平和回。やっぱり平和は楽しいですね。(白目)
時は変わって、妖怪の山、天魔の屋敷にて天狗の里の上層部達による異例の会合が開かれていた。
普段なら、5年に一度あるかないかの定期的な会合はあるが、今回は前回からまだ3年しか経っていない。だからこそ、大天狗の多くはこの会議に何かしらの体制の変化を読み取っていた。
いや………全員がこの会合の重要性を理解していた。そうでもなければいつもは1人や2人は欠席があった会合に大天狗の全員が揃う筈もない。
故に異例の会合だった。いつもとは違う空気が緊張感を増していく。普段の会合ならば大天狗達によるドロドロとした滑舌合戦が着々と進んでいくはずだが、今回は誰も喋らない。いや、喋ることは出来なかったといったほうが正しいだろう。
何故ならば、緊張している様子の大天狗達の全てを合わせた妖力に匹敵するほどの妖力を解放した状態で微笑む例の『最強最古の妖怪』が残酷な微笑みを浮かべながら、居座っていたからだ。
直接自分達を見ているわけではない。ただ、異次元へと開かれたスキマから不気味な目玉が自分達を覗いていることに起因しているだろう。まるで『いつでもお前達を見ているぞ?』と言われていると明言されているのと変わらない。故に、大天狗お得意の陰口悪口は封じられていた。
しかし、大天狗達は自らのプライドによって動じることはない。それは一大妖怪としてのヒビの入った誇りがあるから。
沈黙とは言えないような無言の圧が八雲紫に集中するが、本人はそれをものともせずに、友人が来るのを待っているかのような気安さで誰もいない正面の几帳(きちょう)と几帳の右側の直ぐ近くの正面側であきれ顔になって八雲紫を見ている飯綱丸龍を、からかうように目を細めて真っ直ぐと見ていた。
飯綱丸龍はため息を吐きそうになった。
やがて、飯綱丸龍以外は一寸も動かなかった大天狗達に変化が訪れる。
『天魔様が御成りになられます。大天狗の皆様、頭をお下げください。』
― ズイ ―
空気が変わって、睦月の白狼天狗の声と同時に、一斉に大天狗達が頭を下げた。 例え、その行為をしている殆の大天狗が示すことが仮初の服従だとしても、丁寧にケチなどつけられないほど完璧に頭を下げた。それだけで天狗の里における天魔の圧倒的な力が分かるだろう。
だが、中央に一人据わっている八雲紫は頭を下げずに真っ直ぐと前を見据える。横目で睨みを利かせる大天狗達がいても気にも留めずに。
そして、大天狗八雲紫に匹敵するほどの濃密な妖力が几帳の向こう側から溢れだして、八雲紫の妖力とぶつかりあった。
― ビリ ビリ ―
頭を下げたままの大天狗達の汗が鼻から滴り落ちる。それ程この空間の圧が激しいことが見ずとも分かるだろう。
やがて、永遠と呼べるほどの時間が過ぎた頃、几帳の先から声が発せられた。
「よくもぬけぬけと私の前に姿を表せるものだ。八雲紫。私の娘に手をだしておいてただで帰れると思っているのか?だとしたら随分と肝が座っているようだ。」
激しくうねる妖力とは裏腹に、遠く透き通るような綺麗な声が会議室に響き渡る。だが、話している内容は開幕早々激しい脅し文句だった。
「あら?………天魔と言われるようなお人がそれしきで感情をあらわにするとは。おみそれ致しますわ。組織の長がこれでは天狗の里の組織の底の浅ささが見える見える♪」
対して、その脅し文句を軽く流すように軽口と侮蔑を返す紫色の道士服を包む女性。どよめく大天狗達。空気が凍り、怒りは燃え上がる。ついでに飯綱丸龍の胃にダメージが入った。
「この!?天魔様になんて口の利き方を!!」
「無礼者が!?」
「舐めるなよ!!ここの全員で取りかかればいくらお主でもどうにどうにも出来ないだろうに!」
口撃材料を得た大天狗の一部が『我が意を得たり』といった顔で次々と怒りの表情を浮かべて騒ぎ立てた。この内の幾人かは天魔の娘である文に暗殺者を何度も送っているだろうに、白々しいと言えよう。
しかし、それを言及すれば天狗の里の均衡が崩れてしまうので、妖怪の最盛期が始まって守りを盤石にしなければいけない今、そのことに誰も言及しようとはしないが。
それでも文を大切に思っている者達は内心に怒りを募らせていた。おくびにも出さない。それが隙になると分かっているから。
大天狗達の叱責の声に余裕そうな八雲紫はやんわりとした笑顔で余裕を見せてきた。それは強者故の余裕の笑みだった。
「あら?そうお思いで?今あなた達の背後を振り返ればその結果は自ずと分かりますでしょうに?今、貴方達は今際の際に居ますのよ?」
騒ぎ立てた一部の大天狗が後ろを振り向くと、そこには見たこともない金属製の『止まれ』や、『一次停止』と書かれた標識の文字が張り付かれた棒が背後の首元に向かって差し掛かっていた。
激突の流れを読んだ飯綱丸龍が痺れを切らして、どちらも動く前に風を吹かして空気を変える。その動きは音速に近かった。
「辞めぬか貴様ら。場を弁えよ。天魔様の御前だぞ?…………紫殿。私の同僚達が申し訳ない。今は会合の時だ。戦の時ではない。矛先を収めて欲しい。」
仲介役の飯綱丸龍が一部の大天狗達と八雲紫に宥めの言葉を送ると、八雲紫は肩を竦めて妖力の放出を辞めて能力を解除した。
それと同時に一部の大天狗達はゆっくりと座った。顔はつとめて無表情だ。この会合ではポーカーフェイスは基本だ。決して隙は作ってはならない。故に無表情である。
今の騒動で、この場での順位が明白となっただろう。天魔様に八雲紫。その次に飯綱丸龍。そして、この場に収集させられた大天狗達。この会合での力関係が明確になった今、次こそ変な気を起こせば命はないと暗に空気が命じていた。
故に、あれだけ騒いでいた大天狗達も皆静かになった。
「して………何をしに参った。」
皆が静まるのを待っていたかのように再び天魔は口を開いた。先程のことは無かったかのように、気にしていないかのように天魔は妖力を抑えている。あれくらいの問答では揺るがない精神があったと表明しているかのようだ。
「そうね。本題に入りますわ。今日は『幻想郷』の創立宣言と共に、天狗の里へ幻想郷加入への勧誘をしに参りましたの。ちなみに天狗の里ならび妖怪の山に拒否権はありませんわ。」
静まり返っていた大天狗達の全員がどよめき出しす。そして、飯綱丸龍の胃に追加のクリティカルダメージが入った。
「ほう…………天狗の里はそなたの作った幻想郷への傘下に入れという訳か?」
几帳の先でシルエットが軽く動いた。手を顎においているのだろう。しかし、その表情は何も見えない。
「端的に言えば『はい』。詳しく言えば『いいえ』よ。」
「そうか………そなたの言う『幻想郷』は共同体のような場にするということか?しかし、誰がそれを取りまとめ、指揮する?それはそなたか?」
「そうよ。けど、これから先は話せないわね。特に邪魔なヒト達が多くて。」
八雲紫はちらりと左右を見やる。勿論いるのは大天狗達だ。
「一次退出して貰おうか?大天狗達よ?」
「「「はっ。」」」
複数人程いた大天狗達は几帳へ向かって一例して次々と待合室へと退出していった。それぞれが自分を除け者にした八雲紫をひと睨みしてからであるが。
そして、最後に残ったのは飯綱丸龍。彼女は皆が出て行ったのを確認して一礼して去ることにする。
「では、私はこれで―」
面倒事を予感した龍は大天狗の中では唯一睨むことはせずに、少しだけ八雲紫を心配するような目を向けた後にそそくさと出来るだけ目立たぬように退出しようとする。が、そんな龍を呼び止めるものがいた。
「貴方は残っていいのよ?龍さん?」
「……………。」
龍はゴクリと唾を飲んで振り向くと、そこには八雲紫と已に数百年間は親交のある親友の天魔様が自分を親しそうに見ていることに気がついた。
八雲紫は龍に爆弾を吹き込もうと。天魔様はまあ………言うまでもなく『当たり前だろ?』と言いたそうにしているのが長年の交友から理解できた。
飯綱丸龍は確定で己に振りかかるだろう面倒事の予感に胃がパンクしそうになった。
龍は知っている。黒柳飛燕はその能力で痛みや苦しみを『飛ばす』ことが出来ると。色んな意味で龍は黒柳飛燕にお世話になっていた。
化けガラス殿。早く帰って私にその能力を及ぼしてくれ。
龍は渋々と会議室へと戻っていったのだった。
* * *
正式に対面した後、皆で準備を済ましていた夕食という名ばかりの宴会を開いた私達は、皆でどんちゃん騒ぎをし始めた。これはそんな一幕だ。
「ほれ!狸!!お主も踊らぬか!!」
「いやっ!狸は踊らないから!?」
「狸。命令だ〜!!私達と一緒に踊るのだ〜!!」
「き、キュ〜!!」
「おお〜!!狸が踊ったぞ〜!?せいがぁ〜!!」
「ふふ……友達が沢山出来て楽しそうね。芳香ちゃん。」
ルーミアちゃんに狸、そして芳香ちゃんと布都ちゃんが楽しそうにワチャワチャと歌を歌いながら広い別荘の床で踊っていた。
お、おぉ〜〜!!?
か、可愛いと可愛いが集合してる(?)マジ可愛1000%なんですけどぉ〜〜!!キャ〜!!!
「ほらぁ〜!早く飲めぇ〜!!飛燕〜〜ヒック………。私の酒が飲めないとは言えないからな〜?」
ウップ………ちょっとそんなに口に酒を注いで来ないでよ!!
「ぷはぁ!飲ませすぎたよ。屠自古さん!!」
「え〜?なんらいっら?ヒック………あ〜!?またお前屠自古「さん」って言ったなコノヤロゥ〜。さん付けは要らねえよ。屠自古って言えよ?」
「いやっそれはいいけどさ。屠自古さんは屠自古さんじゃん?ね?悪い意味で呼んでないから。」
「うぉお〜〜ん!飛燕。お前は私のこと嫌いなのか〜?」
「いや、違っ―わぷ!?」
「なら飲め飲めぇ〜〜!!ワハハハハハ」
いや、何上戸よこれ。酒癖悪すぎでしょ?屠自古さん。飲む前の普段のあの鬼嫁正妻スピリッツはどうしたのさ。
「今度は笑い上戸なの―ワプ!?」
今度はいきなり私の顔を胸に埋めさせて抱きしめてくれる屠自古さん。柔らかく大きいたわわ。ご馳走様です。グヘヘヘへへ…………はっ!?御子さんの嫉妬。
「辛いよな………そうだよな〜。お前神でも会って妖怪でもあるから今まで何処かに属してなかったんだろ?半端者は詰まらづきにされちまうんだよな………グス。ほら……私が胸を貸してやるからな?沢山泣けよ?うわぁ〜〜〜ん!!!」
「いや、あんたが泣くんかい!!」
何なんだこの面白可愛い生物は。これをいつも御子さんは味わっているのか?
「いつもでは無いさ。流石に私が持たなくなる。………済まないな。飛燕殿。うちの屠自古が………普段は酒を飲まない分、飲むときは酒を沢山飲んでしまうんだ。私の政治の補佐や家事をして貰っているからな。普段から疲れが溜まっている分、酒癖が酷いんだ。良ければ………相手してあげてくれ。ささ、師匠。酒を注ぎますよ。」
「うふふふ♪国のトップから注がれるお酒は格別に美味しいですわね♪んふ♪ぷはぁ。さあ、お返しですわ。」
「ありがとうございます。師匠。」
「可愛いなぁ……飛燕は。胸が当たっただけで顔を赤らめやがって。うりうりうり〜〜〜。」
「わっ!?屠自古さん!?旦那さんが見てるから!!てか顔が赤いのは酒のせいだよ!!」
「そんなに恥ずかしがるなよ……このこのこのぉ〜〜〜………グゥ…………。」
「あれ………屠自古さん……寝ちゃった?」
「誰が寝坊助だゴラァ〜〜!!?!」
― ゴン ―
「ギャアアアア〜〜〜〜!?」
可愛いがり上戸の次は今度は怒り上戸!?あ………衝撃で意識が…………グゥ。
「あれ?飛燕〜?お〜い?…………飛燕は伸びたのか〜?」
「キュー?」
「んむ。これは昏睡だぞ〜!!ルーミア殿!!」
「ワハハハハハッ!!」― バタン ―「グゥ……グゥ……。」― スースー ―
「………流石屠自古だ。酔ってワンショットツーダウンダウンをするとは。」
* * *
― ホーホー ―
夜も更けて、皆が寝静まった頃。常闇の妖怪は身体を丸めて寝ている狸と何故か鴉形態で寝ている化けガラスを膝の上に乗せて一人、夜風に当たりながら飲んでいた。
明かりなんてない、雲が一面に広まっていて真っ暗な夜。それは彼女にとって一番過ごしやすい時間だった。
のんびりと、金髪のボブ風カットの少女………いや長髪の金髪女性は酒瓶片手にのんびりと瓦の上でぼうっと過ごす。
そんな彼女の目線の先には無防備に寝ている化けガラス。
今ならいつでもその身を喰らうことが出来る。だが、彼女は何もしない。する気もない。ただじっくりと観察するように見ているだけだった。
そのまま時は無造作に、そしてあっという間に過ぎていく。それは女性にとって当たり前で長いような短いような退屈な時間だったが、今は違かった。
何故ならば今は一人ではなかったから。
ある時、ブオンスキマが開かれた音が静かな夜に響き、彼女にとって見飽きた気配が隣に座った。
「…………お前か。クソアマ。」
「ハァ〜イ?常闇の妖怪。いい加減、ずっとしているそのあざとすぎる演技は辞めたら?」
スキマ妖怪が指している『あざと可愛い演技』とは、化けガラスが好みそうな可愛らしいあの幼体の姿であることは直ぐに分かった。
「………………いつから気づいていた?」
「あなたとこの別荘で再会してからかしら?いえ……貴方が黒柳飛燕によって『2度目の変化をさせられてから』かしら?」
「そうか。最初からか………。」
「答えがまだよ?常闇の妖怪。」
「そう急かすな。私達には永遠と言える時間があるだろう。…………まあ、そうだな。答えは『いいえ』だ。私の好きにしたい用にする。今は腹が減っていないからな。することもないし、今はこいつと行動を共にすることにした。」
「でしょうね。彼女は貴方にとって格好の獲物。例え僅かな体液でさえ貴方にとっては暫くの間は食べなくて済むでしょう。そうでしょう?常闇の妖怪。」
「……………それもあるが、こいつと一緒にいれば心の中の何かが満たされるんだ。退屈だった生がこいつと言えば退屈じゃなくなる。それはお前も一緒だろう?クソアマ。」
「……………。」
「違うのか?」
「いいえ。常闇の妖怪。勘違いしないで貰いたいわね?………私は彼女のことは大嫌いよ。それも殺してやりたくなるくらい。」
その表情こらは胡散臭い笑み以外は何も読み取れない。だが、どんなに境界や表情で取り繕うが闇を司る妖怪の彼女には丸分かりだった。何故ならば彼女は常闇の妖怪だから。心の闇など丸分かりだ。
「………ふっ…………そう言う割には、お前の『闇』も以前よりもっと深く、そして明るくなったな?
なんだ?………これは嫉妬と切望だな?その感情の切っ先はこの化け鴉にか……………。案外女々しい所があるんだな?」
「っ!?」
「『殺したい』か?………そんなに真っ直ぐと殺意を向けるとは…………お前らしくないな?」
「……………ふんっ、獲物を横取りしたことの仕返しかしら?」
スキマ妖怪は機嫌が悪そうにスキマから取り出した酒瓶をグイッと傾ける。その姿を見るだけで、今までちょっかいをかけられたこいつに対するムカつきは解消されたような気がした。いい気味だ。
「クックックッ。その通りだ。これでお相子だ。クソアマ。」
「全く、嫌にっちゃうわ。これだから長生きした妖怪は。無駄に賢ぶろうとするんだから。嫌味ったらしくて嫌になるわ。あ〜もう。」
「………お前も飲むか?」
「当たり前よ!このあざとロリ。」
「クックックッ………クソアマ。今の私は一味違うからな。簡単にはキレないぞ?諦めて酒を飲め。」
「ちっ。ストレス発散出来なくて詰まらないわ。これもこの化けガラスのせいね。自棄酒よ。もう。」
2人はツンケンと言い合いながらスキマから取り出した酒瓶を持ってコツンと無らした。
大妖怪の2人にとって何も見えない暗闇なんて酒を飲むのに対した障害にすらならない。何故ならば、暗闇でも2人は輝くものを膝下に持っていたから。
いやぁ〜!描きたいのが描けるようになってきて嬉しいです。