化けガラスってマジっすか……。   作:SOGEKIKUN

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 最近、文字数が多くなってきて読者さん達を置き去りにしてないか不安だ〜〜。

 これから本格的に山場ですね!!頑張ります!!!


46羽:「『八大天狗異変』⑦」〜破〜

 

 

 

 最前線では地獄が広がっていた。

 

 

 最前線に到着し、戦闘を開始した本隊の天狗達が目にしたのは、自分達よりも圧倒的な数を誇る天狗の多勢。、それを囲うように天狗の里の天狗達へ襲いかかってくる際限のないといえる物量の中小妖怪の大群。 幾ら、天狗の勢力の中でも最大級を誇る妖怪の山の天狗達であってもそれ以上の数の暴力には耐えきれず次々と敵の刃に崩れていってしまう。

 

 

「おい!速く増援を呼べ!!」

 

「ダメです!!どこの方面の前線でも敵の手勢だらけで援軍を送り合う余裕がないそうです!!」

 

「他の鴉天狗!至急援護を求む!敵の複数の鴉天狗に追われているんだ!!部隊全体がやられちまう!」

 

「チッ!行きたくても余裕がない!!こっちも似たような状況なんだよ!クソっ!他に行けそうな部隊は?」

 

「私の隊が今行く!第17鴉天狗中隊、私に続け!!」

「「了解!!」」

 

「畜生!雑兵の畜生妖怪が多すぎる!グアッ!?」

 

「クソっ!最前線の狼天狗の部隊の一部が殺られた。これ以上は食い破られるな!絶対に食い止めろ!!」

 

「「「了解!!」」」

 

 あるものは複数の鴉天狗に空を追いかけ回された挙句、追い落とされてしまい、あるものは小妖怪の群れの物量に巻き込まれて噛み殺されてしまう。

 

 一方の、地上の前線を占めている狼天狗達は四方八方からくる敵方の狼天狗や雑兵の妖怪に襲われて自分の身を守るだけで精一杯の乱戦に巻き込まれていた。

 

 空では一方的な狩りのように少しずつ妖怪の山の鴉天狗達が追い落とされていき、その数を着々と減らしていく。

 

 それが各方面での重要な局面で一斉に繰り広げられており、どこも敵の物量を食い止めようとするだけで精一杯であり、更にその部隊の余力のなさが理由で伝達もまともにできず、よって補給や援軍も満足に期待できない。故に最前線は地獄だった。

 

 

「隊長!もう部隊の限界が近いです!!」

 

「クソっ分かった。殿は俺が務める。各隊員は一次撤退しろ!!補給が終わり次第直ぐに復帰せよ!!」

 

「了解!!隊長!!………ご武運を。」

 

「ああ。ご武運を。」

 

 

 それでも彼らは戦い続ける。何故ならば彼らの背後には家族がいるから。そして、隣には普段はそそっかしくも互いに心の底では気にかけ合っていた戦友達がいるから。 だから彼らは背を敵に向けずに手に武器を持って圧倒的な量の敵を食い止める。背後から必ず援軍が来ることを信じて。

 

 しかし、それでも敵は無慈悲に苛烈に攻めてくる。隣にいたはずの同僚が一人一人と倒れていく。

 

 そして、遂に限界を超えて敵に戦線が突破されようとしていた。

 

 敵を一人討ち取っていた一人の鴉天狗がそのことに気がついて、焦りからまだ生き残ってた二人組を組んでいた同僚に指を差しながら話しかけた。

 

「おい!戦線に穴が出来た。速く塞ぎに行くぞ!!」

 

 

 その目には畜生妖怪の群れが妖怪の山の中腹へと侵入している姿が移る。

 

 

「無理だ!生き残るだけで精一杯だ!!」

 

「でもよ、ここを突破されたら他の戦線も矢継ぎ早に崩れちまうぞ!!」

 

「分かってる!けど今、目の前を見てみろよ!!こいつらを片付けないで、そのまま持ち場を離れて見ろ!!更に戦線の穴が広がることになる!!

持ち場を離れるな!!それが俺たちの役割だ!!」

 

「クソ!じゃあどうすんだよ!!後ろには怪我人が集められてんだぞ?」

 

 まともに動けず、無抵抗な奴等があの本能剥き出しの畜生妖怪達の群れに襲われれば、その光景は言わずとも分かるだろう。本能に塗れた奴等は理性などない。彼等の目に映るのは一歩的な虐殺の餌場となるだろう。

 

 今なら間に合っていた。しかし、気がつけば自分と同僚しか残っていない部隊には敵の鴉天狗や妖怪が空中で囲みこんできている。故に、既に手出しが出来ない状態になってしまっていた。彼等に無力感と絶望感がこの鴉天狗にこみ上げてくる。

 

「もう………ダメだ…………おしまいだ…。」

 

 

 彼等二人のか細い震えた声が口から出たのを、きっかけに、他の天狗の里の部隊も前線に穴が出来てしまったことに気がついたのか、士気が下がっていく。

 

 

 

 今、戦線は崩れ去ろうとしていた。

 

 

 

 その時、背後の森の中から白狼天狗の声が絶望的な戦線に響き渡った。

 

 

 ― アオーーーーン ―

 

『我等『閃風義勇隊』助太刀に参った。』

 

 

 ― ビュウ ―

 

 

 突風が吹き荒れると同時に森に侵入しようとしていた畜生妖怪の群れを切り刻んで消し飛ばした。

 

 

「なんだ?」「そんな部隊聞いたことがないぞ?」「知らない部隊だ。」

 

 

 敵と味方。どちらにも動揺が広がる。

 

 

 そして、疾風が吹き荒れた瞬間、一人の鴉天狗の少女と化け鴉の女性を先頭にして、多くの天狗が森から現れた。白狼天狗に鴉天狗の混合の部隊。戦列もへったくれもないただの集団。しかし、その勢いは凄まじく次々と敵を『風のように』通り過ぎながら葬り去っていく。

 

 

 そして、先頭に立っていた少女が敵を薙ぎ払いながら声を大きく戦場に響かせた。

 

 

『私、射命丸文と黒柳飛燕そして以下『閃風義勇隊』は参戦を決意する!!』

 

 

 動揺と困惑が広がる中、そしてその彼女とその隣にいる存在に、の名から天狗達は後から気がつく。『『天魔様の娘』と、あの『黒柳飛燕』だと?』と。

 

 

「なぜ?文様が?」「黒柳様だと?」「我々の為に?自ら戦いに馳せ参じて?」

 

 

 

 自分達の目に一見華奢な同胞の少女が隣にいる見慣れた女性と共に後ろに続く者たちと共に敵を軽快に次々と薙ぎ払っていく光景が移る。

 

 そして、再び少女は声を張り上げる。その声はどこまでも『飛んで』いき、『風』のように戦場を通り過ぎていく。

 

 

 

『戦場にて戦う同僚達よ!!貴方達に告げるわ!!『貴方達には私、………いえ。黒柳飛燕の庇護がついている』と!!安心して私達の後をついてきなさい!!』

 

 

 勢いだけで、儀礼やしきたりもへったくれもない乱雑な言葉遣い。けど、その言葉には『風』があった。心に響くような涼しげで勢いのある強い風が。

 

 

『皆ーー!!!私達に手を貸して!!!』

 

 

 今度は隣で拳銃を持った『鴉の神様』が腕についている翼を動かしながら声を『飛ばし』てくる。

 

 黒柳飛燕。その名は若い層の天狗達に間に広がっていた名前。決して誰かを動かすような力はないが、彼らの誰もが親しみを持って口にする神様の名前。誰にでも親しげに話す彼女。彼等彼女等が心を一つに出来るきっかけを作ることが出来るとても、とても大切な皆の心の拠り所だ。それは一種の信仰に近かった。

 

 

 そして、射命丸文。その名は天魔様の娘。そう、天魔の血族。前線に出るはずもない存在にそれだけで天狗達の消え入りそうな闘志の心の火をつけた。

 

 

 

 

 

 足腰や手足を震わせる妖怪の山の天狗達を尻目にそのまま彼女らは勢いが止まることなく敵を切り開いて突き進んでいく。そんな彼女らは背中でも天狗達に呼びかけていた。

 

 

 『戦え』と。

 

 

 そんな彼女達の背中には不思議で純粋な人を動かすような特別な力が籠もっていた。

 

 

 

 

 

絶望感に包まれていた筈の妖怪の山の天狗達の目に闘志が宿る。

 

 

 

 

 

 

 

 戦線を維持している若い天狗達がお互いの顔を見合わせて決意に漲った顔で頷いて、張り裂ばんとする声で叫びだす。

 

 

「敵を倒せ!!」

 

「天狗の維持を示せ!!」

 

「文様達に続くぞ〜!!」

 

 

「「「「「射命丸文と黒柳飛燕に続けぇーーー!!!!」」」」

 

 

 

「「「オオオオーーーーー!!!!!」」」

 

 

 

 天狗達が敵方に向かって力を取り戻したかのように突撃していった。

 

 

 

 

 その瞬間、戦場の『風向き』が変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 何とか皆の心に火をつけられたようだね…………。皆疲れているだろうにそれを感じられない姿で血まみれになりながら敵に向かっていく。

 

 そのボロボロな天狗達の姿を見て、私はボロボロな彼らをさらなる殺し合いに向かわせていることに、罪悪感を抱いてしまうが、気を紛らわせる代わりに敵の狼の妖怪の群れを吹き『飛ばし』て、地面に激突させて肉片に変えて気を紛らわせることにした。妖力ですぐに回復するとは分かっててもさすがにキツイ。血を見るなんて私は苦手だ。今でも血を何度もみたせいで自分の心が恐怖とトラウマで震えてしまっている。…………でも、今は兎に角敵を少なくとも無力化するほどの致命傷を与えなけばいけないんだ。仲間や同胞を守る為に。ここで見逃したり、下手に動ける程度の妖力を残せば仲間達がかわりに傷つき、酷い場合は死ぬんだ。

 

 ………皮肉なもんだね。味方が倒れる姿は痛々しく感じるけど敵と見ればこうやって簡単に相手の命を簡単に奪い去ることが出来るんだから。

 

 けど、この身体や精神は血や死体を見ても全く動じない。精神が妖怪として十分に働いているせいで、本来血を見るのが嫌いな私が私じゃないみたいに無感情に敵を殺せてしまっている。

 

 だからこそ、敵を殺せば殺すほど心のほうが悲鳴をあげてしまうんだ。これは、一見矛盾しているようでそこまで矛盾してい人間にもある狂気に近いといえるかも知れない。今でも引き金を引く度に敵は倒れて私達が進む道に転がる屍に変わってしまうことに諏訪大戦の時と同じような言いようもない罪悪感に蝕まれていく。

 

 心を強く保て飛燕。諏訪大戦の時だって、戦とは言っても沢山人を殺してきたんだ。今更、私は聖人ヅラなんか出来ないんだ。でも……心の底では辛いと叫んでしまっている。それがどうしょうもなく辛かった。

 

 

「飛燕、罪悪感なんて今は捨てなさい!!その優しさが命取りになるわよ?」

 

 

 文が敵の鴉天狗を扇も使わずに作り出した風で蹂躙してバラバラにしながら私に向き直る。今の覚悟を決めている文は無表情のようで厳格な戦士の顔つきをしていた。

 

 けど、態度では厳格でも、震えている内面の心や私には、どうしても分かってしまった。そして、私が椿ちゃんとお揃いで270年前に上げた竹製の飾り物を文が無意識にギュウと握りしめていることを。

 

 

「あやぁ〜!!他の戦線でも動きがあったよ〜!!私達の動きに感化された予備役部隊の天狗達が、自分の意志でそれぞれの前線に赴いて行ってるみたい!!」

 

「そう。分かったわ!!はたて。あんたはそのまま『能力』と鴉達を使っての情報収集をお願い。」

 

「分かった!!」

 

 

 はたては文の指示を聞いた瞬間見えない速さで妖怪の山の麓のの方へと向かっていった。森からははたてが契約している鴉達がはたてに向かって鳴き声を鳴らしながら報告している。

 

 

「文様!敵の増援が来ます!思ったよりも相手の動きが速いようです。」

 

「分かったわ。椛、優月。私達はその増援の出鼻を折るわよ!!ここで部隊全体が敵に勢いを削がさせないようにしなさい。」

 

「はっ!」

 

「え〜!?マジっすか!?………あっ!?はい!!」

 

 

…………初陣で本当は怖いのは当たり前なのに、文はその震える恐怖を見せようとしないで、まるで自分は怖くないかのように毅然とした態度で敵を斬り刻み、往復するようにどんどん戦場の情報を報告してくるはたてや、三ノ巡回隊や椛ちゃん達に向き直って指示を飛ばしていく。

 

 

「三ノ巡回隊!!あんたらも椛達と一緒に続きなさい。……まあ、私と飛燕について来れるならだけど。」

 

「「「了解!!!」」」

 

 

 そんな文の挑発的な命令に、こなくそと言うように珍しく笑顔な三ノ巡回隊が文に追いつこうと張り付いていく。鴉天狗と白狼天狗という圧倒的な差がある筈なのに、彼等彼女等は文に喰らいついていき、倍以上の敵を集団戦で翻弄していく。そこに我武者羅という言葉の割合は少なく、彼等は変則的に呼吸を合わせて配置を回転させることで、お互いのガバーをし合って流れるように敵を殲滅していく。

 

 そんな三ノ巡回隊の姿はまるで動く風円斬のようだった。この今の完璧な動きが早朝の稽古で張り切っていた彼等彼女等成果なんだろう。私もよく早朝の稽古に参加していたから彼女ら彼等の努力は見てきていたから、余り良くない感情なんだろうけど、この場でその努力によって身につけた彼女等のその力が発揮出来ていることが私は嬉しかった。

 

 そして、文もその成長具合は凄いし、天性のカリスマなのか相変わらず相手を乗せるのが上手かった。話術を学んできたお陰なのかもしれないが、この能力はきっと、相手に言葉を引き出すことが要の新聞記者になる夢の大事な布石になるだろう。

 

 そんな余裕を見せながらも、文は敵の部隊を常人なら肉眼では見えない程の速さで、風を纏わせながら駆けずり回り、敵を壊滅させていく。今の文の繊細で豪胆な動きは、能力のお陰で直線距離なら誰にも負けない自信はあるが、かわりに細かい旋回が比較的苦手な私にはないだろう文の大きな長所だ。

 

 本当に……文は成長した。だって今でも文の恐怖の感情は伝わっているのにそれを周りに悟らせないで音速を超えるかと思うほどのスピードで敵をどんどん蹴散らしていく。どれほど鍛錬を重ねればここまでの練度になるの?文?

 

 

「飛燕?………返事は?」

 

「う、うん!分かってる。いい加減切り替えるよ。」

 

 

 文の動きに魅了されていた私は、文の言葉に我に返って、目を瞑って集中させた。そして、そうすることによって、私は無理やり『人』の感情を飛ばし、心の割合を妖怪色に強めていく。

 

 そして、その隙を狙って高速で切りかかってきた敵の狼天狗の攻撃を紙一重で避けてその額に黒妖の銃口を向けて引き金を引いた。

 

 ― ガチ ヒュン ―

 

 

 敵は眉間を撃ち抜かれて地面へと落ちていく。そこには普段の私のような慈悲のような甘ったれたモノは今はなかった。そう………今はこれでいいんだ私。今の私は人間じゃないんだから。それに、妖怪はただの致命傷を食らったくらいじゃ、妖力がなくならない限り死なない。回復するまで時間がかかるだけだ。だから大丈夫だ私。神力は使うな。

 

 

「今はもう迷わない!!これで行けるよ!!文。」

 

「………飛燕。そう、それで良いのよ。今は兎に角遅れないようについてきなさい!!」

 

「うんっ!!」

 

 

 私と文、そしてそれを取り囲むように私達の援護をしてくれる椛ちゃんを中止とした三ノ巡回隊と一緒に、敵の増援へと突っ込んで行った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 一方、紫と酒が途切れることのない瓢箪を煽っている萃香は、陣内では直ぐに復帰した龍を中心に、三奉行が他の大天狗達や、それぞれの管轄の天狗に指示を出している姿をジッと見ていた。

 

 この状況でのんびりとしているのは紫と萃香の二人だけだろう。

 

 

「神無月の上。水無月の上!!貴殿らは急いで今里に残している戦力もとい鴉天狗と白狼天狗の天狗の中心街に駐留している防衛部隊を全て再編成した後に、役所の鼻高天狗を通して各前線に分配して向かわせろ!部隊の指揮はそれぞれの管轄の大天狗が取る!!」

 

「はっ!!」

 

 

 鴉天狗の長と狼天狗の長が龍の指示に従って高速で会議から姿を消していく傍らではいつもの人を小馬鹿にしている筈の小茂呂が珍しく真剣な表情で大天狗達へと指示を飛ばしている。

 

 

「これでは策などへったくれもないわね。長期戦を視野に入れていましたが、これは短期総力戦ですかね。総指揮は天魔様の元、我々三奉行が取ります。三奉行以外の大天狗は指示した通りに持ち場についてください!!」

 

「「「任された!!」」」

 

 

 小茂呂の指示に大天狗達が返事をしたあと風も纏わず静かに消える。これは『無風の風域』と言われていて大天狗だけが使える修行している天狗の究極形の神通力だ。

 

 隣で余裕そうにしていた萃香でもその技を見た瞬間、眉を上げて興奮させる程とは………中々大天狗という名は伊達ではないようね。少なくとも若い世代の大天狗達は多少は見直したわ。やっぱり残しておいて良かった。……ただ、あの老人共は消えてもらうべき時代の遺物でしょうけど。

 

 

「物資や補給は惜しむなよ!なんなら私の個人の屋敷からも物資を持ち出してこい!!今が風の吹かせ時だ!!

 補給係は鎌鼬でもなんでもいい!補給や治療部隊の支援は絶対に途絶えさせるなよ!!始末書は後で私が幾らでも書いてやる!!なに!?『役所の鼻高天狗の文句がうるさい』だと?今年の給料と手立ては倍にするようにして黙らせろ!」

 

 

 傍らでは早霧が神通力で自分の管轄である蔵所の部下に連絡を送っている。本来このような使い方は妖力を大幅に消費してしまうだろうに、疲労感など全く見せる様子はない。妖力もさることながら技術もある。彼も飯綱丸龍のようになかなかの神通力の使い手のようね。

 

 

 紫は彼女の中での天狗という種族のランクの格付けを少しだけ上げるように意識を置いていた。今まではお硬いだけの突けば直ぐに崩れるだろう脆い種族かと思えば、そのなかなか上げようとしない重い腰を上げればこうして潤沢にある組織力を生かして独断で動く他の妖怪とは違う方面の力を私に見せてくれる。

 

 これが……妖怪達による異端な組織力なのね……。

 

 本来、妖怪とは唯我独尊は当たり前。基本的に一人で行動する。時々は群れる時もあるが、それはお互いの利害が一致していたり、同じ種族同士で獲物を狩る時に協力する時のみで、利害が合わなくなればすぐにその群れは崩壊してしまう。そして、群れを起こすのはそのほとんどは力が強い者が弱いものをまとめ上げる時だけだ。弱肉強食によって上が変われば下も強制的に変わってしまう。

 

 故に天狗という種族は異色な妖怪なのだ。こうして殆ど体勢を変えることもなく、組織的な秩序と行動を軍隊のように動かせることが天狗という種族の特性であり妖怪としての異端。

 

 そして、軍隊のように腰が重いが動き出せば迅速に行動し始める。それを今、特等席にてこの目で見れることは滅多にないだろう。もしかしたら、この先の時代の変化を見れば二度と見れないかもしれない奇跡の機会。

 

 この組織を完全な支配下に置くことはできなかったのは今でも腹立たしいことだったが、あの天魔の娘にはこの光景を見せてくれることに対しては感謝したいくらいだった。

 

 

「あはは〜♪、紫。なんだか凄く楽しそうだねぇ?上手くいってないのにどうしてそんなにニコやかなんだい?」

 

 

 正座座りしている私の隣でちょこんと壁際の柱に寄りかかっていた萃香は、酒を仰ぎながら酔ってフワフワな横目で私に笑いかけてくる。私はその問いにさも当然かのように扇で口元を隠して胡散臭い笑みで答えてあげた。

 

 

「フフフフ。私が創設した『幻想郷』の仕組みが少しずつ働き始めるようになってて嬉しいのよ。本来の幻想郷はこうやって私の意図に関係なく自己修復が出来るようにならないといけないから。これは私の計画が進んでいる証拠よね♪」

 

「うべえぇ〜。紫、正直なのは良いことだけどさ。その捻くれた考えをひけらかすのは辞めてほしいんだけど?今の紫の発言は気持ち悪いよ?」

 

「フフフフ♪酷いわね?萃香。そっちから聞いてきたんじゃないの?ゆかりん傷ついちゃったわ〜♪うふふふふ〜♪」

 

「…………正直すぎるのはやっぱりダメだなぁ。」

 

 

 2人の愉快で恐ろしい妖怪はのんびりとした会話を続けながら三奉行と天魔が厳格な様子で会議を続けていく様子を眺めていった。まるで映画館の観客のように。いや、この映画の作りを観客に紛れて確認する監督のような品定めする目で。

 

 

『天魔様の御娘の身柄の保護を編成しなければいけませんね。』

 

『今の方針が決まり次第、直ぐ様育ての親である私が直接行赴こう。元々私の監督不届きが原因だ。ケジメはつけなければいけない。』

 

『なら、此処に居る一ノ守備隊を同行させなければいかんな。龍殿に何かあっては立ち行かなくなる。』

 

『早霧殿の言うことは最もだが、私の護衛は三分の一もいらない。それよりも天魔様にこそ護衛が必要だ。』

 

『では、ここに残るのは私小茂呂と、早霧、そして天魔様と護衛の一ノ守備隊ですね?』

 

『ああ。そういうことになる。よし、次の議題に移ろう。兵の前線への補充について―』

 

 

 

 

 今までいがみ合って、影で対立している者達がこの場だけにおいて力を合わせている姿に紫は嘲笑の笑みを向ける。これが一次的な表面上であるだけだと言うことを紫は知っているからだ。

 

 全ては彼女達の手の平の上で。しかし、一粒だけは零れ落ちる姿を楽しむように。その予想外を楽しく観察するように。

 

 

「まあ、1つの捨て駒を切るだけで今回は手打ちかしらね?そこまで痛くないし、今回は許してあげるわよ。射命丸文。」 

 

「………なんだい紫?あんたも気に入ったのかい?あの娘達を。」

 

 

 機嫌が良い私のそんな様子に、不思議そうな目で私を見つめる大将の子鬼。あら?あれくらいで腹を立ててあの娘等を恨らむとでも?私は器は広い方なのよ?それも宇宙くらいに。

 

 

「ええ。気に入ってはいるわ。頭脳明晰で、頭の回転もいい。そして、まだまだ伸び代のある音速の飛行に、おまけにあの化け鴉で神様もついてくる。化け鴉はまだいらないけど。

 まあとても優秀な式の媒体にでもなりそうだから、幻想郷が落ち着いたらその内一度くらいは誘ってみましょうかしら?ついでにあの化け鴉で神様も。」

 

「………絶対に断るだろうよ二人とも。凄〜く嫌そうにして。私だったらそうするね。」

 

「フフフ♪そうかもね〜♪」

 

 

「…………紫、嫌な顔をするのをわかっててやってるなら相当性格が悪いよ?」

 

 

「あら?私は世界一可愛い妖怪よ?」

 

 

 長く生きた大妖怪はみな気が長いのかもしれない。じゃなかったたら萃香はこのムカつく隙間妖怪の顔を殴っていたのかもしれない。

 

「紫………あんた、それはムカつくから辞めときな。特に勇儀とかには辞めなよ?殴られるから。」

 

「あら?嫉妬かしら?鬼から嫉妬されるなんて嬉しいわねぇ♪」

 

 

 だが、ため息1つするだけで腹立ちを治めることが出来るのは、鬼としては異例である萃香だからこそ出来たことだ。

 

 

 

 

 

 一夜の酒の恩もある。困ったことがあったら少しくらいは助けてやるか。それに、このまま何もしないのは鬼の面が廃る。少しぐらいは暴れても紫は眉を潜めるだけで咎めはしないだろう。まあ、程々にしないとな。

 

 

「さて、分身を通して勇儀や歌仙、そしてあの馬鹿真面目や部下達にも知らせなきゃな。『敵を完膚無き迄に潰すのは中止。お前らは大江山で待機だよ。』って」

 

 

 伊吹萃香は大宴会の夜に僅かな間だったが、"あの人間の女"と風貌が酷似していた呑気な化けガラスの表所を思い出すのと同時に、昔、化けガラスが似ていた"あの女"と自分で2人で交わしたあの日の盃を思い出ししていた。そして、萃香は萃香瓢に入っている方とは違う、もう一つの肩に背よっていた口神酒の土師器を持ち出して、ころりと手のなかで転がしながら眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





 段々と話が進んできていて安心しました。これからはテンポよく行きましょう。…………多分ですが……。
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