インフィニット・ストラトス 忘れ去られた恐怖とその銀龍 作:妖刀
あれから遡ること約10分前。女性権利団体の女達を撒いたあと、巨大昆虫であるメガヌロンも撒き、航は安心してポリバケツから出た時だ。いきなり、上から液体がふってきたため、航何かと思って上を向くとそこにいたのは。
「キシシッ」
「えっ……」
下を向いてる体長2メートルほどのメガヌロンがいた。航のいるところから約4メートルほど上の壁に引っ付いており、ただその光る緑色の複眼で航を見つめている。
お互いに見つめ合うかのようにいるが、別に恋人とかではない。唯そこにあるのは、
お互い顔を見合ったまま、航はひっそりとポリバケツから出て、メガヌロンは一歩脚を前に出す。航が後ろに一歩下がれば、メガヌロンが脚を二歩前に進む、もとい壁を降りていく。だがその間も一切複眼を航からそらさず見ており、航の頬に汗が一筋流れる。
「カラララ……」
メガヌロンは前脚を顔の高さまで振り上げてじわじわと壁を降りていき、航は一歩一歩後ろに下がる。
そして、
「キシャー!」
「うぉぉ!?」
その時、メガヌロンは跳躍して航へと躍りかかり、航は一気に振り返って脱兎のごとく逃げ出す。振り返った時にバランスを崩して初速が遅い航だが、この時反応が更に遅かったら完全にメガヌロンにつかまっており、まさに危機一髪と言える光景だ。
「カカカ!!」
捕まえ損ねたことを怒ったのか、メガヌロンは大声で鳴き、地面に着いてる6つの脚を使って高速で航へと迫る。だが航もそう簡単に捕まる訳もなく、こIS学園に入ってから鍛えられたこの体を駆使して全速力で逃げる……が。
(ちょ、全く距離が離れてねえ!?)
そう、50メートル走6秒33という記録を持ってるのに、普通にその速度に着いてきてるのだ。どう見ても速く走れる体型ではないのに、航に普通についてきてるのだ。
「ひぃ!?」
その時、メガヌロンは跳躍して航の真上まで飛び上がる。航は走って回避は間に合わないと思ったのか、横に転がってぎりぎりで回避する。無理やりの回避で壁に体をぶつけて痛みが走るが、着地したメガヌロンに睨まれた際に、急いで立ち上がって再び走って逃げ出す。
「キキキ」
逃げ惑う航を見て、まるで笑うかのように声を上げるメガヌロン。そして自身も走り出して航を追いかける。
航との距離は20メートルは離れてたのに、一気に距離を詰め、それを見た航は絶望に染まった表情を浮かべるが、メガヌロンからしたらどうでもいいことだ。
こうやって走って逃げてる航だが、専用機である機龍を持ってるのに何故使わないのだろうか?使って戦うなり空へ逃げるなりできるのだが、どうしてもできない理由がある。それは
「やばい、誰か……!」
なぜなら恐怖で逃げることが精一杯の余り、自分のISのことを頭の中から忘れてしまってるのだ。いくらISを使いこなそうと、目の前の恐怖に素人がまともな判断ができるわけがない。おまけにISは思考制御。そのため航は機龍を使ってない、いや、使えないのだ。
そのため必死に逃げる航。だがメガヌロンは、それを嘲笑うかのように一気に加速し、そして航の背中に頭突きをかます。
「がはっ!?」
いきなりの激痛と共に吹き飛ばされ、そして壁に激突した航は痛みと共に蹲るが、その奥からゆっくりと笑うかのように声を上げるメガヌロンが近づいてくるため、痛みをこらえながら再び走り出す。
「くそ……、が……ぁ!」
苦痛で顔を歪めながらも航は走るが、メガヌロンが再び高速で頭突きをしてきたため、体を逸らして躱そうとしたが間に合わず横腹から再び壁に叩きつけられ、その衝撃か肺から息を吐き出すと当時に口からの血が飛び散ると同時に、肋骨から何かが折れる嫌な音が響いた。
「がっ、ぁ……!」
余りの衝撃と痛みで意識が飛びそうになるが、食べられるという恐怖で無理やり意識を保たせ、航は足が震えながらもどうにか立ち上がる。口からは血が零れているが、航はそれを腕で拭ってメガヌロンを睨みつける。
「カルルルル……カッカッカッ」
首を傾げるかのようにして航を見るメガヌロンは、まだ立ち上がることが嬉しいのか笑い声に似た声を上げる。そして頭を下げて尻尾にあたる部分を上げ、そして
「っ!?」
航は野生の勘というだろうか。それを頼りに動いた瞬間、凄い轟音と共に先程までいた壁にメガヌロンの頭が刺さっていた。
「っ!?……!」
メガヌロンは何か言ってるようだが、顔が壁に突っ込んでるせいで何も聞こえず、ただ脚をばたつかせている。
「今のうちに……!」
航は痛む横腹を押さえながら、壁伝いに遅いながらも走って逃げる。そして航が近くの角を曲がって少し経った時だ。
「キキキ!!」
ボコッ!と大きな音を立てて壁が砕け、頭にコンクリート片を乗せたメガヌロンは臭いを頼りに航のとこへと走り出す。そして航を見つけて、再び弄ぼうとした時だった。
「ぐおっ!?」
航はいきなり上からの衝撃に耐えられずうつぶせの状態になる。いったい何あったのかと思って振り返ると、先程とは違うメガヌロンが移動用の前脚で航が逃げ出さない様に押さえつけてるのだ。その力は異常で、骨がミキミキと悲鳴を上げており、いつ折れてもおかしくない。ただでさえ先程骨がやられたというのに、これ以上やられたらどうなるか。その時だ
「ガラララ……」
「ひぃ……!?」
メガヌロンは口にある鋭い牙を、航の首筋へ持ってきたのだ。涎でヌラリと光ってる牙はナイフのように鋭く、な何か小さい穴が数か所空いている。その時だ、その小さい穴から紫というか青紫色の液体が滴りだしたのは。
「い、嫌だ……。やめてくれ……!」
航はもがいてここから抜け出そうとするが、それ以上に力を掛けてメガヌロンは航を押さえつけて、絶対に逃げないようにする。
そして牙を航の首元に刺そうとした時だ。
「キキキ」
「カララ?」
何かの声がしたためメガヌロンは上を向くと、先程壁に突っ込んだメガヌロンが3メートル上の壁に引っ付いており、航の上に載ってるメガヌロンが手招きをする。だが壁に引っ付いてるほうは動こうとせず、小さく唸っているばかりだ。
「ガガガ……!」
「キキ?」
「ガア!」
「ギガ!?」
その時だ。壁に引っ付いてたメガヌロンが、航を押さえつけていたメガヌロンの首に飛び降りて噛みついたのだ。噛まれた方はいきなり何なのか理解できてなかったが、外皮が砕ける音と、途轍もない痛みを感じ、振りほどこうと体を大きく震わせる。
だが噛みついた方はそう簡単にはがれず、前腕の鋏状ともいえる爪を背中に突き刺し、緑色の体液が航に掛かっているがそんなのお構いなしだ。
「ギィィ!」
「ガァァァ!!」
そして振り払うことができたメガヌロンはいきなり襲われた怒りからか、襲ってきた方のメガヌロンの横腹に頭突きを食らわせ、壁に激突させる。
「何が何だか知らないが……、今がチャンス、か……!」
航はメガヌロンの脚がどけられたことと、共食いに夢中でこっちに気付いてないことをチャンスに逃げだそうと力を振り絞って立ち上がるが、
グチッ
「がっ……あっ!?」
いきなり体に太い杭みたいのが打ち込まれたかのような激痛が走る。そして口から多量の血を吐き、そして膝を着く。
いきなり何があったのか、航には理解できなかった。ただ痛みの根源は背中寄りの右横腹。
「いったい何だ……よ……」
航は痛みで意識を失いそうになるが、逆に痛みで意識を失えないことにもどかしさを感じながら頑張って後ろを振り向くと、
「なんで……もう一体、増えてん、だよ……!がはっ!?」
「ジジジジ、ギギ」
そう、先程共食い同前のことをしていたメガヌロンの他にもう一体メガヌロンが潜んでいたのだ。いったいどこに潜んでいたのかは分からない。だが、漁夫の利を得るかのように航にその鋭い牙を突き立て、横腹の肉を食い千切らんとする勢いで切り裂く。
そして血がバケツから水を撒いたかのように散らばり、コンクリートの地面を赤く染め上げる。
「がぁぁぁぁぁ!!??」
痛みで地面をのたうち回り、航は傷口を手の平で押さえて止めようとするが、傷口が大きすぎるため血が溢れだして止まらない。
その周りをメガヌロンが動かずに見ており、航は血が多量に抜けて意識が朦朧としだす。
「見つけた……わ……」
その時、航の声を聞いてか先程の茶髪の女が銃を構えて現れるが、目の前の惨状を見て固まってしまう。3体のメガヌロンに血塗れの航。どう見ても今来てもいい空間ではない。女の額からは滝のように汗が流れており、目が挙動不審になってる。
「えっと、間違えがふっ」
その時、女の鳩尾らへんからいきなり突起物が生え、女の口から大量に血が噴き出す。女はいきなり何があったのか理解してない、いや、理解したくないのか額から冷や汗が滝のように出ている。
「えっ、一体何が」
「キリリ……」
女の後ろにはメガヌロンが2体おり、前脚の長い爪を槍のように使って女の胸部を貫いたのだ。
「ごぱっ」
そして爪を引っこ抜かれて滝のように血を流しながら倒れる女。そしてその女を踏みつけて、メガヌロンがここに5体揃う。
「カラララ」
「キッキッキッ」
「ガラララァ」
「ガガァ……」
「ギ、ギギィ……」
そのとき、先程まで共食いをしあってたメガヌロン2体が力尽きたのか地に伏せる。お互いに顔は抉れ、脚は数本無くなっており、固くてひび割れた体から体液をダラダラと流している。
だがそんなのは関係ないと言わんばかりに残ったメガヌロン3体の内1体は、ほぼ虫の息ともいえる航へとゆっくりと近づき、そして鉄の臭いに近い異臭のする口をガパッと開いて航の顔へと近づき、航を食らおうとする。
だが
「まだ、死んで……たま……る、か、ぁ!」
航は最後の気力を振り絞り、迫りくるメガヌロンの口をガッシリと掴んで受け止めてどうにか押し上げようとする。だがその間にも腹部から血が止まることなく流れ続け、顔は苦悶の表情が浮かび、
(まだ刀奈といろんなことしてないのに……こんなとこで死ぬのか?)
「……いやだ。嫌だ。嫌だ!」
航はそう叫んで力一杯メガヌロンを押し返そうとするが、血を多く流しすぎたのか力が抜け始める。
『情けない。なら体を……』
(えっ)
何の声だったのだろうか。重くてとても響く声だった。そして意識が何かに奪われる。
「あっ……、がぁ……ごぁぁぁァァァアあアあ!!!」
「ギィア!?」
その時、航の瞳が点になるほど一気に小さくなり、咆哮ともいえる叫び声をあげると同時にメガヌロンの顎を力任せに引き裂く。
痛みに耐えれずメガヌロンは航から離れようとするが、その首を航はがっしりと捕まえ、そしてどこにそんな力があるのかと言える力でメガヌロンの首を絞め始める。
「ギィィィィ!!!!???」
「ゴァァぁあぁぁア!!!」
そして、メガヌロンの首は固い外皮と共に砕け散った。頭は明後日の方向へ飛んでいき、体液があちこちに飛散する。航の顔にも大量に降り注ぐが、そんなの関係とばかりにもう1体のメガヌロンを睨みつけた。
「ギィ、ギギギギ……」
「ガァぁァ……。っ、あ、あれ……?」
航は我に返ったかのように動きを止め、周りを見渡す。目の前にあるのは首がないメガヌロンの死骸。そして奥に二体のメガヌロン。いったい何があったのか記憶にない。
そして残ったメガヌロン達はあまりの光景に驚いたのか、一歩一歩後ろへと下がり始める。
「今、だ。逃げな……い、と……」
航はメガヌロンの死骸から抜け出し、傷口を抑えながら走って逃げ出そうとするがいきなりその場に倒れこんだ。
「あれ……」
走ろうとするがまともに走れない。一歩踏み出そうとするたびすぐにフラフラになって倒れこんでしまう。一体なんで動けないのか。変な笑いが出てきてしまい、航は涙を流し始めた。
「おいおい、どうなってるんだよ……動けよ……。たのむ、動いてくれよ、俺の体……!俺、まだ死にたくねえよ……!」
涙声になりながら叫ぶが、体は全く動かない。先程から血を流しすぎたための貧血と、メガヌロンの牙から出る毒によって体のコントロールが効かないのだ。そのため体が痺れたかのように動けなくなり、血が抜けすぎたせいか航の意識は朦朧とし始め、そして地に横倒しに倒れてしまう。
その時、航の肋骨をメガヌロンの前腕の鋭い爪が貫いた。
「がぁ……!?あああああ!!!!」
激痛に苦しむ航。だが体を動かす気力もなく、ただ貫かれた痛みに悲鳴を上げるしかできない。
「キキキ、カカッカカッカカ」
笑い声のような声を上げ、航の頭を脚でガッシリと押さえつけるメガヌロン。そして何ともいえない奇声ともいえる声を上げた時だ。
「キキキ」
「カカッ」
どこにいたのだろうか、街灯の当たってない影から大小様々なメガヌロンが現れ、その数は恐らく10体ほどが航を押さえてるメガヌロンの近くへと寄ってきたのだ。
そして全員は見定めるかのように航を見ており、何体かが前腕の爪を軽く航に突き刺す。
「が、ぁ……」
刺されたり切り裂かれたりしてるが、航はすでに悲鳴を上げる気力がないのか、呻き声に近い声しか上げない。だがメガヌロンは弄ぶかのような追撃はやめず、執拗に航の体に傷をつけていく。
余りの痛みに意識がついに失われようとした。
「航!」
その時だ、刀奈の声が聞こえたのは。何とか顔を動かすと、そこには息が上がりながらも航の方を見ている刀奈がいた。だがその顔は絶望に染まった顔のような表情を浮かべており、動けない状況でもある。だが航は、口をもぞもぞと動かす。
「痛い、よ……。たす……け、て」
航は力を振り絞って蚊の鳴くような声で助けを求めた。
ISの致命的な弱点がここに露出。そして助けに来た刀奈は航を助けることができるのか。そしてこの路地裏からの脱出はできるのか!
次回へ続く!