原作の最新作付近をプレイしているファンの方なら察してますよね。前話の大百足の正体のことは。
長い長い洞窟を潜り抜けることが出来た旅の一行はボロボロな姿になっていた。土ぼこりや妖怪の返り血の汚れなど満身創痍とは言わないが、疲れ切っているのは明確だろう。動く死体で体力も何もない芳香ちゃんが羨ましく思うのは仕方ないと言えた。
この姿になってしまうのはしょうがないと言えよう。何故ならば暗くて長い迷路のような洞窟を畜生妖怪の襲撃を警戒しながらこの一ヶ月を彷徨っていたから。
飛燕の能力の向上によって地形の把握がなければ全員が遭難して生き残れなかっただろうな〜。
「はあ〜!!疲れたぁ〜〜〜!!!」
「楽しかったぞ〜!!」
「意外と元気なんですね………。飛燕さん。」
「…………私もキョンシーになろうかしら?………いえ、仙人は辞めたくはありませんし、自慢することも出来なくなるでしょうし………やめときましょうか。」
なんとなった〜!!!
ほ、本当に疲れた…………。古代の中国ヤバいよ。妖怪の巣窟だよ。質もいいけど量がとにかく多すぎる。あと、地下の妖怪の見た目が気持ち悪い。
なんだよ〜コウモリ型の妖怪の群とか、巨大なワームみたいな妖怪とかさ〜。普通に妖術の火以外は光がない暗い洞窟で遭遇したときは心臓止まるかと思った。
そして、物量って意味でヤバかったのはやっぱり蟻型の妖怪の大群だよね。
本当にヤバすぎる。蟻型の妖怪の一体が侵入者を見つけたら即座に周りの仲間達が駆けつけてきて倒しても倒してもそこらから現れるんだからキリがない。最終的には逃げるんだけどここの洞窟は彼らのテリトリーらしく、動くが速いのなんの。正直トラウマです。
てか、このもの凄く広い洞窟を作ったの絶対にこの妖怪たちだわ。
迷路のような洞窟なら何処にでもいたもんね…………もう洞窟は懲り懲りだよぉ。
「………今は補給物資を見造りましょう。いえ……川で身体を洗いましょうか………。」
「「賛成。」」
川って近くにあったっけ?
* * *
「ふぅ〜近くに村があって良かった〜〜。」
「ええ…そうですね。こういう時は妖気を隠せるのは凄く便利です。まるで人間のような気分になります。」
「うんうん。まるで『人間』のようだね。」
川を見つけて身体や服をを綺麗にした私達は、洞窟から一番近くにあったとある村へ、長い洞窟の冒険で消耗してしまった分の物資調達の調達をしにお邪魔していた。
青雅さんと芳香ちゃんは森へ食糧調達をしているのでここにはいない。芳香ちゃんはキョンシーなので人里には近づけない。
そして、その飼い主の青雅さんはそんな芳香ちゃんを放置したくないという訳で芳香ちゃんと一緒に活動しているという訳だ。
一応芳香ちゃんに化粧をすれば人里に入れるが今回は立ち寄るだけなので面倒くさい化粧はしたくないらしい。
青雅さんは芳香ちゃんに対して過保護なのか面倒くさがりなのか分からないな。
通り過ぎる村民に道や建物の場所を聞きながらの村の真ん中へと道のりを歩いていくと、村民の住む場所とは一風変わった大きい建物が見つかった。その建築の入り口の前には中国語でかかれていて読めない看板があった。
恐らく村の共同倉庫のようなところなんだろう。
「ここが物々交換してくれる場所らしいですね。」
案の上そうだった。村で採れた収穫物を役人に取られる分以外は全部ここに貯めて村全体で共同して管理しているんだろう。飢饉や災害時に備えるためにもあることは大事だ。きっと所有権を巡って争いを避けるように作った建物だしね。いいことだ。きっとこれを考えついた人は良識のある人なんだろう。
もしかしたら、孔明さんかもしれないね。あの人は軍師になる前は農法を考える人だったらしいし。
「ついたようですし、物々交換をしましょうか。」
「本当に良かったよ。洞窟の道中で鉱石を見つけた時に幾つか良いものを拾っておいて。」
「そうですね。中々見ない種類の綺麗な石ですからね。恐らく値打ちの物なので、大きな街で売るほうが良いですね。
しかし、幸いこれくらい多くあるのなら、少しぐらいここで売っても問題ないでしょう。
村としても簡単に金銭が得れるようなものがあったほうがいいですし。私達に余り金銭の価値は必要ありませんからね。」
そんなことを話しながら倉庫の中へ入っていくが、美鈴さんは少し緊張している様子だった。
やっと妖気が誤魔化せるようになったとはいえ、今回が初めての人間との交流なのだ。
成都にある武侯祠に不法侵入するときは真夜中だったので人間とは誰とも関わっていない。墓守の番兵の人達とは交流じゃないからノーカンで。
こんなに緊張してしまうのはしょうがない。誰だって初めてのことは緊張するよね。
あ〜懐かしいな〜!ママンの巣から初めて旅立った時を思い出すよ。懐かしいな。
「なんだいあんたら?」
私が過去を振り返りながら美鈴さんと一緒に倉庫の中に入っていると、お婆さんが中国語で話しかけてきた。まだまだ中国語は慣れないけど、美鈴さんの『気』を使って練習したこともあり、何とか聞き取れた感じだけど大丈夫みたい。これなら話せそう。
「旅の者なんですが、物々交換をさせてほしいんです。」
「物々交換かい?まあいいけど、こんな所でするとは変な客だね。で?どんな品物だい?」
「まあまあ、これを見れば分かりますよ。」
「そ、それは!?」
私が鞄から取り寄せて鉱石を見せつけると、その鉱石を見たお婆さんは小さく声をあげて目を見開いた。
おお、ガッツイてるガッツイてる。これなら交渉できそうだ。
「ええ。これと必要な物資を交換したいんですよ。」
「……あんたら。何者だい。妖怪蟻の巣の中でしか採れない鉱石を取り出すとは…………。」
「まあそこら辺は内密にしてくださいお互いの為にも。それにこの鉱石との取引が口止め料としますんで問題ありません。」
「………随分と訳ありなんかね?………まあいいさ。分かったよ………隣にそんな強そうな気を放ってる用心棒のお姉ちゃんがいるんだ。この場のことは内密にするよ。
で?何が必要なんだい?
ああそうだ。言い忘れてた。私はここの物資や食料を管理させられてる老婆だよ。だから交換するのに丁度いいだろうさね。」
「ええ。名前は言えませんが、取り敢えず『旅人さん』と呼んでください。それではよろしくお願いします。こちらの護衛は好きに呼んでください。」
私が仮の自己紹介をしている間、頷いている老婆の目線はその鉱石に釘付けだった。とうやらこの鉱石の価値を知っているらしい。
誰もが分かるほどの舌舐めずりを無意識にしていた。
そして、価値を知らないと見た私達を獲物を見る目で眺めている。いいかもだと思われるかも知れないけど、それ相応の量の物資は頂くよ?
まあ、こんな鉱石に価値があったとしても私からすればガラクタだもんね。私は妖怪化けガラスだし、貨幣とかいらないからね。今は旅に必要な物資の方が私たちにとっては必要な物だから。お互いに利用し合おうじゃないか。
「では、交渉成立ですね?なら、これとこれを…………3人分ください。」
老婆、おずおずと私達が指定した物資を倉庫の奥へと取りに行って、美鈴さんが止めていた息を再開して肩の力を抜いた。
「ふぅ〜………何とかいきそうですね。」
「うん。うまくいきそうだ。そういえば美鈴さんは人と対面してみてどうだった?」
「う〜〜ん……緊張はしていましたが直接話していないのでまだ分かりません。しかし、飛燕さんや青雅さんと雰囲気は余り変わらないということは分かりました。」
それはそうかもしれない。私と青雅さんは元人間だからね。私は前世。青雅さんは今世の話だけど。
「少しは肩の力が抜けたんじゃない?」
「ええ。そうですね。これなら何とかなりそうです。」
「そう、良かった。美鈴さんには笑顔が一番似合うからね。」
「もう……こんな時に誘い文句ですか?青雅さん達がいてご無沙汰だったとしても、1日しか空いてませんよ?宿だってありませんでしたし?」
「頃合いを見てね。最近は疲れてたことが多いから何処か近い所で休んだときに少しだけしよう。数日ぐらい。妖怪は身体は平気でも精神は休めないと力も出せなくなっちゃうから。」
「ええ……今はこれくらいで我慢しておきます。」
― チュ ―
頬を若干赤らめながら私の頬にキスをしてきた美鈴さん。凄く幸せな気分だったが、今となっては複雑だ。
契約が繋がりがあやふやになって、文と心が通じ合わなくなってしまってから、はや2ヶ月半。
少しずつ精神が安定してきているが、それでもどうしても精神的に弱くなってしまう。だから美鈴さんの温かみに触れてしまったし、関係を新たに作ってしまった。
已に文や影狼ちゃん、そして…………今はいない椿ちゃんと関係があるのに。
私はダメなヒトだ。どうしても抑えられないときがある。心は人間なのに、本能に負けてしまうことがある。これでは心まで妖怪みたいだ。
罪悪感と違和感がせめぎ合い、目から涙が出てくる。
目の前に美鈴さんがいるのに、涙が湧き出てくる。
「こんな時に………仕方ありませんね。飛燕さんは。」
こんな弱い私を見ても優しい笑みで微笑んで抱きしめてくれる。それが無性に心地よくて、温かい。
ダメだと分かっていてもこのままずっと抱かれたままでいたくなってしまい、その弱さにまた罪悪感に苦しまれる。
「エッグッ……ヒック………うゔ〜。」
美鈴さんは優しい笑みで私の頭を撫でてくれる。中国ではその行為はタブーとされているが、そんな文化なんか気にせずに撫で続けてくれる。そして、私よりも少しだけ高い背を屈ませて、赤く長い前髪をかき分けて私のおでこと美鈴さんのおでこをくっつけてくれた。
美鈴さんの体温が直接分かる。その励まし方が私の前世の親友の励まし方と重なって心が落ち着いてくる。
「…………どうですか?落ち着きましたか?」
美鈴さんには教えてもいないのに、今世では文や影狼ちゃんくらいしか教えていない筈の私の心を落ち着かせる方法なのに、美鈴さんは私のことを全てわかるかの様に、理解してくれている。
「……うん。元気になったよ。」
依存しそうだ。文だけでなく、美鈴さんにも。けど、それは『自由』とは言えないよね。気をつけないと。自立はともかく、人に依存しきるのは辞めよう。健全な距離があるんだから。
それはそうとして、やっぱり美鈴さんのたわわは凄く弾力があるよね。影狼ちゃんのが餅だとしたら、美鈴さんのはトランポリンみたいな感じだ。今だって押してたら戻ってくるもん手が。
グフフフ。ああ〜〜美鈴さん成分が補充される〜〜。
「あの……今は胸を揉まないでくださいよ〜。」
「この胸は私の物だ。」
「いや!?私のものですからね!?」
「なんだあんたら。そんな関係だったのかい?まあいいさ。うちの村は仏教徒は少ないからさ。
けど、余り表沙汰にはしないほうがいいよ?熱心な仏教徒に絡まれたら酷い目に遭うからね。」
美鈴さんとイチャつきながら美鈴さん成分を補給し、私が立ち直りのための心意気を再決心しているとき、丁度老婆が戻ってきていたようだ。
おっと、そうだった。仏教徒の間では同性愛は禁止されてたんだもんね。まあ仏門の宗派で違うこともあるけど禁止されていない仏門の宗派は少数派だ。
いそいそと抱き合っていた私達が離れている間に、老婆は私が依頼した物資を渡してきた。
「はいよ。これが旅人さんが言ってたものだよ。」
「はい。ありがとう御座います。では、物資の代わりです。どうぞ。」
「ああ。これで村が潤うよ。そうだ。この先の情報も渡してあげるよ。こんなに大きな報酬を貰ったんだ。そんなに欲張ってちゃバチが当たりそうだしね。」
思わぬ得に気を良くした老婆は上機嫌な笑顔で私を微笑んでそう言った。
「そうですか。さて、どんな情報ですか?」
「この村から東の道順にずっと進むと、大興城っていう首都があるんだよ。そこに立ち寄る予定があるなら、気をつけな。」
「何かが起こってるんですか?」
「いやさ。こんな田舎まで聞こえてくるような騒ぎごとが起きてるんだよ。きな臭い政だよ。私達にとってはそんなことどうでもいいがね。」
「そうですか。分かりました。ご忠告ありがとう御座います。」
「感謝されるもんでもないよ。もうお礼はたんまり貰ったからね。」
老婆はそう言って人差し指と親指の先端で輪っかを作った。その姿に、思わずあきれ笑顔になるがそうなってしまうのは分かるので、私と美鈴さんは倉庫へ出るまで指摘しなかった。
「それでは、出発しますか。」
「青雅さんと芳香さんと村の外で合流次第、出発しましょう。」
次は都か。元々日本の近畿地方で見る予定だったけど、長安や大興城を見学してみるのもありだよね。
それじゃあ行きますか!!
私と美鈴さんは村を出てから手を繋ぎ合わせたまま、空中へと浮かび上がった。
姫虫百々世 ひめむしももよ