ノネムさんっていい雰囲気を持ってますよね。包容感があってたまらないと私は感じてます。皆さんはどうお思いですかね?
ボロボロな姿になった私達は、例の山小屋もどきの中へと不法侵入していた。この前も家主はこの時間帯は外へ出かけていたので確実にいない筈だ。
「………お、お邪魔してま〜〜す。」
「お邪魔しますわ。」
「お邪魔するぞ〜。」「お邪魔するのだ〜。」
ゆっくりと物音を立てないように不用心に戸締まりをしていない木材製の襖を空けると、そこには生活感たっぷりな空間が広がっていた。
台所には水につけられた野菜や、塩で加工された鹿肉や猪肉が吊るされており、嫌な記憶のある十分に嗅がされている大きな包丁のストックがしまわれている。
そして、誰もいない居間には先程使われていたと思われる余熱の残っている炭の残り火と吊るされた火鉢。その上では吊るされた干し芋や干し魚、傍らには梅干しを中心とした野菜の漬物の入った須恵器の数々など、冬を越すには十分な保存された食料があった。
「ふふふ………中々、住心地が良さそうな場所ですわね?」
「おお〜〜?お布団が暖かくて柔らかいのだ〜!!……なんだか眠気が………グゥ〜……」スピー スピー
それぞれがはしゃぐように、好き勝手しだす。ルーミアちゃんは戸棚に仕舞ってあったお布団を見つけ出して勝手に敷いて布団にダイブし、青雅さんと芳香ちゃんは保存食が入った壺や須恵器の蓋を空けたり閉じたりして物色している。皆勝手すぎる。妖怪らしいけど、もう少し招かざる客らしく振る舞おうよ?
まあ、人ん家の台所で勝手に料理し始める私も図々しさに於いてはヒトのことは言えないけど。
「ひえん?これは食べて良いものか?」
「ダメだよ芳香ちゃん。さっき取ってきたウサギの肉があるから我慢してね?この家の食料は取らないこと。いい?」
私は先程狩ってきた鹿肉の血抜きと内臓の切り抜きを済ませて、神力で生み出した水で鹿肉を寄生虫を殺すためにいったん冷やしながら芳香ちゃんに注意すると、
「わ、わかったぞ〜ひえん〜。」
私の真剣さを感じだったのか、芳香ちゃんは目の前で食べようと手に持っていた酢漬けを口元から壺に戻した。青雅さん曰く、脳は半分は腐ってるらしいけど芳香ちゃんは意外と聞き分けが良くて素直に言うことを聞いてくれる。これも青雅さんの愛情溢れる教育の賜物だろう。
ここの家主は気が難しいからね。簡単に言えば排他的というかなんというか………根は優しいんだけど、ただでさえ他人を必要としてないヒトだから、余り余計なことはしないほうが身のためだ。気をつけないと包丁片手に追いかけられちゃうからね。あれは怖かった。
「さて……炭は持参したものがありましたし、それらを使ってお風呂を使わせて貰いましょうか?では飛燕さん。お先に失礼しますわ。」
「そうだね。あっ、お湯は沸かしていないけどいいの?」
「ふふ♪ご安心ください。道術でどうにか致しますわ。」
「へぇ〜?やっぱり便利だね仙術。やっぱり凄いな仙人。」
「褒めても何も出ませんわよ?夜のお誘いの口説き文句はまた今度にしてくださいまし?」
「はいはい。」
私は処理を終わらせた鹿肉に土が入らないように玄関の外でジャケットを脱いで軽く土を払ってから、ルーミアちゃんが灯してくれた焚き火の火の近くに置く。因みに当のルーミアちゃんはお布団にてご就寝だ。めがっさ可愛いね♪
そうそう、汚れは全て闇で飲み込ませて綺麗にしたらしい。凄く便利そうだ。
「ふふ♪湯が沸いたら貴方も加わります?炭の節約にもなるでしょうし?」
「良いよ良いよ。私は汚れることは多かったし、今日は手ぬぐいで身体を拭いておくから。それに、家主が帰ってきたときに私がいないと、ここが殺人事件の現場になっちゃう。だから家主が来るまではご飯の準備を済ましておくよ。」
私は戸棚から拝借していたよく研がれた包丁で鹿肉に軽く線をいれていく。そしたらその切れ目に少量の塩を練り込ませていった。
こうすると、焼いたときに熱の入りがよくなって、鹿肉の旨味が程よく出てくるからだ。
皆もやって見ると良いよ?炭火で焼くと凄く美味しいから。まあ鹿肉なんて中々食べれるものでもないけど。
「分かりましたわ。それでは夕食は頼みますね?芳香ちゃ〜ん?一緒に入るわよ〜!」
「ん?分かったぞ。せいがぁ〜。」
「いってらっしゃい。」
2人は和気あいあいと風呂へ入りにいった。
ルーミアちゃんが呑気そうに寝ている寝息の音以外はヒトの気配がなくなった。
「………………。」
よし、誰も見てないかな?
誰も私を見ていないことを確認した私はそそくさと、周りを見渡しながら神力を使って香辛料を作り出した。この時代、香辛料は貴重品だ。日本では山菜くらいしかそういう物は採れなかったからね。
フッフッフッ……皆喜ぶだろうな〜〜〜。
私は生み出した塩胡椒や醤油をさっと鹿肉に馴染ませていって、ここで私の能力を使って鹿肉の時間だけをほんの少し『飛ばし』た。
これは発酵させたりする時やこうやって肉や野菜に味を馴染ませるときに時短になる。
因みにこれも生き物には通じないので攻撃には使わないし、使いたくもない。あくまでこれは劣化しやすい物に限って使えるし、まだ少ししか時間を飛ばせないので、こういう料理のときぐらいしか使い道がない。制限はちゃんとあるのだ。
まあ、便利な能力の使い方なのは確かなので多用しているが能力は使えば使うほど成長していくので、少しずつ飛ばせる時間は増えて行ってる。だからいつか生物に使えるようになるかもしれないことが少し怖い。
けど、結局は能力も武器と同じで使い方次第だ。だから私はこうやって生活が便利になるために使いたいと思ってる。
私も成長してきたな。けど、ムラサのような大妖怪相手にはまだまだ敵わない。もっと力をつけていかないとね。
そんなことを考えているうちに一分くらいあっという間に過ぎて、数時間かけて肉に味が染み込む筈の鹿肉が見事に馴染みだした。
よし、後は鍋を錬成して燻製にすれば出来上がりだね。
因みに鹿の脳は醤油漬けにして生肉食として、内臓類は腐りやすいので優先的にレバー漬けにした後に皆で焼肉にして頂きます。
どちらも多くのビタミンや脂質、カルシウムなどが豊富なのでこれから更に厳しくなる栄養を摂るにはうってつけだ。それに焼けばちゃんと美味しいから誰も文句は言わないだろう。やばいいい匂いがだからお腹空いてきたな。
「クンクン………美味しそうな匂いなのだ〜?何を作ってるの?お姉さん?」
どうやらさっきまで力尽きて寝ていたルーミアちゃんが匂いにつられて起きてきたようだ。今はふよふよと浮きながら私の首に顎を置いてのんびりと身体を預けてくる。ルーミアちゃんも随分と私に懐いたんじゃない?私もルーミアちゃんがいる生活が当たり前になってきたよ。
でも、口から出てきてる涎はちゃんと拭き取りな?料理についちゃうからさ。
「鹿肉の、燻製と焼肉だよ。楽しみにしててね。ルーミアちゃん。」
「分かったのだ〜。」
「良い子だね。ルーミアちゃん。そんなルーミアちゃんには鹿の軟骨を柔らかくなるように茹でて置いたからそれ食べて待っててね?」
「軟骨?なんなのだそれは〜?」
私は少しキョトンとしているルーミアちゃんに茹でたあと暫くの間みりんと醤油でつけて置いていた軟骨を手渡す。
鹿肉を燻製している鍋煙が出ている所で燻しておいたから温かいしいい匂いが漂よってくる。
「うん。美味しそうなのだ〜。頂きま〜す!!」
― パク コリ コリ ―
「おお〜!コリコリしていて美味しいのだ〜!こんなの人間なんか比じゃないのだ〜!!」
「エヘヘへ。そう言って貰えてうれしいよルーミアちゃん。」
クックックッ…しめしめ。私が裏で進めているルーミアちゃん非食人化計画は着々と進んでいるようだね?
なぜだかは知らないけどルーミアちゃんは私といると食人衝動は抑制されるっポイからこれから少しずつ食に拘りを与えるようにすれば、安易な食人行動には出なくなると考察してる。
人食い妖怪としてはいいのかどうかは分からないけど、ルーミアちゃんから話を聞くと、ルーミアちゃんは心の闇を主食として食べているらしい。人間は比較的に闇が深いらしいからそれを人肉を介して食べているってことだ。で、私が懐かれた理由も私の心の闇が凄く深いから。
なぜだか知らないけどルーミアちゃんが『お姉さんの闇は深くて甘い』って言ってたからそういうことなのかもしれない。
ん〜?私ってそんなに闇深かったっけ?
まあ?大丈夫でしょ。今のところそこまで問題になってないし気にしない気にしない。
「もう少しあるから焦らず食べてね?ルーミアちゃん。青雅さん達の分は別で取ってあるから。」
「分かったのだ〜!あ〜む。美味しいぃ〜〜!!」
― コリ コリ ―
― サク サク ―
背後の台所の直ぐ近くの段差からルーミアちゃんの軟骨を食べる音が私の野菜を包丁で切る音と合わせるように聞こえてくる。
因みに切っているのは大根やネギだ。これらは途中から燻製に入れる予定。野菜もちゃんと取らないとね。
ご飯も釜を貸して炊いている最中。家主さんにも食べてもらう為にもちゃんと量は多めだ。勿論ご機嫌取りだよ。なにか悪いかね?ワトソンくん。
「フ〜フフッ〜フ〜ン♪」
― サク サク ―
なんだか久しぶりだなぁ。こんなにのどかな空間は。この半年前間行き着く暇も無く旅ばかりをしてたから、半年以上前のことが遠い昔のように感じる。
なんだかんだ色々あったけど、どれも振り返って見れば楽しいことばかりだった。二度と会えないかもしれない美鈴さんとも沢山思い出が作れたし、美鈴さんや青雅さんのお陰であの険しく危険な中国大陸を横断できて、ムラサの被害にも遭いつつもちゃと日本に帰ってこれて良かったよ。
なんだか最近は追想が多くなったな?これも長生きになってきたからなのかな?嫌だな〜。おばあちゃんみたいじゃん。まだまだ現役の300歳以下のバリバリウーマンでしょ?しっかりしろ私。
暫く料理を進めていく。そして、元々低い位置にあった太陽が沈んできた頃に。バタンと風呂場の方から木の襖が開く音が聞こえてきた。
「出てきたぞ〜!!」
「お帰りなのだ〜!!!」
「出てきましたわ♪飛燕さ―………あら?いい匂いね?」
青雅さん達が風呂から出てきたようだ。風呂場からぬくぬくとした温かい空気が漂うことぇ少し冷えた空間が温まり、なんだか身体だけじゃくて心まで温かくなった。
「あっ!出てきたんだ。もう少ししたら夕飯出来るから身体を冷やさないように火鉢で暖まっておいてね?」
「お気遣い感謝しますわ。」
「あと、はいこれ。」
「あら?…これは軟骨?」
「そうだよ。ルーミアちゃんが味の保証してくれたから、よかったら食べて。少し酸っぱくしておいたから食欲もでるよ。」
「なんこつは美味しいのだ〜!!あ〜む!」
目の前で夢中に食べているルーミアちゃんの姿を見て、青雅さんの喉が鳴る。フッフッフッ……さあお食べ。
「ふふふ♪お酒が欲しくなりそうね。ありがとうございます飛燕さん。それにしても、飛燕は良いお嫁さんになりそうですわね?」
「あはははは。やめてよ〜青雅さん。妖怪に祝言はを求めても無理だし、それに祝言を挙げた私の相手が困ることになるよ?だって相手が居てもお構いなく私は直ぐに旅をしにどっかに行っちゃうからね。」
「あら?そうなのね。ふふ……けど、私が言いたいのはそういう意味ではありませんわ。私が指しているのはその淫らな格好ですわ。それとも暗に私を誘っているのかしら?」
「あ、あはははは………いやね?殆ど泥とか土がついてるから料理中は着れなかったからさ。」
今の私の服装は、簡単に言えばエプロン代わりの薄手の布地の下に身体のラインがスッキリ見えるスケスケの彼ティーのようなシャツなのである。
因みにブカブカなシャツが局部やお尻を隠している意外は何も穿いていない。全部洗って今は焚き火で乾かしている最中だ。パンティの開発はまだですか?え?あと10世紀以上先の話?マジっすか。
「まあ、気にしないでいいからさ。そこらで待っててね?」
「……………………。」
「フ〜フッフッフ〜ン♪……ん?どうしたの?青雅さん?」
「いえ、ただもう少し脇を締めた方がよろしいわよ?貴方、隙があり過ぎるもの。そうやってお尻を無意識に左右に振っていると、誘っていると思われても仕方ありませんわよ?
そこら辺気をつけないと、ダメですわね。貴方の、その『襲われやすい』という悩みも薄れるのではなくて?」
「う、うん?………なんかごめん。青雅さん。」
うゔう……こういうのがダメなのかな?前世では親友の前でずっとこんな感じだったから気にしてすらいなかった。青雅さんに言われた通り、もう少しだけ気をつけよう。これ以上貞操の危機は安易に起こしてはいけないだろうし。
「まあ、今回は見逃してあげますわ。折角の料理が食べれなくなるので。」
「あれ?私、今から襲われる寸前だったの?」
「ふふ…………呆れを通り越して、笑いが出てきますわね?料理、楽しみにしていますわ。」
え?ガチだったの?………いや、冗談だよね?
「うん。待っててね?青雅さんが喜ぶような一生懸命美味しい料理を作ったんだから。楽しみにしてて。」
「……………はぁ…襲われやすい原因はそういう無意識に愛想を振りまく所でしょうに。」(ボソッ)
「ん?なんか言った?青雅さん。」
「何でもありませんわ♪私は直ぐ後ろで貴方を眺めながら見ていますわ。それにしてもいい景色ですわね。」
「?」
まあ、いいけど?そんなに見るものも少ないと思うけどね?青雅さんも物好きだ。まあ仙人になるような人だ。これくらい当たり前なのかもね。
私は気が付かなかった。時々しゃがんでいる時に下半身のすべてがあらわになっているということを。それを肴に青雅さんがお酒を飲んでいることに。
「ふふふ♪………これが酒池肉林ですわね♪―ポリポリ―あら?軟骨、美味しいわね。」
* * *
坂田ネムノは少しいや、かなり苛つきながら暗くなった原生林の道を歩いていた。
「誰だべ。朝っぱらこんな山火事やなんやらを引き起こした奴は?」
いきなり朝地震が起きたと思えば、噴火や土砂崩れだ。普段同族であるノネムとは顔すら合わさなかった他の山姥達でさへ慌てふためく事態だった。仕舞いにはここ数百年間一度も召集されなかった山姥の集まりに呼び出され、ここ聖域に住んでいる山姥の全員が朝飯も食えず自前のままそのまま誰が起こしたかも分からない災害の後始末で追われ、皆少し気が立っても仕方がないと言えた。
勿論ノネムもその一人だ。
「もし出会ったらしばいて皮を剥いで干してやるべ。」
いつもは穏やかなノネムも今回ばかりはこんなことを言ってしまうくらいには苛ついている
皆、空腹では苛つくとは言うが、朝晩しっかり健康的な生活を送っていたネムノにとっては急な予定調和の崩れは死活問題だ。
それに、いつもは会うこともない山姥の取り纏め役の塵塚ウバメとも会わなければいけなかったのは不幸としか言いようがなかった。
彼女の能力はウバメにとっては相性が悪い。なんせ、自分の領域を問答無用で壊されてしまうからだ。よってネムノにとって山姥の集会の長は苦手な部類に入っている。そもそも私達山姥という種族は人付き合いを嫌うのであまり関係ないがそれでも嫌なモノは嫌なのだ。
「はあ……遅い朝飯になっちまったなぁ。いやもう夕飯時かぁ…一体どうするかね?」
トボトボと自分の家へと向かうネムノだった。
少しして、段々家に近づいていく頃に、ノネムはある変化に気がついた。
「ん?……なんか見慣れない気配を感じるな?」
ネムノにとって毎日の生活はなんの変化も起こらない平凡だ。特に自分の聖域である自宅付近の庭の植物や生態まで全て頭に入っているほどここらに馴染んでいるのだ。
故に、少しの変化でも気がつくことが出来る。平凡な生活のみを願うネムノにとってこんな些細な変化に気がつくことなど、朝飯前である。本当に朝飯前になるとは思わなかったが………。
「おかしいな?何でオラの家から家事用の煙が出てくるだ?クンクン………それにいい匂いもするしな?」
誰か自分の家を使っているのだろうか?それはそれでムカつく話だ。私が一生懸命誰かの後始末をしている間にどこの誰かも知らない侵入者が呑気に自分の家でゆっくりしているのは例え逆恨みでも腹が立つのは仕方がないだろう。
ノネムは一旦怒りの感情を隠して、冷静になることにした。
泥棒か?それにしては堂々としすぎだしな?もしかしたら知り合いかもしれねけど、いったい誰だ?
「兎に角、一度会って話して見ねぇと分からねえな?」
ネムノは自らの獲物である腰にかけた大きな包丁に手を僅かに掛けながら家に近づいていく。
そして、開き慣れた玄関の襖を開けて声を張り上げて鬼包丁を取り出した。
―ガラ―
「誰だぁ!?オラの家さ使ってる奴は!!」
「あ、お久しぶりです。ネムノさん。お邪魔してます。」
「お邪魔してますわ〜♪」
「こんばんはなのだ〜!!」
「こんばんはだぞ〜!!」
そこには、見覚えというか嫌でも記憶に残っていたあの化けガラスを中心に、顔の知らない面々が図々しくも私の居間で何処かで採ってきたのか鹿の美味しそうな夕飯を食べながらくつろいでいる風景が目に映った。
ノネムはなんだか力が抜けてしまった。
へへへ。ネムノさんの登場回でした。