになった下手人の顔は、文様が倒れてからはたて様と医療部屋で看病していた時に、大天狗様の執務室へと同行していた同僚だった。
「いえ…………お互いに役目を遂行したまでです。私は貴方を責めようとは思いません。何せ同じ釜の飯を食ったことのある同僚なんですから。」
「…………おかしいものだ。椛殿から見れば大事な者を殺めようとした相手であろうに……グッ………。元々椛殿と近づいていた理由もそれが目的なのだぞ?」
私に知人はいても友人がいない理由はこれだった。そう、私に近づく者の多くは、刺客や下手人の可能性が高いからだった。何せ、私の知人の多くはもうこの世に居ないから。殆どか私の手にかかって刀の錆となるか、別の理不尽な任務で殉職するかのどちらかだ。
「いえ………、貴方は私に斬りかかる瞬間僅かに動き出しに鈍りがありました。貴方程の腕前ならばもっと素晴らしい太刀筋が繰り出せた筈です。」
「………やはり剣の達人にはお見通しだったか…。任務の為とはいえ、やはり椛殿と親交を交えることは間違いではなかったのかもしれぬな。」
「………………最後に言い残すことはありますか?」
「………優しいな。椛殿は。」
「いえ。見事な太刀筋を魅せてくださった敵(友)への最後の手向けです。」
「ふふっ………そうか…………では、お言葉に甘えよう。
椛殿。妹達や両親へ言ってくれ。『無事、務めを果たせました』と。」
「その遺言、承りました。」
― ザシュ ―
死にかけていた相手の首が胴体から離れて軽く横に転がる。
静けさの中に僅かに血が流れる音がそよ風の音に打ち消されていく。
この瞬間、この光景だけはいつまでも慣れなかった。いや、慣れたくなかった。
椛は僅かに赤に濡れた手の平を見つめて、手拭いでその血を拭き取っていると、複数人の音が聞こえてくる。
だが、今回は椛は構えなかった。匂いで敵対心は感じなかったからだ。椛が振り向くとそこには同僚を引き連れたこの天魔の館の守備隊の隊長の鴉天狗だった。
私は直ぐ様片膝をついて頭を下げた。
「睦月(むつき)。状況報告をせよ。」
「は………天魔様と大天狗様のご娘様を狙う者が現れましたので、この場で切り捨てたという所です。」
「………ふむ。そうか。ならば、他の睦月の者に後処理はまかせよう。一ノ守備隊各員に知らせろ。警戒体制を強化する。」
「「はっ」」
「睦月。そなたはそのまま警護を続けよ。」
「はい。…………その前に不遜ながらお願いが御座います。」
「…………なんだ?」
「出来るだけ丁寧な埋葬をしてあげてください。」
「……………分かった。そのように取り計らう。各自行動開始。」
そう言って、一ノ守備隊は散っていった。
後に廊下に残ったのは友の同僚の亡骸と椛だけになった。
椛は亡骸をじっと見つめる。
「やはり………慣れない物です。殺しなど。」
せめてもの悲しき生に次の良い生が訪れますように。そう、椛は願った。
月など出ていない真月の夜だった。
中々辛いんですよね。狼天狗の扱われ方って。