やっと、やっと状況が動くぞぅ!
これは………椛ちゃんが言っていた例の天狗の会議かな?凄く空気が凄く重い。
一ノ守備隊から陣内への入室許可を貰った私達は、椛さんを先頭に入っていくと、大天狗達が両サイドに座っているその真ん中にいる白髪のロングヘヤーの美女が格子の向こうに座っていていた。そうあの天魔様だ。
大天狗達の視線が一斉に私達に交差してくる。そのなかには安堵の息をこっそりと吐きている龍さんもいた。ただいまです。龍さん、天魔様。
「ヒッ!?」
余りにも重い空気に背後で、明らかに場違いだっただろう新人の優月ちゃんが小さな悲鳴をあげたが、椛ちゃんの動じていない姿を見て急いで口を塞ぐ。私も修羅場を沢山潜ってきたので慣れているので毅然とした態度で陣内の会議の前へと進んでいって、椛ちゃんの横で跪いて頭を下げる。優月ちゃんは遅れながらも震えながらも私の横で跪いた。
優月ちゃんが頭を下げて、一泊置いてから、白髪の美女である天魔様が口を開いた。
「して、この一大事に何用か?白狼天狗。」
相変わらず透き通るような綺麗な声だ。けど、そこには穏やかな響きではなく重みのある質感があるような不思議な声で、あの時文と一緒に謁見した時の馬鹿親っぷりは鳴りを潜めて重圧感たっぷりの重々しさを感じる声だった。
これは………本当に天魔様ですわ。怖すぎですね。うん。
「はっ!!少々、不可解な点がありましたので、ここにいらっしゃる我が主にご確認させていただきたく存じます。」
椛ちゃんの言葉に燻し気な様子の大天狗達の視線が椛ちゃんと私、そして龍さんの後ろにいた文へと交互に刺さる。何故かは分からないけど、そんな彼女等彼等の視線は明らかな敵愾心に近いように感じた。
うゔ。なんだか居心地が悪い。文との契約はバレてなさそうだけど、椛ちゃんや龍さんから文の命を狙う輩が多いとは聞くけどこれほどとは………。
「……………なるほど………射命丸文。姫海棠はたて。一次この者達との離席を許す。」
「「はっ!」」
そんなことを考えていると、天魔様は訳知り顔で顎先に手を置きながら許可をだした。
その瞬間聞き慣れた声が聞こえてきたが、その声は文とはたての2人の声だ。
それだけで安心と安堵で涙が出てきそうになるがここで粗相なんかしてみろ私。周りでさっき紛いの睨みをきかせてくる大天狗達に不敬の罪で殺されるかもしれないんだ。
だから、今は絶対顔を上げるな私。
そして、私達は立ち上がってから一礼したあと、文とはたてを連れて陣内の外へと出ていった。
そして、会議を再会した大天狗達の声が聞こえなくなった瞬間、私は後ろにいた文とはたてに振り向いて2人に思いっきり抱きついた。
「文!!はたて!!本当に………心配じだんだよ〜!!」
さっきの通信でてっきり文やはたてが酷い目にあったのかと思ったけど、怪我一つないようで本当に良かった。
今まで我慢してきた分の涙がポロポロと落ちてくる。そんな私に文とはたてが元気な声を返して抱き返してくれた。
「それはこっちのセリフよ。あんたらが帰ってくる前に他の地域の天狗の里の襲来があるし。兎に角飛燕。無事で良かったわ!!」
「ひ、ひえん〜〜〜!昨日ぶり〜〜!いつも通り元気そうで何よりだね〜!!」
「うん。ゔん………ごっぢも心配かけてごめんねぇ〜!!」
暫くの間、私達は抱き合っていたが、椛ちゃんと優月ちゃんの生暖かい目線に気がついて、照れくさくなった私と文は赤い頬のままいそいそと離れた。はたては私と文とのハグにもう少しだけ物足りそうにしてたけど、成長したのか空気を呼んむようになり我慢して離れていった。
「そう言えば飛燕。あんたはなんでここにいるの?私は敵が襲来してきたばかりの時に、『近づかないでって』伝えておいておいたのに?」
「そう!確かに私もあやぁからそう聞いたよ〜?」
「…………え?だって文は『こっちに早く来て』って言ってたじゃん?」
「知らないわよ?少なくとも私はそんなことを言った記憶なんてないわよ?」
「…………ん〜?……なんだかお互いの聞いた話が噛み合っていませんね?」
「ん〜?どういうこと〜?」
「…………訳がわかりらないっスね。」
疑問符を頭の上に浮かべる文達の姿を見ながら、私は妖怪の山の近くで受け取ったテレパシーと言われている内容と今の文達の反応の違いに訳が分からなくなる。
「じゃあさっきまでの通信はなんだったの?……ど、どういうこと?」
「分からないわ?ということかしら?取り敢えず、情報を整理するために朝のことを話すわ。」
(か、回想スイッチオン…………。)
――――
―――
―
早朝。敵方の天狗の襲来まで数十分前の頃。文の私室にて。
元々、今日は風が荒れていて少しだけ嫌な予感がしていた。けど、私はこの時春一番なのかと思って気にしていなかった。
私の夢の為に毎日空かさず行なっている文章を書く練習を行なっているとき、私の部屋の入り口からいつも通りの従者の声が聞こえてきた。
「文様。」
「生意気従者ね……。入って。」
「失礼致します。」
― ス ―
「で?………何か用なの?まだ稽古の時間まで少し早いと思うんだけど?」
「は………お身体の調子は悪くございませんか?」
何よ。相変わらず、またそんなことを聞きに来たのかしら?
私が意識を失ったのはもう冬より前のことだってのに、この生意気従者は生真面目に未だに聞いてくる。文は呆れを通り越して半笑いが出てきそうだった。
無愛想な面して私をからかってくることもある癖に、こういう時にはやけに優しく気にかけてくる。もうすぐ私は一人前になるのよ?いい加減、子離れしなさいよ。椛。
「ふっ、別に平気よ。それに、今年に入ってあの飛燕との交信が繋がるようになったから大丈夫だし。気にしなくてもいいのよ?あのアホガラスは元気そうだったし安心ね。」
まだ朝食を食べてから少ししか経っていない。いつも私を迎えに来る椛が私の部屋に来るのはもう少し後の筈だ。
いや、私が倒れてから椛は、予定よりも一刻ほど早く現れるようになったのだ。
最初はちゃんと休むべきだと説いているのに、てこでも動こうとしない。最初は引き止めていた私も今では流石の私も諦めている。
今では予定時刻まで軽い世間話をすることが日課になっていた。普段なら早朝から修行していると龍様からお聞きしているから、本来なら忙しい筈だ。一体どうやってそんな時間を作っているんだろうか?
「………でも、またあのエロカラスが女にちょっかいをかけてたのは、少し気に食わないけど。」
「………飛燕様は可愛いヒト達に対する目移りが激しいですからね。……それも無意識に人と距離感を縮めていきますからね。私も随分と絆されましたよ。アハハハ……。」
椛の言う通り、あのアホガラスは可愛いものに目が無さ過ぎるので誰かが締め上げないと直ぐに『飛びつ』いていくのだ。酷い場合はその気になった相手から飛び返されて襲われるから始末に負えない。
性格まで能力に似せなくても良いだろうに。彼女の愛で手による被害者は引く手数多だ。今でも被害者を増やし続けているだろう。
そして、何よりも達が悪いのは彼女の相手の懐に入ることが出来る天性のあの人タラシだ。格上の神から大妖怪や小妖怪まで、見境なしに平等に親しくなろうとする。それでは欲に忠実な妖怪相手では色々な意味で襲えと暗に示しているようなものだ。
だからこそ、その分あの化け鴉は脇を締めなければいけないだろうに、妙な所で隙が多い。そのせいで相手をその気にさせてしまうのだ。
それは私があの化け鴉と出会ってこの270年間共に時間を過ごしてよく分かっている。
だが、あの化け鴉は変な所でヘタレだから相手の好意に弱いのに、あろうことか、相手側の妖怪を初めとした魔魅魍魎のほとんどが無遠慮に迫っていく特性があるので押しに弱い彼女はそのまま骨の髄までしゃぶられてしまう。
あれほど多くの妖怪や神から好かれる理由は理解しているがそれを咎める者は居ないのは知っている。だが、文はムカつくことなのは確かだがそのことは対して気にしない。
何故ならそれが彼女らしいさの原点だからだ。もしくはその善意に甘えて誰もそれを指摘したくなくなってしまう。文もその中の一人なので何も言えない。
これは長年一緒に家族のように過ごしてきた文だから気がついたらことだった。
彼女の心は余りにも何処か優しすぎるし、どこか人間臭すぎる。それが、妖怪達を主体とした私達には堪らないものを持つ所以なんだろう。
「何度、私が飛燕を襲いそうになったか、分かってるのかしら?彼女は?この前、私が飛燕を襲ったのだって、どうしようもなぬ我慢できなった結果、起こったことなのにね。貴方なら分かるわよね?………椛?」
「………………この前は、申し訳御座いませんでした文様。」
心当たりがありすぎるのか顔を赤らめて押し黙ってしまっている椛を文は眺める。
この従者。あらぬことか私と飛燕の淫らな姿を見て暴走しだしたのだ。あれは大変だった。何せすぐに着替えてから動き出さなければいけなかったのだから。このときは自分の能力にどれほど感謝したことか。
「でも、あんたも飛燕のことをそういう目で見てたのは驚きね?」
「……!?……いつからお気づきに?」
「ふんっ。あんたが発情期の時に、一度飛燕をついつまみ食いしたのは契約を通じて知ってたのよ?子供の時だったからあんまり分からなかったけど、今なら分かるわ。……それにしても、随分と本能に忠実なのね?」
「………申し訳御座いません。文様。」
「謝る必要はないわよ。全部あのアホガラスが悪いんだから。あんたも耐えられなかったんでしょ?」
「…………ハイ。言い訳も思いつきません。」
再び顔を赤らめる椛の姿を眺めながら、文は化け鴉から無意識に行われた幾つもの誘惑の行動の記憶を遡っていった。
そう。それは、ここ百年前からのこと。
私が風呂から出てきて寝ようとしていたとき、いつも通り椛によって敷かれていた寝具に、いつの間にか旅から帰ってきた飛燕が私の寝具の中で勝手に何もつけないまま図々しくも掛け布団を被って寝ている姿を目撃したことが何十回もあった。
寝ている彼女の布団の隣に毎回あるのは、無遠慮に放り投げられている近くには脱ぎ捨てられたジャケットやズボン。
そして………まだ洗っていないだろう脱ぎたての汗やらなんやらから、まだ漂ってくるいい香りのする脱ぎたての上下の汗で濡れている肌着や甘い匂いのするかんざし。
この光景を見る度に毎回文の喉がゴクリと鳴ってしまったのは仕方がなかっただろう。
だか、すぐに勝手に自分の寝具を無断で占領していることの怒りが後から出てきてすぐに腹を立てることになるが。
どうして飛燕が毎度こうなってしまうのかは知らないが、久しぶり帰ってきていることや、ぐっすりと眠っていて揺すってみても全然起きそうもなかったことから長旅で相当疲れているようだった。
本気で旅を楽しんでいるのは時々契約を通じて覗いている感情から分かりきっていることだ。これについは文も呆れるしかない。これについてはいつものことだからだ。
流石に疲れ切って寝ている者を起こせる程、鬼になれなかった文は、元々用意してある寝具が一つしかないことことも相まって仕方なく同じ寝具に入ることになるがここからが問題だった。
布団の中から香ってくる彼女の濃厚な甘酸っぱいオトナの女性の汗の匂いに寝具の内側が満たされていて思春期の文には刺激が強すぎてこうして一緒に眠る時は一晩眠れなくなったことが多々あった。
本当にあの化け鴉は他人との距離感がどうにかしている。
思春期真っ最中だった文を前にそのように振る舞えば、いつもグータラで隙も察知もない彼女は絶好のおかずにされてしまうことは本人にとって目に見えている筈だ。
実際に文はその肌着だけに留まらず、本人の様々な身体の場所の匂いを直接嗅ぎながら濃厚な夜を過ごしたこともある。
なのに、本人は気がついているのか気がついていないのか、気にしない様子でいつも通りに朝に起きてきて私の頬におはようのキスをしてくる。
それも、脱ぎ捨てられた肌着の様子が明らかに変わっていることに気がついているのに。飛燕の身体に私の匂いがついているのに気がついているのに。
気が付かれたことを『風』で察知してすぐに謝っても、本人は『別に好きに使ってもらっても大丈夫。思春期なら仕方ないよね。』と言って優しい笑顔で公認してくるのだ。
正直、そんな彼女が文は堪らないのが本音だが、やはり程々にして欲しいものだ。何度かそのことを言ってみても彼女は『これが私の普通だからなぁ〜』と苦笑いで流されるだけだ。
本当にあれが彼女の普通ならば、誰にだって襲われても不思議ではない。だからそこら辺は文は諦めることにしていたのだ。
それに、今はもう会えない椿がいなくなってから、お互いをより大切にするようになったことは2人の暗黙の了解だった。
それだけで文としては彼女のことを独占に近い形で要られるので満足している。仲の良かった椿には少しだけ罪悪感を抱くがここにいないのならその分私が彼女を独占するだけだ。
結局は私は天狗という妖怪なのだ。ここにはいない人間が勝手に決めた条約なんか誰も気にもとめていない。生前の椿本人からはそれについては了承をとっているので尚更遠慮は要らなかった。
そもそも複数の相手と関係を持つこと自体は妖怪にとっては悪いことではないので、お互いの了承があれば殆どの妖怪は気にしていない。文もその一人だった。………節操無しはダメなのはそうだが。
「まあ、この話はもう良いわ。あのエロカラスをお仕置きするのは確定だから。
それよりも、一人前になるための儀式はまだなの椛?はたてはもうすぐするって聞いてたけど。龍様から何か話は出ているの?」
「はっ。はたて様は今まで契約している鴉達の契約の更新と、新たな鴉との契約です。
………文様についてですが。少々天魔様と龍様の話し合いは続いているとのことです。やはり、天魔様は周りの大天狗様達の目を気にしているようでした。飛燕様との契約も公表は出来ませんし、まだまだ問題は山積みのようです。」
「……そう。やっぱりまだ鴉に対する意識改革は進んでいないのね?」
「そうですね………。大天狗様や飛燕様のご協力で若い世代を中心に鴉に対する変化は目に見えていますが………」
「やっぱり上の世代ね。」
「はい……。説得は難航しているもようです。それに他の天狗の里ではかなりの酷い状況のようで。そのようなお御触れを出そうにも、先日宣言された『妖怪の山の幻想郷入り』をきっかけに他の天狗の里とは通信途絶。油断のならない状況が続いています。なれば、まずは独り立ちを済ませるべきかと。」
「………仕方ないわね。ならその方針で行きましょう。もうすぐ到着する飛燕にも連絡を入れておくわ。椛。はたてにも伝えておいて。『稽古が終わったら、龍様に儀式をさせてもらうから準備しておいて』って。」
「承りました。それでは稽古を―」
その時、穏やかな早朝の天狗の里に振動が響き渡った。
「何事!?」
『アオーーーーン』
『襲撃ナリ。繰リ返ス。襲撃ナリ。』
「これは………冗談ではなさそうね。」
「文様。飛燕様には連絡を。今は飛燕様が来てはいけません。」
「分かったわ。」
私は軽く目を瞑って集中する。今頃飛んで向かっているだろう呑気な化け鴉に向かって。
―ズズ―
いつもはなることの無いノイズ音がなって、少し遅れて考えが通信が出来るようになる。
(飛燕。予定変更よ。出来るだけここには近づかないで。)
(ん?文さん?どうしてだい?)
(他の天狗の里が襲来よ。あんたはこことは組織的に関わりがないお客様扱いなんだから来ないで。)
(……うん。……分かったよ。文さん。兎に角今は引き返しておくよ。)
ふぅ。今回の飛燕は聞き分けが良いわね。いつも能天気だが、飛燕はこう言う時は頭の回転が早い。だから私の声色で今の現状の深刻さが分かるということね。
(ええ。お願いね。あんたには出来るだけ安全でいて欲しいからね。それじゃあ。)
(うん。じゃあ………)
(あっ!?待って!!)
(ん?何。文さん?)
(愛してるわ。飛燕。)
(……うん。愛してるよ。)
―ズズ―
再びノイズが鳴り終わって聞こえてくる。でも何かしらの違和感があったような気がする………そういえば何故飛燕は私の名前を"文さん"?と?
でも、敵対してきた天狗の里の襲来によって起こった非日常が文の回転の速い頭を鈍らせていてこの時はその違和感に気が付くことが出来なかった。
―
―――
――――
「―と、まぁ兎に角、私はこんな感じだったわ。」
「ということは……『文様と飛燕様の通信を誰かが傍受して、お互いの振りをしたことで行き違えさせようとした』ということでしょうか?」
「そういうことだと思うけど〜?なんでそんなことを?う〜ん?だとしても、あやぁとひえんにそれをする意味が分からないよね〜?」
椛ちゃんとはたてが必死に考えを纏めてくれているけど、どういうことなんだろうか?その相手は私に近づけさせたいの?それとも近づけさせたいの?なんだか相手の狙いがあやふやだ。
「う〜ん?分からないな。………相手の考えが……。」
「椛先輩。なんの話をしてるッスか?」
「いえ。これは内密なお話しなので詳しいことは教えることはできません。ただ、今は『相手が文様と飛燕様の秘密を知り、そして謎の仕掛けを行なっている』ということを分かってくださればよろしいです。」
「ん〜?何がなんだか分からないッスけど、取り敢えずはなんとなく分かりました。」
椛ちゃんと優月ちゃんの会話を聞いて、私はその違和感の正体に気がついた。そうだ。そもそもなんで相手はそのことを知っているんだろう?文と私の『対等な契約』は文と私を含めて椛ちゃんとはたて、そして龍さんとあの白髪の美女の天魔だけの筈だ。
じゃあなんでバレた?龍さんがバラしたとかはない筈。でも、このことを知ってるメンバーで秘密をバラすような人はいない。
そして、今度は私個人への攻撃だ。文達には心配されるだろうから言えていないがあの鴉天狗の襲撃だって間接的に私を狙うように仕向けたことも引っかかる。
……私のことを邪魔者だと思ってる人物がいるってこと?私を暗殺したいという目的があったのだったらちゃんと辻褄が合うし……。
文には嘘の情報を信じ込ませておいて油断させ、私には焦らすような情報を与えて余裕を無くさせて、そこであの敵方の鴉天狗で私を叩く。
なんだか、スポッと噛み合わなかったパズルが繋がった気がした。けど、少しだけ不可解な所がある。
だったらなんであの中途半端な数の襲撃なんだろうか?
よくよく考えて見れば、あの鴉天狗の数。格上ばかりでギリギリだったけど、罠を張りやすい森の中という私のフィールドの中で戦えていたお陰で、私が捌き切ることが出来る限界の数が丁度の数だった。
相変わらずマイボディの身体は貧弱だ。それは人型になってもあまり変わらない。御子さんにけしかけられた野盗のように精々、複数人の人間を待ちあげられるくらいだ。怪力ばかりの妖怪という種族全体の基準の中ではフィジカルが圧倒的にひ弱な方だ。妖力や神力、そして『飛ばす程度の能力』で誤魔化しているに過ぎない。
だから、体力かまだまだ身体の周りに纏うことしか出来ない妖力が尽きれば一気に私を殺れるのはその情報収集能力から分かりきっている筈のことなのに、相手はその弱点を突いてこなかった。
私達の機密探れる程の諜報力を持っている筈なのにそこを突いてこない。なのに、敵方の鴉天狗の部隊を向かわせてきた。余計に訳が分からない。
謂れのない不安と正体の分からない相手の目的に、私は寒々とした恐怖感に包まれていた。
「………飛燕。あんた少し考え過ぎよ。思考が『飛んで』るわ。あんた馬鹿なんだからそんなに考えなくて良いの。」
「…………ごめん、文。確かに考えすぎた。」
「あぁ〜!あやぁ!ダメだよ!好きな子にそんなこと言っちゃ〜!!」
「はぁ〜〜!?誰がバカガラスのことが好きだって〜!?はたて〜!!寝言は寝てから言いなさいよ〜!!」
「そうです。はたて様の言うとおりです。飛燕さんは馬鹿は馬鹿でも考えられる馬鹿なんですから。ただの馬鹿ではありませんよ。飛燕さんに謝ってください文様。」
「あの、椛先輩?先輩が一番酷いこと言ってませんか?飛燕さんが干からびてませんか?」
「別に良いのよ生意気従者の後輩。アホガラスなんか喜んでるんだから。」
「え?そんなわけ―」
「え、エヘヘへへへへ//////////」
「えっ??????黒柳さんがなんか喜んでる!?」
「飛燕様…………」「ひえん…………。」「黒柳さん…………。」
3人がどうしょうもない生き物を見る目で照れている私を見てくるけど、これについては仕方がないじゃん。久しぶりの文のデレなんだから。
え?何処がデレなのって?まぁ、私と文以外は分からないだろうなぁ。これについては心が通じ合ってないと分からないからね。
私が凄く嬉しい気持ちになったのは、心が通じ合っている文から心配の感情が伝わってくるから。暗い気持ちを感じ取った文が私のことを遠回しに励ましてくれているから。文のそういう優しさが私だけが分かるから。だから嬉しくてたまらなかった。
けど、文……どうして不満そうなの?
文はいつもより増して不機嫌な表情で頬を膨らませて私を見つめてくる。機嫌が悪そうに。私に苛つくように。ありありと怒りの感情が私と文との契約を通して伝わってくる。
「あ、文?どうしてそんなに―」
「あんた。普段から考えすぎなのよ。考え過ぎないで私達に黙ってないで好きな時にいつでも頼って来なさいよ!!」
「!?」
「私はあんたの『宿り木』なんでしょ?だったら少しくらいは寄りかかって来なさいよ!!弱いくせに!!抱え込むんじゃないわよ!!あんた私にこの前言ってくれたんでしょ?『頼れ』って。なら、私にも頼りなさいよ!!」
一昨日、初めて文との契約を結んだ思い出の場所で私が文を抱きしめながら行った言葉。その言葉を文は私に不器用ながら返してくれる。
私もヒトのこと言えなかったや。私だってこうして一人で抱え込んでしまうことがあるのを忘れてしまっていた。
「少なくともあんたよりも私の方が力が上なんだから弱い妖怪なら強い妖怪に頼れ!!私があんたに頼るように私を頼れ!!」
その言葉は強い怒りを含ませているのと同時に、私の弱い所を気づかせてそれを全力で崩しにかかって正そうとしてくる文。その言葉の節々には不器用で不思議な優しさが含まれていた。
「…………文。」
「ふんっ!どうせ私関連であんたが狙われでもしたんでしょ。」
「…………そうだよ。やっぱり文は頭がいいね。」
私が隠そうとすれば感情は隠せなくても意識すれば文に思考を読ませないことだってやろと思えば出来る。なのに、なんで文は私の考えてることが分かるのかは一重に文が頭がいいからだろう。
「当たり前よ。それであんたは私に心配させないように一人で塞ぎこもうとしてたんでしょうね。そんなの私が認めるとでも?
あんたは私のモンよ!!私の前では隠し事なんか通じる訳がない。忘れてるのかしら?私は天才の鴉天狗。鴉のあんたの思考なんか手に取るように分かるの。それに『鴉(天狗)はどこまでも執念深い』の。」
そういって、ニヤリと高圧的に笑いかけてくる文。その姿は昔の私を騙して下僕の契約を結ばせようとした時の、私にとってどこまでも頼りがいのある懐かしい姿だった。
「飛燕。あんたと私が組めば敵なんていないわ。そんなチャッチな相手なんか正面から私達の速さでボコせばいいのよ。
だから飛燕。ただあんたは私達を信じて私の隣にいればそれだけでいいの。あんたと私の相性は最高なんだから。」
「うん。」
「こんなくだらない戦なんか、私と飛燕、そしてこの面子で『風のように』吹き『飛ばし』しましょう!!」
文が私に手を差し出してくる。その手を私は笑顔で手に取る。
お互い特に何をするのかは決めてない。けど、偶にはこうやって考えなしに勢いで動くことも大切だと思ったから。
だから私と文は理由のわからない勢いで手を取り合う。所謂若気の至りという奴だ。へへへ。文の言う通り、偶には頭を使わずいこう。
「うん!!」
「流石あやぁ〜!!私や私の鴉達も協力するよ〜!!」
はたてもノリに乗って私達に手を差し出して来る。
「え?なんか私達も変なことに巻き込まれてませんか?」
「ほら、いいんですよ。偶には勢いも大事ですから。」
「わ、私もですか〜!?新人なのに独断行動はダメっすよ〜!!せんぱぁ〜〜〜い!!」
椛ちゃんに手を引かれて優月ちゃんが声を張り上げるなどのこともあったが、2人も加わってくる。
「これって『若気の至り』ってやつかな?」
「ええ。そうですね。」
「ごちゃごちゃ。うるさいわね!こういうのは勢いよ!勢い!!」
「なんだか、凄く楽しそうだね〜!!私もこういうの一回活躍してみたかったんだ〜!!」
「それでいいんですか!?私、皆さんを誤解してましたよ!噂ではお転婆だと聞いていましたが、こんなにお転婆だとは聞いてません!!!」
私達は自然と同時に声を合わせた。示し合わせた訳でもないのに。心の中で考えていたことを吐き出すように。
「「「「このふざけた戦をぶっ壊そう!!」」」
こうして、私達の初めての『反抗期戦』が始まった。
なんか知りませんけどかっ飛びましたね。展開がノリと勢いになってきちゃった。